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幸せに暮らしましたとさ  作者: シーグリーン


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万国共通

 





「――こんにちは、お久しぶりです」



 人がいない訳ではないが、人気のない港の建物の裏手側の壁にもたれ、新たに買った串焼きをむしゃむしゃ食べていると笑顔のカセルさんがやって来た。よかった、あの目立つ衣装は脱いでいる。



「お久しぶりです」



 カセルさんのヤマチカ対応に合わせる。



「買い物ですか?」


「はい。お祭りを味わってみたくて」



 守秘義務によりシャイア青年の恋については話さない。ばれているかもしれないが。最近の他国民仕様ではなく住民仕様の御使いだし。

 拠点予定地での出来事も今は黙っておこう。



「人混みに流されて踊りの稽古場所まできてしまいました。知り合いに会えて良かったですけど」


「彼は以前食事をしたお店で働いていますね」


「はい。1人でこっそり行った時にパンをもらいまして」



 ベビーカステラをお裾分けしながらカセルさんと話を続ける。ロイヤルはくちばしをそっと出すのやめようか。



「そうだったんですね~」


 その時、通りから顔を覗かせたのはアルバートさん。



「…………!?」



 わかる。声にならない声だよね。



「アルバートには離れて後をついてくるようにとだけ」



 爽やかな笑顔のカセルさん。アルバートさんはこうやって何度も騙されてきたんだろうな……。



「こんにちは。お久しぶりです」


「お、お久しぶりです……?」



 よくわかって無さそうだけどいいか。



「お2人も休憩ですか?」


「はい。食事の休憩ですので時間はあります」



 壁にもたれる為前に抱えていたリュックを見ながら楽しそうに話すカセルさん。

 そうか、守役と会いたいんだな。


 ちらっとリュックのふたを開けて中のぎゅうぎゅうのモフモフ達を見せると、耳がぴくぴくと動いた。

 幸せそうでなにより。

 ダクスの牙見せは何の威嚇にもなってないよ。



「ひっ……!? も、申し訳ありません……!」



 そうなった実行犯は確実にわかっている。



「つつかれました?」


「いえ! 肩に止まられたのに驚いてしまって……」

「お前はい~な~」



 安定のやり取り。



「アルバートさんは体調が悪そうに見えますけど……大丈夫ですか?」


「い、いえ……あの……」

「明日の本番の事を考えて緊張しているだけです」



 はははとカセルさんが笑っているのを睨んでいるアルバートさん。



「大勢の前で披露するのは誰だって緊張しますよね」



 気持ちはわかる。



「踊りもきちんと出来ているのでもっと自信を持ってもいいんですけどね~」


「……お前は少しは緊張しろよ」



 アルバートさんの性格的に自信を持つのは難しそうだな。



「アルバートさん」


「は、はい」



 いつになったらどもらなくなるのか。普通になったらそれはそれで寂しいかもしれないが。



「皆さん神の踊りより御使い様に注目すると思うのでもっと気楽にやってもいいかと」



 自分で言っちゃうけど。



「それが……御使い様に披露する事による緊張みたいでして」


「……はいはい」



 どもる相手だしね。



「御使い様ならこれまでの稽古内容もすべて知っていそうなので気にしなくてもいいと思います」



 チカチカさんとボスは全部見てますよ~。


 初めは意味が分かってなかったアルバートさんだが、守役はすべて知っているという事実を改めて思い出したのか少し安心したような顔をした。その後すぐに悲壮な顔になったが。忙しそうね。



「それにもし失敗したとしても御使い様なら何とかしてくれると思います。海水が動き出したり、天の小路でしたっけ? それも空に現れたり。みんなびっくりして誰が失敗したかなんて気にも留めないと思います」


 そう言うと、カセルさんも話にのってきてくれた。



「どんな踊りでも大丈夫って事だな! さすが御使い様だな~」



 アルバートさんもより安心した顔をしている。楽しく気楽にやればいいよ。

 せっかく披露してくれるんだから実際はみんなの邪魔はしないけどね。


 もはや親目線。



「神の音楽の演奏も素敵でした」


「聴いた音に近づけようと皆必死です。――そうそう、領主様は神の踊りをお見せする際は演奏者として参加するんです。1番目立つ場所にいますので」



 にやりとカセルさんが笑う。



「職権乱用ですか~」


「職権乱用ですね~」



 さすが期待を裏切らないな。



「なんでも出来てすごいですね」


「近々お菓子作りの技術も加わりそうですよ」



 ……あの人は何がしたいんだ。

 ほんと属性がありすぎてもはや効果を打ち消し合っているとしか思えないよね。

 忍者インテリ演奏スイーツ白髪男子。



「御使い様に喜んでもらう為ですね」


「それがお菓子作りに繋がるんですか?」


「御使い様がお菓子を美味しそうに食べられるのをどこかでご覧になったんですかね~?」


 そう言いながら懐から包みを取り出し、「どうぞ」とひっそりと出ているロイヤルのくちばしに近付けた。

 がっとくわえたロイヤルからそれを受け取り包みを開くと、ローザパウンドらしきものが。



「――ああ、お婆様の秘伝のお菓子」



 美味しかったからサンリエルさんの前でもしゃもしゃ食べたんだった。

 でもヤマチカ屋の会議をした時もお菓子は食べていたはずだ。



「何度も見てそうなものですけどねえ?」


「対抗意識ですかね~」


「……なるほど」



 自分の作ったものを食べてもらえるという可能性に、今目覚めてしまったのか。

 普段料理をしない人なら確かにその発想はすぐには出ないだろうな。目覚めなくても問題は無かったけど。



「領主様が作ったお菓子を持ち歩くよう指示が出ていますが、残念ながら本日に限ってまだ渡されていないんですよね」



 全然残念そうじゃない口調だな。



「また使者が来ていましてその対応中です」



 辺りをそっと窺う様にして教えてくれるカセルさん。

 アルバートさんも慌てて辺りを見回している。



「新たな国ですか? それともミ、ユ、どちらかですか?」



 他国の名前はなんとなく出さないようにした。



「新たな国とユの方ですね。大使館関連を話し合うようです。とは言っても御使い様を目にする事が1番の目的でしょうが」


「……随分行動が早いんですね」



 祝祭にしても急遽決まったものだ。



「商人は利に聡いですから噂はあっという間に広がります。恐らく新たな国の使者は近隣諸国で待機していたんでしょう」



 私も一応商人の肩書を持っているが、一から出発したら絶対にやっていけないだろうという事はわかった。

 スピードが足りない。

 ありがとうイージーモード、ありがとうチカチカさん。



「そのおかげで露店がたくさんあって楽しいです」


「特に食べ物は出せばすぐに売れますから」


「やっぱり。あ、ジョゼフさんミュリナさんの話は聞いていますか?」



 アルバートさんに話をふる。

 今ならたくさん売れそうなので、茶葉を渡せば役に立つかもしれない。ライハさんの宿にも。



「! ……あ、姉からは今は少し商売をお休みしていると聞いています……」



 今の驚いた顔、おもしろ可愛かったな。



「なんせ神の祝福を受けた子の両親ですからね~。少しでも恩恵に与ろうと皆が店に殺到するので仕入れが追いつかないんです」


「思ってたより大事になってますね……」


「安全の為住まいを移す予定です。近いうちに住民として認められるでしょうし」


「はあ……」



 色々あってそこまで気にしていなかったが、生活が激変して大変そうだ。



「ライハさんの所もそうなんですが、お店に茶葉を置いてもらったらたくさん売れるかなーなあんて思ったんですけど……やめておいた方が良さそうですね」



 十分すぎるほど商売が繁盛しているのは間違いない。素人考え丸出しだったな。



「……そうですね、落ち着いてからの方が良いでしょうね。領主様が街中をうろうろしそうですし」


「買い占めまではいかないにしろ、確実に買いに行きそうですもんね」



 祝祭が落ち着いたら商売を始めればいいか。



「では街が落ち着いたら商品を持ってきます。お2人は休憩に戻ってゆっくりしてください、ありがとうございました。今後アレクシスさんにも挨拶をしに行きますのでその時はよろしくお願いします」


「はい。また一緒に食事をしましょう」

「なんでお前が……!」



 いつものやり取りをしている2人に手を振ってその場を離れる。

 あえて明日楽しみにしている事は伝えなかった。リラックスして明日を迎えて欲しい。


 さあ、じいじばあば達のお土産を買って帰るぞ。






 結局は持ち帰りやすい食べ物をいくつか買って拠点予定地に戻る事になった。

 帰りは行きよりは歩きやすかったので助かった。



 たくさんの食べ物を持って帰って来た私を、じいじとばあば達は驚きながらも歓迎してくれた。

 休憩にしてお菓子をみんなで食べる事に。


 色んな話をした中で、美味しい作物や果実が収穫できる能力が引き継がれたと話し、畑を作りたいと言った途端におじいちゃんズが猛烈に開墾し始めたので、負けないようにメンバーに加わったが全然勝負にならなかった。


 一振りでえぐる土の量が半端ない。おじいちゃんなのに。



 苗も用意してくれるというので、お言葉に甘えてキウイメロンを育てて売りたいと伝えておいた。

 強引に苗代も渡した。いつかはおばあちゃんみたいにさりげなく渡したい。


 これで島で育てたものも今後心置きなく売る事ができるだろう。


 みんな優しく接してくれてありがたい。嬉しい。




 それにしても――


 作物を美味しく上手に育てられる『緑の手』を持つ少女…………かっこいい。

 


 必殺技、緑の手。ふふふ。






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