問題から意識を逸らす
「ボス、拠点予定地の周りに人はいる?」
祝祭が終わってからでもいいのだが、何となく急いだ方が良い気がするので今から行こうと思う。
「いない? ちょうどいいね。チカチカさん、ささっと行ってきます」
「家具を物色し始めてる」
あの人は何をやってるんだ……。
私とお揃いのアクセサリーを作成してこっそり身に着けているのも知っているんだぞ。
「あの人単純に一族3人分って事ですもんね。やる事がやっぱりすごいですよね~」
そして1番の権力者だ。
前回出国手続きはしていないし、仮の身分証も返却していない。その辺もどうなっているのか聞いておこう。
旅装に着替え髪をまとめる。顔に印をつけ身分証も忘れずに装着。
初めてのゲート使用にわくわくが止まらない。行くぞ――
「――柵? 囲ってあるんだよね? 出られない?」
ゲートをくぐる前にボスからの忠告が。
「岩の周りは完全にふさがれてるね」
「おお……?」
いきなりのトラブル発生。
だが大げさな事を言って必要以上に怖がらせたのはこっちだった。これが自業自得というやつか……。
「動かしたり出来そうですか?」
「破壊する事になるね」
「あー…………」
これは暗くなるまで待って上空から侵入コースかな。
しかしこれも手間なのは変わりない。その間に家具一式を購入されても困る。
「……壊してもいいですかね?」
「はるがそれでいいなら」
「なんとかします」
なんとかなるだろう。たぶん。
気を取り直してゲートをくぐる。ここは急ぐべきだと私の第6感が告げている。
「――囲まれてるねえ~」
柵はぎりぎりではなく2メートルほど離して作られていたので助かったが。
しかし上まで囲まれているとなるともはや部屋だな。
「マッチャ、ここの木をはがせる?」
柵は等間隔に角材を縦に埋め込み、その角材同士を横にした木の板で繋ぎ合わせている状態だったので結構広範囲を破壊する事になる。
「キュッ!」
「そうだった、ロイヤルは羽にナイフがあったね。じゃあお願いします」
武器類は何故か豊富に手に入ったので忘れていたが、ここはロイヤルに任せようと思う。
柵に大きい組が出られる大きさにぽかりとあいた穴。
綺麗に作られていたのに申し訳ない。なのでばれない様にその辺の木の枝を折ってもらって柵を囲ってみた。
うん、不自然!
「まあいいか。サンリエルさん達は? ――港? のんびり向かおうか」
建物の骨組みらしきもので外からはあまり見えないと信じたい。
それにしてももうこの段階って早いような……。木材もたくさん積まれているし。
「たくさんの人が参加してるみたいだね。でも誰もいないっていうのがちょっと意外だったね~」
交代制で警備でもしているのかと思ったが。まあそれでこっちは助かってるけど。
「この先通行人を観察している人間がいるよ」
「わっ!」
突然のチカチカさん。突チカ。
「すみません油断してました。……それって岩に万が一の事が無いように?」
「そうだね」
「他国民の印がついた人間なんて目立ちそうですね……。その人ってもしかして拠点建設メンバーですか?」
「そう」
何でも知ってる惑星さん。
チカチカさんも何気に過保護寄りだよね。興味は無いんだろうけどこちらの話は聞きもらさずなんだかんだ手を貸しちゃうっていう。
ツンデレほんのり過保護。好きだ。
「メンバーに見つからない様に……あ~失敗した……」
ここで重大なミスに気が付いた。
「金粉が……サンリエルさんに会うのに……」
白フワは今大森林の木の滝エリアにいる。金粉はストックできなかったので直接振りかけてもらうしかない。
あー、段取り上手になりたい……。もう少し考えてから行動すれば良かった。
「……金粉の効果が無いので夜に大森林に寄ってから出直します」
やった事と言えば柵を壊しただけっていう。夜まで気付かれませんように……!
「連れてくるけど」
落ち込んでいると、チカチカさんとボスから同じ申し出が。
白フワの意思はそこに反映されていないけどね。
「あの……やる気がなくなったというか……ぐずぐずだなあと……。すみません……」
「はるって変なところで繊細だよね」
「人間ですから……」
とぼとぼと柵の内側に戻る。
「はるがしたいようにすればいいけど」
「じゃあ昼寝を……」
寝て起きればだいたいの事はすっきりするはずだ。家具購入はキャンセルできますように。
こうして柵を破壊しただけの街訪問は終わった。私の第6感はどうした。
「――はる」
「……うわっ」
何故か宙に浮いている私。しかも頭が下になっている。
「……なんですかこれ? 私ソファーで寝てたと思ったんですけど……」
「人間達が下見にくるよ」
あれ? 無視? それよりも――
「下見って……建設メンバーですか!?」
まずい、柵破壊がばれる。
空中でじたばたしていると床におろしてくれた。
「違う、いつもの3人」
「あ、なんだ~。建設の進捗状況確認ですか?」
「新たな拠点の下見」
……そっちか。
「でもちょうど良かったです。港まで行かなくていいし」
ついてる。やっぱり睡眠って大切だな。気分が乗らない時はこれからもゆっくりしよう。
「ボス、申し訳ないんだけど白フワを岩まで連れて来てもらっていい? キイロでも大丈夫かな?」
この明るさだと私は目立つので結局ボスに頼る。白フワは金粉もあるしなんとかなるかな。
作成したヤマチカ生い立ちを読み直し、準備をしてリベンジだ。
「久しぶり~白フワ急にごめんね~」
柵の側でエンにもたれて待っていると、音もたてずに白フワが舞い降りてきた。雪みたい。でかいけど。
「ぴちゅ」
「自分からくっついてきたの?」
さすが白フワ界の猛者は違うな。いつでも冒険を求めている。
今日も動きにキレがあるし。
「3人ともありがとう。金粉お願いしていい?」
お願いにすぐさま金粉をまぶしてくれる白フワ。いつもより金粉が増量されている気がする。
暇だったのかな……?
「これで完璧! サンリエルさん達はまだ? ――じゃあ道の近くまで行ってみようか」
「キュッ」
「驚かす? ……今回は大丈夫かな? またの機会に」
「キャン!」
「唸りBGMも大丈夫。また家で聞かせてね」
白フワも含めた4人のこじんまりがなんとなく不満そうだな。そんなに驚かせたいならお化け屋敷でもつくったら繁盛するかな?
あ、でもアレクシスさん達は呼吸するようにナイフを投げそうだからやめておこう。
ついでなのでこの林がどんな感じなのか観察しながら歩く事にした。
こっちの土地だとチカチカさんの力は付与されないので色々と便利そうだ。
これからのお礼はここで作った作物にしようかな。御使いブランドだから嬉しくない事は無いと思う。
「サンリエルさんが近くに拠点を建てる理由のひとつに井戸もあったけど……」
この林に水が湧き出ている所はない。なので自分の拠点に井戸を掘って毎日新鮮な水を用意しますと手紙には書かれていた。
「ここで農業プレイをするなら井戸をこっちに掘ってもらった方が助かるんだよなあ……水やりとか。まあ何年もこの世界にいる訳じゃないけどさー」
「キュッ」
「ロイヤルの水だと何かしらの恩恵がありそうなんだよね~」
「雨降らす?」
いきなりの神的発言。
「あーいやあ……大丈夫です! 水の問題はなんとかなると思います。ありがとうございます」
ちょっと過保護ってレベルじゃない。天候を左右するとか……。
こちらはそこまで農業に思い入れはない。ファッション農業というか、キッチンでハーブとか育てちゃう感じっていうか。島の農地での収穫もほぼマッチャの仕事になっちゃってるし。
チカチカさんのお世話ポイントがわからないから困った事は口に出さない方がいいのかもしれない。
「――近くまで来てる? 声聞こえるかな」
急に林にいたら驚かせてしまう(特に彼)ので、サンリエルさんとカセルさんの耳の良さを利用する事に。
他の人は近くにいないけどもし聞こえたらどうしようとか、これで声が届いていなかったら恥ずかしいなとか余計な事を考えていたら変な抑揚の震えた声が出た。
「サ~ンリエ~ルさ~ん、カセ~ルさ~ん、ア~ル~バ~ト~さ~んもきこえますか~」
「ぷっ」
「…………」
「……あの、チカチカさん今……」
反応なし。
「さっき笑い声が聞こえたような気が……」
これまた反応なし。
この湧き起こってくる気持ちを眉間のしわに表し、至る所に威嚇の表情を向ける。眉間のしわを伸ばしに出て来い。
チカチカさん絶対に笑った今。
「コフッ」
物凄い顔をしているとナナから「あいつらが来る」と教えてもらった。
まずいまずい、この顔は見せられない。幻滅されちゃう。踊りまくる御使いにまだ威厳が残ってるならの話だけど。
木の陰からひょこっと顔を出し、3人の姿を探す。
「――いたいた」
白髪と赤髪が見えたので手を振る。アルバートさんは見当たらないけどどうしたんだろう。
すると2人が物凄い速さでこちらに向かって走ってきた。
「あー……ちょっとエン背中に……」
謎の不安感。攻撃されそうな勢いだからね。
エンに乗り込んでいる途中でサンリエルさんが到着し、そのまま流れるような動きで拝謁体勢に。
ダッシュからのスライディング拝謁か。今日も張り切ってるな。
そして少し遅れてカセルさん。そんな嬉しそうに走って来られたらお菓子をあげたくなるから程々にして欲しい。イケメンめ。
「こんにちは。立ってくださいね~。アルバートさんはどちらに?」
乗り込むのが間に合わなかったので、マッチャに手伝ってもらいながらエンから降りる。
更に威厳は減ったな。
「後程馳せ参じます」
「おいて来てしまいました」
テヘへ顔まで様になってるなカセルさんは。
「おいてきちゃいましたか」
「ヤマ様のお声が聞こえましたので」
「ついつい」
あれで私の声だと判別できたんだ。やっぱり凄い。
「良くわかりましたね」
「私がお声を間違うはずがございません」
「領主様の名前をお呼びになっていましたし、この場所ですのでもしかしてと」
サンリエルさんはなあ……。失礼だけど日本だと犯罪者予備軍の予備軍になりそうな雰囲気だよね。
一歩間違えればってやつは怖いな。嫌いじゃないんだけどね。早く仲良くなろう。
「今日のお手紙を読みまして――」
先に説明しようとしたところで2人の後方に見慣れた姿が。
「アルバートさ~ん」
お~いと手を振る。
こちらに気が付いたアルバートさんはスピードをあげて走ってきた。
「ゆっくりでいいですよ~! あ、キイロ! なにやってんの!」
なんと半透明のキイロがくちばしでアルバートさんの頭を後ろから押していた。刺さってないよね……?
エンに乘る時にサポートが無いと思ったら……!
「遅れて……申し訳……ありません……!」
急いで走って来てこれまたスライディング拝謁。いや、崩れ落ち拝謁かしら。
少し落ち着くのを待って話しかける。
「急がせてしまったようですみませんね。守役も」
「いえ……守役様のおかげでいつもより……速く……走れました……」
困り笑顔の髪ぼさぼさアルバートさん。
なにこの善意の塊。
気分はもはや親戚のおばちゃん。知らん間に立派になってしもうて。
ついつい島のみんなと同じ感覚で、ぼさぼさの髪の毛を直そうと頭に触ってしまった。
するとざっと音がしそうな速さでこちらを見た後、手の動きだけで後ずさるという動きを披露された。
……まじか。そんな機敏な動きできたっけ?




