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幸せに暮らしましたとさ  作者: シーグリーン


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125/216

年の功

 




 光のゲートをくぐり岩に到着。辺りからは活気あふれる声が聞こえてくる。

 活気あふれるというか重低音の掛け声。「おうっ」とか「せいっ」とか。


 その時シュッと白フワが飛びついてきたので思わず声が出そうに。

 危ない、こちらも男らしい声が出るところだった。



 わさわさ撫でながら身振りで顔を指差すと、大増量の金粉をまぶしてくれた。

 その後リュックを開けるとそこに飛び込んで行った。ごめんね、ダクスとロイヤルもいるからぎゅうぎゅうだと思うけど。



 柵に扉がつけられるまでは、白フワにはキャットタワーの家部分に潜んでもらった。

 ごめんとは思ったが、本人はどうも楽しんでいたようだ。

 ここの人達は近付かずに遠くから祈りをささげるだけだったのでばれなかったようだ。さすが一族は違う。

 でもごめん、それただのキャットタワー。



 忘れ物はないか軽くチェックして扉を押し開ける。



「うおっ!?」


「あ、すみません。お疲れさまです」



 人が近くにいたみたいだ。扉をぶつけなくて良かった。

 ぺこりと頭を下げて歩き出す。チーッス、お疲れー。



「お、おう……おい……! 動くな!」



 動揺したのも一瞬ですぐさま警戒モードのドワーフっぽい男性。やっぱりだめか。



「ダニエル! 来てくれ!」

「集まれ!」



 何やらドワーフさん達に囲まれ始めている。その手に持ってるハンマー的な物下ろしてもらっていいですかね。


 するとそこでダクスが唸り声を上げ始めた。そしていかにも今空から降り立ちましたよという感じでキイロが肩に止まる。

 キイロは御使いに保護されたヤマチカだと証明するために姿を現してもらう事にしていたのだ。



「どうした!」



 リーダーっぽい人が来て、キイロの姿を目に止めて後ずさった。



「どういう事だ……!」


「柵の中から出てきた!」


「なんだと…………!?」



 その時突然、周りを囲んでいた皆さんがうずくまって苦しみ出した。

 何これ。え? 大丈夫ですか……?


 ボスかチカチカさんが関わっていると思ったが、ヤマチカに神の言葉を話せるという設定は無いので空中に向けて顔を左右に振って意思表示をした。


 すると周りの人達は苦しさが急に無くなった事に驚いて辺りを見回している。



「申し訳ありません、力を制御しきれていなかったようです」



 近くにいた女性に話しかける。本当に申し訳ない。そっちは当たり前の対応をしただけなのに。



「え、ええ……」



 こちらを――キイロを見て驚いている女性はおばあちゃんに見えた。茶色い髪を編み込んでいて可愛い。

 落ち着いて周りの人を観察するとおじいちゃんばかり。みんな日に焼けて皺だらけだが生気に満ち溢れている。



「ヤマチカと申します。このたび御使い様に保護して頂きました。この街でお世話になります。家を建てて頂きありがとうございます」



 短文な自己紹介を終えると、目の前の女性が泣き始めた。



「え? あの……え?」



 泣きポイントまじでどこ……?


 そんなにさっきのは苦しかったんだろうか? 適当な計画で行動したばっかりにおばあちゃんの健康を害しちゃったらどうしようとおろおろしていると、リーダーっぽい男性も一緒になって泣き始めた。



「あのー……?」


「あら、ごめんなさいね……」

「これからはわしらを家族と思って暮らすんだぞ……!」



 え? まじでなにこれ。



「1人でよく頑張ったな」

「ここでは安心して暮らしな」

「いつでも助けになるからな」



 周りのドワーフさん達までも……。

 とにかくここにいる人すべてに孫を見るじいじとばあばの目で見られているのはわかった。


 サンリエルさんはいったいどういう説明をしたのか……。



「私は“技”のダニエルと申します。守役様、命を懸けてこの建物は完成させますので我々にお任せください」



 キイロと私に恭しく挨拶をするダニエルさん。そして次々に自己紹介をしてくれるおじいちゃんおばあちゃん。

 キイロのこのキリッとした顔を撮りたい。



「あの、急に申し訳ありませんでした。守役様が祝祭を楽しめるようここに連れて来てくれたんです」


「おお……! 自在に人間を移動させる神の御業ですな……!?」

「素晴らしいわ……!」



 いかん、じじばばが興奮してきた。



「作業の邪魔をしてしまいました。――では私は祝祭を見物してきますね」



 ささっとこの場を離れようとした所でおばあちゃんに呼び止められた。



「さあさあ、これを持っていきなさい」



 渡されたのはお金。



「いえ、お金は持ってますので……。お気持ちは嬉しいです、ありがとうございます」



 せめて孫歴5年はないともらいにくい。



「子供は遠慮するものじゃないの。ほらお財布出して。持ってる?」


「は、はい……」



 おばちゃんよりレベルの高い距離の詰め方に20数年しか生きていない私に勝ち目は無かった。

 あれよあれよという間に財布にお金を入れられた。

 キイロも威嚇しなかったし、おばあちゃん最強説が浮上したな。



「わしからも」

「これも持ってけ」



 そして次から次へとお金を出してくるおじいちゃんズ。年金暮らしのお年寄りからお金をもらっている感じがして気が咎める。



「女の子がそんな大金を持っていては危ないわ」



 おばあちゃんいいぞ。



「持って来た食事の中にお菓子があったでしょう?」


「お、おお! そうだな!」



 今度はおじいちゃんズはその辺りの木の根元に置いてある鞄に走り寄り、それぞれ手に何かを持って戻ってきた。



「お腹が空いたら食べな」

「甘いものは一気に食べ過ぎないようにな」

「今朝焼いたばかりだ」


「あ、ありがとうございます」



 ちらっとキイロを見たら通常モードだったので直接受け取る。

 まあただの人間をそこまで威嚇して守ってたらおかしいよね



「あなた達は少し限度を考えないと。持ちきれないじゃないの」


 そう言いながらおばあちゃんは私の荷物(モフモフ)が詰まっているリュックをちらっと見た後、用意した斜め掛けバックにハンカチで手際よくお菓子を包んで入れてくれた。



「ありがとうございます」



 この自然な気の使いようは凄いな。何十年も家族の世話をしてきた人間にしか出来ないさりげなさ。

 心がほっこりする。



「その鞄は返さなくていいからね。道はわかるかしら? とても人が多いから気をつけるのよ」


「ついて行こうか?」


「いえ、守役様が姿を消して近くにいてくださいますので平気です。ありがとうございます」



 心配そうにしているじいじにばあば達はキイロを見て安心したような顔になった。



「そりゃあ安心だな!」

「年寄りが余計な気を回したね」



 優しさにほろりとくる。



「被り物はもう少しでできるからな」


「はい。ありがとうございます」


「今の髪の色と同じだけど……いいのか?」



 サンリエルさんはそこまで話していないみたいだ。



「大丈夫です。髪の白い部分を隠せればいいので」


「そうなの? 今それで髪をまとめてるの?」


「はい。中途半端に白い髪だと怪しまれますから。この街には白い髪の人達がいるんですよね?」



 しらじらしい御使い。



「そんな事ってあるのねえ。……そうね、もっと可愛くしてあげる。こっちにいらっしゃい」



 にこにこと手招きしてくれたのでおばあちゃんに近付く。

 キイロはさっと飛び立って柵の屋根部分からこちらを見ている。



「おい、お前さすがに馴れ馴れしいんじゃないか?」


「そうね、ついいつもの調子でやってしまったわ。ごめんなさいね?」


「いえ、平気です」



 おばあちゃんの編み込み可愛いし。

 マッチャには是非ともこのヘアアレンジをマスターして欲しい。



「誰か花を摘んできて。すぐ枯れるようなものはだめよ。赤い木の実が良いかしら?」



 すぐさま走り出すおじいちゃん達。老人が走っている光景はなんだかどきどきするな。主に健康面で。



 どこからか現れた椅子に座らされ、髪を手ぐしで整えられる。



「本当に真っ白ねえ」


「今までは布を巻いたりして隠してました」


「それもいいけどもっと可愛くできるからね」



 ふと、小学生の頃母に髪を結んでもらっていたのを思い出した。いつから自分でやるようになったんだっけ……。


 懐かしい思いを噛み締めながら髪を編まれていると、おじいちゃん達が走って戻ってきた。

 手に大きな枝を持って――



「そんなにいらないわね」


「そうだよな!」



 わははとおじいちゃん達は笑っている。好きだ。

 せっかくなので、持ってきてくれた花や木の実のついた枝は水に浸して柵の周りに飾ってもらった。






「ありがとうございました」


「楽しむのよ」

「甘いものは少しずつだぞ」

「遅くならない様に」



 クダヤでのじいじとばあばに手を振って拠点予定地を後にする。

 今私は物凄く機嫌が良い。髪にはリボンと赤い実が編み込まれており、華やかだけど派手すぎないオシャレさんになっているからだ。



「ねえねえ、この赤い実可愛くない?」


「キャン」



 見えてないよね。でも優しさをありがとう。



「マッチャはこのアレンジできそう?」


「出来るよ」



 お、出てきたぞ。



「じゃあ今度お願いしてもいいですか?」


「いいよ」

「フォーン」



 ふふふ。パピーとマミーだわ。



 もらったお菓子をみんなと一緒にこっそりかじりつつ、にやにやしながらS青年のいる港に向かう。




 誰かにひと目ぼれとかされたらどうしよう。ふふふ。




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