表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幸せに暮らしましたとさ  作者: シーグリーン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

151/216

センスの問題

 



 ご近所さんがオープン準備を手伝ってくれると言うので、少しだけ手伝ってもらう事にした。



「お店の飾りつけを少し手伝ってもらってもいいですか?」


「まかせな~」



 ティーさんは腕まくりしてるけど残念ながら力仕事ではないんです。それにしても腕の筋肉すごいな。



「クインさんのお店で可愛さのあまりたくさん買ってしまったんですけど、こういったものの飾りつけに自信がありません」



 1人暮らしを始めた頃はいそいそとインテリアに力を注いでいたが、慣れてくるといかに収納するかの方に意識が向いてくるもんだ。

 物を飾る棚のスペースがあるなら収納スペースにする。

 でも友達の家の素敵インテリアに憧れはあった。


 クインさんのお店を見る限りセンス良さそうだもんな。髪はぼさぼさだけど。

 というか一族の人みんな良さそう。



「自分の好きに置けばいいでしょ。――でもそうだね、これはここが良い。ティーは絨毯――絨毯はどこに置くの? 2階ね。ティーは絨毯を運んで。カセルは棚を拭く。そこの箱に布が入ってるから」


「はいよ!」

「わかりました」



 もうクインさんの仕事できる感じが半端ない。まさにテキパキ。

 上司(領主)にも自分のアイデアをしっかり伝えるデキる社員だ。髪はぼさぼさだけど。

 でもそこで揉めるのはやめてほしい。

 サンリエルさんからは2階のインテリアのアドバイスをもらいますから張り合わないでください。




 その後はアルバートさんと一緒に現場監督達の指示を受け、壁面収納にセンス良く雑貨を置いていく。

 一族の人達は「陳列によって商品の売り上げが――」とか「奥まで客を呼び込む」なんて難しい話をし始めたので、私達一般人は大人しく作業に徹する。


 仕上げの商品陳列は島のみんなとやれば参加した感じは出せるだろう。






「――ありがとうございました」



 クインさんの好意でオシャレテーブルクロスを追加した事により店内は一気に華やかに。

 サンリエルさんの用意していた花も利用して女性が好みそうなお店がここに完成した。

 まじでおしゃれ。すごい。



「せいぜいがんばって」



 クインさん、ツン後輩が言いそうなセリフをありがとうございます。



「パンが足りなかったらいつでも店に来なよ」



 ティーさん、パンを大量に焼きすぎないように気をつけてくださいね。




 そして見送りはいらないとさっさと店の外に出てしまった2人。

 さっと来てさっと帰っていったな。でもありがとうございます。






「みんなもう大丈夫だよ~」



 2階に向けて声をかける。

 こじんまり達はすでにリュックから脱出しているが。



「クー」


「え? それどういう事?」



 2階から返事をしてきたエンから「ボスが拭いた」といきなり言われた。

 拭いた……?


 なので店内ディスプレイをお姑さんの目で審査しているロイヤルを抱っこして2階を見に行ってみる。



「拭いた~? ――え」



 なんと2階の床が水浸しになっていた。なんでだ。



「これ……あの……拭いたってこういう事……?」



 その辺にいるだろうボスに確認すると、急にボスの尻尾が目の前に現れ、フワフワの尻尾の毛で床を撫でるように動かし始めた。



「そっか、そういう事ね」



 まさしくモップのような尻尾の使い方。

 そしてトコトコとエンが歩き水浸しの上に座り込むと、次に立ち上がった瞬間にはすっかり渇いている床。



「……ありがとう」



 愛おしさがとまらない。

 ボスとエンにぎゅうぎゅうと抱き着く。

 尻尾汚させちゃってごめんね。



 マッチャとナナも寄って来たのでそれぞれに順番に抱き着く。

 途中から面白くなって素早い動きでの抱き着きを繰り返す遊びを発明してしまった。高速モフモフ。

 ロイヤルは常に間にぎゅうぎゅう挟まれている事になり、毛がボサついていた。可愛い。



「ぴちゅ」


「あ、そうだ準備しないと」



 島の家にいる時のようにみんなの毛並みを堪能するのに夢中になるところだった。なってたけど。


 顔をぐいぐい頬に押し付けてくるキイロをぐいぐい押し返しながら1階に降りると――




「こちらですか?」


「ヴー」


「申し訳ありません、ではこちらでしょうか? ――こちらですね」


「あ、あの、ではこちらは……?」





 ダクスが偉そうに茶筒を並べる指示を出していた。

 頭に白フワを乗せて。




 人を顎で使うってまさにこの事。実際ボディランゲージで意思が伝わっちゃってるし。



「……準備を手伝ってくれてるんだ~。ありがと~」


「キャン!」



 最近のダクスはあれだ、小さい子ってなんでも自分でやりたがる時期がくるけどそれに近い。

 カウンターの隅にそっと置かれた商品にへこんだ跡が付いてるのは自分で運ぼうとした結果なんだろうな……。


 まあちょうどいいので牙の跡が付いた商品はお店の試飲用にする事にし、島のみんなと私だけで最後の仕上げをした。

 さらさらウィッグをマッチャにゆるふわまとめ髪アレンジしてもらい、おしゃれカフェ店員風御使いに変身。


 その間申し訳ないがサンリエルさん達は2階に押し込んだ。

 靴はもちろん脱いでもらい、設置した絨毯の上で寛いでねと御使い命令を下した。

 大丈夫、奇襲なんてありえませんから。









「よし! 完成だ!」



 ヒューヒューと謎のうっとおしいテンションで拳を突き合わせる挨拶をみんなと交わす。

 ヒュウ~!




「サンリエルさん、準備出来ましたよー」



 そう声を掛けると、階段から飛び降り音もなく着地するサンリエルさんとカセルさん。

 アルバートさんは必死で階段を下りていたのでなんだか安心した。

 周りがハイスペックすぎるから見てると落ち着く。



「素晴らしい陳列です」



 いや、ただ並べただけなんですけど。



「いよいよですね!」



 なんやかんやあったけどようやくオープンだ。



「お店を開ける前にライハさんとミュリナさんの所に行きます。開店が遅くならないようすぐ戻ってきますが、サンリエルさんは本来のお仕事に戻って下さいね。良かったら夜に打ち上げを兼ねてご飯を一緒に食べましょう」



 仕事に戻らないと言い張りそうだったので、夜の予定を先に告げると案の定サンリエルさんは嬉しそうな顔をした。

 ふふふ、対人能力の更なるレベルアップ。



「カセルさんとアルバートさんのお2人は出来れば今日1日は手伝ってほしいんですが」


「もちろんです!」

「はい……!」



 若いメンズもやる気に満ちているな。ありがとう。



「はる」


「はい、なんですか? ――あっごめんダクスとロイヤルはお留守番しててもらおうと思ってるんだ」


「キャン!」

「キュッ!」


「いやさあ、ミュリナさんとライハさんの所に行くとなるとここから結構歩くからなるべく身軽でいたいなあって――」

「はる」


「あっうるさくてすみません。何でしょうか?」



 リュックに頭からつっこんでいるこじんまり達はマッチャに任せてチカチカさんの話に集中する。



「今外に出ると物語の主人公みたいになるよ」


「お……? おお?」



 ちょっと何それ。



「詳しくお願いします主人公になりたいです」


「後をつけられる」


「後を……」



 ……これはスパイものの予感がする。



「はあはあ、そっち系の物語ですね」


「赤を監視してた人間と同じ国」



 なんですと。



「カセルさんを監視って……?」


「出産イベントの後」


「出産イベント……」



 がんばれ私の脳細胞。たった数週間前の話だ……!


 エンとナナの首に抱き着き、カセルさんを見つめながらその時の事を思い出そうとする。

 カセルさんは不思議そうにしていたが視線はそらさず笑顔を返してくれた。

 確実にモテ男。知ってたけど。





「――思い出しました。後をつけられたんですよね。布の代金を払いに行って」



 ちらちらサンリエルさんが視界に入ってきたがようやく思い出せた。

 その後のごたごたが衝撃的過ぎて記憶の隅に追いやられていたな。



「え? ちょっと待ってください、同じ国の人って事は……相手側は何らかの任務を続行中って事ですか? とういうかどこですか?」


「森の横の真ん中」


「ミナリーム?」


「の隣り」



 隣の真ん中という事は……確かマケドとかいう国だ。



「なんで私がつけられちゃうんでしょうか?」


「はるはついで。でもここの人間より明らかに弱そうだからターゲットになる」


「うわあ……」



 カセルさんはあの時簡単に追っ手を撒いたって話をしてたし、そりゃあ私の方が難易度低そうに見えるよな。

 実際はクリア不可能な難易度ですけど。



「それってミュリナさんとかライハさん……は大丈夫か、ミュリナさんやスヴィさんも危ないですか?」



 ガルさんに説明した人質云々が現実味を帯びてきた。



「生まれたての家族はこの街の人間が見張ってる。金色の店もここの人間だからある程度平気」



 ……言い方が気になって内容がいまいち入ってこない。

 でもまあそっちは私が心配せずとも大丈夫そうだ。と言うかミュリナさん達見張られてたのか。

 神の祝福ってすごい事だもんな、それもそうか。



「じゃあ問題は無いですね。でも面倒なんで今日はお店で待機しておきます」



 自ら危ない事に突っ込んでいく主人公にはなりたくない。

 チカチカさんの力で何があっても大丈夫だろうけど。



 モフモフ達を嬉しそうに見ている1人とこちらを凝視している1人とキイロに羽をバサバサされている1人にも説明しないと。

 こじんまり達はアルバートさんに絡まないと具合が悪くなる病気にでもかかってんの?



「カセルさん」


「はい」



 サンリエルさん今は凝視は控えてね。



「今外に出ると他国の人に尾行されそうですので、挨拶と商品の卸しはカセルさんにお願いしても良いですか? この前カセルさんの後をつけようとしていた国と同じみたいです。カセルさんならうまく対処できますよね?」


「他国……ですか」



 うわ、悪そうな顔。



「こちらを侮ってかかるとどういう事になるのかよほど知りたいらしいな」


「捕らえますか?」



 え……?



「私が行こう」


「自らですか~」


「おおかた先程私が引き起こした騒ぎでも聞きつけたんだろう。自分で芽を摘み取っておく」



 うわうわうわ。



「あえて泳がすという手もありますが」


「ヤマ様のお姿を視界に入れさせたくはないからな」


「それもそうですね!」







 やばい……マケドの人やばい……。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ