あるがままを受け入れる
どうしてとか、どうやってとか、そんなのはもう気にしない。
ここに衣装の見本がある。ただそれだけでいい。
「あのお……これと同じ形状のものを持って来た布で作って欲しいんですけど……」
振袖をそっとヴァーちゃんに見せると、目を見開いて口を開いたり閉じたり。
おじいちゃんズもサンリエルさんも振袖を凝視。
「……こんな……」
「美しい……」
だよね。惑星が用意した振袖だし、確かにとても綺麗。
「……どうやって……透かし模様……?」
このままだと話が進まないので大きめの声でお願いをする。
「あの、良かったら布を運ぶのを手伝ってもらえると嬉しいです」
「任せろ」
予想通りサンリエルさんが1番に食い付いてきた。
ありがとう、助かります。
サンリエルさんは持って来た布をひょいと一度で全部抱えてしまった。すごいや。
持って来た布も高価なものらしく、おじいちゃん達はじっくり観察していた。
モノづくりに携わっている人ってみんなこんな感じなんだろうな。
「御使い様はこれを1番上に羽織りますので、中に着る用に1枚同じ形のものをお願いします。それとこれくらいの太さの布でこの衣装を固定しますのでそれも同じく」
ジェスチャーで帯について伝える。
「これをどうやってお召しになるの?」
ですよね。
でも私もうろ覚えなんですけど。着付けとか出来ないんですけど。
「御使い様から許しは得ていますので失礼して――」
振袖を羽織り、浴衣を祖母に着付けてもらった記憶を呼び起こす。
成人式は昔過ぎて覚えていない。
「えーと……こうやって、こう。それで内側を――そうそう、ここを回し止める紐もお願いします。で最後に腰にぐるりと硬めの布で巻いて完成です」
服が脱げなきゃもうなんでもいい。
ジャパニーズEDOを甘んじて受け入れよう。
でも同じ日本人には絶対に見られたくない。
「わかった。この美しいお召し物には及ばないが任せてくれ。“黒”の鐘が鳴るまでには出来上がると思うぞ」
“黒”の鐘が深夜のイメージだからおそらく今夜中には出来るな。さすがだ。
「よろしくお願いします」
「お嬢ちゃんはどうする? ここで待つか?」
「お店を開ける準備をしようと思います」
こう言えばサンリエルさんも着いてくるだろうから地球に帰る際の話が出来るだろう。
「手伝おう」
ほら。
「まとわりつくんじゃねーぞ」
「しっかり役にたつように」
領主様なのに……。本人は全く気にしてないけどさあ……。
ヴァーちゃん達に手を振り拠点を後にする。
これからこっそり道具を持ち込んで作業するらしいので、拠点内で作業してもらう事にした。
野外とか嫌だよね。今度見学させてもらおう。
「サンリエルさん、大事な話があるのでカセルさんとアルバートさんもお店に来てほしいんですけど」
店に向かいながらサンリエルさんに伝えると、少しの間があって「かしこまりました」と返ってきた。
そうか、気が進まないのか。
サンリエルさんが懐から出してきたお菓子をもしゃもしゃしながらお店に到着。
使者達はもうクダヤを発ったはずなのでカセルさんとアルバートさんも手が空いているだろうという事だった。
発ったはずって……。領主の仕事は? 今更だけど。
そのまますぐに呼びに行ってもらうのもなんだか悪い気がしたので、少し休憩していってもらう事に。
「あーお茶が美味しい」
安定の美味しさ守役スペシャルティー。全部マッチャが準備したけど。
「――ヤマ様、大事なお話とはいったい?」
キッチンでのんびりしているとサンリエルさんから質問をされた。
「ああ。えーと……もうすぐ神の子供としての新たな修業が始まるので街に来れなくなります。もう会えないかもしれません」
さらさらと適当な嘘をつく。修行ってなんだよ。
お茶をずずずと飲みながら自分の嘘に突っ込んでいると、がたん! と音がしてサンリエルさんがそのまま椅子ごと倒れていくのがスローモーションのように――
え?
えっ!?




