家パで鍋パでたこパ
「ヤマ様、本日はどのような食事をご所望でしょうか」
これから全力で接待する気のサンリエルさん。
ご所望て。
そもそも店に早めに来ようとしたのも、自分を差し置いて族長さん達が私の役に立っているのが悔しかったらしいし(ボス氏、カセル氏証言)
「そうですねえ――ひとまずお腹が空いたのでちょっとティーさんのパンを……」
まだ外は明るいしまだ夕食という感じでもないしなあ。
もらったパンを島のみんなに味見してもらった後、立ったままもぐもぐ食べる。
「え、なに美味し」
いかん、もぐもぐが止まらない。
つなぎの為のちょい食べが本格食べになってきている。
でも美味しいんだ。今日はたくさん働いたし。
見た目シンプルなんだけど何個でもいけそうこのパン。ティーさんすごい。
「飲み物をお持ちしますか?」
がつがつパンをむさぼり食べている御使いにもいつも通りのカセルさん。
「お願いします」
座って食べる気ゼロの御使い。
エンにもたれてパンをひたすら食べ続ける。
何故かサンリエルさんを心配そうに見ているアルバートさんを眺めていると、ふと良いアイデアが浮かんだ。
「サンリエルさんはお菓子以外のものは作れますか?」
「……もちろんです」
「アルバートさんは?」
「えっ……? か、簡単なものなら……」
「野戦料理なら作れます。家庭料理もおそらく作れます」
キッチンから出てきてカセルさんも答えてくれた。
作った事はないけどたぶん作れちゃうって事ね。器用だわ~。
「提案なんですが、開店初日大成功のお祝いは自分達で作って店の2階でやる、というのはどうですか? 時間はありますし」
「良いですね~! 楽しそうです!」
「はい……!」
おお、食いついた。
しかし1番に食い付いてきそうな人物がやけに大人しい。
「サンリエルさん? もしかしてどこかお店を予約していますか?」
「いえ。……ヤマ様もお作りになるのでしょうか?」
「適当に作るつもりですけど」
でも気をつけて欲しい。
料理上手さんの適当と、それ以外さんの適当には天と地ほどの差があるんだぜ。
「……私が食べても……?」
「もちろん。カセルさんとアルバートさんも食べますよね? でも無理して美味しいとか言わないでくださいよ」
「はい!」
「は、はい」
サンリエルさんは何をそんなに気にしているんだと思ったが、深く考えない事にする。
そのうち私への接し方も定まってくるだろう。
「今から買い出しって出来ますか? お店ってもう閉まってますか?」
マッチャに用意してもらったおしぼりで手を拭きながら質問する。
ついでに口もぐいぐい拭く。
「材料は港と城の調理場ですべて揃うと思いますのでご安心ください」
さっそくの権力者発言。
「それはちょっと……」
「ヤマ様のお食事の為ですので構いません」
「そうですよ、定期的にお送りしている食事の為に一定量確保されていますので」
結局は私が食べる事になる食料なわけか。
アルバートさんも大きく頷いているし。
「ではお言葉に甘えて適当に使わせてもらっちゃいます。選んでもらっていいですか? 調味料関係は充実させたいです」
美味しい調味料さえあれば何とかなる。めんつゆとか。
そして大切な事を思い出した。
「サンリエルさん、焼いたお肉をつけて食べるタレで私の大好きなものがあるんですが、その再現に挑戦してもらえませんか? ここでは手に入らないんです」
かなりの無茶ぶりの自覚はある。
でも焼き肉のタレで白いご飯を食べたいんだ。
「私にお任せください」
お、なんだかよりいきいきとし始めたな。
「私も味わってみたいです」
「もうあれです、お肉が止まらない感じになりますから」
よだれ出そう。
「フォーン」
「マッチャも挑戦してくれるの? 楽しみ~!」
ジャンピング抱き着きの後ぐるぐる回してもらう。
あーここが島の家ならこの後チカチカさんにダイブしてロシアン受け身ごっこに移行するのに。
しかし男性3人はモフモフと遊んでいる御使いをじっと見守ってくれていたのでなんだか急に恥ずかしくなってきた。
どうも島生活では他人がいないもんだから精神が退行している気がする。
やってる事は基本的に小学生だもんな。
「――ではいってらっしゃいお願いします」
食材調達にはサンリエルさんとカセルさんが行く事になり、私はアルバートさんと一緒に留守番予定だったのだが、思春期アルバートさんが不足している物を買ってくると言い張ったので売り上げのお金を少し渡しておいた。
なんと初日の売り上げは銀貨21枚と銅貨118枚。
感覚としてはたかだか4時間くらいの労働で30万円以上売り上げた事になる。神の恩恵まじすごい。
まあ初日ブーストがかかってるからこれを基準にしちゃいけないが。
経理のアルバートさんからも持ち出し可能な金額を確認したので、資金繰りの面でもひとまずは安心できそうだ。
「2階で休憩してよっか」
こじんまり達と競争しながら階段を駆けのぼり2階に向かった。ロイヤルにはもちろん勝った。
「はる、起きなよ」
「うわっ」
急に体がごろんとなったような……?
「……お? あれ?」
現状がうまく把握できない。
絨毯に寝そべっている私。どうした。
「寝てた」
「そういう事ですか……」
目の前にあるボスの尻尾を見ながら思い出した。
「チカチカさんごめんなさい。話の途中でしたよね」
マケドの人の目的をボスの尻尾にくるまれながら聞いていたら眠気が襲ってきたんだった。
あんなもふもふな布団で寝ない方がおかしいと思う。
ごろんとなったのは隣にいたナナが動いたからのようだった。
「コフッ」
「うん、平気。起こしてくれてありがとう」
ナナに抱き着いていると急にボスの尻尾が見えなくなった。
不思議に思っていると下から声が聞こえてきた。
「お休みの間に作るか?」
「でもヤマ様もお作りになるって……」
「私がもう一度声をお掛けしてくる」
……寝ていたのがばれている。
「クー」
「寝相は見られてないのね」
「キャン」
「ふんふん、階段の所で上ってこれない様に寝そべっててくれたのね」
優しいフォローをありがとう。勇ましいね。
でもマッチャに抱えられて足を拭かれている今の状況は勇ましさとは程遠い。
短時間で見事にぐしゃぐしゃになってしまったウィッグ。
ダクスを拭き終わったマッチャに外してもらいながらロイヤルに水をかけてもらう。
顔をごしごし拭きながらエンに抱き着き服を少し乾かす。あったかい、幸せ。
「よし、はるクッキングのはじまりだ」
白フワを頭に乗せワクワクしながら階段を下り、途中でふんぞり返っていたキイロとロイヤルもきちんと回収する。
ありがとう頼りになるわ。
「寝てました」
階段下に集まっていた3人に笑顔で正直に告げる。
「食事の準備は我々に任せてお休みください」
「出来上がり次第お呼びしますよ~」
「ゆっくりお休みください……!」
こんな待遇を経験して地球に戻った後私は無事に自活できるんだろうか……。
1人暮らしなのに……。落差が激しい。
「料理を作りたい気分なので作ります。やる気はあります」
「では張り切って作りましょう!」
きりりとした顔で告げるとカセルさんもきりりと返してくれた。
そのままきりりとキッチンに入ろうとした所でカウンターにある物に目が留まった。
「これ――――」
カウンターに置いてある木の板には『献上品取扱 領主認可1号店 正規販売委託:まどろみ亭』そう書かれてあり、何やら印のようなものも。
「御使い様に献上する商品を扱っている店の証です。まどろみ亭の名を記載したのは勝手な転売を防ぐためです。私が作成しました」
サンリエルさんもきりりとした顔で答えてくれた。
おお、領主っぽい。
「アルバートのお手製案内板がありますからね~」
「おい……!」
「……なるほど」
お得意の対抗意識が顔を出したと。
でもこちらは助かるからまあいいか。
「じゃあライハさんのお店にも委託販売先と分かる様なものをお願いします」
「お任せください」
アルバートさんの事をすっごく見てるな……。
比べなくていいのに。
気を取り直してキッチンに入ると、棚という棚にぎっしりと食材がつまっていた。
「うわあ、たくさんありますね」
「裏口の外にもありますよ!」
「え?」
ついついサンリエルさんを見てしまう。
「ご自由にお使いください」
「ありがとうございます……」
ある意味夢のような環境っちゃあ環境だけどまさかこんな形で叶うとは。
せっかくなので食材の説明を聞きながら地球レシピに使えそうなものを選ぶ。
ちょっとした市場の買い付け人みたいだ。
そして用意されている調味料をみんなで味見する。
醤油っぽいもの、砂糖っぽいものがあったのでテリヤキチキンを作る事にした。
お酒は飲み物として用意されている物を適当に使ってみようと思う。
みりんはないけどそれなりの味にはなるはずだ。
「私は切って炒めるだけですのですぐに出来ますけど」
キッチンは狭くはないが火を使えるところは2ヵ所しかない。
鍋みたいな料理の方がいいのか?
「私は煮込みますので先に火を使わせてもらっていいですか?」
「どうぞ」
カセルさんは煮込み料理なんだな。
「私は菓子を先に仕込みますので大丈夫です」
パティシエの登場だ。
「アルバートさんは?」
「私は火を使わないものを作りますので……」
サラダ的なものかな?
なんにせよ全員で作業しても支障はないみたいだ。
「サンリエルさんはお菓子の仕込みが終わったら私のお手伝いをお願いします。では始めましょう!」
「はる、捕まった人間が全部話すって」
まさかのタイミング。今なのか。
「おお~意外とすんなりですね~」
「童話」
「んんん?」
「北風と太陽。飴と鞭」
「……ああ! そういう事ですか~」
「あと動き出したよ」
「動く……?」
「ゴーレム」
「ごーれ……ゴーレム!?」




