メイド イン 私
みんなで力を合わせて集めたオレンジ色の果実をひとまとめにする。
あの高さから落ちても潰れてはいなかった。
マッチャの話を聞くところによるとマッチャの役割はこの森を育てることで、様々な果実の種をいたるところに植えているらしい。
初めに見たやつは潰れたんじゃなくて種をとるのに潰したのね。まあその腕なら剛腕も納得だ。
さて中身はどんな感じかな? まずはキイロが角で穴を開けたものを確認する。
角から果実を抜く時に水分がどばっと出たのを確認しているのでヤシの実のような果実なのは分かっている。
どうもこの島、世界ともいうが<地球>の後輩と言われるだけあって見慣れたモノの要素を持ったものが多い。バナナみたい、だとかヤシの実に似てるだとか。
まったく予想がつかないわけじゃないから良かった。どぎつい色をした食べ物は視覚的に食欲がわかないから見慣れた色というのは助かる。
穴の開いた果実に口を添えて中に残っている水分を飲んでみる。
う〜ん。甘いんだけど薄味だし手がべとべとするかも。しかもぬるいからゴクゴクいけるわけでもない。
これは飲料としては優秀ではないな。
しかし手がべたべたするなー。
「ねえ、近くに手が洗える場所ってある?」
「フォーン」
あるみたいだ。マッチャの後を付いて少し歩くと、ちろちろと水が流れる小川があった。
「マッチャありがとう」
小川の傍に座り込んで手を洗い、少し勿体ないがオレンジ色の実の中の果汁をすべて水に流す。
地面に向けて数回実を打ち付けてみるが皮は破けない。もうこの硬さだと割れないといった方が正しいのかも知れないが……。
キイロがあけた穴に指を引っかけて左右に引っ張ってみるがビクともしない。
するとマッチャが実をさっと取り片手でグシャっと2つに潰してくれた。
「ああ、そっか。そうだよね」
マッチャが潰せたんだった。片手でというのがなんとも勇ましいことだが。
割れた皮は少し不揃いだけど水をすくうくらいはできそうかな?
中は白い果肉がついていて、そこにはスイカのようにたくさんの種が埋まっていた。
スプーンが欲しいところだが指でプルプルした白い部分をすくい食べてみる。
みかんだ。みかんの味がする。これは美味しい。少し弾力があるのもまたいい。
その美味しさに次々と果肉を食べ進めていく。行儀が悪いが種はぷっと遠くに吐き出す。面白い。
キイロとエンがこちらを覗き込んでいたので2人にも少し食べさせてみる。
口を上に向けて咀嚼しているようだ。
果物食べるんだ〜と2人を見ていたらぷっと種を私がやったように吐き出した。
そんなこともできるの!?
特にキイロって構造的に大丈夫なの?
まじで人化とかしないよね? と思いながら残りも分け合って食べ進めていく。
途中で種飛ばし競争みたいになってたけど。
マッチャも食べるかなと姿を探すと私達が飛ばした種を穴を掘って埋めていた。
「……なんか、ごめん……」
マッチャは優しい顔で種を埋めている。埋めているが……、ごろりと横になりながら埋めている。
手長いもんね……。
いらない仕事を増やしてしまったようで申し訳なさがつのる。
こちらも石で穴を掘って種を埋めることにしよう。
石でがりがりとやっているとエンが前足の蹄で一瞬の内に穴を掘り、キイロが嘴で種を咥えて穴に落としてくれた。
「ありがとー」
なんともハイスペックなお仲間達である。
あらかた中の白い果肉は食べ終え小川の水で綺麗に洗う。
これでお椀もどきを2つ手に入れる事が出来た。戻ったらあの液体を飲んでみよう。
お腹も満たされてきたので今日採取した物をどうやって木の洞まで持って帰ろうかと考える。
帽子を裏返して果実を入れられそうだが持ち運べる量が少ない。水も少し持って帰りたいので入れ物が欲しいところだ。
ぐるりと辺りを見渡して使えそうな物を探す。
大きな葉をつけた樹木がある。大きさは違うけどこういう観葉植物あったなーと思いながら両手でそれをちぎる。なかなか力がいる。
うん、風呂敷のようには使えそう。何枚かストックしておこう。
体重をかけて葉を剥がすようにちぎる。するとマッチャが近寄って来て手伝ってくれた。
「ありがとう。マッチャ、この葉を何枚か集めてもらってもいい?」
私がいてもあまり力にはなれないのでここは素直にお願いしておく。
マッチャは頷いて葉を集め始めた。優しい。
他にも使えるものはないかといろいろ見て歩く。
頭上から伸びているいくつもの木の蔓を見て考えた。
あれ、編めるんじゃない? そういうバッグあるよね。私もカゴバッグ1つ持ってるし。
近寄って手頃な太さの木の蔓を掴んでみるとやや柔軟性に欠けるがなんとかなりそうだった。
でも編み方がわかんないなー。
ま、いっか。とりあえず大まかなカゴの形を作って中にさっきの葉っぱを敷いて中のものが落ちないようにすればいいか。
よしハンドメイド女子の誕生だ!
手始めに蔓を集めようとぶら下がって引き抜く。その動作を繰り返しているとエンも口に蔓を咥えて引っ張り一緒に集めてくれる。キイロも蔓の根元辺りを嘴でつついている。
「よし、これくらいで大丈夫だよ。ありがとう。」
さっそく作り始めますか。
しっかしこれどうするかなー。まずカゴっぽい丸みだよねー。
手元の蔓を色々と丸めてみる。あ、これいけそう。
蔓をホースやコードを巻くときのようにクルクルと巻いていく。1列ずつ積み重ねるようにだ。ある程度の固さがあるのでいびつではあるがどんどんケーキの丸いホール型に近い形になっていく。
程良い大きさになったので今度は今まで巻いた方向とは垂直に、さっきの形を補強するように巻いていく。最後に蔓の端を隙間に埋め込むとバケツくらいの大きさの枠が出来上がった。
さて、底をどうしようか……。そうか、もう葉っぱで底を作ればいいのか。
マッチャが集めてくれた葉を5枚ほど重ねて作った型に蓋をするようにかぶせ蔓でグルグルと巻いて固定していく。
「出来た!」
強度なんかの面では不安が残るが初めてにしては上出来な気がする。
ハンドメイド女子やDIY女子の気持ちが少し分かるなー。
これは達成感がある。
1人感慨にふけっているとまたあのシャララという音。
これはなんとなく予想がついたのでさほど驚きはしなかった。
出来上がったカゴ1号は中にキイロが入って休んでいた。
キイロちゃんキイロちゃん、足の爪で底破かないでね?
あと何個か作っておこうと気合を入れてまた作業に取り掛かる。
たまに疲れたらエンにもたれかかって休憩する。モフモフしていて幸せ。
途中で追加の葉を集めていたマッチャも戻ってきて作業の補助をしてくれた。手先が器用って素晴らしい。
ある程度の材料を使ったところで5個のカゴが完成していた。
さっそく収穫した果実をカゴに入れていく。
おお、ちゃんと入る。
オレンジ色の果実が大きかったので3個分のカゴが必要になった。
これで果実は持って帰れるが水はどうしようか。
キイロの角で開けてもらって水筒みたいにできればいいんだけど……、その穴の大きさだと手が入らないから中の果肉を綺麗にとれないんだよなあ。
マッチャにやってもらうとお椀が増えるだけの気がするし。
あーナイフが欲しい!
ナイフ替わりの物って石? ここは石器武器の登場なのかな。
「あっ! キイロって魔法の力が使えたよね? その力でこうスパッと出来ない?」
良いことを思いつたとばかりにキイロにお願いしてみる。私を浮かせられるくらいだからきっと風属性の魔法のはず! 風といえばあれ! ふふふ、こんなところで私のファンタジー知識が役に立つとは。
「ぴちゅ」
「えっ? 力の加減?」
詳しく話を聞くと、スパッとは出来るらしいが狙った部分だけにというのは難しいらしい。
試しにやってみてもらうとオレンジ色の果実が切り刻まれた。
こういうのをオーバーキルと言うのだと実感した。
「……キイロありがとう。そういえばエンとマッチャはどんなことが出来るの?」
気になったので聞いてみた。
エンは火を出せるらしい。
エンもすごい! 今後魚を捕まえられたら焼いてみたい。今は森なので確かめるのが怖いが、後の楽しみが出来て嬉しい。
そしてマッチャは実際に見せてくれた。
突然私達を囲むようにほわんとうすい緑の膜が現れたのだ。マッチャが言うには結界だそうだ。
風船を触った時のような感触だが、外部からの干渉を一切受け付けないらしい。なにそれすごい。
……どうしよう私の役立たなさが際立ってしまう。
少しだけ自分のスペックの低さを嘆いたが、すぐに大丈夫だろうと思い直した。切り替えの早さには自信がある。<地球>さんも言ってたしね、出来る子じゃないから選んだって。
では早速ナイフの替わりになりそうな何かを見つけるか作るかしよう。
歴史の授業で習った大昔の生活の様子を思い起こし、やっぱり石だろうと考え鋭く尖っている石を探す。やってみないと分からないが木に括りつけて使えば皮を突き破るくらいの威力が出るだろう。
皆で良さそうな石を探し持ち寄り、1番尖っている物を選んで細い植物の蔓を使って手頃な木の枝にしっかりと括り付けた。斧っぽくは出来ている。後はこれで皮を割ることが出来るかどうかだ。
「よし」
気合を入れて地面に置いたオレンジ色の果実に頭上から振り下す。
……うん、壊れた。早速壊れた。固定させる蔓の強度が足りなかったらしくちぎれ飛んでいた。
う〜ん、これは組み合わせる場合強度に問題があるのか。今の私の知識と材料じゃ難しそうだ。
じゃあ石本体をもっとナイフのように加工してみるか。
そうは言ってもどうやって加工するのやら……。
そこでふと思いついた。
「ねえ、大きな岩ってあるのかな? そこにマッチャが石をぶつけたり、キイロがスパッとしてナイフみたいに出来るかな?」
これはなかなか良いアイデアだと思う。
「クー」
エンが体を低くし乗るように促してくる。案内してくれるようだ。
「お願いします。目的の場所は遠い? 果実を持って行った方がいいのかな? 木の洞に戻る時に2度手間にならないようにしたいんだけど」
そう尋ねると目的地は木の洞を挟んで木の滝があった場所の反対側にあると教えてくれた。今いる場所は木の洞を中心にそれらと三角形を形成する場所にあるようだ。
ちなみに私が外に出てあのまままっすぐに進んでいくと砂浜に着いたらしい。
砂浜! 明日の予定は砂浜の探索に決定した。
目的地からそのまま木の洞に戻った方が近いので今日集めたものを持って行くことにする。
さて、どう持って行くか……。
果実の入ったカゴ1個はマッチャが持ってくれるそうだ。空いているカゴ1個は頭にかぶるとしてあと3個分のカゴを上手くエンに乗せないとなあ。
考えた結果、残りの空いているカゴをエンの角にかぶせ、果実の入ったカゴを重ねてエンの背中に乗せ後ろから私が抱えるようにして運ぶ戦法をとることにした。
まずは私がエンに乗る。
もちろんキイロのふわっと魔法に再度助けてもらいながらだ。
そして蔓を使ってエンの角と私の体をグルグルとまく。小さい頃やった電車ごっこみたいだ。これで両手が使えなくてもある程度のバランスはとれるだろう。
マッチャからカゴを受け取り私の座っている前のスペースに重ねて置き、足で挟んで後ろから抱える。
空いているカゴはキイロとマッチャがそれぞれ器用にかぶせてくれた。
「重くなってごめんね。出発しようか」
エンに話しかけるとひと声鳴いて動き出した。
キイロは空を飛びマッチャは片手にカゴを持ったまま残りの手と両足で器用に木の上を移動していた。
(リアルターザンだ……)
そんなことを思いながら目的の場所に向かった。