こうやってエリートは誕生する
「ただいま~!」
舞踏室で神の踊りの更なる高みを目指している時にアルバートさんのお兄さんが帰ってきた。
元気いっぱいのお兄さんの方だ。
「あ、いたいた。ジーリから来てるって聞いてさ~今日はごちそうだと思って楽しみに帰ってきたんだよ! そうそうカリプスありがとな、すげーうまかった!」
「レオン、静かにしなさい」
助かった。踊っているにもかかわらずズカズカ近付いてきたからどうしようかと思った。
「レオンは邪魔をしないように。ヤマチカさんいらっしゃい」
「ようこそ」
アルパパも美人兄も帰ってきたようだ。あ、ジーリさんもいる。
「お久しぶりです。おじゃましてます」
「さっそく稽古に巻き込まれたんだね」
「お父様! ヤマチカちゃんって覚えが早いんですよ!」
「アルバートとは大違いだな~」
「あの子は1つ1つが丁寧なだけですよ」
「お義母様の言う通りですわ!」
そしてアルバートさんの良さを語りだす女性達。
相変わらずアルバートさん愛されてる。
ここにアルバートさんがいれば嬉し恥ずかしそうにしているところを見られたかもしれないのに。残念。
何故か最後にレオンさんと神の踊りをペアで披露する事になったがこうして稽古は無事終了した。
ふふふ、たっぷり褒められたぞ。ふふふ。
この後の食事参加は私の意思を確認するまでもなく決定事項だったので、今回は泊まらない代わりに手伝わせてもらう事にした。
「ヤマチカちゃんはもっとナイフを上手く扱えるようになるわ」
「そうです。訓練あるのみですよ」
「ジーリも随分と上手くなったわよね」
「そうだね、アレクシス」
いやちょっと皆さんのそのナイフさばきはレベルが高すぎなんですけど。
切れ味も良すぎるんですけど。
「刃が通りやすい場所があってね」
「刃が通りやすい」
「そこを見極めるの」
「見極める」
……今ただ野菜を切ってるだけですよね? 見極めるって……。
しかし地球に戻ってからも活用できる技術ではあるので(たぶん)真剣に取り組む事にする。
せっかく教えてくれてるんだし。
「――ヤマチカちゃんは教え甲斐があるわ。レオンとルイスはさっさと習得しちゃって……」
アビゲイルさんはそう言いながらスパパパと野菜を切っている。すげえ。
ローザおばあちゃんはおじいちゃんの手伝いは断っていたが、何度も味見をお願いしておりおじいちゃんが大好きな事がうかがえる。
アレクシスさんとジーリさんも仲良く料理を作っていて、この幸せな雰囲気についついにやにやしてしまいそうになる。
地球に戻ったら実家に帰って家族と一緒に料理をしてみるのもいいかもしれない。
「――そろそろフィンセント達を呼びにいきましょうか。食器を並べてもらわないと」
キッチンで作業できる人数には限りがあるので、確か今は図書室にいるはずだ。
「ヤマチカさん、良かったらひと休みがてら一緒に行ってもらえないかな?」
仏のような慈愛に満ちた顔で声をかけてくれるギルバートおじいちゃん。
自然と気遣いが出来る人って何が違うんだろう。私もおじいちゃんみたいになりたい。
おじいちゃんとおしゃべりしながら図書室に到着、扉をノックして少し待っていると顔を見せたのは美人なルイスお兄さんだった。
「食事の準備を手伝う時間だよ」
「わかりました。ありがとうございます」
「わかった!」
「わっ!」
扉の陰から急に現れたレオンさんに思わず大きな声が出た。
「ごめん! この家じゃアルバートくらいしか驚かないから油断してた!」
アルバートさん……。毎回それは見事な驚きを披露してるんだろうな……。
「気にしないでください。皆さん勘が鋭すぎるんでしょうね」
「じいちゃんでさえ驚かないんだけどな~」
「家で常に気を張る必要も……ありましたね」
「母さん達に奇襲だ夜襲だの言われるからな!」
はははと豪快に笑っているレオンさん。
さすがアサシン一家。エリート教育だ。




