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幸せに暮らしましたとさ  作者: シーグリーン


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思わぬ

 



 島から出るといつものように海上待機している2人。

 アルバートさん俯いてるな……。これから起こる出来事をなんとなく感じ取っているんだろうか。



「何度もすみませんね」



 笑顔で待っているカセルさんに話しかける。こんな遅い時間にすまない。笑顔だから大丈夫だろうけど。



「いえ。お気になさらないでください」


「アルバートさんは話を聞きましたよね?」


「は、はい! 力を尽くします……!」


 船の縁で威嚇をしているキイロとロイヤル、そして宙に浮いている素敵メンズを気にしつつ一生懸命答えるアルバートさん。

 ごめんね、本当に力を尽くさないと今日は帰れないかもしれないけど。鬼教官が何人もいるんだわ……。



「サンリエルさんは一緒じゃないんですね」


「同じ船に乗り込むつもりのようでしたが…………族長達と揉めまして」


「……なるほど」



 言いにくそうに答えるカセルさん。

 こちらに力を注ぎまくってるもんな。そりゃあ色々と問題は起こるだろう。

 それにしても族長さん達も港にいたのかな? 行動が早い。



「カセルさん達2人だけだと負担が大きいのでサンリエルさんにも覚えてもらおうと考えていたんですよ」


「とても喜ばれると思います。私達より覚えは早いでしょうし」


「楽器も持ってきて欲しいですね。旋律を楽譜に起こせますか?」


「はい、領主様と私は起こせます」

「ひっ!」



 キイロとロイヤルがアルバートさんを蹴っていた。もう?



「……なんで蹴ってるの?」



「ぴちゅ」

「キュッ」



「楽譜に起こせないから……?」



 理不尽の塊すぎる。蹴る理由は何でもいいんだろうな。好きならそういう態度をとればいいのに。



「人それぞれ得意分野が違うだけだからね」



 マッチャに2人を回収してもらう。



「――失礼しました。ではサンリエルさんを呼んできてもらいましょうか」


「任せて~!」


「え?」



 何を? と思う間もなくアルバートさんが急に消えた。



「…………あの」


「こっちの方が早いでしょ?」



 かわいそうに……。後で島の食べ物をこっそりあげよう。虹色鉱石の欠片を2個でもいいな。



「アルバートさんに説明をお願いしました」



 驚いた様子でアルバートさんが消えた場所を見ているカセルさんに話しかける。



「……はい」



 さっきまで驚いていたカセルさんだが、私の肩に移動してきた白フワを嬉しそうに眺め始めた。

 大きめのコサージュっぽいよね。シュシュにもなるし便利だわ。タツフグとも仲良くなってたし良かった良かった。





「はる、揉めてるよ」


「――また揉めてるんですか?」



 <地球>さんから振りの最終チェックされているとチカチカさんが教えてくれた。

 カセルさんはリハーサルも食い入るように見て一緒に体を動かしていたので少し恥ずかしかった。

 指導を受けている御使い……うん、恥ずかしい。



「あの人間は説明が上手くないから」


「あー……。カセルさん、また揉めているそうです」



 カセルさんはなんとなく予想していたみたいで申し訳なさそうにしていた。



「私が説明しに行きます」


「そうですね……。――なんで揉めてるんですか?」


「そこの人間と同じ一族も音楽に関しては役に立てるって。他の人間も踊りは自分達も早く覚えられるってアピールしてる」


「なるほど」



 みんなハイスペックだもんなあ。

 顔を隠して振りを教えるのもなんだし、どうしたもんかと悩んでいると<地球>さんから提案があった。



「じゃあさじゃあさ、曲だけ港の人間にも聞こえるようにして覚えてもらおう! 色んな楽器のパートがあるしさ。主旋律だけじゃ実際演奏した時寂しいし! 音を肉付けして演奏してもらおうよ~」


「……そうですね」



 音楽プロデューサーみたいな提案をされたがまあそうだよね。ピアノ伴奏だけよりオーケストラの演奏の方が盛り上がりは違うし。



「そこの人間、神の音楽を港の人間にも聞かせる。一度しかないぞ、心して覚えるように伝えよ」


「かしこまりました」



 船で港に向かっているカセルさんを見送る。カセルさん嬉しそうな顔してたな。

 なんだかんだ惑星さん達って細かいところ優しいよね。





「曲も流せるんですね。凄いです」


「これこれ! 元々これを使って踊りを伝授するつもりだったし。偉大なる神だからね~音を伝えるなんて簡単!」


 そう言って<地球>さんの手元に現れたのは貰った携帯音楽プレイヤーだった。

 それ私が貰ったと思ったんですけど。本来<地球>さんのですけど。心が狭いのはわかってますけど。


 手慣れた感じで操作している<地球>さん。そこは手動なんだとぼんやり見ていると、急に大音量で音楽が流れ始めた。



「うわっ!」


 急いで耳をふさぐ。



「ごめんごめん! うっかりしてた~」


「はあ……」



 イヤホンあるあるみたいな事を言い出したな。惑星なのに。



「じゃあ人間たちの準備が整うまで動きの速いパートをおさらいするよ~」


「……はーい」



 空中を歩くというファンタジー体験をしながらも思う存分楽しめず、ひたすら振りに集中する。

 島のみんなはもう隊形を覚えたみたいで一緒に移動してくれる。マッチャに関しては振り付けもマスターしていた。

 私の数か月間の努力はなんだったんだ。でもダクスはあんまり出来ていないからそのままでいて欲しい。




 街の人達の準備が整ったようなので、ボスがカセルさん達を連れてくるのを待つ。連行中とも言う。

 港には風の一族だけでなく楽器演奏できる人がたくさん集まっているみたいだ。

 踊りに関しては3人にしか教えられないが族長さん達もなんとか納得したらしい。良かった良かった。



「あ、きたきた」



 白い霧の中からカセルさん達が現れた。

 ちゃっとやってちゃっと覚えて早く帰って寝ようね。



「ありがとうございました」


「皆嬉しそうに張り切っております」


「嬉しそうなら良かった――サンリエルさんどうしました?」



 サンリエルさんが泣いていた。大人しいと思ったら……。



「……いえ。申し訳ありません」



 自分が涙を流している事に気が付いていなかったようで、手で涙をぬぐうが後から後から涙が――。

 これにはカセルさんもかなり驚いている。アルバートさんは大体驚いているが。


 サンリエルさんの視線の先を辿ると、そこにはナナの甲羅に優雅に腰かけているチカチカさんがいた。



(そっか……)



 自分の力の源でもあるエスクベル様だもんね。嬉しいよね。あんなに一生懸命になる存在だもんね。人の何倍も嬉しいよね。チカチカさんの正体は知らないはずだが細胞が反応してるのか。

 何故か私も涙目になっていると、アルバートさんがそっとサンリエルさんにハンカチを差し出した。

 アル……優しい子……。


 涙目でアルバートさんに向けてうんうんと頷くとびくっとされた。いいよ、いつもの事だ。



「すっごく泣いてるね~」



 突然の<地球>さん。おい、空気を読め。

 ついつい口が悪くなってしまう。



「嬉しいんですよ……」


「でもあいつ見てよ、あの無反応」



 そう言われて改めてチカチカさんを見ると、サンリエルさんの事を気にした様子もなくこちらを見ている。



「顔に出てないだけです……」


「ねえ、お前は嬉しいの?」


「何がですか」


「…………」



 この惑星達は……!



「わっ! はるちゃんが反抗期だ~!」



 <地球>さんの胸のあたりを拳でぐいっと押す。

 笑い事じゃないぞ。



「愛と光なんて……言いながら……!」


「あはは! そうだね~! はるちゃんこっちこっち~」



 あんよは上手状態で惑星に翻弄されている私。チカチカさんも無表情で参加してきてより悔しさが増す。



「はいはい落ち着いて。ぐぬぬなんて言うんじゃないの~。めっ!」



 頭をこつんとされる。仕草が古い。

 チカチカさんも眉間のしわに拘りすぎるし。ぐぬぬ。



「ほら、さっさと曲を流さないと~」


「あ! そうでした……」



 ごめんねとカセルさん達の方を見ると、サンリエルさんはこちらを凝視していた。

 おい、涙はどこいった。目開きすぎだ。



「――失礼しました。これから神の音楽を流します。お2人も楽譜に起こしますか?」



 サンリエルさんが泣いたところ辺りから無かった事にしようと思う。



「踊りがまだのようでしたら私達も行います」


「もう踊っちゃえばいいよ~」


「そうですね」



 ぱっとやってさっと帰りたい。



「じゃあまずは女性の踊りから」


「じゃあ僕が男子パート~」


「……男性の踊りは彼が」



 威厳とか大丈夫なんだろうか……。

 もう疲れてきたのであれこれ言うまい。



「音楽お願いしまーす……」



 覚えやすいようカセルさん達と同じ方向を向いて踊り始める。

 空中を歩きながら振りだけに集中する。ファンタジー世界で何をやってんだという心の声は押し込む。

 モフモフ達も一緒に動いているのでサーカスにしか見えない。チカチカさんにモフモフ動画を頼めば良かった。



(御使いの威厳とか大丈夫かな……)



 空中で踊りまくって完全にキャラが崩壊しているような気もする。

 方向転換の為カセルさん達の方に向き直ると、白フワがアルバートさんの顔の前に浮いていた。



(あの子は何を――)



 不思議に思い方向転換の度にアルバートさんを確認していると、どうも白フワがわざと視界を遮っているようだった。



(何をやってんだ何を……)



 困った顔をしながらも、こっそり顔を動かして<地球>さんの方を見ながら体を動かしているアルバートさん。あ、白フワが顔に張り付いた。

 動きを止めて手だけが困ったように動いているアルバートさん。

 しかし、カセルさんとサンリエルさんは真剣な表情でこちらを見ておりアルバートさんの事を全く気にしていない。



(みんな真剣な顔してるな…………)



 ……いかん、変な笑いのスイッチが入ってしまった。

 でもよく考えて欲しい。地球の音楽を流しながら踊っている私達――。

 これで笑わない人はいないと思う。



「くっ……」



 頑張れ、耐えるんだ。<地球>さんは物凄い笑顔で踊ってるけど気にしちゃいけない。

 島のみんなの顔がいつになくきりっとしてるとか思ってない。耐えろ。








「――以上です」



 乗り切った。私はやった、やったぞ。でも物凄く疲れた。

 残っているかどうかわからない御使いの威厳を守る為、透明ボスにそっともたれて疲れていない御使いをアピールする。



「素晴らしい舞でした」



 ほんともうそういうのやめてサンリエルさん。せっかく乗り切ったのに。



「あのような音色は聞いた事がありません! 素晴らしいです……!」



 カセルさんまで。やめて、みんなの真剣な顔を思い出すじゃん。



「あ、あの、ありがとうごほっ! 申し訳……!」


「白フワ、こっち」



 お? 白フワも反抗期か? 何故かアルバートさんの手の甲に移動した。

 羨ましそうにしているカセルさん達。アルバートさんは挙動不審だけど。まあいいか。



「覚えられましたか?」


「はい」



 前のめりで返事をしてくるサンリエルさん。まじか。聖徳太子?



「カセルさんはどうですか?」


「男性の踊りは大丈夫かと……」



 そう答えるカセルさんを焦ったように見ているアルバートさん。

 だよね。邪魔されて見えてなかったもんね。



「お前達だけで踊って見せよ」


「アルバートさんは良く見えなかったでしょうから、私の振りを見ながらでお願いしますね。男性の踊りをやりますので」



 <地球>さんの言葉に涙目になったアルバートさんをフォローする。

 すると、島のみんながアルバートさんの周りを取り囲み始めた。なんでだ。

 そして腕組みをして偉そうな<地球>さん。偉い存在ですけど。





 アルバートさん、一緒に乗り切ろう。







11/11 11時に投稿してみました。

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