パーリーピーポー
<地球>さんに貰ったものをひとしきり確認した後はいよいよ写真撮影の時間だ。パシャパシャ撮るぜ。
「<地球>さんは今回も時間制限ありますか?」
学習できる私エライ子。
「あるけどゆっくりできるよ! ついでだからこいつの世界の人間がどんなものか見てやろうと思ってね。はるちゃんの事あれこれ言ってるやつがいるんだって? まったく! 全然管理が出来てないんだから困っちゃうよ」
「そっくりそのままあんたにお返ししますよ」
そういうの地球じゃ小姑って言うんですよ、<地球>さん。またはお局。
「地球と同じで色んな人がいますけど大体が皆さん優しいです。食事も用意してくれますし」
「はるちゃんはいつも嬉しそうに食事してるよね? 美味しい?」
「美味しいです。――チカチカさん、街の人達は今どんな様子ですか?」
そういえばお土産に興奮している場合じゃなかった。
今思い返せば恥ずかしくなるテンションでこっちに戻ってきてしまったんだった。<地球>さんのせいにするけども。
「クダヤの港に人間が集まってるみたいだよ。比較的力が強いのが船に乘ってる」
「街の偉い人達以外にも集まってるって事ですか?」
「この惑星の意思様のせいで神の審判が下されるって勘違いしてるね。島の近くで死ぬってさ。――困るんですけど」
嫌そうな顔をしてチカチカさんが<地球>さんを見るので、おブスと評された顔をして私も見る。
「はるちゃん、めっ! そんな顔しちゃ!」
眉間をぐいぐいされている。いたたた。
「なんで僕のせいなのかな? 人間が勝手に勘違いしてるだけだし~」
それはそうだが、あの降臨スタイルがこういう事態を招いたのは間違いない。
「あのですね、えーと、まあ若干私も関係なくもないんですけど……」
「膿み出しの際に起こった出来事を生き残った人間が伝えているんですよ。あんたもはると人間のやり取りは知っているでしょう」
「う~ん? ……あ~! あの『世界を無に還す』発言? あれか~はるちゃんなんで知ってるんだろうって驚いてたんだよね!」
もういいからその話はやめて欲しい。砕ける。ハートが。
「……あの、私ささっとごまかしに行ってきます。ついでに皆さんの食事も用意してもらいますので……」
ぱっと姿を見せてぱっと食事の注文をして戻ってこよう。届くまでの間は撮影会をしていればいいだろう。
「はるちゃん! お土産の出番だよ!」
「あー……そうですね……」
なんだこのタイミングの良さは。惑星の意思ってそういうのもコントロールできるとかないよね?
2人にぺこりと頭を下げ、ひと塊になってこちらを見ているモフモフ達に近付く。しかし何故かついてきている<地球>さん。
「あれ? どうしました?」
「僕も行くんだよ! 授業参観ってやつ!」
「…………」
「困ってるじゃないですか」
さすがチカチカさん。
「あの、恥ずかしいので……」
「そうなの? しょうがないな~じゃあ僕が一緒にごまかしてあげるよ!」
(何言ってんだ)
「何言ってんですか」
心の声とチカチカさんの発言が一致した。うん、私達間違っていない。
「僕の世界じゃさあ~もう降臨してもガセとか作りものとか頭がおかしい奴とかもう散々な言われようでさ~。昔はあんなに崇めてくれてたのにね~」
「降臨してたんですね……」
驚きの事実。
「色んな形でね。僕も自分で愛と光のエネルギー集めようとしてるんだよ~。まああまり手を出せないからうまくいってないけど! お使いを頼んで何とかやってるけどね」
「お使い?」
「前はるちゃんが言ってた子達にお願いしてるんだ」
「前?」
「妖精とか龍って人間には呼ばれてるかな?」
「…………おお~」
謎の感動。
「ま、その子達もエネルギーの塊だからあの姿も仮初にすぎないけどね」
地球に帰る楽しみが増えたな。死ぬまでに一度でいいから存在を感じてみたいものだ。
惑星の存在は今現在がんがん感じてるけど。
「<地球>さん、長生きしてくださいね。私も地球に戻って楽しく生きて寿命を全うしますから。転生っていうのがあるならまた地球か、今度はエスクベルに生まれるといいな」
なんとなくそう思ってそっと手を繋ぐ。エネルギーの塊だと思えば抵抗はない。
「……そうだね、長生きするよ」
そう言って<地球>さんは空いている方の手で頭を撫でてくれた。
「――はるはまたここで暮らす事も出来るけど?」
「あっ! しーっ!」
なななんですと?
「ばらされた~!!」
「いいじゃないですか。精一杯人間としての寿命を全うするって言ってるんですから」
「はるちゃんの肉体が寿命を迎える時に僕が伝えたかったのに~! サプライズが~!」
どんだけサプライズが好きなんだ。
「はるちゃん! あいつの言った事は確かに正しいけど、次の世界があると思って“今”をおろそかにしたらその特典は無くなっちゃうからね! “今”だよ!」
「い、今ですね? ……特典って?」
「はるちゃんが今やってるような、こういうお仕事をしてくれた子達が元の世界でしっかり自分の人生を生き抜いたらね、お仕事先の世界でまた同じような境遇で生活できるようにしてるんだ」
「お、おお……!」
ようやく物語の主人公っぽくなってきたんじゃないかな。
「もちろんお仕事先の世界が受け入れてくれたらの話だよ?」
その言葉に慌ててチカチカさんを見る。
「神の使いなんて呼ばれ続けて自己顕示欲が肥大し過ぎたらお断り。――まあはるなら大丈夫だろうけど……」
え? 何なの? チカチカさんってツンデレなの?
「はるちゃん、思ってるより人生を楽しく全うするって簡単じゃないからね? 時には何もかも投げ出したくなったり、私可哀想って周りのせいにしたくなったりするんだよ? ――まあはるちゃんなら大丈夫だけどね!」
「は、はあ……」
チカチカさんのセリフを完全に拝借してるな……。チカチカさんも呆れた顔してるよ。
「さ! こんな難しい話はもう終わり! 人間たちに説明しに行かなきゃ!」
「そうでした! ……本当についてくるんですか?」
「僕やってみたい降臨の仕方があるんだよね~。庶民の恰好をしたりして正体を隠しててね? 敵がこっちを侮ってくるんだけど最後には――」
楽しそうに、もはや何番煎じかわからない登場の仕方を語っている<地球>さん。そのパターンはテレビや小説で何回も見てる。
みんなに「おお~」って言われたいんだろうか。最近の降臨は散々な目に遭ってるらしいからその反動なのかもしれない。
「でもチカチカさんの世界ですし……」
困ってチカチカさんを見ると諦めたようにこちらに向かって頷いてくれた。後輩はつらいな。
「……<地球>さん、じゃあ設定を決めましょう」
被害は最小限に。
「設定~?」
「はいそうです。<地球>さんはどんな立場の存在として姿を現したいですか?」
「こいつが神なら僕ももちろん神! さらに上の!」
「……なるほど……じゃあこうしませんか? 違う世界の神様が遊びに来たっていう設定で、力が強すぎるのであんな感じになってしまったと」
設定というかまんま事実。
「力が強すぎるってとこがいい! そのまんまだけど!」
「この世界に神様がお2人存在する……2柱でしたっけ? その説明が思い浮かばないんです。今までチカチカさんの事しか話題にしていないので」
「なるほど~」
「チカチカさん、違う世界の存在とかばれちゃうとまずいですか?」
「この程度の文明だと完全には理解できないだろうから大丈夫」
「そうだよ~。僕の所でも信じない人が大半だからね!」
まあ普通地球ではそんな話は創作の中だけだもんな。それにしても<地球>さんはよっぽど降臨に失敗してきたんだろうな……。
「では先程の説明の後に、友人の神様がお見えになっていますので食事をお願いします、これでいきましょう」
「おっけ~! じゃあどんな外見でいく?」
「そのままじゃないんですか?」
「だってこれははるちゃんの好みだからさ! 神が実際に存在している人間と似てたら良くないよね~」
「……確かに」
ネコ科ガルさんが興奮しすぎて大変な事になりそう。
かといってどんな外見がいいのか全く思い浮かばない。
「<地球>さんの要望はありますか?」
「大きい!」
「はい」
「光ってる!」
「……はい」
「あと素敵って思われたい!」
「…………はい」
チカチカさん、自己顕示欲の塊がここにいます。
「素敵って事は……人型ですか?」
「まあそっちの方が親しみやすいんじゃないかな?」
「人型かあ……」
大きくて光っている人型で実際の人間に似ていない人型。
「あ、あのよくCGとかで表現される無数の光が人間の形をしてるっていうのはどうですか? 常に動いているような」
これなら顔とか色とか体型もごまかせるので似た人間は出てこないだろう。
「お~いいね~! 目立つね~!」
「何もない空中の1点からこうじわじわ~っと光が溢れ出てくる感じで」
「つかみはばっちりだね!」
「それから口調ですが――」
やけにアイデアが湧いてきてその後は率先して降臨演出を考えてしまった。演出家としていけるかもしれない。ふふふ。
チカチカさんは終始興味無さそうだったが最後に「せっかくはるが考えたんだからちゃんと演じてくださいよ」と<地球>さんに言っていた。好きだ。
「――よし、じゃあそろそろ降臨いっちゃおう!」
「はい」
「違う! いえ~い! はいっ」
何か言い出した。
「い、いえ~い?」
「のってるか~い!?」
「(古っ)いえ~い……」
「もっと大きな声で!」
「……いえ~いぃ……!」
降臨に対する態度が前のめり過ぎる。
もの凄く困った顔をしてチカチカさんに助けを求めたら眉間のしわをそっと伸ばされた。なんでだ。




