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幸せに暮らしましたとさ  作者: シーグリーン


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恥ずかしい思いはしたくない

 



 よくよく見るとかなり凝っている『ヤマチカ屋』の名が入った看板の近くにある、小さな木の板を裏返してはめ直す。

 少し迷って扉は開いた状態に。これでオープンしている事が伝わりやすくなるといいな。



 正直オープンしてからの数日と、御使い設定・一族の生き残り設定が関係する売り上げ以外はどうなるか少し不安に感じたが、私より緊張した面持ちをしているアルバートさんを見たら気が少し楽になった。

 私が御使いという事もあるだろうが、アルバートさんは誰に対してもこうやって一生懸命自分の事のように感情移入するんだろうな。

 不器用な性格で悩みも多そうではあるけど私は好きだ。思春期だけど誠実な良い男だし。ご家族も好きだぞ。


 というかもともと私生粋の商売人じゃなかったわ。ファッション感覚だったわ。

 美味しいと思ってもらえればいいな~くらいの気楽さでやろうって考えてたし。

 また忘れて不安になりそうだけど。





「――どきどきしますね~」



 アルバートさんとアレクシスさんに話しかけながら店内に戻ると、2人が驚いた顔をしていた。

 やだ、そんな顔まで美しいとかアレクシスさんすごい。


 しかしアルバートさんが何やらこちらと後方に交互に視線をやりながら、両手を変に動かし始めたので後ろを振り向く。









 はにかんでいるネコ科が入り口にいた。






 え、はや。



 というかアルバートさんも好きだと思ったけどやっぱりネコ科も好きだ。

 何そのはにかみ。カッコ可愛いんですけど。髪の毛もさあなんですけど。ワイルドなんですけど。



「……ガルさんいらっしゃいませ」



 ほんとサンリエルさんが鼻血を出すくらい興奮する気持ちがよくわかる。

 出せるもんなら出したい。



「この棚の全部くれ」



 いきなり富豪か。



「全部ですか……」



 いきなりきて王族のような振る舞い。そこの棚だけで20本以上あるんですけど。

 一度私もやってみたい。でもまあ1本銅貨4枚で4000円くらいの感覚だからそこまででもないのか?


 しかし数量制限の事なんて何も考えていなかった。



「ガルさん、1人いくつまでにするのか考えていなかったので少し考えさせてもらっていいですか?」


「いいぞ!」



 快く応じてくれたガルさん。ありがたい。



(たくさん買ってもらえるのは嬉しいけどオープンしてすぐに在庫切れっていうのもあれだなー。せっかく来てくれた人達に申し訳ないし――いやまてよ、果たしてお客は族長さん達以外に来るのか? ――そうだよ、知名度もないお茶に4000円出す人がそこまで多いとは言い切れない。量も少ないし。1人1点までとかの売り文句で売れ残ってたら辛くない? そんなの見た事ないけど無いはずが無いよね。仕入れ担当者は人知れず涙してんのかな? そんな思いしたくないな――)


「ヤマチカちゃん?」


「……!」



 考えがどんどん収拾つかなくなってきたところで、アレクシスさんに背中を優しくポンポンされた。



「ふふ、すごい顔になってるわよ」



 そっと顔を覗き込まれた。

 もはや兵器。アレクシス砲。


 思わずふらふらと近付きそうになったがぐっとこらえる。



「うまく考えがまとまらなくて……」


「1人2本までにしてはどうかしら?」

「それが良いわね」



 大御所2人がキッチンから手助けに参上だ。



「理の族長ずるいですよ~! 俺店が開くまで我慢したのに!」


「私はアルバートの依頼を受けたローザの付き添いよ」

「地の族長、あなたが1番初めのお客様ですよ。初めてのお客様だから3本まででも良いかもしれませんね」


「いいのか!?」



 ガルさん簡単過ぎ……。見事なくらい手の平で転がされてるよ。



「はい。ではガルさんは初めてのお客様ですので3本で」


「ありがとな!」



 きゃっ、肩をばしばしされたわ。



「買いに来たわよ!」



 ガルさんからお金を受け取ろうとしたところで元気よくリレマシフさんもやってきた。

 オープンしてから5分くらいなんですけど。この人達なんかセンサーでも付いてんの?



「あっ」


「1人2つまでだぞ~」


「じゃあなんで3つ持ってるのよ」


「俺は1番初めの客だからな!」



 ガルさん睨まれてるの全然気付いてないな。



「リレマシフさんいらっしゃいませ」


「これ2つと……カリプスは今日はないのね?」


「……今日はお客さんの対応がちゃんと出来るか心配だったので。明日は店に出す予定です」



 すんません、もう売りました。目先のお金にとらわれたんです。

 在庫だけはあるんでまた持ってきます。



「明日店はいつ開けるのかしら?」


「えーと……」


「俺もまた買いに来るぞ」


「仕事しなさいよ」



 ダイナマイト美女さん落ち着いて。

 それにしても間者の件はまだ知らないんだろうか。



「明日はですねえ……」



 どうしたもんかとアルバートさんの方に何気なく視線をやると、意を決した顔でフォローしてくれた。



「あ、明日の“黄”の鐘が鳴ったらでどうでしょうか。人の多い時間帯ですし……」


「そうねえ、今日は色々と疲れてしまうでしょうから明日は早すぎない方が良いと思うわ」



 アレクシス親分まで。

 確か“黄”の時間はイメージとしては昼辺りだからその時間で大丈夫だろう。

 鐘が鳴るなら分かりやすいし。



「“黄”の鐘が鳴ったらお店を開ける事にします。アルバートさん、アレクシスさんありがとうございます」



 お礼を言うとアルバートさんはどこか嬉しそうな表情を見せ、アレクシスさんはお手本のようなウインクを披露してくれた。


 その時店の入り口に若い女性達が。




「――お店に入っても大丈夫ですか?」


「どうぞ、いらっしゃいませ」



 なんと知り合い以外の第1と第2街人が来てくれた。

 これかなり嬉しいな。



「良かったらお試しで飲んでみませんか? 商品を買う必要はありませんので」



 程よい距離感を心掛けるぞ。

 接客は美の女神アレクシスさんに任せる。



「良い匂いがしていたのはこれなんですね」

「……すごく美味しい」



 お茶を嬉しそうに飲んでいるがガルさんとリレマシフさんにもちらちら視線を飛ばしている女子達。

 野生と薄着のコラボだし気になるよね。というか族長だし気になるか。



「じゃあまた来るな!」


「はい。ありがとうございました」



 買った商品をぐわっと持ち上げて豪快に挨拶してくれるガルさん。

 リレマシフさんも大声こそ出しはしなかったが妖艶な笑顔を見せてお店を出て行った。


 お2人とも本当にありがとうございました。





「――ヤマチカちゃん」



 2人を見送りカウンター裏に戻ろうとするとアレクシスさんに声を掛けられた。



「茶葉だけのもので、これより少ない量で販売って出来るのかしら?」


「少ない量ですか?」


「あ、あのすみません……私達お金をそんなに持っていなくて……。でも家族に買って帰りたくて……」



 恥ずかしそうな女子。

 別に恥じる事じゃないよ。若者はお金に余裕がある子の方が少ないから。値段も高め設定だしね。


 しかし測り売りに関しては後々考える方針だった為必要な道具を用意していないし、同業者との共存の為に値段で差別化を図る方針は変えたくないので諸々の金額設定はサンリエルさんに相談したい。



「ごめんなさい、量り売りに関してはこれから考える予定だったんです。なので今日は開店記念という事で期間限定のお試し金額のものならご用意できそうなんですけど」


「えっほんとですか?」


「でも量と値段を決める時間を頂いても大丈夫ですか? 飲みながら待っててください」


「もちろんです!」



 嬉しそうにしてもらえるとこちらまで幸せな気持ちになるな。



「アレクシスさん、皆さんと相談したいので少しお店を任せてもいいですか?」


「任せて!」



 これほど心強い「任せて」はそうそうない気がする。


 キッチンに向かう途中でアルバートさんがおろおろしていたので、一緒にキッチンに入ってもらった。





「皆さん、どのくらいの量と金額設定だと最も効果的な宣伝が出来ますかね? 良かったら知恵をお貸しください」



 こういうのは得意な人に任せる。



「高品質の商品であるという印象はそのままに期間限定という言葉で客の購買意欲を――」

「量は多過ぎても良くないわよね。ヤマチカ屋という店名が今後高級で高品質な商品を扱う店と認識されるような――」



 お、難しそうな会議が始まったぞ。こっちはこっちでやれる事をやっておこう。



「アルバートさん、店の外に期間限定商品の説明を書いた看板を置きたいんですけど、材料って手に入りますか? 紙でも大丈夫ですけど目立つ方が良いです」


「……ク、クインさんに聞いてきます!」



 慌ただしく外に出て行ったアルバートさん。

 しかし慌ただしくまたキッチンに戻って来た。



「あの……」


「忘れものですか?」


「いえ……風の族長がお見えに……」



 ……族長って激レアな存在なんじゃないの? 

 この街に5人しかいないはずなのに間隔空けずにばんばん降臨してますけど。嬉しいのは嬉しいけど。




「ティランが来たの? ヤマチカさん、ここに来てもらっても大丈夫かしら」


「はい」

「呼んできます……!」



 アルバートさんがまた慌ただしくキッチンから出て行ったので私もひょいと店内に視線をやる。


 優雅な足取りでこちらに向かってくるティランさん。

 先程の女子たちが「かっこいい……」と言っているのが聞こえた。

 わかる、かっこいいよね。本人にもばっちり聞こえてるだろうけど。



「お邪魔するよ――“理”が2人揃って悪だくみ中か?」



 あら。なにかしらこの昔からの知り合いです感。

 ギルバートおじいちゃんにも挨拶してるし。

 この仲の良さそうな雰囲気良いな。



「違うわよ。期間限定の商品の値段と量について話し合っているの」


「期間限定か」



 ブレーンがもう1人増えた。

 そして外から店内を覗きこんでいる人達も増えてきた。なんだか忙しくなりそう。



「ヤマチカさん、限定商品は――」



 お客さんが増えたら店に戻ろうと考えている内に話し合いは終わったようだ。

 だらだら会議を長引かせないデキる人達だ。



「茶葉だけの商品の半分の量で銅貨1枚というのはどうかしら?」


「大丈夫です」



 半分の量で1000円くらいならお試しとして購入しやすいだろう。

 もともと茶筒無しは銅貨3枚で販売予定だし。



「ありがとうございます。安売りの印象が残ってしまうといけないので3日間限定の開店記念として考えているんですが」


「良いと思いますよ」



 ブレーン達の賛成は心強いな。


 さっそく女子達に決まった事を報告しに行こう。




「あれ……?」



「看板が必要なんだって?」





 キッチンから出ると、木の板をセカンドバック持ちしているサムさんと、あわあわしているアルバートさんが店の入り口に立っていた。





 族長降臨は期間限定で確立が超絶アップ中のようだ。





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