そういう手もあったか
悲壮な顔をしながらも、眉間のしわを伸ばされている私をそっと窺う様に見ているカセ&アル。
わかる、気になるよね。今までなんの動きも発言も無かったチカチカさんが急に動き出したもんね。
「ではよろしくお願いしますね」
このまま何事も無かったかのように去ろうと思う。
「アルバートさんは部屋に戻るとして……カセルさんは港でいいですか?」
眉間のしわを伸ばして満足したと思われるチカチカさんをちらりと見ながら確認する。
「私はこのままアルバートの家に向かいますのでこちらで構いません」
「わかりました。ではアルバートさん、今日はゆっくりお休みになって下さいね」
勝手に連れて来といてなんだけど。
「は、はい!」
「ではまた。ダクス、ロイヤル、アルバートさん帰るからこっち」
こじんまりを抱っこしたところでアルバートさんの姿が消えた。
「途中まで同じ方向ですので一緒に行きますか? 港はこっちですよね?」
残っているカセルさんに声を掛ける。キイロも頭に乗ったままだし。
「……ご迷惑でないならぜひ……」
どちらかというとチカチカさんの方を気にしているカセルさん。一族だからやっぱり何かしら感じる所があるんだろうか。
「そなたの功績に免じて許す」
出たよ<地球>さんの謎キャラ。功績って寝起きドッキリの手伝いの事?
「ありがとうございます」
「お2人は地に足をつける感じでお願いしますね」
「うむ」
楽しそうな<地球>さんに、無言で頷くチカチカさん。そしていつにない様子で緊張しているカセルさん。
よくわからん集まりでなんだか気まずい。ここは私のコミュニケーション能力さんの出番だな。
「……最終日は出し物がいろいろあるみたいですが、カセルさんは何かに参加するんですか?」
「いえ。私とアルバートはヤマ様の接待役という事になっていますね。もちろん領主様もですが。ヤマ様はお越しになりますでしょうか? 本日お姿をお見せくださいましたあの偉大なる神様もですが……。どのようなおもてなしをすれば良いのか皆頭を悩ませておりまして」
「残念ながら我が主は長居は出来ぬのだ」
「……左様でございますか。失礼致しました」
我が主て。やっぱり話には加わりたいのね<地球>さんは。
「私の非礼をお許し下さい……。貴方様は、この世界にお越しになられた偉大なる力をお持ちの神様にお仕えされているのでしょうか」
「偉大なる強き神を守る役割を担っておる」
楽しそうだな<地球>さん……。
「街の者は皆あの素晴らしい出来事を一生忘れないでしょう。異なる世界の偉大なる神様に我々は心から感謝しております」
「そなた達の気持ちは偉大なる我が主も嬉しく思うであろう」
わざわざチカチカさんの近くまで移動して偉大なるを繰り返す<地球>さん。
そんなにアピールしなくても凄いってみんなわかってますよ。チカチカさんも。たぶん。
「最終日はエスクベル様もお姿こそお現しにはなりませんがご覧になると思いますので」
「誠に光栄でございます」
カセルさん少し涙目だ。チカチカさんに見てもらえるのはすごく嬉しいよね。今斜め前を歩いてるけど。
まあ見るっていうのとは少し違うけどね。
「そうそう、私は空中から見ようと思いますので接待は必要ないですよ」
「はい。それでは何があってもいいように待機しておりますので」
「カセルさんとアルバートさん、それにサンリエルさんの集団演武を見てみたい気もしますが……」
絶対にかっこいいはずだ。
「領主様が張り切りすぎて動きが揃わないかもしれません。1番見事な演武でしょうが……」
かも、ではなく揃わないと断言できるな。
「アルバートには集団演武に必要な最低限の動きは難しいですし、その他の出し物でも力及ばずと申しますか……かなり緊張するでしょうし……」
ああ……。想像できるわー。
「そのアルバートとやらに何かやらせよ」
でた。
「……理解不足で申し訳ありません。何かとは……?」
「神の使いに仕えるお前達が率先して神に芸を捧げるのだ」
問題だけ残して地球に帰る気だな。
「……承りました」
承らなくていいって! 私だったら絶対に嫌だ。会社の忘年会の出し物とか否定派だったし。何とかしないと……。
「――クダヤの街でも伝統的な踊りはありますよね? 相手がどんどん変わっていくようなものなど」
フォークダンス、みんなでやれば怖くない。名案だ。
「収穫祭などで踊る事があります」
「じゃあそれを見たいです。それにカセルさんとアルバートさんも参加してください」
「はい」
これで丸く収まったな。…………あれ? これってエネルギーを集めるチャンスなんじゃない?
「――お2人と同じくらいの年齢の男女限定で出来ますかねえ? お年頃の男女とも言いますが。もちろん男女の組み合わせで踊ってもらいます」
にこやかにカセルさんを見ると、すぐに私の意図を察したようだった。さすが。
「確か……以前ある男性の恋を応援をされたとか」
「そうなんです。こういうきっかけで恋が進展すると思うんです」
学生の頃はイベントマジックをよく見かけたものだ。まさしく愛と光だよね。
進展しなくても憧れの存在と手を繋いでダンスが出来るかもしれないし。あー懐かしい青春。
「はるちゃんは全然かすりもしなかったからちょっと笑っちゃったよ~」
「……んん?」
何で口調が。それよりも――
「カセルさん、今の聞こえました?」
「神の言葉は聞こえましたが……」
「大丈夫! この人間には理解できないから」
「なんだ、良かったです――違います良くないです」
これは問いたださないといけない問題だと思う。
「あのですね、<地球>さんはいつから私の事を知ってるんですか? 私も地球の生き物ですからそりゃあ知ってるとは思いますが」
「えっと……確か小学生の時にはもう目をつけてたんだよね。そのまま普通をキープして成長してくれて良かったよ~!」
言ってる事完全にアウトだよね。おまわりさんが出てくる案件だよね。
「私の青春時代すべて知ってるんですか……?」
「そうだね!」
「恋愛とか……も?」
「あの男とは付き合わなくて正解だったよ! 珍しく英断だったよね!」
そうか、英断でしたか。
「チカチカさん……」
この気持ちをどうすればいいのか。
「数え切れないほどの人間を見てきてるから気にする事ないよ。あの人間は無いと思ったけど」
「…………あの……チカチカさんもあの……小学生の頃から?」
「そうだね」
「こいつの世界に送り出す候補の子は全員教えてたからね~」
「そうですか……」
ふらふらと歩いて行き、うっすら姿がわかるモフモフ達に抱き着いて気持ちを落ち着かせる。そっと触れてくれた透明ボスのひんやり具合が今の気持ちにぴったりだ。
「あの……なんか恥ずかしくてよそよそしくなっちゃうかもしれませんけど、お2人の事は好きですから気にしないで下さい……」
「大丈夫だよ!」
「人間だからね」
人間だからという言葉がこれほど胸にしみるとは……。
「ありがとうございます。――カセルさんすみません、少々問題が発生しまして」
きりっとして御使い、ヤマ・ブランケットに戻る。
少々どころの問題じゃないけどね。
「いえ」
良かった。キイロが肩にとまり直してくれてたからとても嬉しそうだ。
「えーと……踊りの話でしたね」
「はい。年頃の男女の組み合わせでという話です」
「今から提案して最終日に間に合いそうですか?」
「ねえ、はるちゃんはあの男も応援したいみたいだけどさ、結局はその赤い奴が騒がれるだけじゃないの~?」
「あ…………」
名案が音を立てて崩れていくような……。
「でもカセルさんに憧れてる女の子達は嬉しいですから……。あの青年は後でフォローでも……」
「そうなんだ~。あの男は嬉しそうな顔をしてる好きな子をしばらく見てなくちゃいけないっていう試練なんだね!」
いや、あの、言い方……。
「はる、世界はバランスをとろうとしているから嬉しくない人間も出てくるのは当たり前」
「そうだよ! もっと素敵な出会いに繋がるきっかけになったりもするから平気だよ~」
それ先に言って欲しかったです。
「……カセルさん、やはり一族の男性に女性の人気が集まりますか?」
「そうですね……。男性も女性も一族の人間であればそれなりには……」
「そうですか……」
どうしよう。バランスって惑星さん達は言ってるけど、辛い気持ちになる人もいるって知ってしまったもんな……。
「はるちゃんはるちゃん」
「はい……」
「悩んでるなら体育祭でやってたあれにすれば?」
「……あれですか?」
「ほら、高校生の時」
「……あーあれですか」
フォークダンスではないけど男女の集団で動きを揃えるのは同じだ。しかも見ていて楽しい。
「あれなら連帯感とかで一気に仲間意識が芽生えるよ! 恋愛じゃなくてもエネルギーは集まるから大丈夫!」
「そっか。恋愛にこだわる必要はありませんでしたね」
やはり惑星なだけあるな。やけに日本の青春事情に詳しいけど。
「あ、でも今から間に合うのかな? 音楽とか振りも……」
「その人間は耳が良いから音はすぐ覚えられるよ。振りもはるが覚えてるし」
「大丈夫じゃない? ここの人間って神が大好きだから。こいつだけど。プーッ!」
<地球>さんはちょこちょここういうの挟んでくるよなー。
「カセルさん、先程の話はなしで。神の踊りを教えますのでそれをカセルさん達と同年代の男女で覚えて最終日に見せて下さい」
「神の踊りですか!」
おお、興奮してる。
「カセルさんは旋律をすぐ覚えられますよね? 振りも」
「はい! お任せください!」
「大変そうならアルバートさんは裏方でも大丈夫ですので」
「衣装を楽しみにしておるぞ――――はるちゃん、カメラに動画機能も付いてるからよろしくね!」
衣装まで手が回るのかなあ。
「アルバートも必ず踊らせます」
何だか楽しみになってきた。小さい子供のお遊戯会を見守る親の気持ちってこんな感じなんだろうか。
「では音ですが――」
「はる、あの人間がさっきの人間の家に向かってる」
「あの人間?」
「はるが距離感に困ってる人間」
「……サンリエルさんですか?」
「そう」
サンリエルさん……。凄い嗅覚してるな。
「サンリエルさんがアルバートさんの家に向かってるみたいです」
カセルさんに確認する。
「恐らく私が突然消えたので……。領主様にしか見られていないとは思いますが」
「まあそうですよね」
一緒にいたんだもんね。
「あのイレギュラーか~。こいつと会っちゃうとおかしくなっちゃうかも」
「え!?」
「力が暴走してぐるぐるパーンと」
何その設定。今でもちょっと変わった人なのにこれ以上はまずいな。
「カセルさん、踊りは後で伝えますので。サンリエルさんに話を伝えてもらって準備だけでもお願いします」
「かしこまりました」
「いつ呼べばいいですか?」
「いつでも構いません」
ですよね。ごめん。
「ではこれで。――どこかの人のいない所に行きましょうか」
「おっけ~!」
カセルさんに手を振りながらいったん別れる事に。
その間にこっちはこっちでお祭りを楽しもう。サンリエルさん、なんかごめんな。
感想について。詳細は活動報告へ。
 




