手先の器用な人って基本何でもできる
「デザインって言ってもなー。パターンとか言うんでしたっけ? 難しいなー」
ミナリームの権力者達が会議を始める前に衣装を完成させたい。
会議を行うかどうかは不明だが。でも絶対戦前とか集まって会議すると思う。というか会議して。頼む。
「ヴァーちゃん達なら御使いの名前出せばあり得ない早さで仕上げてくれると思うし――」
しかし私のスペックじゃ頭に思い描いているものを紙に表現できない。
というかきらきらしい着物っぽい衣装て。
「あ~…………とりあえず拠点まで行くか」
今回ばかりは時間との勝負なので行動は迅速に。
別に衣装にそこまでこだわらなくてもいいけどせっかくだし。
数少ない晴れ舞台だし。
すごいって思われたいし。
ウィッグをつけ、洞窟の布地を適当に見繕って拠点に到着。
柵の扉を開けるとおじいちゃん達が家の中を掃除していた。
あっちでは家具を運び入れているし、まるで引っ越しの最中みたいだ。
「こんにちは」
近くにいたおじいちゃんに声をかける。
「お! お嬢ち「どうした」
「……領主様こんにちは」
いきなりおじいちゃんの目の前に割り込んできたサンリエルさん。
そういや完成するまで拠点にいるって言ってたような……。
「おじいちゃん、実は御使い様からのお願いを承っておりまして」
「なんだと!? ダニエルを呼んでくる!」
おじいちゃんの1人が慌てて外に出て行く。
サンリエルさんはじっとこちらを見つめてくるだけだったので拠点について話しかける。
「もう完成ですか?」
「ああ。後は室内に彫刻を施すだけだ」
「あ、彫刻は大丈夫ですので」
どんな家にしようとしてんだ。
「もう住めますか? 今のままでも素晴らしいので彫刻は時間のある時にでもお願いしたいです」
いつまでここにいられるか分からないので少しでも長くこの家に住みたい。
「わかった」
「ありがとうございます」
やった。今日から住めるぞ。
「お嬢ちゃん!」
「こんにちは」
ダニエルさんとヴァーちゃん達もやってきた。
「御使い様からのお願いがあるんですって!?」
「わしらにか!?」
やばい、ヴァーちゃん興奮し過ぎ。というか後から来たおじいちゃんズも興奮し過ぎ。
血圧とか心配。
「はい。服を仕立てて欲しいそうです。とてもお急ぎのようで、今日中は難しいですか……? 私の拠点は後回しでいいので」
無茶ぶりにも程があるとは思ってる。ほんとごめん。
「まあ! なんて名誉な……!」
やばい、泣き出した。
「よし! 死ぬ気でやるぞ!」
「「「おお!」」」
いや死なないで。
「意匠は私に任せろ。城の宝物庫の布を使用するぞ」
うわ。サンリエルさんがナチュラルに参加してきた。
「お前は頼まれてないだろうが」
「領主様は邪魔をしないでもらえれば助かりますな」
また揉め始めそうだったので慌てて話しかける。
「あ、あの! 形は御使い様からお伺いしておりまして……」
そう言いながら柵の内側に放置したままの布を取りに行く。
しかし放置した布地の上に見た事のあるものが――
「あれ? これ……」
成人式で着るようなゴージャスな振袖がそこに鎮座していた。
「着物」
頭に響くチカチカさんの声。
……誰がなんと言おうとベストオブ過保護。




