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幸せに暮らしましたとさ  作者: シーグリーン


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103/216

判明

 




 白い霧に紛れていつもより低い位置を移動しているからか、街の喧騒もしっかり聞こえてくる。



「ねえ、ボスでもみんなでもわからない事が島で起きてるんだよね……?」


「キャン!」


「うん、守ってもらうね……ありがと……」



 ありがとうとは言ったが、この世界の意思であるチカチカさんの子供とも言える、それもボスがわからない出来事があるなんて……。

 これはひょっとするとまずい事態じゃないだろうか。



「ぴちゅ」

「キュッ」


「そうだね、チカチカさんが絶対何とかしてくれるよね……?」



 全力の他力本願だがしょうがない。



「そういや白フワは島に入れるの? やっぱり入れない? ――タツフグのとこ? わかった、白フワはそこで待っててね」



 島の巨木が光の柱状態になっているのを見ながら、気合いを入れて(チカチカさんへの祈り)家に向かう。










「変なところは……ないね」



 途中白フワをタツフグエリアに落としテラスが見える位置まで来たが、特に何も変わった様子はなさそうだ。

 もう少しテラスに近付いてチカチカさんを呼ぶ。



「チカチカさ~ん! 何かあったんですか~!? チカチカさ~ん!!」



 しかし、いつもの点滅は返ってこない。全くの無反応。



「えー……これ本気でやばいやつだね……」



 緊張しすぎて手汗が酷い。ぎゅうっとみんなに抱き着きながらどうしようか相談する。



「このままずっと外にいる訳にはいかないよね……」


「フォーン」


「何があるかわからないから単独行動は禁止で」


「コフッ」


「だよね、そうなるとみんなで一緒に中に入るしかないよね」


「クー」


「……うん。じゃあエンに乘って入る……」



 やっぱり勇気を出して中に入るしかないのか……。まあ中に入るという選択肢しかないのだが――いや、あったわ。先に島全体に変わった様子はないか確認しに行ってもいいな。嫌な事は後回しにしてもいいよね。

 うんそうだ、そうしよう。



「ねえ、先に島全体を確認してからさあ――え? 特に変わった事は無いの? へ、へえ~そっか~」



 ボスのとんでも能力だが今はありがたくない。



「……タツフグの安全を自分の目で確認したいから砂浜に行きたい」



 何とか後回しに出来る理由をひねり出す。

 さっき上空からチラ見したけどそれじゃあ不十分だからさ。うん、そう。

 みんなはもちろんこの提案に反対しなかった。ありがとね。



「よしじゃあ「はるちゃん!!」






「…………いま…………」


「はるちゃんってば!!」



 確実に名前を呼ばれた。



「……ボス、とりあえずここから離れて」



 なになに怖い。

 とりあえず距離を取ろうとしたのだが、離れるどころかどんどんテラスに近付いている。



「えっえっ!? どうし――力が使えない!?」



 まさかの事態。

 混乱しながらもぎゅうぎゅうとみんなのもふもふに隠してもらう。そして――



「ちょっとはるちゃん! すぐ家の中に入らないからこっちのサプライズ計画台無し!」



 ……いきなり怒られてるんですけど。それにしてもこの感じどこかで……?



「ほら! もう1回家の中に入る所からやり直して!」


「もう無理ですよ」



 なんか増えたんですけど!



「大丈夫だって! 大体さあ、そっちが非協力的だからこうなったんだと思うよ?」


「呼ばれても返事をしませんでしたし、力を使えない様に協力してますけど。あんたの気配もきっちり消してますし」


「そんなの本気出せば僕だって出来るんですけど~?」


「ここは私の世界ですからね。勝手な事をしたら上に報告します」


「へ~そんな事言うんだ~? この世界の文明を何億年も短縮して誕生させることができたのは誰のおかげかな~?」


「あんたじゃない事は確かです。あんたがやった事と言えば、勝手に海の底にあんたの世界のエネルギーを繋げて生まれたばかりの大陸を海に沈めた事です。そのおかげでそちらのエネルギーの影響が望んでもいないのに出ています」


「あ、あれはさあ……ちょっとエネルギーをもらいたかっただけで――」



 どうしよう。こっちほったらかしなんですけど。

 しかも話が壮大過ぎて逆にすごさが伝わらないっていう……。

 そおっともふもふの中から顔を出して声のする方を見るとそこには、2人とも性別は不明だが30代と10代くらいの人物が立っていた。



「あ! はるちゃ~ん! こいつが昔の事をいつまでもねちねちと言ってくるんだよ~! ――うわっお前の子供こっちを威嚇してくるんだけど!」



 ベストオブ騒がしスト。文法はめちゃくちゃだが気持ちは表現できていると思う。



「あの……チカチカさんですか……?」


 だいぶうるさい人は少しそっとしておいて、胸をときめかせて10代に見える人物に近寄り話しかける。



「そうだよ」

「はるちゃん! 僕はえーと、はるちゃん風に言うと<地球>さんだよ! <地球>さん!」



 ちょ、うるさ。驚きながら喜ぶタイミングがどっかいっちゃったよ。



「<地球>さんですか……」


「そうだよ! 嬉しい!? 僕に会えて嬉しい!?」



 文章でアレで実際の会話でこうなるか。会えてうれしい気持ちもあるけど<地球>さんとは文章のやり取りだけでも良かったかもしれない。

 シェイクされて記憶を失う前の私もきっと同じ事を思っただろうな……。



「嬉しいというよりびっくりしてます……」


「あはは! だよね? 実はね……聞きたい?」



 うわあ……女子か。



「はるのレベルアップとエネルギーが一定数たまったから押しかけて来たんだ」

「ちょ! 言わないでよ!」



 あのぽかぽかという擬音が聞こえてきそうな動作は昭和の少女漫画だな。実は読んでるのかもしれない。



「昨日今日と街に行った事で随分たまったんだよ」


「あっ僕が言おうと――」


「あれ? 音とかピカッはありませんでしたけど」


「僕が内緒にしてって頼んだんだ~。サプライズだから!」



<地球>さんはサプライズが万人に好まれると思ってるんだろうな……。私あんまり好きじゃないんだけど。しかしそんな事よりも伝えたいことがある。



「……ええと、ではあの衝撃と光の柱は<地球>さん?」


「そうそう! 降臨って感じでしょ? ちょっと張り切り過ぎて力の制御失敗しちゃったけど――あれ? どうしたのはるちゃんその顔!? おブスな顔になってるよ!」



 おブスでもいいんだ。これは抗議の顔なんだ。



「……さっき産まれたばかりの赤ちゃんがいるんです……窓ガラスとか割れちゃってたし……もしかしたらけがをしているかもしれないんです……」


「ほら、調子に乗るからこういう事になるんですよ。――大丈夫。あの人間達は誰も傷ついていないし、けがはしても死ぬほどのけがをした人間もいないから」


「ほ、ほら! 大丈夫だって! はるちゃんほらほらいいこいいこ!」



 眉間のしわを伸ばそうとするのはやめて欲しい。



「普通に会いに来てくれたらもっと嬉しかったのに……」


「だそうですよ」


「お前うるさいよ! そうだ、はるちゃんにお土産持って来たんだよ~」


 そう言うやいなや何もない空間から突然、テレビで見た事があるものが現れた。



「これ女性が旅をする時に被ってたやつ! はるちゃん達は市女笠って呼んでるやつだよ。あ、もちろん僕の手作りだからね!」


 そう言って平安時代の女の人が被っていそうなものを手渡された。



「これ……」


「この垂れ布が優秀でね~綺麗でしょ? はるちゃん御使いなんて呼ばれちゃって……プーッ! こいつの御使い様なんてかわいそうにねえ? そうそう、この垂れ布越しにはるちゃんからは周りがはっきり見えるけど、向こうからははるちゃんの顔は見えないからね。僕の力がこもってるから安心安全だしね!」


「あ、ありがとうございます……」



 お土産は嬉しい、嬉しいんだけど……この笠は使いどころが今後果たしてあるんだろうか。

 街ではこんな手の込んだものはもちろん使えないし、拝謁とやらも顔を知っているメンバーとしかする予定はないしな。

 しかもやっぱり刺繍はイニシャル以外もたくさん入ってるし。



「それともうひとつあるんだ~」



<地球>さんは楽しそうだがなんだかこちらは100%楽しめない。たぶん反応に困るものなんだろうな。



「じゃーじゃん。カメラで~す!」


「え!?」



 咄嗟に<地球>さんが手にしているカメラを凝視する。少しだけサンリエルさんの気持ちがわかったようなわからないような……。



「カメラですか!?」


「あ、やっと笑った~。やれやれ、親は大変だね~。ずっと写真が撮りたいって言ってたでしょ? 島でしか使えないけどこれで無限に撮れるから!」


「ああああありがとうございます!」



<地球>さんに関係する事で1番嬉しい。しかし、喜びのあまり<地球>さんに抱き着こうと伸ばした手はすかっと体をすり抜けてしまった。



「わっ……わ……!」


「おっとごめんごめん」



 体勢を崩しそうになったところで<地球>さんとチカチカさんに助けてもらった。



「エネルギーを固定するの忘れてた~」


「ありがとうございます……。さっき眉間を触られたから実体があるものとばかり……」


「これ? 僕たちはおおまかにいうとエネルギーの塊だから、実体はあるともないとも言えるんだよね~」


「はるの好みの姿にするってうるさくてね」


「しーっ!」



 ……なるほど。だから2人とも地の一族系統の見た目なのか。



「確かに見る分にはそういう見た目の方が目の保養にはなります」



 地の一族の人はあの性格であの外見だから好き、というのは伝えないでおく。



「でしょでしょ? こいつさあ、ただのチカチカした光のままで姿を現そうとしてて~ほんと女の子の気持ちがわかってないよね~」



<地球>さんの言う女の子って昔の少女漫画の女の子だと思うけど。



「チカチカさんはもうずっとこのままですか?」


「それも可能」


「やったあ~。でも人型だと違和感があるのでチカチカした光でも大丈夫ですよ。食事の時は人型になってもらって一緒に食べたいです。ご飯は食べられますか?」


「食べようと思えば」


「楽しみですね~」


「ちょっと!」



 少しクールな感じのチカチカさんと楽しく会話していると<地球>さんが割り込んできた。



「うるさいですね。なんですか」


「うちの娘に馴れ馴れしくしないでくれます~?」


「<地球>さん、今さらなんですけど……」



 すでに何日もお世話になってるんですけど。



「あーあ! 遠くの肉親より近くの他人だっけ? あーあ! ――はるちゃんこれもあげる」



 露骨に好かれようとしてきてるな。それ小金持ちのおじさんが若い子にやるやつじゃないかな……?

 その<地球>さんが出してきたのは馴染みのある携帯音楽プレイヤーだった。



「うわ~ありがとうございます! これも良いんですか?」


「もちろん! 僕仕様だから地球のどんな音楽でも聞けるし歌詞も出るよ! ビーチパラソルかこっちか迷ったけどこっちにしといて良かった~!」



 本気でこっちにしてもらって良かったです。



「これでビーチパラソルが無くてもプライベートビーチで優雅に楽しめるね!」


「はい! これ操作は同じですよね――あれ?」



 プレイリストにすでに曲が入っている。



「お? なんだこれ……?」


「あ! それ僕のおさがりなんだ~。新しいやつを作ろうと思ってたからちょうど良かった!」


「へえ……」



 編集されているプレイリストのタイトルには『今の人間的1990年代』と書かれていた。

 やっぱり選ぶものがちょいちょい古いんだよな……。平安は古すぎだけど。<地球>さんにとったら同じようなものかもしれないけどさ。


 ある意味、他人の好みを垣間見てしまった気がして少し複雑な気持ちのままプレイヤーを操作し続けた。






☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆

100話でした。

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