思った事をそのまま口にするのが良い事だとは限らない
結局、族長さん達が戻ってくるまでカセルさんも加わった4人でお菓子を食べる事にした。
使者の人達の分までは数が無いようで――チカチカさんからはまだたくさんあると教えてもらったが――、ユリ王子も、空気が読める首長2人にアルレギアの残りの人達も、そちらだけでどうぞどうぞという感じだったので遠慮なく食べる事にする。
御使いはもう自分でも何がしたいのか良くわからない。
クラッシャーララウルクはお茶の美味しさに気をとられていて助かった。
そして王女様も目を輝かせてお茶を飲んでいる。あっという間に飲み干してしまい残念そうな顔になっているのが可愛い。
「これはとても美味しいお茶ですね」
「ええ、とても美味しいです……!」
王族にも通用する守役スペシャル。ふふん、選んだ島のみんなはすごいでしょ。
「これは女性に贈ると間違いないですね」
あ、やっぱりおじさま首長はイタリア人だったのね。
「残りをください」
「断る」
そうそう。おじいちゃん、ストレスためないようにね。
なんだかんだ守役スペシャルを褒めてもらえて嬉しい。良かった良かった。
「はる、おろおろ人間の母親が興奮して倒れたよ」
「え? いやいやいや、それどういう状況ですか……」
突チカ。
アビゲイルさんどうした。
「息子が御使い様、守役様の1番お傍に控えてるって」
「ああ……」
1番近くにいるも何も、あなたの息子をあなた達に伝授してもらった技で床に転がした事もあるんですけど。
「大丈夫そうですか?」
「もう気が付いた」
「……回復力はんぱなさそうですもんね」
確実に前衛キャラだと思う。アサシンでもあるけど。
「息子が守役に体当たりされてるのに大丈夫かなあ?」
「興奮しかしてないよ」
「へ、へえ~」
アルバートさん……。
「ヤ……御使い様、今のお言葉が神のお言葉でしょうか?」
今おじいちゃんに脇を肘でぐいっとされてたよね、ララウルクさん。
「ヤマ様の邪魔をするな」
サンリエルさんはもうこの人に対して直球だなー。でもそうでもしないと伝わりにくそうだし。
「神の言葉で合っていますよ。――アルバートさん、お母様が少しの間気絶していたようです」
「え!?」
「すぐ気がついて俺の母親とまた一緒に騒いでるから問題ないぞ」
「……それは良かった……のか……?」
「お前とヤマ様、守役様を一緒に目にしてるんだ。俺達親孝行してるな! すぐにでもお前んちにでっかい絵が飾られると思うぞ~」
「そうだな……」
やっぱりこの2人と話してる時が1番楽だわ。
「ご自宅には御使い様から頂いた証が飾られているとか。見に行ってもいいですか?」
「え? あの、ええと……」
アルバートさんにはクラッシャーの相手はまだ早いか。
それにしてもいきなり自宅訪問はないよね。御使いは別だけど。あれはしょうがなかったし。
「私達2人とも神の踊りの奉納にあわせて身に着けておりますので。――ヤマ様、お見せしてもよろしいでしょうか?」
「ええどうぞ」
身に着けてたのか。可愛い男子達だ。
「手を触れないとお約束頂けますか?」
「もちろん」
「部族の名に懸けて。――君はそこから動かないように」
「捕まえておく」
クラッシャーは信頼ないな……。
カセルさんはララウルクさんから離れた位置でハンカチを取り出して広げて見せた。
「おお……!」
「……こんな染料は初めて見ます」
「すごいな……」
アルレギア連合国家の人達は興奮しているがユラーハンの2人はそこまで興奮してはいなかった。
見た事あるのかな?
というかサンリエルさんが1番前のめりなのはどういう事なのか。何回も見てるでしょうよ。
「どうやったら証を頂けますか?」
「お待たせしました~!!」
おお、良いタイミングで戻ってきてくれた。ネコ科は本能が発達してそうだもんな。
うまくセリフを被せてくれた。
しかし、そのネコ科ガルさんが抱えているのは大きな箱。
「箱……?」
アルバートさんの的確な呟き。良い匂いはしてるけどなんだろう。
「御使い様、今用意しますので――ふんっ!」
(ぎゃー!)
箱から物を取り出すんじゃなくて箱を壊した!
そっちの方が手間がかかるよね……!?
「今準備します! ――領主様、お皿余ってないですか?」
壊れた箱から出てきたのは焼けて良い匂いがしている大きな肉の塊。
それを持っているナイフで削ぎ落そうとしている。
(あれ日本でも見た事あるな……ここにもあるんだ……というか箱……)
肉の塊より箱を壊した理由が気になってそれどころじゃない。
「地の族長、それまるまるお店から買ってきたんですか?」
良いぞカセルさん、もっと聞いて。箱の事とか。
「御使い様に献上するって言ったら持たせてくれたぞ! 急いでたもんだから店の設備をちょっと壊してしまったけどな~。後で直してやらないと」
そりゃあまるまる持って来る人はいないでしょうよ。で、なんで箱壊したの?
「箱を壊してしまって良かったんですか?」
いいぞいいぞ。
「平気だって! この大きさの皿なんてすぐに用意できないし、御使い様にも見て頂きたいんです!」
後半いきなり話しかけられた。
そっか、木の箱の底をお皿代わりにして全体をよく見せるために周りを壊したのね。
ガルさんの見た目も中身もワイルド、という事は良くわかりました。
「大きなお肉ですね」
ごめん、そんな感想しか出でこないんだわ。
「どのくらいお召し上がりになりますか?」
そう言いながらもお皿にはどんどんスライスされたお肉が積みあがっていく。
「ガルさん、もう大丈夫です。皆さんが揃ってから頂きますね」
ボス情報によると、残りのお偉いさん達もこちらに向かっているようなので冷めたりはしないだろう。
「ヤマ様、テーブルをご用意致しましょうか? 残りの族長達もこの様子では大量に持って来る恐れがありますので」
「そうですねえ……。チカチカさん、みんな、下で座って食べますか? 」
完全にランチになっちゃったな。
「ヴー」
「わかったわかった。でもみんなには見えてないからちょっとしぃーでお願い」
ほんと威勢はいいな。全然怖くないけど。
大きい組の静かさを少しくらい真似してもいいと思うよ。
「浮かすよ」
「え? ……あーはい、そうですね。じゃあお願いします」
惑星の凄さを忘れていた。
空中ランチにするか。ほんと御使いは今日何をしに来たんだ。
「サンリエルさん、それではテーブルと椅子をお願いします。皆さんはどうしますか? あまりこちらを凝視されるのは好ましくないのですが……。せっかくの食事が楽しめませんから」
サンリエルさんにも伝われこの気持ち。
「領主様、私達も座って少し食事をしませんか? 神の踊りの奉納も無事終わりお腹が空いてしまいました」
そのテヘへ顔にお姉さんは胸キュンよ。
「素晴らしい案だと思います! アルバートさんもお食事をなさりたいんじゃありませんか?」
「え? あ、その…………」
おやあ?
「神の踊り素敵でしたわ」
「ありがとうございます……」
あれ? なんだかアルバートさんに対して好意が見える。
ターゲットになっちゃった?
やったじゃんアルバートさん。本3冊くらい書けそう。身分の差を乗り越える系。
ヒーローの孫はやっぱりヒーロー属性を持ってるんだ。
「私もお腹が空きました」
「おい!」
なんでだろう、胸キュンしないな。ララウルク補正かしら。
「――支度を」
サンリエルさんがそう指示を出すと、離れて控えていた騎士の1人がさっとどこかに走っていった。
「カセルさんとアルバートさんは私と同じテーブルで良いですか?」
浮きますけど、という言葉は言わずにおく。みんなからの視線ブロックの役割は任せた。
「御使い様、よろしければ私も……」
ガルさんのはにかみ顔もカッコ可愛いな。写真撮りたい。でも同じテーブルはごめんね。
「申し訳ありませんがテーブルも浮きますので拝謁許可を得ているお2人だけに」
この状況で今さら拝謁許可って……とは思うが、拝謁許可というワードにはうまく物事を収める力があると信じている。
テーブルが浮くのがどう関わってくるのか自分でも意味不明だけども。
ガルさんも一緒にってなると他のお偉いさんも黙っていないだろうし、そうなると使者の人達だけほったらかしにするわけにもいかないしでややこしいんだ。
「そうですか……」
(ああああ……! ネコ科が……!)
「拝謁許可はどうやったらもらえるんですか? 財を積めばいいんですか? それとも信仰の程度によりますか?」
「いい加減口を慎んでもらおうか」
「申し訳ありません――そろそろ追い出されてしまうよ?」
「いいかげんにしろ。しつこい男は嫌われるぞ」
ララウルクさんってこれって決めたらしつこいというか満足するまで他に興味が移らなさそうだよね……。
「長年クダヤの方達はエスクベル様を敬ってこられました。ですので皆様と神の使いである私を繋ぐ役割はクダヤの方達にお任せする事にしたのです」
2人を選んだのは偶然ですけど。でも良い人選だった。
「それとも、拝謁許可をもらえない事でエスクベル様への信仰に影響がありますか?」
いじわる御使い。
「いえありません。ただ私はもっと御使い様と話をしてお傍にいたいだけです」
え? なに? 恋愛フラグ?
「はる違う」
頭の中まで読まれている……! 恥ずかしすぎる。
「新参者が図々しい」
サンリエルさんは舌打ちしそうな勢いだな……。
「そうよ! 今御使い様の視界に入れて下さってお声を聞かせて頂いているだけで地に頭を擦り付けて感謝するべきよ!」
リレマシフさんおかえり。でもその発言はどうかと思う。
そして両手で抱えているカゴから溢れているぶどうっぽいやつもどうかと思う。量がね。
「確かに。長年敬ってきた我々と同じようにお言葉をかけて頂いている今の状況はとてつもない幸運だという事に気付かれた方が良いでしょう」
ティランさんもおかえりなさい。バスケット似合うね。ピクニックに行きそうに見えますよ。
「クダヤの住民が知れば暴動を起こしそうですね」
バルトザッカーさんもおか……串焼き! 串焼きだ! やった!
やっぱり一族じゃないから普通人間の私と感覚が似ているのかもしれない。早く下さい。
「まあまあその話はこの辺で。温かいうちに御使い様に召し上がってもらいましょう」
相変わらず技の族長は素敵なおじ様だわ。その具だくさんスープの選択も素敵だわあ。
「御使い様、ご用意致しますので少々お待ち下さい」
イシュリエさんはテーブルセッティングに必要な物も持ってきてくれたみたいだ。気が利くな。
「アルバート、ローザから預かってきましたよ。カセルも。早く着替えて失礼のないように」
「えーこのままでいいですけど」
「あの……」
イシュリエさんが持っているのは白いひらひらした服。はいはい、船の上で会ってた時に着てたやつね。
「文句を言わずに早く着なさい。城の画家も控えているんだから」
「やる事が抜かりないですね~。ローザさんが連れてきたんですか?」
「ちょうと港に向かっている様だったから連れてきたのよ」
「可哀想だな~」
「そうだな……」
宮廷画家まで連れて来ているのか。宮廷かどうかは知らないが。
これは代々伝わる絵を描いてもらわないといけないな。
「キイロ、ロイヤル、絵を描いてもらえるみたいだからカセルさんとアルバートさんの肩に少し乗ってもらってもいい? もし良かったらなんだけど」
「ぴちゅ!」
「キュッ!」
「キャン!」
いや、ダクスはまた今度で……。




