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幸せに暮らしましたとさ  作者: シーグリーン


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ある男の回想録34:それぞれ

 



 終わった。





 終わった。





 無事に終わったぞ……!




「アルバート!!」

「え? うわ!」


「こんなに立派になって……!」


「ちょ、ちょっと! 母さんおろしてよ!」



 祝祭の出し物がすべて終わり、どこか放心状態で立っていたら突然母親に抱き上げられた。そしてぶんぶん振り回されている。力が強すぎて体が……!



「カセル、かっこよかったわ」

「素晴らしかったぞ」



 隣でカセルも自分の両親に褒められていたが、普通に抱きしめられているだけだ。

 辺りではそういう微笑ましい光景が繰り広げられているが、俺の所だけ何かが違う。



「母さん、恥ずかしいから……! え!?」



 いきなり放り投げられた先には姉。がしっと受け取められてまたぐるぐる回される。

 よろめきもしないってどういう事だ。



「やるじゃない!」



 目立つ外見をしている姉は注目の的で、それは俺のこの状態も注目されているという事で……。



「恥ずかしいから……!」


「かっこよかったぞ~! アレクシス、次俺な」

「やめてください」

「アレクシス、アルバートが疲れてしまうよ」



 ルイス兄さん、ジーリ義兄さん、ありがとう。



「アルバート、あなたなら出来ると信じていましたよ」

「アレクシス、アルバートを私達にも抱きしめさせて欲しいな」

「そうだな」



 祖父と父は長年この女性達と上手く付き合ってきた甲斐がありさすがの対応だ。


 ようやく下ろしてもらった俺はふらふらしていたが、レオン兄さんはばしばし背中を叩いてきた。



「途中神の御業に意識が向いたけど、しっかり見てたからな!」

「はしゃぎすぎです」

「動きが綺麗に揃っていたな」


「うん……ありがとう……」



 家族はひととおり俺に言葉をかけた後は、ヤマ様を見ながら神の御業について興奮しながら話し合っている。

 本来なら城にいるはずの父達は、神の踊りに参加する者の親族として職務を免除された。

 ヤマ様を初めて目にするんだ、この興奮具合もしょうがないと思える。



 ヤマ様は俺の緊張をほぐすために心を砕いて下さった。

 そのおかげで余計な事に気をとられずに、踊りに集中する事ができた。

 神の御業をじっくり堪能できなかったのは少し残念だが。



「アルバート、俺らも行こうぜ」


 カセルがヤマ様が浮いてらっしゃる場所を見ながら言う。



「……俺達は行かない方が……」



 お偉いさん達の集まりだ。使者の人達もいるので、できればあまり近寄りたくない。



「迷惑そうにされたら戻ってくればいいじゃねーか。拝謁許可も得てる事だし試してみようぜ~」



 ……カセルに聞いたのが間違いだった。



「アルバート、いってらっしゃい」


「ばあちゃん……」


「領主様からしっかり帽子を受け取ってくるのよ。家に飾らないと」

「守役様のあの目にも止まらぬ速さ! さすがだわ!」

「カセル、もう少し帽子をとるのを遅くしたら良かったとお母さん思うわ」

「御使い様と話す息子を絵にしなきゃ!」


「う、うん……」

「へーい」



 結局、女性陣に押される形でヤマ様の元に向かう事になった。

 ヤマ様が港にいらっしゃる限り帰るつもりはないんだろうな……。すべての住民がそうだが。





「アルバート良かったぞ!」


「間違わずにできたじゃねーか」


「カセルさん、とっても素敵でした!」


「ありがとう」

「あ、ありがとう」



 神の踊り参加者に次々と声を掛けられながら歩いていると、前方に騎士達が見えた。

 関係者以外がヤマ様に近付こうとしないように警戒しているようだ。



「お前達か。ちょっと待ってろ」



 騎士である地の一族の男性の1人が領主様に確認しに行こうとしたところで、ヤマ様がこちらに近付いてきた。



「通してもらっていいですか?」


「は、はい!」



 ヤマ様に直接声を掛けられたその騎士は顔を真っ赤にして目が潤んでいる。

 あんなに強そうな地の一族の男性がヤマ様からのひと言であんな風になるんだな……。


 ヤマ様は「ありがとうございます」と言いながら手に持っている何かをその騎士に向けている。



「……カセル、ヤマ様がお持ちのものって……」


「今日は最初っからお持ちだよな。ま、神の持ち物なんだろうな~」



 ひそひそとやり取りをしていると、空を飛ぶ守役様が物凄い速さでこちらに突っ込んできた。



「ひ……!!」



 咄嗟の事で動く事が出来なかった。

 守役様は俺の頭で足踏みし、次はカセルの頭で足踏みした後ヤマ様の元に戻って行った。



「祝福をありがとうございます!」



 え? 祝福……?



「……そうですね、神の踊りは素晴らしかったと守役が」



 どう見たってヤマ様困ってるじゃないか……!


 祝福じゃないんだろうなとは思ったが、家族の「今の見た!? 守役様の……!」という声がここまで聞こえてきたので今とても恥ずかしい。

 そして領主様と族長達の視線が恐ろしい。





「お2人を呼びに行こうと思っていたんですよ」


「それは光栄です」



 みんなに注目されているにもかかわらず、普段通りのカセル。お前はすごいよ……。

 そんな中俺は、にこやかなカセルの後ろに隠れるようにしながらお偉いさんの集団に近付いて行く。



 初めて見る使者の人達。カセルは昨日の内に挨拶をすませていたようだが、俺は神の踊りに力を尽くすよう指示が出ていた為詳しくは知らない。

 使者はユラーハンとマケドの隣のアルレギア連合国家の人間で、戦いを生業にしているような雰囲気が恐ろしいという事はわかるが。



「使者の方達を交えた話し合いをするならお2人もいた方が良いと思いまして」


「ヤマ様も参加なさるんですか?」


「私は傍聴者として」

「ヤマ様、よろしければ使者を紹介致します」



 やっぱり領主様が割って入ってきた。

 ヤマ様とカセルのやり取りはいつもこんな感じだが、領主様より打ち解けているから悔しいんだろうな。



「はい、お願いします」



 ヤマ様が俺達から離れた事により、みんなの意識が逸れてほっとする。

 このままカセルの後ろに隠れるようにしてやり過ごそう。





「ヤマ様、こちらがアルレギア連合国家からの使者達です。アルレギアは3つの部族から成り立っており、こちらがナザニネ族、ベスロニア族、ララウルク族のそれぞれの首長です」



 ヤマ様の前で変わった礼をとる使者達。3名はそれぞれの部族の首長だったのか。

 あの恐ろしい威圧感はそういう事か。


 1番整った顔をしている黒髪の壮年の男性が――みな黒髪だが――1歩前に出て何か言葉を発したようだが、神の言葉のように何を言っているのか全く分からなかった。


 アルレギアでは独自の言語体系も存在していると何かで読んだ事があるが、もしかしてそれなのかもしれない。



「どういうおつもりか」



 突然の領主様の言葉には、不快感がありありと表れている。なんだ……?



「どうもなにも、こいつは挨拶をしただけですよ」



 挨拶をした男性とは別の、1番年上であろう顔中傷だらけの首長が答える。



「今、わざわざ、自分達の国でしか通じない言葉を使ってか」



 思い出した。

 アルレギアという国は他国に興味がなく、戦を仕掛けたりはしないがその分どこか排他的な国とも書かれていた。自分達が1番優れていると考えているらしい。

 たからわざわざ自分達にしか使えない言語を生み出して使うようになったとも。



「我々の聖なる言語ですから」



 初めに挨拶をした壮年の男性がそう告げる。



「神の御使い様ならお分かりになるでしょう」


「なんだと……!」



 アルレギアの使者達の態度を見て憤る地の族長。



 ……そうか、そうなのか。

 この使者たちはヤマ様を試しにここまで来たんだ。


 自分達に誇りを持っているからそう簡単に違う存在に頭は下げない。確かエスクベル様ではなく、自分達の土地に神がいると考え崇拝していたような……。

 他国に興味が無いのにクダヤに来るなんておかしいと思ったんだ。


 それにしても……あの神の御業を見たにもかかわらず御使い様を試すなんて愚かな事を……。

 神の力は疑っていないが、自分達と同じ人間に見える御使いという存在を怪しんでいるんだろうか。神に連なる方だぞ……!

 どっちにしろミナリームの二の舞にならない事を祈る。隅で。






「――あなた達の目的は私を試す事ですか?」



 じっと成り行きを見守っていたヤマ様のお言葉でこの場の緊張がいっそう増す。

 守役様はヤマ様に抑えられていないと今にも飛び出しそうだ。

 そんな中ユラーハンのお2人は静かにしている。正しい選択だと思う。

 そして俺も傍観者に徹する。静かに怒っているであろうカセルの後ろで。



「とんでもありません――――」



 とんでも無いと言いながら後半はまた自分達の言葉で話しかける男性。

 この態度には少しむっとしてしまう。なんだよ……! 



「そうですね――――」



 突然、ヤマ様も神の言葉を話しだす。

 いや、使者達のあの驚愕の表情は――。



「わ、我々の言葉が話せる――」

「もう止めましょう、我々の完敗です」



 動揺しているアルレギアの使者達の中で、唯一表情が変わらなかった青年が言葉を発する。

 今まで言葉を発する事に無かった首長の最後の1人だ。背が高いので目立っていた人物でもある。



「御使い様、申し訳ありません。決して悪意があったわけではないのです」



 そっちにはなくてもこっちは悪意だと受け取ったけどな! ヤマ様を試すようなことをするからだ。



「――申し訳ありません。貴方様は確かに神に連なるお方のようです」



 壮年の男性も謝罪すると使者達は一斉に深い礼をとった。



「あなた達は自分達の神を敬っているんですから、エスクベル様の御使いである私に頭を下げる必要はないんですよ。まあ、そちらは神というよりは自然、というところですかね」


「いえ……」


「私は土地神もこちらの神も崇拝したいのですが」


「お前なあ、失礼な事を……!」



 いきなり3人の首長が揉め始めた。

 うちのお偉いさん達もよくこうなるが。


 どうも背の高い青年はエスクベル様と御使い様も崇拝したいようだ。



「神、自然、すべての存在――好きなだけご自分の意思でどうぞ。強制されるものではありませんので」


「そうします」

「いつも自分の領地に引きこもってるお前が?」



 引きこもってるのか……。


 いつの間にかこの場の雰囲気も穏やかなものに変わっていた。

 ミナリームみたいにならなくて本当に良かった。




「ヤマ様、私はヤマ様とエスクベル様に忠誠を誓っておりますので」


「私もです!」

「俺、あっ私もです!」






 そしてうちのお偉いさん達もいつも通りだった。







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