なんだかんだ言いつつ
祝祭が終わり再びの食っちゃ寝生活真っただ中、今日は珍しく朝から雨が降っていた。
こういう日は大人しく家で楽しむに限る。
こういう日でなくとも家でいつも楽しんでいるが。
「――あ~ヘッドスパ受けたい……アロマオイルの全身マッサージでもいい……そうなるとフェイシャルもお願いして……」
地球のリラクゼーションが懐かしい。
ベッドでごろごろしている今、どんなストレスがあるんだとは思うが。
「フォーン」
「そうだね、マッチャは手がごわつき系だからマッサージ向きの手じゃないんだよね~」
皮はがれそうだから勘弁。ヘッドスパならまだ大丈夫そうだけど。
「マッサージしてあげない事もないけど」
「出ましたツンデレ過保護! ありがとうございます。でも身内に体を触られるのは恥ずかしいんですよね~。見られるのは平気なんですけど。他人の女性スタッフさんだからこそ気にならないっていうか――」
「そんな繊細な心持ってた?」
「持ってます! ふふん、惑星でも知らない事はあるんですね~」
腹の立つ顔をしながら、ベッドにいるナナの甲羅を利用して背中を伸ばす。
「……あーのびる……クダヤでヘッドスパとマッサージのお店作ってくれないかなー」
アレクシスさんとかアビゲイルさんあたり。見た目は完全に美容関係者だし
細胞ストレッチで体を労わるのもいいんだけど、地球式のマッサージで体を労わってみたい。
すでに労わりっぱなしだけど。
「そういやアレクシスさん達って専業主婦ですか?」
チカチカさんに質問する。
他に仕事を持っているならお願いできない。
「たまに武器開発のアドバイスしてる」
「へ、へえ」
毒の取り扱いにも長けてるって言ってたしなあ……。すごいなあ……。
「そうだ、クダヤのお医者さんってどんな感じなんですか?」
今まで医者という肩書の人に会った事はないがいるはずだ。
確かマッサージとか人体のツボとかは医療の現場からあれやこれや――なはずだ。よくわからないが。
「他と比べて優秀な部類には入るけど、丈夫な人間が多いからそこまで人数はいない」
「そっかあー丈夫かあ。アビゲイルさんも回復力半端なかったですもんねー」
さすが神の島のお膝元。
「あ、でもスキンケア用品一式とか贈ってくれるくらいだから他の国よりはそういう面は発展していますよね?」
「してる」
「よし!」
街でマッサージしてくれる人でも探そうかしら。もうそろそろ茶葉を持って行っても良いし。
「――正体を知ってる女性を増やそうかな~。男性ばっかりだし」
3人だけとはいえ男性ばかりではこの先相談しにくい事も出てくるかもしれない。
マッサージしてくれる人を選べば好きな時にいつでも受けられるし。
「ぴちゅ!」
「クー」
「キャン!」
「キュッ!」
「……へーい、そうだね」
珍しくエンまで加わって反対された。
確かにマッサージの為だけに正体をばらすのもなんだし、体に触れるという行為に難色を示された。
「……ん~、やっぱりチカチカさんにたまにマッサージをお願いしても良いですか? マッチャにはヘッドスパをお願いして」
私の繊細な心は臨機応変な心なんだ。
「いいよ」
「フォーン」
「ありがとうございます!」
勢いよくマッチャに飛びつく。
ぶんぶん回してもらってベッドの上に浮いているチカチカさん(球状)に向かって投げ飛ばしてもらう。
すり抜けるのかはじき返されるのかドキドキする。
ここに全員を巻き込んだロシアン受け身が始まった。負けない。
「――はる起きて」
「――お……?」
「食事が届いてる」
「ああ…………」
もそもそと起き出す。
そういえば今日は食事が届く日だった。
しばらく出前はお休みしてもらえるようお願いしていなかったので今でも定期的に届いている。
贈り物がたくさん残っているのでそれらから食べようとは考えているのだが。
お願いする機会は何度もあったのにな……。
段取り上手になりたい。
ロシアン受け身ごっこで体を動かした後いつの間にか寝てしまったようだが、今はお昼過ぎといったところか。
「フォーン」
「うん、ありがと。起きたばっかりだからスープだけもらう」
ぼんやりした頭のままソファーに座りエンにもたれ掛かる。
ダクスは思いっきり寝てるな……。
「残ってる使者は明日帰るって」
「――使者……あー使者さん」
突然のチカチカさんの言葉に、一瞬何を言われているのかわからなかったがようやく頭が働いてきた。
「じゃあそろそろ茶葉でも持っていきますかー」
豪快な欠伸をしながら返事を返す。
確かイタリア人首長は先に国に帰ってたんだっけな。
「今回は結構長かったんですね」
祝祭最終日からは3日…………いや、出前を考えるとそれ以上…………?
……でも体感では3日くらいだ。カレンダーとか無いし。
しかしチカチカさんに聞いたところ「5日」と答えが返ってきた。
心底驚いた。
5日……。いつの間に……。
引きこもりの才能あり過ぎ……。
「……チカチカさん、ファンタジー補正でアクティブ女子になったかと思いきや変わってませんでした」
「知ってる」
そんなに人がすぐ変わる訳がないか。
「5日って事はだいたい1週間くらいの滞在か~」
前回が短かっただけでそんなものなのかもしれない。
そういや前回は神の怒りが……。
咄嗟にエンの横腹のモフモフに顔をうずめ、叫び出したい気持ちを抑える。
もふもふもこもこ。
「黒歴史?」
「正解です……」
この惑星はピンポイントで言い当ててくるな。
「語り継がれるだろうね」
「……地球に帰りますし平気で……だめだ、次の人生でお世話になる予定でした……」
これは逃げずに受け入れろって事なんだろうか。
「……おばあちゃんになる頃には昇華できていると思います」
ゆっくり時間をかけて向き合っていこう。
結局顔を洗いスープを飲んだら食欲が元気を出してきたので、ぺろりと出前は完食してしまった。
精神面が落ち込んでいても食欲は無くならないのは良い事だ。
食事をしながら聞いた話だと、お店はもう完成していてサンリエルさんが今か今かと待ち構えているそうだ。
そうか、待ち構えているか。
心待ちにされているようなので明日街に商品を卸しに行こう。今日は雨降ってるし。
なので今日はマッチャに手伝ってもらいながら木の筒に茶葉を詰める内職をする事に。
他のみんな(ダクス除く)は手伝いたそうにしていたが、私の目と精神を癒す係に回ってもらった。
「――これ何個くらい作ろうか?」
10個ほど作ったところで気になった。
「2個ずつ無料でライハさんとミュリナさんに渡して……お店の規模的に多過ぎない方が良いから……」
無計画ここに極まれり。
「……まいっか。疲れるまで作ろう」
なんとかなる。
起きてきたダクスに手伝いと言う名の邪魔をされながらも50個ほど売り物は完成した。
休息をしっかりとっているおかげで仕事がはかどるはかどる。
「休憩しよー」
そのままベッドに倒れ込むと、キイロとロイヤルが肩をくちばしでつついてくれる。
肩たたきのつもりなんだろうな。愛しいもふもふめ。
「明日かー。明日からお店で商売できるかなー」
ぼんやりと呟くとチカチカさんが「できる」と教えてくれた。
「もう看板もついてるから後ははると茶葉がおさまるだけ」
「おさまる……」
至れり尽くせりだよほんと。
「茶葉だけを売ってこだわりがある店にするか、それとも色んなものを取り扱うか――」
醤油ラーメンしかメニューにないこだわりのラーメン店かファミレスにするかといったところだ。たぶん。
「――あ、キウイメロンも売るしミュリナさん達の商品も扱う予定だった」
ファミレス一択だった。この忘れがちな記憶力はなんとかしないといけない。
「なら明日キウイメロンも持って行こう」
収穫は完全にマッチャとナナの仕事になっているがたくさんストックがあるはずだ。
すぐ収穫できるもんな。
「あとレジはどうするか――」
こうして自分なりにヤマチカ屋のオープン準備を進めていった。
ふふふ、制服とか作っても可愛いかもしれない。ポイントカードとかも。
お店はいらないと思ってたけどアイデアがどんどん湧いてくる。
楽しみだ。ワクワクする。
が、次の日も雨だったのでオープンは延期した。
雨だもの。




