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幸せに暮らしましたとさ  作者: シーグリーン


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なるようになる

 




「ねえ、ちかさん! さっき見ましたよね? 映画とかで美女にやるあれ! ちかさんと一緒にいたからおこぼれもらえました! すごくないですか!?」


「何回も聞いた」



 チカチカさんの腕に抱き着いてうっとおしい絡みを続けていたら、片手で両方のこめかみを掴まれ頭をぐいっと離された。



「いたた」



 でもにやにやは収まらない。



「ねえちかさん――」



 めげずに擦り寄っていくと、呆れた顔をしながらも頭を撫でてくれた。

 やっぱりツンデレ過保護は健在だった。好きだ。



「今夜は大胆になれそうな予感がします」


「なにその安っぽいセリフ」


「みんなの目を釘付けにしてしまいましょう!」



 街には神の踊り歴で私に勝てる人はいないしね。ふふん。

 通りすがりのおばさまも私の決意を温かい目で見守ってくれている。気がする。



「今日の仕様はこれだけど」



 突然チカチカさんに人差し指で頬を突かれた。親密な仕草に胸がきゅんきゅんするじゃないの。

 結構強めに突かれたけど。



「これ? ――ああ……そうでした」



 きゅんきゅんしている場合じゃなかった。


 今は住民仕様のヤマチカだった。

 白フワの金粉効果があるとはいえ、他国民仕様のヤマチカを知っている人には見られたくない。



(あれ? そうなると住民仕様の時は名前を名乗らない方が良い? これ以上名前を増やすと確実に対処しきれないし……こうなったらもうさっさと『ユラーハンのヤマチカ』は住民にしてもらうべき? でも――)


「しわ」



 いつの間にか眉間に皺を寄せていた様でぐいっと皮膚を伸ばされた。



「ちかさん……あの……仕様が違う事により色々と設定とか……」


「今さら?」


「今さらなんですけど……」


「上手い立ち回りなんて少しも期待してないから」



 ここはほっとするべきなのか悔しがるべきなのか……。



「そもそもなんでそんなに正体を隠したがるの?」


「ちかさん聞こえ……!」



 聞かれていないか慌てて周りを窺う。



「大丈夫」


「え? ……そっか、惑星能力」



 都合の悪い話は聞かれない能力が発動したようだ。便利。



「えーと、正体の話ですよね? そりゃあファンタジー世界を楽しむためには御使い設定は邪魔になるからですよ。普通に接してもらって楽しみたいですし。チカチカさんもこの世界の人とは程々に関わるのが良いよ~ってスタンスでしたよね? 御使いが街にばんばん降臨してたら程々じゃなくなっちゃいます」


「ばんばん降臨してるけど」


「……まあ地球の常識で考えたら実在するってだけでとんでもない事ですけど……」



 あれ? 良く考えてみるとここまで正体を隠す必要はあるのか……?



「あの……なんで今の状況に陥っているのかもいまいち……思い出せないというか……フィーリングで生きてきたというか……」


「深く考えずに行動してるもんね」


「はあ……」



 何ひとつ間違った事は言ってないんだけどな……。どこか引っかかる。



「何があってもどうせはるのやる事ならフォローできるから安心して」



 やだ、そんな事上司に言われたら惚れるしかない。「どうせ」は余計だけど。

 そういや<地球>さんにも同じような事言われたな……。



「……チカチカさん、好きです」


「知ってる」



 もう! このツンデレ惑星! 



「じゃあ改めて行き当たりばったりで」



 結論、問題なし。


 チカチカさんの腕にしがみつきながら機嫌良くS青年の元に向かう。



 しかしのんびり歩いている内に、実際に御使いとして街に自由に来ても問題はない気がしてきた。

 気を遣われるくらいで問題は無いような。サンリエルさんの態度で慣れたというか――



「あ! ダメですチカチカさん! 正体は盛り上がりが最高潮の所で明かすものなんですから!」



 ピンチかと思わせておいてからの正体ババンじゃないと。



「人間らしい自己承認欲求だね」


「ですよね? 誰しもが多少は目立ちたい願望ありますよね? 凄いって思われたいと言いますか――」


「地球ではあまり機会は無さそうだね」


「…………」



 とりあえずチカチカさんの肩をこぶしでぐりぐりしておく。このっ……!



「まあこれからのはる次第だね」


「ふん! チカチカさんが驚くような、仕事で成功した女性になってやりますから!」



 つんつんしながら歩いていたが、チカチカさんが口元に微かな笑みを湛えながら頭を撫でてくるので30秒後には許した。

 我ながらちょろい。












「あ、もしかしてあの集団ってダンスメンバー集団かも」



 チカチカさんの後についてしばらく歩いていると、見慣れた赤い髪がまず目に飛び込んできた。

 華やかな人種というものはどこにいても目立つ。


 アルバートさん以外の同世代の若者達と楽しそうに話しているカセルさんが新鮮で、ついつい視線がそっちに向いてしまう。



(青春、青春だ……)



 懐かしの学生生活だ。


 周りの人達は帽子は脱いでいたが、パフォーマンスの時の衣装を着たままの人が多い。

 まさしく体育祭や文化祭の後夜祭そのものの雰囲気。


 アルバートさんの様子も気になったが、先に目的のS青年の様子を窺う事にする。

 忘れそうだし。


 さりげなさを装いながらも凝視は怠らないという私の得意技をいかんなく発揮しながらS青年を探していると、男性だけの集団の中にS青年がいた。

 名前はシャイアだけど笑いそうになるからS青年と呼ばせて欲しい。失礼でごめん。



(ここのグループはあれかな? 普段女子とあまり関わらないグループなのかな?)



 女嫌いという訳ではないけど男同士で楽しそうにしているグループってあったよな~。

 カセルさん周りの男女共に華やかなグループというのもあったし。

 ファンタジー世界でも同じようなものなんだな。



(エリーゼちゃんはどこだ――)



 チカチカさんの陰に隠れながら今度はエリーゼちゃんを探す。



(――お? あれアルバートさんだ)



 エリーゼちゃんを見つける前にアルバートさんを見つけてしまった。

 何故かライハさんと王女様に挟まれている。



(何あれ? 楽しそうな予感しかしないんだけど……!)



 にやにやした顔をチカチカさんに向けると私の言いたい事がわかったようで、ライハさんからはこちらが見えない位置にさりげなく移動してくれた。






「――え!? じゃあアルバートの仕事ぶりがかっこ良く見えちゃったんですか?」


「ええ」


「特に何もしてないように見えるけど……ね、アルバート?」


「うるさい……!」

「そんな事ありませんわ。守役様にも目をかけて頂いて」


「確かに御使い様にも気に入られているみたいだったね。まったくの無害な男だからかな?」


「お心の優しさを御使い様は見抜いていらっしゃるんですわ」


「へえ~。まあ顔じゃない事は確かですね!」



 なんか……こっちが居たたまれないというか……。



「あ、もうそろそろあたし店に戻んないと」

「お、俺もカセルのところに……!」


「なに? いい加減カセルとべったりなのもどうかと思うけど」


「カセルさんは今お忙しそうですし、御使い様のお話をもっと聞かせて下さい」



 王女様につられてカセルさんのいる方向に視線を向けると、エリーゼちゃんがカセルさんに話しかけていた。

 ちょっと! あの時見せたベタなジェラシー展開はどこにいったんだ! 相手が違う!



「そうだよ。こんな機会はめったにないんだからしっかりやりなよ。じゃあね~!」


「お、おい……!」



 なんの躊躇もなくさっとその場を立ち去るライハさん。アルバートさんの伸ばした手が切なすぎるな……。

 しっかしこれはますます面白い事になった。ごめんアルバートさん、じろじろ見守るね。



「お酒はいかがですか?」


「い、いえ……大丈夫です」


「こちらのお酒は飲みやすいので少しだけ飲みませんか? 今日という日を一緒にお祝いしましょう」



 王女様さりげないボディタッチがすごい。幼くてもきちんと女性だわー。

 お酒も飲んで良いのね。まあそんな法律無いんだろうけど。

 王女様が夜の蝶になったら一気に売れっ子になりそう。私もそのお店に行ってみたい。



「――2人分お願い」



 あ、御付きの人もさりげなく周りにいるんだ。まあ王族だしそりゃそうか。ある意味黒服ってやつかしら。



「ところで……アルバートさんには将来を誓い合った方はいらっしゃるのですか?」



 直球!

 御付きの人が離れた途端に王女様直球! 駆け引きという点ではまだまだ向上の余地があるな。



「え!? 将来をと申しますと……!?」



 落ち着け! アルバートさん落ち着け!



「興奮し過ぎ」



 チカチカさんに襟元を後ろに引っ張られ、そこで随分と前のめりになっていたことに気が付いた。

 私も少し落ち着いた方が良さそうだ。



「恋人はいらっしゃるんですか?」


「い、いえ!」


「そうですか……! アルバートさんはどんな女性に惹かれますか?」


「どんな……!?」


「私は女性として魅力がありますか?」


「あ、あの……!」



 アルバートさん年下の女の子に翻弄されまくってるな……。



「今はこのような体ですが……数年もすれば体も成長しますので……あの……」



 おお、性的アピールきたぞ。まだこの手の話題には抵抗がありそうな王女様の恥じらいが可愛いな。



「あの……もしよろしければ……私を恋人として……」


「し、失礼します……!!」



 耐え切れなくなったアルバートさんがついに逃亡した。




 こっちに向かって。




「いたっ!」

「わっ!!」



 背中からアルバートさんと一緒に倒れ込みそうになったが、背中のモフモフ達を思い出しとっさに体をひねる。








「…………あれ?」



 しかし衝撃は一向にやってこない。


 恐る恐る目を開けると、手のひらが地面から1センチ程浮いているのが目に入った。

 慌てて体全体を確認すると、体全体がわからない程度にうっすらと浮いていた。

 アルバートさんが背中に乗ったまま……。


 ばっとチカチカさんに視線を向ける。



「ラッキースケベ」


「ラッキースケベ……」




 ……なるほど。これが噂のラッキースケベというやつか。






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