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幸せに暮らしましたとさ  作者: シーグリーン


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メイド イン ファンタジー

 




 内腿とお腹の筋肉を使いカゴを支え続け、体がプルプルして限界に近付いてきたところで目的地についた。

 ……助かった。




 そこは森から抜け一面拓けた場所だった。背の高い植物はなく岩があちこちに点在しており、特に変わったところはなかった。



 ――岩が虹色に輝いているのを除けば。






「うおおおお」



 つい感嘆の声が漏れる。すごくきれい、いやこういうのを美しいと言うんだろう。



 それにしてもすごい!

 何で虹色になってるんだろう? と不思議に思い近くの岩を観察する。



 これっていわゆる鉱石ってやつなんだろうか。

 色の違う石が集まって大きな岩になっているようで、それぞれが宝石の原石に見える。

 宝石に関して詳しくはないが、色だけで判断するとエメラルドにルビーにサファイア、そしてダイヤモンドと言われてもおかしくない色もある。黄色、紫なんかは名前が分からないが画像で見たことはある。

 とにかくきらびやかで高価そうだ。



「あのさ、これをドカンとしたりスパッとしたりはちょっと気が咎めるんだけど……。普通の岩ってないのかな?」



 自然遺産を破壊するような気持ちになってしまう。



「ぴちゅぴちゅ」



 みんなからこの岩で問題はないよという返答をもらい、キイロからは追加で、心配ならこの辺を管理しているのに一応許可もらっとく? という話が出た。



「……! ここにも管理している仲間がいるんだ!」



 ゲーム的な旅の仲間が簡単に増え過ぎてありがたみが薄れそうだが、楽しみではある。



「そのお仲間はどこにいるの?」


「ぴちゅ」



 キイロが首を巡らした先は、虹色ゾーンの先にある草原らしいエリアだった。

 お仲間は私達がここに現れたのを察知してこちらに向かっているらしいのでここで待つことにした。



 マッチャがさっそくぼてんと座り込んでいる。木に登れるのに石を使ってオレンジ色の果実を取ったりする所を見るとあまり活動的ではないのかも知れない。そんなマッチャを横目に見ながらキイロとエンの毛並みを堪能しているとそれはやってきた。



 ざっざっ、という音を立てながら近付いてきたのは虹色の甲羅を持った亀だった。





 ……リクガメ? うん、高速移動できるリクガメだ。

 4本の足がネコ科の肉食動物の足だけど……大きなリクガメに見える。



「は、はじめまして。この島でお世話になります、春です」



 とりあえず挨拶はしておく。

 リクガメ獣足さんはつぶらな瞳でこちらを見て挨拶を返してくれた。



「よろしくお願いします。名前をつけた方が良いならつけます。それで……あの、突然で申し訳ないんだけど……ナイフのような形の石を作りたいの。この綺麗な岩を砕いたり……してもいい? 無理なら違う岩を探すから大丈夫なんだけど……」



 会ってすぐの破壊希望に申し訳ないと思いながらも恐る恐る聞いてみると「ちょっと待って」と返事が返ってきたので待つ。いくらでも待ちますとも。



 この島っていろんなものがパッチワークみたいな混じり方してるなあ、名前をどうしよっかなあと考えながら待っていると、リクガメ獣足さんから虹色の光があふれ出てきた。

 その光は4本の足を伝って地面に吸い込まれていき、辺りの地面は円を描くように虹色に輝いた。



 なんだなんだとその光景を眺めていると突然、目の前の地面が音を立てて盛り上がってきた。



「うわっ」



 慌てて数歩後ろに下がる。少し揺れも感じる。

 その光景を興味深く見ていると、揺れは止まり盛り上がった土がパラパラと崩れていった。




「これ……」



 それを見て驚いた。埋もれていた土から顔を出したのは虹色に輝く石。

 これを使って、と意思が伝わってきたので土をよけて石を取り出すと――




「うっわ! これナイフ!?」



 ナイフの形をした虹色の石だった。ご丁寧に持ち手のような部分もある。



「すごくない!? え、作ったの!? え、まじ!? すごいね!」



 もう大興奮だ。どうやってとかどうしてとかそんなことは問題じゃない。

 なぜなら『ファンタジー』この言葉がすべてを解決する。



 ナイフだナイフだと言いながら持ち手を掴んで軽く振ってみる。



「おお~虹色のナイフカッコいい……!」



 はるは虹色のナイフを手に入れた!



 嬉しい。初の武器装備だ。防具はダサかわ装備があるしこれでなんとか探索する人の装いになった。冒険家とも言うがそんな大したものではない。

 ここに危険なものはいないけど雰囲気が大事。



 みんなも良かったねと喜んでくれている。



「ありがとう! すごく嬉しい。名前? うん、つけるよ。虹色だから……7色で……、ナナってどうかな?」



 そう伝えるとカッと明るく光り、ナナにイニシャルが刻印された。

 ……背中に大きく。そしてあの音も聞こえてきた。


 なんだか背中がヘリポートみたいだなと思いながら右手の甲を確認するとこちらもしっかりと刻印されていた。順調順調。





 名付けも終わった事だしナイフを使ってみることにする。

 カゴからオレンジ色の果実をとり、端の方に刃をあてて力を入れるとスパンと皮が切れた。

 切れ過ぎないところも素敵。



 中の果汁はナナが飲むらしいので渡す。前足を器用に使って皮を押さえてゴクゴク飲んでいる。

 飲み終わったら白い果肉をまたみんなで分け合って食べる。今度は種に関しては放置で大丈夫みたいだ。森じゃないからかな?

 これを綺麗に洗って生活用水容れにしたい。木の滝の所に連れて行ってもらって容れ物作りしないと。



 ナナに挨拶をして木の滝に向かおうとすると呼び止められた。

 どうも草原エリアに見せたいものがあるみたいだ。持って来た荷物をいったんここに置いて見に行くことにした。


 エンに乗り込みそちらに向かう。

 片手でナイフは危ないのでキイロに嘴で取っ手部分を咥えて運んでもらう。お手数かけます。



 草原エリアが目で見える距離だったのですぐに着いた。何か野菜のようなものが……。



「キャベツ? こっちはなんだろう、きゅうり? ピーマン?」



 キャベツを玉ねぎサイズにしたもの、表面はきゅうりだけどピーマンの形をしたものが青々と育っている。その少し奥には背の高いネコじゃらしが。



「これ、色は緑だけど小麦ってやつ?」



 ネコじゃらしを触ってみると、実物は見たことがないがイラストなんかで書き表される小麦によく似ている。

 黄金色が一面広がっているイメージなんだけど稲みたいに後で色が変わるんだろうか。


 そこではっと思いつく。



 …………周りに稲っぽいものはない。後は草や花といったものだ。残念だ。お米が……。



 しかし稲にしろ小麦にしろどうやって収穫した状態からお馴染みの米や小麦粉にしたらいいかよく分からないし、自分では難しそうなのであってもなくても困らない。

 その辺はこの世界の人に期待だな。――いつ会えるかは不明だが。



「これ食べられるの? 教えてくれてありがとう。」



 ナナは私が白い果肉を食べるのを見て、他にも食べられるものがあることを教えてくれたようだ。

 優しい。


 これはキャベツときゅうりだと自分の中で勝手に判断して、いくつか持って帰ることにした。

 木の滝の所で洗って味見しよう。

 虹色ナイフを使っていくつか収穫する。そんなに量はいらないので、マッチャが持ってくれると私は手ぶらですんだ。



 虹色ゾーンのところまで戻り、カゴを回収して木の滝に向かうことにする。

 途中で木の洞を通るのでそこに荷物を少し置いていこう。

 木の洞から水場まで歩いて体感で30分程度だったので、ここからもだいたいその程度だと思われる。今回はエンに乗せてもらわずのんびり歩いて向かうことにした。


 ……決して腹筋と内腿の筋肉が破裂しそうとかそんな訳では断じてない。

 筋肉痛がこわいとか思っていない。



 ナナも一緒に来てくれるようなので甲羅に1つカゴを乗せてもらい、それを手で支えながらもう片方でカゴを持つ。マッチャはカゴを頭の上に乗せて歩くみたいだ。


 地球にああいう持ち方をする民族圏あるよね……。バランス感覚が優れているんだろうな。


 エンには非常に申し訳ないが、空いたカゴ2個を角にそれぞれ被ってもらう。

 ごめんね。麦わら帽子ONカゴは首が辛いんだ。





 のんびりてくてくと木の洞に向かう。先導はキイロだ。


 歩きながらナナにも色々と質問する。

 ナイフが作れるんだからお皿とか水瓶っぽいのも作れるのかと聞くと「作れる」という返事が。


 やった。文明人らしい生活が出来る!

 でも今日1日の私なりの創意工夫のありがたみが薄れる……。



 それにしてもナイフも知ってたし、お皿がどういうものかも理解できてるってすごい。この島じゃそんなもの無いはず。無いよね?


 まあいい。ナナにはお箸とかも作ってもらおう。

 あ、木も切っていいなら斧も作ってもらおうかな。机と椅子が欲しいし、もう少しDIY女子を楽しみたい。いや、リアル森ガールの方かな。



 虹色生産物はあのゾーンじゃないと作れないようなので明日取りに行くことにした。

 普通の土では力がうまく伝わらなくて細かい調整が難しいらしい。

 ふふふ。美しく価値のありそうな食器で食事……。ふふふ。セレブごっこが楽しめそうだ。




 ニヤニヤしながら歩いていたら木の洞が見えてきた。

 帰ってきたという気持ちが湧き起こる。そうだよね、もうここがこれから私の家になるんだよね。



 みんな中に入れそうなので家に荷物を運び入れるのを手伝ってもらうことになり、私を先頭に順々に光の玄関をくぐった。




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