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幸せに暮らしましたとさ  作者: シーグリーン


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ささいな事がきっかけになる

 



 お偉いさん達が店から出ようとしている時に王女様が店に入ってきた。



「いつまで……? あ、あの……」



 質問されたアルバートさんはこちらに視線で助けを求めている。

 よし、叔母さんに任せなさい。



「店は商品が無くなり次第閉めています」


「そうなんですか……」



 王女様は店内を見回して残念そうな顔を見せた。

 現時点での在庫は多いとは言えないから今日はもう来れないと判断したんだろう。



「明日の朝お店は開いてらっしゃいますか?」


「すみません、仕入れの為数日は営業しません」



 そろそろ島でゆっくりしてもいいだろう。クラッシャーもいるし。



「今ご覧になっては?」



 せっかく来たんだし今買って満足して欲しい。

 


「――あの、お兄様?」


「サンリエル様、お時間はとらせませんので少し買い物をしてもよろしいでしょうか?」



 サンリエルさんがさり気なくこちらに視線を寄越してきたので笑顔で頷いておいた。



「構わない」


 そう伝えこちらに近付いてきたサンリエルさん。

 なんとなく使者達から守ってくれているような気がした。ありがたい。もう質問攻めは勘弁。





「――ではこちらが本日までの商品なんですの?」


「は、はい」


「試飲はしても?」


「あ、すみません! お淹れします……!」



 なんだろう――



「ありがとうございます。――あの時頂いてからまた飲みたいと思っておりましたの。変わらず美味しいです」


「はあ……」



 王女様が本当に幸せそうな顔をしているような――



「ではこれらを買います」


「ありがとうございます……」


「アルバートさん、またお会いできてとても嬉しいですわ」


「あ……はい……」






 ……これマジなやつだ。

 王女様本気でアルバートさんの事を好きなんだ。

 見返りとか気にしてなくて、本当にアルバートさんと会えて嬉しいんだ。



「――ではまた」


「あ、はい……ありがとうございました」



 しつこく話しかけずに王子様の元に歩いて行く王女様。


 王女様にいったい何があったんだろうかと目で追っていると、お偉いさん達はそれぞれ出口に足を向けていた。



「ありがとうございました」



 外まで見送りに出ると、ララウルク首長と王族2人が名残惜しそうにしていたので王女様に話しかけた。

 クラッシャーには間違えても話しかけない。



「また来ます」



 嬉しそうにしている王女様の顔を見ていると、何故か無性に王女様に幸せになって欲しくてたまらなくなった。



「お待ちしています」


「また様子を見に来る」



 いやサンリエルさんはお仕事……まあいいか。お世話になってるし。



 こうして使者来訪イベントは無事終わった。











「――アルバートさん」



 店を閉め、こじんまりの監視の下食器を洗っているアルバートさんに話しかける。



「は、はい」


「今後王女様を好きになる事はありますか?」


「え!? あ! も、申し訳ありません!」



 手に持っていたカップを落としてしまいこじんまりに威嚇されているアルバートさん。



「みんなはこっち」



 ダクスとロイヤルを回収してキイロと白フワは肩に止まってもらう。

 ぱっと見、動物に懐かれすぎる人みたい。



「例えばなんですが、王女様が王女でなくなったら好きになれますか?」


「はる、余計なお世話」


「知ってますー」



 余計なお世話中の余計なお世話だが聞かずにはいられなかった。

 そりゃあ誰しもが好きな相手に好きになってもらえるわけではないけどさ。あんな幸せそうな顔を見ちゃうとなー。





「……あの」



 俯いて考え込んでいたアルバートさんが声を発した。



「……王女が王女として生まれた以上、好きになる事はありません」



 あら、いつになくはっきりとした口調。



「王女という身分が無くなっても血は王族の血が流れています。――祖父はミナリームの元貴族で……貴族の血を受け継いでいるという事で大変な苦労をしたようです」



 そっか。物語としてはエンディングを迎えるけど実際はその後何十年も人生は続くもんな。



「もし王女様の人柄を今後好きになったとしても……祖父のように生まれのしがらみを乗り越える程の愛情を持ち続け、一生を添い遂げられるとは思いません。――私は結局神の、クダヤの民ですので」



 ……この子やっぱり誠実さのかたまりだわ。

 生きにくい事も多いんだろうな。



「そういうものなんですか~」


「はい……」


「よし! アルバートさん今日は飲みましょう!」


「……え!?」



 まあ恋愛話からいきなり飲む話になったら戸惑うよね。

 でもこういうのは楽しいお酒で楽しく昇華させるに限る。



「もちろんアルバートさんお1人じゃなくてカセルさんも呼べたら呼びますけど。ライハさんは忙しいかな? アレクシスさんは?」



 気心が知れたメンバーで飲むのが良いよ。

 私も少しお邪魔させてね。こういう気分の時は女子トークしたいんだわ(本音)。



「ライハはおそらく店が……。姉はその……騒がしいですし……」



 うん、乗り気でないのはわかった。



「では今後改めてライハさんとアレクシスさんを誘います。今日はアルバートさん疲れました? 遠慮せずに言ってください。無理に参加しているようなら不機嫌になります、私と守役が」



 脅迫御使い。



「いえ……! カセルがいれば平気です……!」


「ではカセルさんが来れるかどうか確認しましょう。サンリエルさんはさすがに族長さん達に止められて来れないようですから」



 上司と一緒とか寛げないもんね。上司以上の御使いと守役がいるけどそれはそれ。



「残りの仕事は私がやっておきますのでこれからカセルさんに参加可能か聞いてきてもらえますか? サンリエルさんはお仕事を優先するように、とも」



 すまんアルバートさん、サンリエルズ・アイは我慢して欲しい。


 そしてアルバートさんは慌てて店を出て行った。





「さて、お酒がすすむ料理でも作りますか――マッチャが」



 チカチカさんにツンコメントを頂く前に予防線をはり、木箱にしまっていた食材たちをごそごそと取り出す。

 ボスウロコ冷蔵庫のおかげで鮮度も問題ない。というかこれきっとチカチカさんの力も加わっているはずだ。



「チカチカさん、この野菜で塩キャベツっぽいの作れます? 無限に食べたい気分なんです」


「いいけど」


「やった! いった!」



 抱き着いたらはじき返された。人型だけど人間じゃないからついつい抱き着いちゃんだよね。


 ふふふ。今日は飲むぞ。











「――お邪魔します。今日はお酒の日ですか?」



 店の仕事を終え、サンリエルさん用の普通味スープを生み出そうとしている時に満点笑顔のカセルさんがやってきた。



「そうなんです。ふふふ、飲みますよ~」



 ニヤリとした顔で言うとニヤリとした顔を返してくれた。



「再びお目にかかれて光栄でございます。“風”のカセルと申します」



 チカチカさんにもスマートな挨拶をするカセルさん。



「アダムさんです。私の大好きな人です」



 そういえばアルバートさんが当たり前のように受け入れていたからこれまで説明してなかったな。



「差し出がましい事を申し上げますが……偉大な力をお持ちになっている神の守役様という認識でよろしいでしょうか」


「偉大な――ああ」



 あのハイテンション惑星さんの事か。



「いえ、アダムさんはエスクベル様の守役のようなものです」



 無表情ながらもチカチカさんが<地球>さんの守役だと間違われ不本意だという事は伝わってきたので訂正する。

 訂正というか嘘をつく。エスクベル様ご本人です。



「失礼致しました。――お手伝いできる事はありますか?」


「食事は用意しますのでお酒の買い出しを頼んでもいいですか? 甘いお酒が良いです。可愛らしい女性っぽくないですか?」


「可愛らしい女性のようです。――な?」


「じょ、女性らしいです……!」



 やっぱりカセ&アルのペアはいい。気楽だ。



「そうだ、サンリエルさんは大丈夫でした?」


「それがですね――」



 笑いながらカセルさんが教えてくれたのは、殺傷レベルの視線を向けられたという事だった。

 予想通り。



「ヤマ様の仕事を優先、というご命令がなければ確実に参加していたと思います」


「サンリエルさんには申し訳ないですけど今日は気楽に飲みたかったので。領主の肩書があるのでお2人は心底寛げないでしょう?」



 というかチカチカさんにもいて欲しいからサンリエルさんはまた今度で。

 御使いがいて心底寛げるとも思わないけどそれはそれ。



「クダヤの頂点ですから友人と同じとはいきませんね」


「今日は同年代っていう設定で楽しみましょう!」


「面白そうですね~」



 島のみんなもいるけど気にせず楽しんで欲しい。


 そして王女様ごめん、勝手に今後の幸せを祈るパーティーを開くね。





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