魅力
打ち寄せる波音、美味しい食事、美味しいお酒、素敵な夜景、目の保養になる麗しの男性達――
「美味しいんだけどさー繊細さっていうのはお前んとこの人間には無理なのかね~」
「…………」
違った、口を開かなければ目の保養になる麗しの男性だったわ。
私達はカセルさんと別れた後、ひっそりと人のいない所に瞬間移動して港までのんびり歩いてきた。
そして「僕たちも拝謁しようよ!」と、自分を褒め称える話をしている周りの人間達にテンションが上がった<地球>さんの提案で今に至る。
一度は港の拝謁待機場所でゆっくりしたかったからいいけどね。
「私こういうご飯の方が食べた~って気がして好きですよ」
「はるちゃんは大食いだからね~。気をつけないともうそろそろ代謝が追いつかなくなる年齢だからね!」
ほんとひと言多い。でも有益な情報をありがとうございます。このファンタジー生活で好きなだけ暴飲暴食しようと思う。
「よく噛んで食べた方がいい」
お母さんみたいな事を言ってくるチカチカさん。
姿勢よく温かい飲み物を飲んでいる姿はこのがやがやとした空間にはなんとなくそぐわない。どちらかというとホテルのラウンジの方がしっくりくる。
コーヒーを飲んでいる海外から来たビジネスパーソン……やだ素敵。
見た目が正統派ヒーローなだけあって絵になる。隣に秘書役でアレクシスさんに座ってもらって写真を撮りたい。
「――失礼します。これをあちらの方達から――」
<地球>さんにぴったりなシチュエーションはどこかなと妄想していると、水の一族のような男性が声を掛けてきた。
そしてその手には3人分の飲み物が。……まただ。
「どちらの方達ですか?」
「あちらのテーブルの方達です」
教えてもらったテーブルにいる人達に笑顔で飲み物を持ち上げてお礼の気持ちを伝える。
<地球>さんの笑顔が素敵だし様になってるんだこれが。チカチカさんもクールで素敵だし。
飲み物をくれたグループの人達は素敵メンズの対応にきゃあきゃあ言っていた。おかしいな、男性の方が人数は多いんだけどな。
「――やっぱりこの街の人ってなんとなくチカチカさんの凄さがわかるんですかね? <地球>さんもそうですけど」
惑星さん達の能力で周りの人にはうまく聞こえない様になっているので気にせず質問する。
さっきからこの感じが続いているのでここまで一切お金を支払っていない。しかも皆どちらかというと可愛い金髪少女より男性達に意識が向いている気がする。
「僕達の隠し切れない神感かな?」
「はるの妄想がここの人間受けするって事」
チカチカさんの言い方も少し引っかかるな。
「私も今可愛い感じですよね?」
「可愛いよ! 洗練されてないけど」
「普段の方がのんきな感じで良いけど」
2人とも好きだ。言い方は気になるけど。
「ようやく定番のちやほやがスタートするかと思ったんですけどねー。男性達の方がちやほやされてるっていう」
「こいつの子供達にちやほやされてるじゃん!」
「……そうでした」
ごめんよの気持ちを込めて膝の上のこじんまり達をこっそり撫でまくる。大きい組にも後から思う存分抱き着こう。
「ちやほやもされすぎると危険だからね~。特にはるちゃんは免疫がないから! 愛の免疫はあるんだけどね~」
「……気をつけます」
闇落ちしない様に本当に気をつけよう。次の人生はぜひともエスクベルでお世話になりたいし。
チカチカさんに頭を撫でられながら決意を新たにする。
「――おい、住民の若い奴らが集められるみたいだぞ」
「どうしたんだ?」
「なんでも祝祭の最終日に御使い様の前で踊りを披露するらしい。明日の朝港に集まるよう通達が出てる」
「一族じゃなくてもいいのか?」
途切れる事のない「あちらの方から」接待を受けていると、周りが騒がしくなってきた。
「おお~。カセルさん達仕事が早い」
「ゲートも人間が柵をつくってるね」
「おお~。あ、そう言えば島のゲート入口はどこになりますか?」
「はるちゃんの部屋だよ! HARU’S ROOMってお前にしては良いセンスしてるよね。特にハートが良いね」
「はるに合うと思いましたので」
やっぱりチカチカさんも昭和な感じが好きなんだ……。確かに小さい頃はハートを何かと描いてたけど、私いちおう平成生まれなんですけどね。
「えーと、カセルさん達は今何をしてますか?」
話を変える。感想を求められても困るし。
「港の執務室にいるよ」
「近いですね。虹色オブジェを見た後この辺りのひっそりポイントに来てもらいますか?」
「あの人間も一緒だけど。はるに踊りを教えてもらえるようにあの人間達に張り付いてる」
「ああ……」
話を聞いたんならそれもそうか。
「あの人間だと一発で音も振りも覚えられるからいいんじゃない? 楽器も演奏できそうだし」
「あれ? でもぐるぐるパーンてなるんですよね?」
それは勘弁してほしい。この街にとって大事な人材だ。
「こいつが島に戻れば平気!」
「でもどうせなら一緒に……。<地球>さんは参加するんですよね?」
「もちろん! おろおろ人間を一流のダンサーにしないとね~」
そこまでしなくていい。
アルバートさんごめんな。試練が待ってるよ。
「ならやっぱりチカチカさんも一緒がいいです」
この3人でいられる時間にも限りがあるのでどうせならね。
「じゃあいつもの拝謁パターンでいこうか!」
「……船で来てもらうって事ですか?」
「そうそう。島の近くならぐるぐるパーンってならないよ!」
「なるほど」
確かに、神の踊りをいつ教えてもらったんだという事になるからその方が良いかもしれない。
「じゃあそうしましょう。今は拝謁を楽しみます」
「だよね~。こいつはどんな顔して拝謁するんだか……プーッ!」
完全に<地球>さんを無視しているチカチカさんと、1人楽しそうな<地球>さん。
これはこれで楽しいからいいや。
拝謁の順番がくるまで、結局はバスケットにいっぱいの食べ物を「あちらの方から」される事になった。
しかもバスケットも貰い物だし、食べ物以外に何故か小物類もある。
新たな貢物はこれから毎日届くし島にもすでに大量にある。惑星の魅力凄すぎる。
これは引きこもってぐうたらしながら暴飲暴食をしろという事だと思う。わかった、そういうの得意。
「はるちゃんのあの顔! 面白かった~!」
「いやだってしょうがないですよね? あれに驚かない周りの人達がおかしいと思います」
「はる、しわ」
巨木の家に帰って来て貰い物を仕分けしている私。さっきからずっと笑われている。
拝謁の順番がきたので他の人達と一緒に船に乗り込み虹色オブジェの所まで近付いたのはいいが、松明の灯りに照らされてきらきらと輝いている虹色オブジェを楽しむ前に、光の届かない少し離れた場所に人の頭がたくさん浮かんでいる、という光景にまさしく度肝を抜かれたのだ。
つい「ひっ」と悲鳴を漏らして両脇にいた2人の腕をがっと掴んでしまい、その時の顔をいまだに笑われている。
「水の一族の人達が警備してたみたいですけど……絶対子供は大泣きすると思います」
夜に海中に潜むのはやめて欲しい。
「みんなも笑いを堪えてたよね~。僕ああいう空気に弱くって~!」
そんな事しらん。
「でも警備の人間に話しかけられて良かったね!」
「そうですけど……」
こちらが驚いた事に気が付いた水の一族の清楚系の美女が、こちらにすいっと泳いできて「驚かせてごめんなさいね」とウインクしてくれたのだ。
この顔でこの体の感じですか、とついついじっと見つめてしまった。
ダイナマイトボディってもう死語なのかしら。清楚ダイナマイト美女。
「ほほえましい空気が流れてて良かったよ~。人間達の感謝の気持ちもダイレクトでもらったし!」
<地球>さんはとても楽しんでくれたみたいだ。良かった。驚いた甲斐があるわ。
「――はい、仕分けは終わりました」
マッチャだけではなくみんなも手伝ってくれたので貢物もひとまず簡単に仕分けできた。
「じゃあそろそろあいつら呼ぼうか!」
「教える前に練習しておきたいです」
何年も昔の話だ。何か月も練習したから忘れてはいないと思うがおさらいはしておきたい。
「そうだね! じゃあ隣の部屋で――お前は鏡を出しなよ」
「鏡? ――おお~」
あっという間に隣の部屋の壁が鏡張りになった。体育館くらいの広さがあるダンススタジオの出来上がりだ。
「これ贅沢ですね~!」
みんなも鏡の前でポーズをとって遊んでいる。
「でしょ? じゃあミュージックスタート!」
慌てて髪を結びワンピースをがばりと脱ぐ。タンクトップと短パンが踊りやすい。恥ずかしいなんて言葉はここでは意味をなさない。
「はるちゃん手の先にまで意識!」
「メリハリ!」
「笑顔キープ!」
(……うるさ!)
何故か厳しく踊りを指導されている私。チカチカさんも腕組みをしながらじっとこちらを見ているし……。
はじめは思いだすように軽く体を動かしていたのだが、私が振りをちゃんと覚えている事を確認してからこうなったのだ。
「はるちゃんそこはこうだよ~!」
「足の角度はこう」
しかもこの惑星たちめちゃくちゃキレがあって上手い。なんでだ。
「あの……あんまり遅くなりすぎると……」
「じゃあ後1回通しでやってみようか!」
「……はい」
本番さながらの緊張感で踊る羽目になった。
「いいね! 勘を取り戻してきたね~」
「……はい」
ぐったりしながらエンにもたれ掛かり健康水を飲む。ナナの背中がテーブルみたいになっていて甘い食べ物も置かれている。愛しいモフモフ達だ。
「ボス、船をオブジェの所に運んでもらえる? うん小さい方、ありがとう」
向こうの準備が出来るまで着替えてメロディーをもう一度覚え直しておかないと。
「歌詞の意味はここの人達に伝わりますか?」
「いわゆる神の言葉ってやつで意味はわからないよ~」
「そういうもんなんですね」
イントロをどうやって伝えようか考えながら口ずさんでいると、ボスから「あいつらが船に乗った」と報告があった。
「はや!」
「他の人間達も別の船に乗り込んでるけど」
「族長さん達ですか?」
「そうだね」
忙しい時にごめんね。
「サンリエルさんは?」
「別の船」
こういう時に限って別の船か……。
「とりあえずカセルさん達だけ呼んで話をしましょう」
「よおし! 特訓の始まりだね!」
「……そうですね」
すまん……アルバートさんすまん……。




