後夜祭
「ぐー」
「はる」
「ぐー」
「はる、いびき」
「ぐ…………うえっ……ぺっ……なんか口に入った……」
口の中に違和感を感じ目を開けると、ダクスの尻尾らしきものが目の前でゆらゆら揺れている。
「……ダクスか……」
仕返しにかりっと噛みついておいた。このもふもふめ。
「まだ眠い……」
近くにいたナナの甲羅に倒れ込み、ソファーの所まで連れて行ってもらう。
「マッチャ……ありがと……」
マッチャに抱き上げられてソファーに座るように固定され、眠すぎて頭がぐらんぐらんしているのを押さえて髪をとかしてもらう。
ここは天国か。
「今寝るとイベントに参加し損ねるよ」
「ですよね……S青年の恋が……イベントが……」
祝祭の出し物が終わり、よくわからないランチタイムを終え帰って来たのはいいが、食べ過ぎて眠くなってしまったのだ。
まあ欲には逆らわずにすぐ寝たのだが、この中途半端な睡眠で起こされるのは辛い。眠い。
「……だれか……温泉に連れて行って……」
シャワーではないが目を覚ますには良い作戦だと思う。
「クー」
「……はい」
エンに言われたとおりに背中にもたれ掛かる。というか倒れ込む。
目を閉じているが、振動が伝わってくるのでテラスの階段を下りているのがわかる。
「ぴちゅ」
「キュッ」
「いてて……うん……ありがと……」
キイロとロイヤルは優しく背中をつついてくれている。寝ないようにしてくれているのだろう。
そしてつつかれながら温かい蒸気が感じられる場所に到着した。
目を開けふらふらしながら服を脱ぎ温泉に入る。
「あ゛~」
あったかい……。幸せだ。
キイロにリボンを持ってきてもらい髪を結んだ後、髪を濡らさないようにロイヤルに水をかけてもらう。
「あ゛~すっきりした……」
冷たい水で意識がはっきりしてきた。
「チカチカさん、打ち上げ的なものは始まってますか?」
「飲んで踊ってる」
「えっなにそれ楽しそうなんですけど。急いで行きましょう」
リア充ぶれる機会は逃さない。
「チカチカさんは胸が程良く顔も程良いけど、黒髪がとても美しい背の高い綺麗なお姉さんバージョンで」
「これ?」
あっという間にその姿に変わるチカチカさん。すごい。
「あ~眉毛は太めの下がり気味の感じで。でも目は切れ長の美人系でお願いします」
細かい指定もすらすらと出てくる私の妄想力もすごいと思う。何かに活かせないだろうか。
「はい」
「それ!」
ついつい興奮のまま、温泉の上空にぷかぷか浮いているチカチカさんに抱き着く。素敵なお姉さん!
固定してくれているのですり抜ける事もなく思う存分堪能する。
「あ、忘れてました。神パフォーマンスもありがとうございましたー」
頬を擦り付けて神の踊りの際の神パフォーマンスに感謝する。
裸のまま麗しの女性に抱き着く私。完全に痴女。
「キャン!」
「毛がくすぐったいから服を着てからにしようかな?」
勇まし気にしているがダクスは特に何もしていないと思う。
寝て起きて適当に唸っていただけだ。
でもモフモフさせてくれるなら断る理由はない。
「そうだマッチャ、大根アザラシ達にあげる守役スペシャルを用意してもらっていい?」
忘れないうちにお願いしておく。
島に戻ってきた際に、大根アザラシが近くに来ていると聞いたので少し頭を撫でさせてもらったのだ。
なのでありがとうの気持ちを込めて定番の守役スペシャルティーをお礼にあげることにした。
ぴょこぴょこ海中から飛び出してくる大根アザラシを撫でるゲームは楽しかった。
眠くなったのはこの程良い運動のせいでもあると思う。
「フォーン」
「用意できてるの? ママン……!」
すでに用意を終えているハイスペック守役おかん。
適当にタオルで体を拭き、パンツとタンクトップを急いで着てマッチャに抱き着く。
ダイレクトもふもふ。
結局全もふもふを堪能する事に。1人ウロコでひやっとしたけど。
もはやただの変態。
恥じらいは地球に戻る頃には復活していると信じたい。
「――チカチカさん、その角度からでお願いします」
「その首をかしげるポーズ似合ってないから止めた方が良いよ」
船に乘り、大根アザラシ達に餌付け(水分)している場面を写真に撮ってもらおうとしただけなのに心をえぐられるようなアドバイスを頂いてしまった。
「……別に意識してやってる訳じゃないですしー」
友人の写真フォルダに入っているであろう首をかしげている私の写真を今すぐ消し去りたい。
「もう写真とか撮らないですし――あ! 今撮りました!?」
「可愛く撮れた」
「!」
何なの? 新手のツンデレなの? 威力ありすぎるんですけど。
「情けない顔が似合う」
「……へえ……」
ほんとこの惑星はあれだ。ロシアン受け身だ。
物凄く眉間に皺をよせながら、そしてその皺を伸ばそうとするチカチカさんに対抗しているうちに餌付けタイムは終わった。
大根アザラシは喜んでくれたみたいで良かったけど、険しい顔をしててごめんね。
「よし、じゃあ後夜祭に行きましょう」
家に戻り、光のゲートをくぐろうとするとチカチカさんから注意が。
「拠点に3人分がいるから固定化は後で」
「3人分……サンリエルさんのことですよね?」
いやだから自分とこの人類の呼び方が雑。
「何してるんですか?」
「作業」
「サンリエルさん回避ゲームははじまる前からゲームオーバーですね……」
チカチカさんが近くにいるとおかしくなっちゃうから今回ばかりは一緒に行動できない。
今日は女性バージョンのチカチカさんと後夜祭を楽しみたいんだ。
「でもよく考えるとチカチカさんはある意味どこにでも存在してるじゃないですか? 惑星そのものだからどこでも会話できるし。でもその時はサンリエルさんは平気なのに姿を形どってる時は悪影響を及ぼすっていうのもなんか不思議ですよね?」
「エネルギーと呼ばれているものの法則から説明するけどいい?」
「……いえ、間に合ってます」
そんな話聞かされたら確実に寝る。法則て。この時点でもうわからない。
理解しなくても大丈夫。ファンタジー、これですべてが解決する。
「じゃあさっと挨拶してさっと盛り上がってる場所に向かいますね」
なんとなくチカチカさんに手を振って光のゲートをくぐり岩に移動すると、すぐ目に入るキャットタワーから半分はみ出るような体勢で白フワがだらだらしていた。
飼い主じゃないけど飼い主に似るってよく言うよね……。見覚えがありすぎるポーズ。
その体勢で金粉をまぶすとか。別に良いけどさ。
「(イベント参戦するんだけど一緒に行く?)」
今さらだが小声で話しかける。
途端にぎゅんと音がしそうな勢いでリュックに突っ込んでくる白フワ。
メリハリがあっていいと思う。いつもぎゅうぎゅうのリュックでごめんね。
周りからは作業の音が聞こえるのでおじいちゃんおばあちゃんに挨拶していこう。あとサンリエルさん。
それにしてもちょっと街に来すぎかもしれない。昨日も来たし。
まあいいか。
「わあ」
柵の扉を押して外に出ると辺りには花瓶に生けられた花々が。
昨日とって来てくれた花や枝をきちんと生けてくれたようだ。
「おっ!」
声をした方を見上げると、梁に腰かけてランプの灯りの下何やら作業をしているおじいちゃんが目に入った。
屋根部分はあらかた出来ているようでそれだけで室内にいる感じがする。
「こんばんは」
「おう。――ダニエル! 可愛いお客さんが来たぞ!」
可愛いだって。ふふふ。
「どこだ!?」
「お嬢ちゃんか!?」
一瞬静かになったが、すぐさま辺りは大騒ぎになる。
やだ私って大人気。というか生き残り設定大人気。
建築中のどの場所を通っていいかわからなかったのでその場でじっとしていると、途中まで出来ている壁部分の後ろからおじいちゃん達が顔を出してきた。
「こんばんは」
見つけたおばあちゃんに挨拶をする。確かヴァレンティーナさんだったかな。
「あらあらまあまあ!」
あっという間に距離を詰められてぎゅうっと抱きしめられる。
ふふふ、幸せ。
もう子供じゃないんだけど手を引いてくれるので大人しくついて行く。
「祝祭最終日が盛り上がっているそうなので今日も連れて来てもらいました」
集まっているおじいちゃん達に報告する。
「そうか!」
「神の踊りは見れたか?」
「お菓子食べるか?」
わいわいと一斉に話しかけてくるおじいちゃん達に返事をしていると、頭をコツコツとつつかれた。
(キイロ? なんだ?)
疑問に思っていると、ボスから「あいつがこっちを見てる」と報告が。
(あいつってまああの人なんだろうけど――「ひっ!」
悲鳴を漏らし咄嗟に隣のヴァレンティーナおばあちゃんの腕をつかむ。
拠点の近くでは松明がいたる所に置かれており明るいのだが、周りの林までは光が届かず真っ暗だ。
その真っ暗闇の中からこちらを見つめている人影が見えたのだ。
「お前何やってんだ!」
私の視線を辿ってダニエルさんがその人影に向かって怒鳴る。
「訳のわからない事をするわね」
「気持ちの悪い現れ方をするな!」
おばあちゃんも怒っている。
周りのおじいちゃん達にも怒られ、暗闇からこちらに向かってきたのはサンリエルさん。
ですよね。
でもあの、面と向かって気持ち悪いって言われてるんですけど。領主なのに……。




