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幸せに暮らしましたとさ  作者: シーグリーン


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追い込まれると出来る子

 




 ミュリナさんが突然産気づくという予想もしなかったアクシデントが発生。

 というか子供を産む時には必ず起こる出来事ではあるが今なのか。この赤ちゃんは物語の主人公タイプだ絶対。

 ジョゼフさんは「だ、大丈夫か!?」とミュリナさんの手を握りあわあわするだけで、もちろんカセルさんとアルバートさんはもっとおろおろあわあわしている。



「え、えーと、そう! 出産は誰に手伝ってもらうんですか!? ご自分ですか!?」



 男性はなんとなく頼りにならなさそうな気がしたので、苦しんでいるところ悪いがミュリナさんに質問する。

 ここの人達ってちゃんと哺乳類の出産のような産まれ方だよね? 卵とかじゃないよね?

 私もたいがい混乱している。



「……近所のおばあちゃんに……変則的に……少しいた……今朝……あって……」


「今朝から痛みがあったりなかったりであってます!?」



 苦しそうな顔をしながら頷くミュリナさん。

 まずい。出産エッセイ漫画からの知識によると、これは本番の陣痛というやつではなかろうか。



「……ジョゼフさん、そのおばあちゃんの名前とお住いをカセルさんに。カセルさん、全力でそのおばあちゃんを連れて来て下さい」


「はい!」



 何が最善なんてわからないがやるしかない。落ち着くんだ。



「ジョゼフさんはミュリナさんの傍に。――すみません!!」



 テントを飛び出し大声で周りにいる人達に話しかける。



「赤ちゃんが産まれそうなんです!! 助けてください!!」


 そう言った途端、大勢の女性がわらわらと詰めかけてきた。どうしよう、めっちゃいる。



「どこなの!?」

「大変!」

「ちょっとあんた先帰ってて!」


「こっちです! 今、出産の手伝いをしてくれるおばあちゃんを呼びに行ってます!」


「わかったわ。ここじゃない方が良いわね」

「ここから1番近くてベッドがあるところはどこかしら」

「あなた動けそう? できたら柔らかい綺麗な場所で産みたいわよね」

「ゆっくり息を吸って」



 頼りになりすぎるんですけど。かっこ良すぎなんですけど。アルバートさん顔が真っ青なんですけど。



「――動けそう? そこのお兄ちゃん、大きめの馬車を呼んできてくれる?」


「は、はい!」



 アルバートさん、足がもつれまくってるよ……!



「お嬢ちゃん、柔らかい布を持ってこれる? 馬車に即席のベッドを作るから」


「はい!」



 めったにない素早い動きで布を扱っているお店を探し出し、お金を払おうとするとお店の人が「もってけ!」と大量に商品を持たせてくれた。

 神! チカチカさんじゃない方の神!  



「ありがとうございます! 後で……!」



 走りながらお礼を言う。

 戻ってきた時にはすでに、訓練されているかのような動きで女性達がてきぱきとなにやら準備を進めていた。

 クダヤの女性って全員レスキュー隊員養成学校とか通ってんの……? 素敵。





「――――お待たせしました!」



 無駄のない女性達の動きの邪魔にならないようひっそり見守っていると、予想以上に早くアルバートさんが馬車を連れて戻ってきた。そしてこれまた綺麗に素早く道を空ける人々。



「お兄ちゃん早かったね」


「街の人が一緒に……!」



 よろめきながらも御者台から降りてきたアルバートさん。良くやった(上から)。



「じゃあみんな、そっとお母さんを馬車に運ぼうか」


「任せて」

「旦那さんは少し離れててね」


「僕も手伝います!」

「あ! お、俺も……」


「大丈夫だよ、私達でなんとかなるから。ありがとうね」



 その女性がそう言うやいなや、なんと女性達だけでミュリナさんを馬車に運び入れてしまった。

 皆さんどちらかというと痩せているのに、テレビで見た事があるレスキュー隊員の動きそのものなんですけど……。クダヤの住民ほんと凄い。他国民の印がある人もいるけど、てきぱき具合からして確実にクダヤに住んでいるとみた。



「旦那さんも中に入っていいよ。ごめんね、そのおばあちゃんが来るまで私も中にいるから気を遣うかもしれないけど少し我慢してね」


「いえ! ありがとうございます……!」


「じゃあ私達は何かあっても対処できるように近くにいますね」

「何年もお母さんやってる私達が見守ってるからね!」

「旦那さんもしっかり息するんだよ」


「お父さん達もついてるからな~!」



 こちらを見て苦しそうにしながらもミュリナさんは微かな笑顔を見せてくれた。そして馬車の扉が閉まった。






「――――はあああああ~」



 ようやくひと息つける。そして謎のぐったり感。アルバートさんなんてその場に座り込んでいるし。

 旦那さんばりに感情移入しちゃってるな……。優しい子だよ。



「びっくりしましたね~。あ、そのまま座ってていいですから」


 とっさに立とうとしたアルバートさんを制し、よいせと私も若干離れて座る。この距離感なら大丈夫だろう。



「やっぱりお店の話がきっかけですよね?」


「い、いえ……」



 優しい子アルバート。



「何か問題が起きそうなら持てる手段をすべて使って何とかしますから」



 これ以上心強い言葉もないだろう。その言葉にアルバートさんも少し笑顔を見せてくれた。

 この場にいる皆さんに守役スペシャルティーでも用意しようかと腰を上げたところで、遠くから歓声が聞こえてきた。



「なん――――カセルさんだ……」



 歓声のする方向に視線を向けると、おばあちゃんをお姫様抱っこしたカセルさんが見えた。

 まるで何も持っていないかのように軽やかに、それでいてもの凄いスピードでこちらに到着したカセルさん。



「お待たせしました~。おばあちゃんを連れてきました~」



 お、おう。予想外の運搬方法。



「男前のお兄さんありがとうね。死ぬ前に良い思い出が出来たよ」


「まだまだお若いじゃないですか! 足を下ろしますね~気をつけてくださいよ~」


「まあ、嬉しい事を言ってくれるね」



 おばあちゃんはカセルさんから離れる前に一度首に抱き着き、周りからの「きゃあ! 羨ましい!」の声に見送られながら満面の笑みで馬車の中に入っていった。おばあちゃん頼んだぞ。






「間に合ってよかったです。さすがに慌ててしまいました」



 にこにことこちらに向かってくるカセルさんだが、この場の女性、中には男性からもときめきの視線を向けられている。



「あー……ありがとうございました。見ず知らずの私なんかのお願いを聞いていただいて……」



 とっさに、カセルさんとは今知り合ったんですアピールをする。

 仲良くないですよ~。



「……いえいえ、困っている人がいたら助けるのは一族の務めですから」



 優秀な男カセル氏、こちらの意図をくみ取り話を合わせてくれる。



「お兄ちゃんありがとね! 馬車を呼んできてくれたお兄ちゃんも!」



 馬車から入れ替わりで出てきた女性がカセルさんとアルバートさんに話しかけた事により、周りの人達も一斉に2人に話しかけ始めた。

 このタイミングを逃さずその場からそっと離れテントの中に潜む。座ってゆっくりしたい。


 カセルさんは女性達からお姫様抱っこをせがまれていたが、アルバートさんは小さな子供に飛びつかれて強制抱っこをさせられていた。この違いは面白い。

 この人だかりの中にカセルさんの事を知っている人がいたようで、2人が拝謁許可を得ている2人だという事が広まり、どんどん人が増えていった。



(人増えたな……。ミュリナさん大丈夫かな……出産に何時間もかかる人いるから……。静まり返ってる所よりある程度ざわざわしている方が良いのかなあ。そういや市場が閉まる時間帯はどうしよう。ミュリナさん達の商品はアレクシスさんに預けてもいいのかな? ――男の子かな、女の子かな? 双子とかなら面白いな――――)



 うとうとしてきたので周りから見えないような位置で横になる。



「あ゛~」


 ついつい低い声がもれる。あー島の温泉に入りたい。

 そして横になりながら辺りの話し声を何となしに聞く。――その時、かぼそい泣き声が聞こえてきた。



「――!」



 本日2度目の素早い動きで上半身を起こす。すると今度ははっきりと力強い泣き声が聞こえた。



「産まれた……!」



 慌ててテントの外に飛び出し、てきぱきと動いている女性達の後ろからじっと馬車を見守る。

 すると中から産まれたての赤ちゃんを抱いたジョゼフさんが出てきた。

 祝福ムードに包まれる市場。ジョゼフさんは涙目で周りの人達に感謝の言葉を述べていた。


 何かの映画を見ているような気持ちでその光景を眺めていると、ジョゼフさんがこちらにやってきた。



「――本当にありがとう」


「おめでとうございます! 周りの方達が頼りになりすぎて驚きました」


「はは、そうだね。母親って強いね」


「女の子ですか?」


「そうだよ。抱っこしてもらえないかな?」


「えっ?」



 突然の高難易度ミッション発生。



「産まれたばかりですしどう抱っこしていいのか……」



 首もすわっていない産まれたての赤ちゃんなんて抱っこした事がない。変な風になったら怖い。



「僕も一緒だよ。じゃあ手をこうして――」


「お嬢ちゃん肩に力が入りすぎだよ」

「落ち着いて」

「人間って意外と丈夫なんだから」



 クダヤレスキュー隊員さん達に微笑ましく見守られながら産まれたばかりの赤ちゃんを胸に抱く。



「うわあ……」



 謎の母性本能がむくむくと。



「うわあ……」


「同じ事しか言ってないよお嬢ちゃん」

「でも気持ちもわかるわ~」

「愛おしくてたまらないのよね」



 わかる。自分の子供じゃなくてもこの可愛さ。

 地球に戻ったらすぐ結婚しようと思う。できたら。


 私が代表で抱っこし、カセルさんとアルバートさんは女性達に手をごしごしと拭かれた後赤ちゃんの髪の毛を恐る恐る人差し指で撫でていた。私と同じく慣れてなさすぎ。



「旦那さん、そろそろ奥さんも落ち着いただろうしあの馬車で家に帰った方が良いかもね」


 そのひと声でクダヤレスキュー隊がてきぱきと馬車に荷物を運び始めた。

 市場の人達も通常モードに戻りつつある様子を邪魔にならない場所でカセルさん達とぼんやり眺めていると、1人の男性がこちらに近付いてくるのに気が付いた。


 その男性は頭に布を巻き、片方の目に黒の眼帯のようなものをしていた。眼帯あるんだ……。



「――子供が産まれたのか」


 ジョゼフさんにそう話しかけた男性。



 あ、この顔と声知ってるわ。



「そうなんです。皆さんに助けていただいて……」


「そうか……」



 ちょっと、あんまりこっち見ないでもらえますかね。



「これは祝いだ」


「い、いえ! 見ず知らずの方にこんな大金を……!」



 ジョゼフさんと話しながらちらちらとこちらの反応を窺うのやめてもらっていいですかね。



「今日世話になった者達にそれで礼をするといい」



 どこの億万長者だよ、という言葉は心の中に秘めておく。彼はほんとに億万長者だし。









 それにしてもそのアイテム……。完全に中学2年生です、サンリエルさん。








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