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幸せに暮らしましたとさ  作者: シーグリーン


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ある男の回想録40:少しずつ

 






「――まだ――の?」


「昨日――から――」


「珍しい事も――」






 ――うるさい。




「――そう――」


「――そろそろ――」





 ――しずかにしてほしい。





「アルバート!」

「……!!」



「あ、起きた」


「いい加減起きなさい」




 ――なんだ?




「まだ寝ぼけてるみたいですね」


「まったく。カセルよりも飲んでいないっていうのに」


「一族とはそもそも体のつくりが違いますから」


「あら、私とアレクシスは一族ではないわよ」


「おばさんとアレクシスと一緒にしたんじゃアルバートがかわいそうですよー」




 ――カセルがいる?




「アルバート起きろよ!」


「兄さんうるさいです」


「アルバートが飲み過ぎる日が来るとは大人になったものだ」




 ――家族が全員そろって…………る!?

 意識がはっきりとした途端体を起こす。

 が――



「いたい……」



 酷い頭痛がしてまたベッドに倒れ込む。



「ほら、アルバートこれを飲みなさい」



 祖母が何やら手に押し付けてくる。



「……なにこれ?」


「飲み過ぎた時にはこれが1番効くんですよ」



 祖母秘伝の薬のようだ。



「皆部屋を出ようか。今日の稽古は無いからアルバートはゆっくり準備をしなさい。少しは食事が摂れると良いんだが」



 いつもの優しい祖父が騒がしい面々を連れて行ってくれた。

 しかしなんで朝から俺の部屋に全員集合してるんだよ……。








「そうだ昨日――」



 手にある温かい飲み物をじっと見つめながら昨日の事を思い出す。



 昨日は楽しくてついつい飲み過ぎてしまったんだった。

 それでカセルに送ってもらって――――あいつ自分の家のように振る舞っていたな。いつもの事だが。


 急いで薬を飲み干し着替えるついでに神の宝石を確認する。良かった、今日も何事も無い。


 そう言えば俺よりも飲んでいたヤマ様は大丈夫なんだろうか……。少し酔っていらっしゃったとは思う。

 神も食べ過ぎる事があるようなので酔う事があってもおかしくはない。






「――少し顔色が良くなったわね」


「さすがお祖母様の調合されたものは素晴らしいわ!」


「……もう少し小さな声で話してよ……」



 ふらつきながらも自分の席に座る。

 なんでカセルはもう食べ始めてるんだ。



「今日は使者との話し合いがあるんでしょう?」


「う、うん……」


「リンサレンスからはまだ何の返答もないの?」


「今のところはありませんね」



 食べながら返事をするカセル。



「おい、勝手に話して……」


「みんなもう知ってるぞ~。とんでもない魔物が向かってるって!」



 カセルに負けないくらいがつがつと食事をしながら話に入って来るレオン兄さん。

 みんなが知っているのに騒ぎになっていないこの街はどこかおかしいんだろうか。



「どんな魔物か興味があるな」


「どのような脅威があるのか知っておくだけでも有意義な事ですからね」



 父とルイス兄さんも全然魔物を恐れていない。



「リンサレンスの権力者達が正しい判断を下せると良いんですけど……難しいでしょうね」


「神から見れば俺達も魔物も変わらないんだよな~」


「そうですよ、レオン。エスクベル様におすがりするだけでは駄目ですよ。自分達の事は自分達で」



 祖母がそう考えるならその通りなんだろう。

 そしてやはりクダヤの民はクダヤの民だった。



「ヤマチカちゃんもユラーハン側ならひとまず安心よね。それでも仕入れの道中は心配だけど」



 ヤマ様が1番安全だとは思うがそんな事は言えない。



「そうだ、ヤマチカさんが女性達と話したがってましたよ~」


「そうなの? 確かに女性同士の方が気が休まるわよね。アルバート、今度連れてきなさい」


「……家に?」


「当たり前じゃない」



 家族が失礼な事をしでかさないか想像するだけでも恐ろしい。



「俺もまぜろよ~」


「女性同士ですよ、兄さん」

「そうよ」



 絶対にレオン兄さんは参加させたくない。

 うるさいしヤマ様が困る質問をしそうだ。



 ようやく食欲も出てきたので、家族の騒がしい会話を聞きながら今日1日を乗り切るためにしっかり食べて港の執務室に向かった。











「カセルそれって――」



 横を歩いているカセルの口ずさんでいる歌に聞き覚えがあった。



「昨日ヤマ様が歌われてたやつ!」


「もう覚えたのか。相変わらずすごいな……」




 昨日ヤマ様は宣言通り同年代の集まりのような気安さで接してくださった。

 まるで男同士で話しているかのような気がしてしまったなんてカセルにも言えない。


 そして、お酒が進んできた頃に神を称える歌を歌ってくださったヤマ様。



 ヤマ様の歌声は素晴らしかった。

 風や理の一族でもっと上手に歌える者はもちろんいるが、とにかく素晴らしかったのだ。上手く言い表せないが。


 俺達が感動しているのに気がついたヤマ様は「次は恋愛のやつで」と踊りながらまた歌を披露してくださった。

 守役様も参加し一緒に踊りを披露されるものだからついつい前のめりで鑑賞してしまった。

 あんな楽しそうなカセルの声は聞いた事が無いかもしれない。俺もとても楽しかった。


 ……なぜか歌詞が失恋を乗り越える女性の強さを表した内容ばかりなのは少し気になったが。

 おそらく王女様と無関係ではないのだろう。



「なあアルバート」


「なんだよ」


「お前昨日王女様となんかあったか?」


「……なんだよいきなり」


「ヤマ様が歌われてた歌の内容がな~」



 カセルも気が付いたようだ。



「……それがどうして王女様に繋がるんだよ」


「昨日少しだけ俺も会ったんだけどな~。アルバートの話題になると嬉しそうな顔はするんだけどな、今までとは何かが違った」


「…………」


「ま、人生は時に複雑ってやつだな!」



 はははと笑いながら肩をばしばし叩いてくるが、カセルなりに元気づけようとしてくれているのがわかる。

 そう言えば王女様に自分の気持ちをはっきりと伝えた後もそうだった。

 ……ありがとうカセル。困らせられる事も多いがありがとう。









 港の執務室に入ると領主様が食事をしていた。珍しい。



「おはようございます。ヤマ様の手料理ですか?」


「そうだ。私の為だけにお作り頂いたものだ」



 うわ……。



「良い匂いですね~」



 昨日お酒を飲み始める前にヤマ様に頼まれて鍋ごと料理を差し入れたのだ。

 ヤマ様は「普通味」と仰っていたが領主様にとっては何ものにも代えがたい素晴らしいものである事は間違いない。

 こちらを凝視する視線も少し和らいでいるし助かった。少し、だが。



「昨日の報告を」


「特に重要な話などはしていませんね。ヤマ様が楽しそうに歌を歌われて――」



 おそらく報告が必要になりますと、昨日の内にヤマ様にも許可を得ているのですらすらと報告するカセル。



「歌?」



 急に領主様が視界から消えたと思ったらカセルの目の前に立っていた。



「歌がどうした」


「ヤマ様が神を称える歌を歌われていました」



 おいカセル……! なんでそんなに平然としているんだ……! 

 物凄く凝視されているぞ……!



「……どのような歌だ」


「私なんかよりヤマ様から直接お聴きになった方がよろしいかと」


「…………次はいつ街にお越しになるのだ?」



 ヤマ様もいきなり歌をお願いされると戸惑うんじゃあ……。

 でも「住民で歌って踊れる集団を作ってみようかな」と仰っていたのでその内領主様も目にする事が出来るかもしれない。

 俺も密かに楽しみにしている。

 しかし「男役女役」とはどういう事なんだろうか。



「数日は店を閉めたままにするようですが詳しい日にちまでは聞いておりません」


「そうか……」


「ですが気が向いたら街の視察にいらっしゃるようですので、何かあれば声をお掛けくださるでしょう」


「そうか。それではさっさと仕事は片付けておこう」



 急にてきぱきと食事を再開しだした領主様。

 そうですよね、使者対応なんかの仕事はきちんとしてもらわないと。



「お前達も本日中に昨日食した料理の報告書を提出するように。私はヤマ様の拠点の仕上げにかかる。街でお会いした際には拠点完成の報告を私からしないとな」



 ……使者はまったく関係なかった。

 あの……これから話し合いが……。













「皆様ずいぶんとお怒りのようですね」



 話し合いが終わり部屋を出ようとしているとララウルク首長に話しかけられた。なぜ俺に。



「怒らないクダヤの民はいないと思いますよ」



 カセルの言葉と表情が一致しておらず恐ろしい。すがすがしい笑顔が逆に恐ろしい。



「ララウルク首長が忠告をお聞きにならなかったわけですから……」


「でもユースさん達も気になるでしょう?」


「気にはなりますがあのような行動は起こしませんよ」



 この首長に困らない人間はいるのだろうか。



「今日は店も閉まってるしどこに行けば会えますか? あの商人の姿絵を描こうと思ったんですけどどうしても顔が思い出せなくて」


「え?」

「教えるわけないでしょう? ――ほら行くぞアルバート」



 背中をどんどん押してくるカセル。助かったが痛いぞ。



「私はうろうろするなとお叱りを受けてしまったので港から離れられないんですけど、お2人は港付近でお仕事をしていますか? 私明日には帰らなくてはいけないんです」


「ララウルク首長、魔物襲来の子細な情報を持ち帰ればお国の方達のお怒りも少しは和らぐかと……」

「そうですわ。報告書をおまとめになるのはいかがでしょう」



 あ……王女様と目が合ってしまった……。

 でもこれまでよりは平常心に近いような……?



「明日までお世話になりますわ」


「は、はい……」


「私は自分で大使館を建てるので滞在させてもらえませんか?」


「ララウルク首長……!」





 結局ララウルク首長は族長達にねちねちと嫌味を言われながら、なだめられながら部屋を連れ出された。

 もちろんなだめたのは技の族長だけだった。







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