大盤振る舞い
「はる、もう向かえばちょうどいい」
「はい、ありがとうございます」
カセ&アルと威厳のある御使いセリフを考えていたところで、チカチカさんからお知らせが入った。
ミナリームに降臨の際は『そなたたち』というワードは必ず入れようと思う。恥ずかしいけど。
「そろそろ拠点に向かいましょうか」
「私は港に馬を預けてから追いかけますので。――アルバートしっかりな」
「……え!? ちょっと待て……!」
そうか、御使いマンツーマンは嫌か。
守役様もいるけど。
「カセルさん、私も馬に乗ってみたいので――」
「グー」
「……やっぱり平気です。歩いて行きます」
野太い声を出したエンの機嫌をとるようにベタベタ触る。
すまんかった。馬に乗りたい時はエンに乗ります。
「では」
「おい……!」
ろくに反論も出来ないまま、馬に乗って颯爽と去って行くカセルさんを茫然と見送るアルバートさん。
こういう光景これまでにも何回か見たな。
「すぐ追いつきますよ」
「ひっあっ! は、はい!」
感情が忙しいな……。
アルバートさんに話しかければいいのか、それとも逆なのかわからない。
本人が荷物を持つと意思表示をしたので、ひとまずは真剣な顔をして重そうに木箱を持つアルバートさんの後をのんびり歩いて行くことに。
思春期って大変。
でも割とすぐにカセルさんが追いついてきた時の彼、涙目だった気がする。
そしてすぐに木箱をカセルさんにぶつけて重さを和らげようとしていた。中の鍋と食器は無事か。
無茶するな、というセリフが頭に浮かんだ。
「――あれ? おじいちゃん外でも作業してる――うわ、サンリエルさん元気ですね……」
自分で荷物を運びたがる小さな子供を見守る気持ちでアルバートさんを見守りつつ、カセルさんとわいわいと話しながら拠点近くまでやってくると、拠点の扉が勢いよく開きサンリエルさんが飛び出してきた。
もちろんこちらに向かって。
「もう少しで完成する」
そう言いながらも良い匂いを漂わせている木箱とこちらを交互にチラチラ。たまに部下に威圧。
高速チラチラ過ぎて見てるこっちが酔いそう。
「これ差し入れです。皆さんお腹がいっぱいでなければどうぞ」
「……作ったのか」
「はい(マッチャが)」
「私は食べるがあの者達はすでに食事を済ませているので食べられないかもしれない」
急にきりりとした顔でアルバートさんから木箱を受け取るサンリエルさん。
どうしよう……。はっきり嘘ってわかる……。
でも拠点に入った途端ヴァーちゃん達に注意されている声が聞こえてきたのでみんなで仲良く差し入れを味わえそう。
「――それにしても素晴らしい家になりましたね~」
カセルさんがマッチャ印のごった煮具だくさんスープを食べながら室内を見回す。
「当たり前だ」
私の隣の椅子に陣取ったサンリエルさんが当然のことのように言う。
「お前が偉そうにすんな」
「嫌ねえ?」
これまた隣のヴァーちゃんに同意を求められたが曖昧に笑っておいた。
みんな美味しそうにスープを食べてくれて良かった。
料理上手ねと褒められたが、これまた曖昧に笑っておいた。典型的日本人。
きょろきょろと何かを探している様子のアルバートさんに話しかけようとしたところで、みんなからの貢物を前にふんぞり返っていたキイロが肩に止まってきた。
ダクスがすぐさまゲート岩の柵に走っていったのでマッチャにお願いしておいたものが届いたんだとわかった。
「皆さんに御使い様からお届け物があるようです――」
そう言いながら席を立ち、柵の内側から島の果実がたくさん入ったカゴをずりずりと引っ張り出す。
ぱっとサンリエルさんが持ち上げてくれたので助かった。
でも近付いてきた気配は無かった。前にお願いしたのに。このハイスペック領主には逆に難しいんだろうか。
「神の島の食べ物のようです」
拠点建設と衣装のお礼に神の島産の果実をプレゼント。
近くの国がおバカだという事がはっきりとしたので、クダヤの人が少しでも今より強くなればいい。
私がいない間にクダヤに攻め込まれたくないし。ひいきしちゃう。
「「「おお……!!」」」
神の食べ物を前におじいちゃん達が立ってうろうろし始めた。
落ち着いて!
私が1人ずつ配っていると、泣きながら捧げ持つように受け取るおじいちゃん達。
こっちが変な気持ちになるからできることならやめて欲しい。
みんなうっとりと眺めるだけの中、カセルさんが気にせずもりもりと食べ始めたのを見て、サンリエルさんも負けじとむしゃむしゃ食べ始めた。
なにその対抗意識。
「おいおい、いつもより力がみなぎってる……」
「お前皺が減ったぞ!」
「見ろ! この筋肉!」
「これ見ろよアルバート~。さらに高く飛べるぞ~」
「神の食べ物を口にするとこうなるのか」
きゃっきゃとはしゃいでいる一族の人達を横目に、アルバートさんは俯いて髪の毛をそっと触っていた。
「んん……? どうし――」
アルバートさんは襟足部分の髪がはっきりとわかるほどに伸びていた。
アルバートさん……。




