誰でも驚く
スローモーションのようにサンリエルさんが椅子ごと倒れていき――――あ、踏ん張った。
「……大丈夫ですか?」
大丈夫なわけはないけどいちおう。
「お……会い……できな……く……とは……」
こわっ。そのしゃべり方なに。
「会えなくなるとはまだ決まっていませんけど……人間には寿命というものがありますからね」
私にもばっちり寿命がありますけど。
同じような境遇って<地球>さんは言ってたけど、もしエスクベルに戻れたとしても今の時代じゃない可能性もあるし。
「そろそろこちらでの修業も終わりそうですので先に話しておこうかと。お店や拠点の事もありますし」
「はい……」
まずい、話す順番間違えたかも。深刻過ぎる。
カセルさんがいればもっと明るい感じで話が進められたかもしれないのに。
「……そろそろカセルさんとアルバートさんを呼びに行って頂いていいですかね?」
こういう時どういう顔をすればいいのか分からないからとりあえず笑顔でお願いする。
「はい……」
ちょ、ふらつきすぎ。大丈夫?
かなり心配ではあるが、なんとかなるだろうとそのままサンリエルさんを見送る。
今間者に襲われたらまずいな。
「……2階でごろごろしてよっか」
まさかあんな感じになるとは思わず、こっちまで変な感じになってきた。
階段をぼんやりと上り、絨毯の上のボスベッドにごろりと寝転ぶ。
「――チカチカさん」
そっと呼びかけると、椅子に座った状態の人型チカチカさんが姿を現した。
「サンリエルさんがあそこまでショックを受けてるのを見て……なんというか……」
上手く説明できない。
「……私はあそこまで……」
「平気」
「え?」
「ここの人間達と別れるのが平気」
「そんな……」
そんな事ないとは言い切れなかった。
だって確かに会えなくなるかもしれないのに悲しいという気持ちはわいてこない。
寂しいな、くらいの気持ちだ。
チカチカさんや島のみんなと離れるのは悲しいのに。
「私って冷たい人間だったんですね……」
自分の冷静さに逆にショックを受ける。
「気にする事ない。はるにとってはリアルな創作物だから」
「え? それって……」
確か前にもそんな事を言われたような――
「はるは人間として捉えていない。だから悲しくない」
「前も分からなかったんですけど……それってどういう事ですか?」
人間じゃない……?
しかしチカチカさんは違う話を始めた
「はるが選ばれた理由の1つは第6感が優れているという事」
「え? え? そ、そういえばそうですね?」
「第6感が優れているという事は繊細という事でもある」
「いやいや……繊細って……」
チカチカさんが私に向かって繊細さがないって言ってたんですけど。
「繊細さ故にここでの、この惑星での出来事をファンタジーとして受け止めようとしてる」
「え……?」
なにを――
「はるは無意識に自分を守ってる」
「いきなりこんな世界に放り込まれてあんなに早く順応できる人間がいると思う? 本当に戻れるかどうかもわからないのに」
「でも繊細ながらしなやかな強さも奥底に備えてる」
「あの惑星の人選に間違いは無かった」
「まさかベタな好みまでこっちで発揮するとは思わなかったけど。思春期はとっくに終わってるのに」
――おい! 何の話だ! 悪口か!?




