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幸せに暮らしましたとさ  作者: シーグリーン


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行動派

 





「ふぅ……おおお……!」


「なにそのあくび」


「誰も見てないと女性でもこんなもんですよー。女性らしく朝風呂行ってきまーす」






 オープン記念セール最終日。

 今日はいつも以上に気合いをいれて臨む必要がある。



 なぜなら空気を読まないクラッシャー首長と王族がご来店予定だからだ。

 地球なら成功するタイプの人達。とにかくフットワークが軽い。

 あの首長は引きこもりのはずなんだけど……。家でゆっくりしてなよ。

 魔物の件を知らされてなお外出するってすごいよなー。まあクダヤにいた方が安全だけどね。


 それを教えてもらったのは昨日島に帰ってきてからだったのでアルバートさんはまだ知らない。早く伝えないと。

 王女様との関係がどうなっているのか詳しくは聞いていないが、アルバートさんからは恋をしていますオーラが一切感じられないのでそういう事なんだろう。





「おろおろがおろおろしてる」


「お、もう出勤ですか」



 昨日鍵を渡しておいたから勝手に入って勝手に準備しておいてくれるだろう。

 鍵を渡されたアルバートさんの狼狽えっぷりとサンリエルさんの視線が面白かった。

 今日の試練を考えると面白がってる場合じゃないけど。



「急いで店に行かなきゃ」



 最短記録を目指して体をごしごし洗う。

 島のみんなは私の体から飛んでくる泡を楽しそうに避けているのでつい追いかけっこをしてしまい遅くなってしまった。

 私は朝から真っ裸で何をやってるんだ……。恥じらいよ戻れ。








「お、おはようございます……!」



 瞬間移動でお店に到着。ワープ岩を設置した意味は限りなく薄くなっているが気にしない。

 家が完成すればもっと活用するはずだ。



「おはようございます。今日は予期せぬ来客が来ますよ」



 チカチカさんと島のみんな1人1人に挨拶をしているアルバートさんに告げる。



「予期せぬですか……?」


「王女様御一行とあの変わった首長です」


「おっ……!?」



 やばい。今まで見てきた中で1番の挙動不審さ。



「なので営業中のお手伝いはしなくても大丈夫です。ジョゼフさんが来る予定ですし」


「あ……」



 向こうはクダヤが知らせる前に配下である商人からお店オープンの情報を得たみたいだ。

 ヤマチカという女性商人を詮索するなって言われてたのにしっかり情報を集めているあたりさすが。

 マケドみたいに変な事をしているわけではなさそうだったのでこちらも特にサンリエルさんに報告したりはしないけど。






「――あ、あの……」



 サンリエルさんのクッキーをどうディスプレイしようか試行錯誤していると、アルバートさんが真剣な顔をしてこちらを見ていた。



「仕事ですので……ご迷惑でなければお手伝いさせて頂けないでしょうか……?」



 真面目か。



「こちらは手伝って頂けるとありがたいですけど……平気ですか? 王女様とか」


「え!? あ、あの……!? へいっ……き……いえ……その……!」


「落ち着いて」



 何言ってんのかさっぱりわからん。



「私はアルバートさんと王女様がどうなってるのかは知りません。守役に聞いていませんので」


「は、はい……」


「でもアルバートさんは恋愛をしている雰囲気ではないので勝手に想像しただけです」


「……はい……」


「アルバートさんが無理をしていないならそれでいいんです」



 ゆるい職場だから失恋休暇とか使えるからね。アルバートさんは失恋したわけじゃないけど。

 私もこれから起こりうるであろう(希望)恋愛には気をつけよう。職場恋愛は別れた後がきつそうだわ。そういや高校生の時もクラス内であれこれと――


「無理はしていませんので大丈夫です……!」



 ついつい地球生活を思い出していると、いつの間にかアルバートさんがきりっとした顔をしてやる気に満ちていた。

 そうかそうか。



「わかりました。一緒にあの変わった首長来訪を乗り越えましょう」


「はい……!」


「ではアルバートさん手をこうして下さい」


「こ、こうですか?」



 アルバートさんの片手を前に出してもらう。

 歌手がライブ前にやるアレをやりたい。



「え!?」



 しかしアルバートさんの手の甲に手の平を重ねると勢いよく手を引かれた。おい。



「変な事じゃないので」



 御使い権限で引っ込められた腕をぐいっと引っ張り手を重ねる。地球だったら訴えられてるな。



「えーそれでは本日の――みんなもやるの?」



 キイロとマッチャがそっと手を重ねてきたと思ったらエンとナナは顔を乗せてきた。

 白フワは何故かアルバートさんの肩と首の間に挟まっているが。



「キャン!」

「キュッ!」


「はいはい。――マッチャも手伝って」



 主張してきたダクスとロイヤルもそれぞれ抱っこして手を重ねられるようにする。

 片手で抱っこ重い。



「ボスは尻尾で――チカチカさんは?」



 こういうの好きじゃないだろうけどいちおう声をかける。



「おろおろが倒れそう」


 そう言いながらなんとチカチカさんも手を重ねてきた。優しい。

 アルバートさんが変な汗をかき始めているのでさっさと終わらせないと。



「えーと、今日も1日楽しく働くぞ」


「センスない」


「お~」



 チカチカさんの言葉は気にせず手を高く上げるとアルバートさんもおろおろと見よう見まねで手を上げてくれた。

 よし、やるぞ。










「今日もごめんね」


「いえいえ」



 本日もガイアちゃんのお越し。

 昨日と同じくじっと見つめられている。サンリエル2号にならない事を祈る。

 そういやアルバート2号は元気かな。



「初めましてジョゼフと申します。こちらは妻のミュリナと娘のガイアです」



 あれ? チカチカさんがまだいる。



「……この方は……お手伝いに来てくれて……」



 まずい。うまい説明が出てこない。あと名前も。

 チカさんはもう使えないし……。



「……アダムさんです」



 わかってます。安直なのは誰よりも分かってるんです。だから無表情でこちらを見つめないでください。

 こうなるんだったら女性バージョンのチカチカさんをイブさんにしとくんだった。



「アダムです」


「あ、あの……普段からこんな感じで悪気はないんです。私も笑った顔を見た事が無くて……」



 私が必死にフォローしているのがわかったのか、ジョゼフさん達は気にした様子もなく笑顔でアダムさんに挨拶をしてくれた。

 なんとかなったぞ……。





「――今日はまたなんで?」



 2階に毛布を取りに行くついでにチカチカさんに聞いてみる。

 昨日はジョゼフさん達の前に姿を現さなかったのに。



「今日はややこしいから」


「ややこしい?」


「はるとおろおろは戦力にならない」



 よくわからないが褒め言葉ではない事と、手助けをしてくれようとしているのはわかった。

 ツンデレ過保護の本領発揮。



「ふーん。じゃあお願いします」



 頭でチカチカさんの肩をぐりぐりしてやり返される前に急いで階段を下りた。






 そしてお店がオープンしたのだが、チカチカさんの言っていたややこしいの意味が何となくわかった。



「神の祝福を受けた子供の――」

「子供は今日はいるの?」

「これをもらおうか」



 ジョゼフさん家族がこの店を手伝っていると聞きつけた人達が開店と同時にお店に押し寄せてきたのだ。

 他国の商人らしき人達も。



「良い商品を持って来たんですが」


「ごめんなさい、私の一存では決められないんです」



 何度も繰り返す同じセリフ。

 こちらの商品を取り扱いたいというだけではなく自分達が持って来た商品も売り込もうとしてくるのだ。

 これは確かに私達には荷が重い。今日は族長さん達もいないし。


 しかしチカチカさんがキッチンからあの無表情で出てくると商人達はさっと店を出て行ってしまう。

 しかもなんちゃって軍服だし腰には剣! 無駄に強そうだしかっこいい。

 これは全身じろじろと凝視するしかないよね。「気持ち悪い」って言われたけどやめなかったよね。

 絶対にツーショット写真を撮ると決意するしかないよね。





「――ヤマチカちゃん、なんだか騒ぎになってしまったから今日はもう帰った方が良いかもしれないわ」



 カップを洗おうとキッチンに入るとミュリナさんに申し訳なさそうに言われた。



「そうですね。ジョゼフさんが大変そうです。――呼んできますね」



 ある程度予想はしていたがまさかここまでお客さんがつめかけるとは。



「――明日はお店を開けるかどうかわからないのでお家でゆっくりしていてください」


「忙しいのにごめんなさい」


「いえいえ助かりました。ガイアちゃんまたね」



 ミュリナさんとガイアちゃんは裏口から、ジョゼフさんは表からそれぞれ帰っていった。ありがとうございました。



 そして人がいっぱいのままの店内。

 アルバートさんはひたすら帳簿記入とお金の受け渡し、私は試飲係と商品説明。

 かなりの忙しさ。でもマッチャがキッチンでお茶を用意してくれるからとても助かっている。食器洗いもお任せ。


 店内に持って来る係はチカチカさんだが、女性客はチカチカさんを見て頬を染めてささやき合っているのでなんだかこちらが誇らしい気持ちになった。

 見知らぬお客さんとチカチカさんのかっこよさを語り合いたい。







「――ちょっと」


「はい?」



 少し落ち着いてきた頃、急にチカチカさんにキッチンに連れて行かれた。

 変身なしの状態で女性達にあんな羨ましそうな視線を向けられたのは初めてかもしれない。

 まあね、腕を引っ張られてたからね。ふふん。



「チカチカさんチカチカさん、羨ましそうにされました。私の力じゃないですけど」


「最後だと思って味わっておきなよ。他国の人間が向かってる」

「ちょ、おおう」



 失礼な事と重要な事を一気に言わないで欲しい。返答に困る。



「空気読めないのが1人で先に来る」


「とうとう来ましたね~」



 少しお客さんが減ったのは良い事なのかそうじゃないのか。



 うまく乗り切ってやるぞ、クラッシャーララウルクめ。






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