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幸せに暮らしましたとさ  作者: シーグリーン


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うすうす感づいていた

 



 サンリエルさんに案内されながら見ないようにしていたステージ上を窺うと、グラデーション衣装を着た集団が同じ帽子を被って動きの確認をしている。


 あの帽子はこの笠に少し似ている気がする。神の踊りにふさわしいとは思うが、遠くからだと誰が誰だか分からない。



「ヤマ様、今しばらくお待ちください」


「はい」



 すいっとさらに上空に移動し、島を背に準備を見守る。

 サンリエルさんはイシュリエさんに連れ戻されていた。それにしてもほんとに目立つ位置にいるな……。

 ティランさんは続けては参加しないようなので、演奏のメンバーもさっきとは入れ替わるのかもしれない。



「チカチカさん、カセルさんとアルバートさんがどこにいるか分かりますか? ライハさんとS青年も」



 録画しないといけないからね。



「センターにいる」


「おお……」



 センターの重圧も背負ってるのか、アルバートさんは。



「金色の髪の人間が右隣の前から3番目、Sが右端の後ろから5番目」


「へ、へい」



 これは途中から見失う自信がある。

 最初はカセ&アルで優先でいいかな。ライハさんとS青年は動画で楽しもう。



「それよりおろおろの呼吸がおかしいけど」


「え……え!?」


「間違った深呼吸」


「間違った深呼吸……」



 どんな深呼吸だ。



「そんな簡単に緊張がほぐれるわけないか~」



 あの時は少し安心した顔をしていたのに。緊張のぶり返しってあるよね。



「踊りの邪魔にならない程度に神パフォーマンスします?」


「ぴちゅ!」

「キュッ!」



 違う、2人に言ったんじゃない。



「2人はここできりっとしててくれると嬉しいな。ここでね。――失敗を失敗に見せない良い方法はないですかねえ~」


「雷落とす?」


「いえ、そんな感じのパフォーマンスじゃなくて……」



 黒歴史がよみがえるから止めてください。今後充電の際は落とす予定だけど今じゃない。



「うーん……。アルバートさんにはああ言ったけど途中から動きがあるとやっぱりみんなの気が散るしなー」



 別に失敗してもこっちは全然平気なんだけどアルバートさんがしばらく落ち込みそうなんだよね。



「あ、じゃあこんな感じはどうでしょう? 始まる前に御使いが島の神に向けてお辞儀をする、神がこたえて海水が動く、ステージを取り囲む、ダンス中も動く、アルバートさんが失敗したら海水がごまかす」


「過保護」



 え、いや、チカチカさんがそれ言っちゃうんだ……。



「えーと……じゃあ海水の妖精が飛び回る感じは?」


「思春期」



 おい。



「……全然そんな事ないですー。ファンタジーなだけですー」



 思春期のイマジネーションをなめないでもらいたい。



「……もうなんでもいっか。人生色々という事で」



 ごめんアルバートさん。御使いは難しい事を長時間考えられないんだ。自らの力で乗り切って欲しい。




「まあ神の踊りの奉納だからそれっぽくお辞儀だけしとこうかな。マッチャ、ダクスをお願い」



 膝でぐうぐう寝てるんだわ。



「ボス、みんなに御使いのお辞儀が見える位置まで下がってもらっていい?」



 時代劇なんかで見る座ったままのお辞儀でいいだろう。



 準備が整うのをエンにもたれて待っていると、サンリエルさんがわざわざ近くまで来て準備完了の報告をしてくれた。



「私が手を上げたら始めてください」


「かしこまりました」



 サンリエルさんが戻り席につくとざわめきがぴたっと収まった。

 こっちまで緊張してくるので早く終わらそう。



 島に向き直り、侍を思い出しながら手をついて頭を下げる。



「チカチカさん、みんな、いつもありがとうございます。これからもよろしくお願いします」


 大きめの声で感謝の気持ちを伝える。

 住民には神の言葉に聞こえているはずなので、それっぽい感じは出ていると思う。


 終わった終わったとステージに向き直り手を上げようとすると、視界が一瞬で真っ白になった。









「…………あの……」



 光る御使いイメージはもう間に合ってますんで……。


 お祭りのボーナス期間中にもかかわらず、最近はエネルギーが集まったお知らせがないとは思ってたけど。

 いつかくるな、とは思ってたけど。

 もう光る御使いはみんな見慣れてきている気がする。



 しかし、光が収まって目を開けるとさっきまでの港の風景は一変していた。



「うわあ……!」



 辺り一面鮮やかな彩色。



「綺麗ですね~」



 なんと、港が一瞬にして花が咲き乱れる楽園になっていたのだ。



「あれって家のテラスの花達と同じですか?」


「そう」



 こんな場所に旅行に行ってみたいものだ。


 街の人達もとんでもなく興奮している様子が伝わってくる。

 みんな花を触ろうとし、手をすり抜ける様を楽しんでいる。<地球>さんの桜の花びらの時と同じだ。



「動くからそっちに気をとられる」


「…………あの、チカチカさんがとても好きなんですけど。この気持ちはどうしたら」



 なんだかんだ言って優しさの塊。

 家に帰ってから迷惑がられるまで抱き着いて頬をこすりつけようと思う。もふもふだったらはむっと噛ませてもらうのに。

 いや、獣化もありなのか……?



 ほくほくした気持ちでサンリエルさんに向かって手を上げる。

 ……なんであの人周りに構わずこっち見てんの? 周り楽園だけど。いやまあ御使いの合図は見逃せないんだろうけど。


 そのサンリエルさんが軽く腰を折り、意思が伝わったのを確認し上げた手を下ろそうとすると、その手になんかいた。






「…………なにこれ……」



 水でできている人形のような何か。そして――



「なにあれ………」



 ステージを水流が囲っているのも見える。そしてその周りを小さい何かが乱舞している。



「神パフォーマンス」


「…………」



 完全に詰め込み過ぎだと思う。

 しかもすべての演出を叶える過保護具合。



「……ありがとうございます」



 なんだがごちゃごちゃしている光景を見ながら、机上の空論ってこういう事を言うのかと納得した。

 ごめんチカチカさん。私の演出の才能が無いせいで神パフォーマンスが威力を十分に発揮できていません。




 ステージ上は多少の混乱があったようだがサンリエルさんが合図を出した事により全員が最初のポーズをとった。

 そして始まる神の踊り。






「すご……!」



 クダヤの人達の神の踊りが凄すぎる。これ海外公演とか行えるレベルだと思う。

 1週間でこれかあ……。私の青春時代の数か月の特訓はなんだったんだ……。


 完成度が高すぎてもうね。「はあ~」とか「へえ~」とか動画に声が入りまくったがまあいいや。

 しかもアルバートさん、ちゃんと踊れてるんじゃん。ちょっと感動で泣きそう。

 初めての運動会を見守るパパママの気持ち。子供いないけど。



 観客の最前列に目立つアルバートさんのご家族を見つけたが、ローザさんを筆頭にみんながハンカチで涙をぬぐっていたので私も感動を我慢せずに泣く事にした。

 近くで泣いている赤い髪の女性はカセルさんのお母さんかな。

 きっと、神パフォーマンスに構わず真剣な顔をして踊りを見ているのは参加者の親族なんだろう。



 みんなすごいね上手だね。







 聞きなれた曲が終わり神の踊りメンバー、演奏者の全員がこちらに向けて膝をつき頭を下げた。途端に見物客の拍手と称賛の声が一斉に沸き起こる。


 私も惜しみない拍手を送る。いやーかっこよかったしすごかったなー。これは惚れる。


 すぐにでも感想を伝えたかったが、御使いが動く事により拍手や歓声が静まってしまうともったいないと思ったのでしばらく拍手を続ける事にした。神パフォーマンスも続いているしちょうどいい。


 これまでの出し物も素晴らしかったけどこの短期間で神の踊りをここまで仕上げたメンバーはもっと称賛を受けるべきだ。



「みんなすごかったね~」



 島のみんなに話しかけながら頃合いを見計らう。あ、サンリエルさんが近付いてきてるわ。しかも神パフォーマンスも終わったみたい。



「ボス、サンリエルさんに近寄ってもらえる?」

「ヴー」


「あれ? 起きたの?」



 どんなタイミングで威嚇してるんだ。

 マッチャからダクスを受け取りわっしわし撫でたら唸り声は収まった。ちょろい。





「サンリエルさん、皆さんとても素晴らしかったです」


「ありがたきお言葉」


「神も喜んでいる事でしょう」



 たぶん。今のところ無反応だけど。


 サンリエルさんに声を掛けた事だし我慢していた2人との交流も解禁だ。




「皆さん、お顔を見せて下さい」



 ステージに近付きそう声を掛けるとびっくりするくらいのスピードで帽子を脱がれた。

 アルバートさんだけ出遅れてたけど。いいよ慌てなくて。



「あ」

「ひっ!」

「お」



 ここまで大人しかったキイロが弾丸のようなスピードでアルバートさんの帽子に突っ込み、くちばしに帽子を挟んで戻って来た。斬新すぎる帽子の脱ぎ方。というか脱がせ方。



「ぴちゅ」

「キュッ」



 相変わらず悪い顔をしてるな……。

 そしてなんで周りの人達が羨ましそうにアルバートさんを見ているのかも分からない。カセルさんだけじゃないんだ。ライハさんもガン見。

 あのスピードは恐怖しかないと思うんだけど。



「アルバートさん、すみません」



 交流解禁の第一声がこれって……。



「い、いえ!」



 帽子を返そうとしたらロイヤルがさっとくわえて落とした。ちょっと!

 そしてそれをすぐさまキャッチする忍者サンリエル。



「あ、ありがとうございます……」



 アルバートさんがお礼の言葉を伝えるもサンリエルさんは帽子を離さない。



「……あの……」



 アルバートさんはカセルさんに助けを求めるようにちらちら視線をやっているが、カセルさんはキイロを見て嬉しそうにしているだけだ。

 そうか、ここは御使いの出番なんだな。



「皆さんとても素晴らしかったです」



 垂れ布越しにダンスメンバーをじっくり見る。本当に素敵でした。



「ありがとうございます!」



 カセルさんの笑顔が眩しい。イケメンめ。キイロを見ている時の方が眩しいけど。

 周りもみんなやり切ったすがすがしい表情をしている。青春だわ~。



「また機会があれば見せて下さい」

「かしこまりました」



 はっや。サンリエルさんに向けての言葉じゃなかったんだけどな。



「違う演者の神の踊りもお見せ致します」


「住民はみな踊れますので」



 カセルさん、フォローをありがとう。



「楽しみにしていますね」



 御使いの言葉を聞いてダンスメンバーの女性達がきゃあきゃあ言っているのを聞きながら、次は演奏者の元に向かう。

 女子のこの感じ懐かしいな。


 演奏者の皆さんにも感謝の気持ちを伝えイシュリエさんと共に関係者席に戻る。

 潤んだ眼をしてこちらを見上げているイシュリエさんは年上マダムだけど相変わらず小さくて可愛らしい。

 サンリエルさんは一応領主なので締めの挨拶をするためにステージに残った。







(いつまで帽子持ってるんだろ……)



 何やらステージで話しているサンリエルさんを見ながら思った。







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