文明の恩恵
「はる、次があるよ」
「そうだよ! こいつが気を利かさなかったから失敗しちゃったんだよ~」
「それはあんたにも言えますけど」
私は今涙目で白いご飯を食べている。お粥と白ご飯の中間の食べ物と言った方が正しいが。
「いつも炊飯器で炊いてましたから……」
謎の言い訳。
「家庭科の授業なんて随分前の話ですし……。薪だと火加減も難しいですし……」
ありとあらゆる言い訳がするすると出てくる。
「ネガティブはるちゃんが降臨しちゃったね~。まあそんな日もあるよ!」
<地球>さんが優しい。
「<地球>さんはまだ時間は大丈夫ですか? 成功した白ご飯を食べてもらいたい……」
「ほら、はるちゃんもこう言ってるよ」
「はるが言わなくても居座るつもりでしたよね」
「やったね! もうちょっと一緒に遊べるよ、はるちゃん!」
遊べるて……。
「ルールとかは平気なんですか?」
「集めたエネルギーを多めに持って帰る事になっちゃうけどね。でもまあこの感じだとすぐに取り戻せるから大丈夫!」
「じゃあこのご飯は雑炊にして明日の朝食べるのでこれからまた炊き直します――おお?」
気を取り直して再度チャレンジしようという時に真っ白な光が――。
「おめでと~!」
「人間達が港に集結してるから今日はあと何回か光るよ。貢物も送られてくる」
「盛り上がってますね~。なんで港に集まってるんですか? お祭りで?」
「拝謁の為だね。あと祝祭。今日から7日間だってさ」
「なが!」
7日間お祭りが続くのか……。いやでも日本でもひと月くらい続く祭りもあったような気がするから長くはないのか。
「いや~まいったね~」
いかん、また褒められ待ちが始まってしまう。
「贈り物も楽しみですね~。<地球>さんはどんな贈り物をされると嬉しいですか?」
地球に戻った時にも役立つ良い質問をしたと思う。
「そうだね~見えない存在達へも感謝の気持ちを持ってもらえると嬉しいかな? 心臓とかもらっても困っちゃうから! あ、でも織物とかは嬉しいかも!」
「はあ……心臓ですか……」
聞くんじゃなかった。惑星同士なら盛り上がれるのかもしれないけど。
「はる、量が多いから直接テラスに運ぶけどいい?」
「えーと……ああ! 贈り物ですね! お願いします」
チカチカさんありがとう助かります。色んな意味で。
そしてテラスに突然出現する巨大な祭壇のようなもの――
「え? これ……」
「いっぱいあるね~!」
「映画とかでこんなの見た事あります……」
石で作られたような祭壇には所狭しと食べ物が載せられていた。
そして中央のきらきらした装飾の小さな箱には手紙と本のようなものが。
「これ目録だ」
本には誰がどの贈り物をどのくらいしたのか書かれていた。前も似たようなのをもらったけどこの量。これって全部手書きだよね……。
そして手紙には勝手ながら7日間の祝祭を行い、その間毎日貢物を送る旨が書かれていた。そして最終日には神々にお見せしたいものがあるとも。
「<地球>さん、チカチカさん、最終日に集団演武とか色々と出し物があるみたいで良かったらぜひご覧下さいって書いてあります」
「僕は見れないな~。僕の為のお祝いみたいなものなんだけどな~残念だな~」
「はるだけ見に行きなよ」
チカチカさんのツンの部分が強く出てるな。
「<地球>さんはいつ帰るんですか?」
「朝までには帰るよ~。寂しいけど我慢してね!」
「はあ……我慢します。じゃあ今日お祭りを見に行きますか?」
街の人達も<地球>さんに自分達の歓迎の気持ちを知ってほしいと思うし。
「いいね~! はるちゃんはもっとぐうたらするかと思ってたけど意外と行動派だね!」
「私も驚いてます。ファンタジー補正ってやつかと。――チカチカさんも一緒に行きませんか?」
「あーこいつはそういうの興味ないから! 2人で行こうよはるちゃん!」
「光の状態の方が良い?」
えっと……。
「何お前行くの? どちらかといえば僕の為の祝祭だからさ? 無関心を装ってても本当は面白くないんじゃないの?」
「人間の見た目の方が自然?」
このやり取りももうすぐ見れなくなると思うと寂しいな。
「人型で行きましょう! 私見てみたいコスプレがあるんですけど……妄想実写化とも言います。そういうの希望出してもいいですか? あと顔バレしているので私もコスプレしたいです。私にも力は適用されますか?」
「もちろん! 面白そうだね~」
「あの、左右の目の色がそれぞれ違うっていうのを一度やってみたくて」
私も中学2年生の素養は十分に持っているんだ。
「じゃあ髪はピンクいっちゃう? それともグリーンいっちゃう?」
「私の顔に似合いますかねえ……? というかこの世界にそんな髪の人います?」
「あー。はるちゃんは日本人のお手本みたいな顔だから黒か茶色だよねー。でもメイクで何とでもなるから安心して!」
「はるは銀髪に憧れがあるんじゃないの?」
「!!」
まじか。チカチカさんにまで個人情報が……!
「銀髪はお2人のどちらかにお願いしたいなーなんて……」
私のプライバシーはどこへ。
「じゃあ僕!」
そう言って<地球>さんはさっと髪の色を銀色に変えてくれた。
「おお~かっこいい~。髪長く出来ます? 目はちょっと垂れ目で。あ、チカチカさんは黒髪でいかにも少女漫画のヒーローのような感じで――」
2人に個人情報が洩れまくっているのなら気にせず自分の好みを追求できる。ふふふ。夢の時間だ。
「――かっこいい!」
あれこれと希望を出しここに2大ヒーローが誕生した!
銀髪の<地球>さんはちょっと強引な明るい大人な役で、チカチカさんが正統派黒髪ヒーロー。いつも冷静だけど好きな子の為なら熱い男…………なんか冷静になると気持ち悪いなわたし……。
「あれ? はるちゃんどうしたの?」
「いや……なんか……自分の妄想に引いてたっていうか……」
「なんで~? みんな程度の差はあれど妄想してるよ~。犬系と猫系のキャラなんて普通でしょ。はるちゃんはベタな感じが好きだからさ~」
「そうだよ。幼馴染要素はいいの?」
マジで! 惑星のデリカシーの無さ! 知ってても口に出さないでほしい!
「…………幼馴染要素はカセルさん達4人で間に合ってますので……」
もっとうまい返しをしたい。
「……もう暗くなったので行きますか? 今日贈られてきたものはこのままで大丈夫なんですよね?」
結局サンセットなんて楽しまなかった。びちゃびちゃな白ご飯の事でそれどころじゃなかった。
「惑星の力でオッケイ! いつでも美味しく食べられるよ」
「祭壇は送り返しとくから」
「ありがとうございます。では出発…………その前に記念撮影を」
ここぞとばかりに自分の写真も撮ってもらう。金髪の外国人風のメイクをする事なんてこの先無いかもしれないし。しかも可愛いし。自分で言うけど。ライハさんには負けてるけど。
<地球>さんとチカチカさんと一緒の写真もたくさん撮った。<地球>さんとのツーショットには必ず島のみんなが紛れ込んできたけど。全然さりげなくない。
「ふー満足です! じゃあお祭りに行きましょう! 白フワは……タツフグが1人お留守番なのもかわいそうだからいいか。よし出発~」
いそいそとボスの背中に乗り込んでいると<地球>さんから待ったがかかった。
「僕達が揃ってるから今回は特別に瞬間移動で行っちゃおうよ!」
「……いいんですか?」
いちおうチカチカさんに確認する。
「今回だけね。どこにする?」
「移動する場所ですよね? ……拠点予定地ですかねえ。アルバートさんちの上の方の林エリアみたいなんですけど」
拠点予定地の下見をついでにしてしまおう。
「あそこね。はい」
「……!!」
あっという間に林の中に佇む私達。
「チカチカさんってすごいですよねえ……。ありがとうございます」
「ここねえ? なあんかいまいちじゃない?」
また小姑が登場してきた。
「上空からひっそり侵入するのに適してるみたいなんです。この林がカバーしてくれて。周りに家もありませんし」
「ふ~ん。簡単に侵入できればいいんだよね? ――はるちゃん、ごめんね」
「……ん?」
突然の謝罪。
何がと問いかけようとしたところで私の体が光り、真っ白な光がどんどん<地球>さんの手の平に吸い集められていく。
「また勝手な事を。私は知りませんよ、あんたがフォローするんですよね」
「はるちゃんなら大丈夫だって!」
だから何が……! 不安になるからそういう言い方やめて欲しい。
そして私の体が光らなくなったところで、「よっ」という緊張感の欠片もない声を出しながら<地球>さんが光っている手のひらで大きな円を描くと、そこに大きな岩が現れた。
「岩ですか……?」
<地球>さんとチカチカさんを交互に見ながら質問する。
岩……?
「はるちゃんはるちゃん、ここ触って!」
指示された場所は岩の表面の一部。特に変わったところは無い。
不思議に思いながらそっと手のひらを当てると突然岩が横にスライドした。
「わっ!」
スライドして現れたのは見覚えのある光の入り口のようなもの――
「……島の家の入り口みたいですね?」
振り返り質問する。
「せーかい! はるちゃんおりこうさん!」
頭をがしがし撫でられているがどういうことなのか説明してほしい。
<地球>さんではなくじっとチカチカさんを見つめていると、やれやれといった感じで説明してくれた。
「島とここを自由に行き来できるようになったんだよ」
「…………え!?」
何それすごい!
「それ……! すごい! <地球>さんチカチカさんすごい! ありがとうございます!」
興奮して辺りの面々に次々と抱き着きながら喜ぶ。
「はるちゃん嬉しい?」
「はい! ありがとうございます!」
<地球>さんに持ち上げられて空中くるくるされながら感謝の気持ちを伝える。
ちなみにチカチカさんは手を繋いてぶんぶん振り回してくれた。ジャイアントなんとかってやつかしら?
「ほら~だから大丈夫だって言ったじゃん」
「あんたまだ肝心な事を言ってませんけど」
おやおや? なんだか嫌な予感がするぞ。
「そうだったそうだった。はるちゃんあのさ――」
くるくるが止まり空中でだらんとしたポーズのまま話を聞く私。
「力が必要だったから集めたエネルギー全部もらったよ!」
「…………全部?」
「そうそう! 正確には僕がいる間集まったエネルギーも全部、かな。持って帰る分とこのゲートの分!」
「…………」
そっとチカチカさんを見る。そっと顔をそらされた。
<地球>さんを見る。きらきらした笑顔。
「あの……ちょっと下ろしてもらって……」
下ろしてもらいすぐさまマッチャに駆け寄り顔をうずめ抱き着く。この丸みをおびたフォルムが今は必要だ。
「ほら、だから言ったでしょう」
「え~!」
お偉いさんの言い合いを聞きながら、モフモフ達にぎゅうぎゅうと囲まれて気持ちを落ち着ける。
誰も悪くない。本当に悪意なんてどこにも存在してないんだけど、全力でバタ足をしたい気分だ。




