第009話 悪魔deエースパイロット
お待たせしました。えらい時間がかかってしまった……。
『ヴァラさん次主星を基準とした11時方向!第二惑星の陰から戦艦百、重巡洋艦百五十、護衛艦三百!それと強襲揚陸艦が十機に空母級が数機程居ますが宇宙空間の戦闘なのでこれらは後回しで良いでしょう。第六惑星方面軍まだ気付いていません、チャンスですっ!』
「どこがチャンスなんスかあああああああっ!?無茶振りにも程があるッスよ!」
はいはーい。ヴァラちゃんでース!現在ゆっくり挨拶してる暇はちょっと無いんで今回の挨拶はこんなもんでっ!
『取りあえず自機はいつも通り乗り捨てるつもりで落とせるだけ落としちゃってください!その艦はデータ的にはあちらさんに知られても問題の無い技術しか使ってないのでっ!』
「アイン少年もここ二月で随分と無茶言うようになっちゃったッスねー……ちょっと護衛艦が多すぎて連中の懐にゃ入り込めそうにないんで今回は空母と戦艦は諦めるッスよ!」
『了解!』
……とまぁこんな感じにアイン少年の報告の通り航宙戦に突入直前といった状況なんスが、その戦力比実に一対五百弱。何この無理ゲー。
そりゃ自分は悪魔だし?例え生身でやり合ったとしても、ちょっとばかり存在値を星幽界の側に寄らせれば幾ら威力があろうとただの物理攻撃の類が効くことも無いからね~。それこそコイツ等が使ってるらしき時空破壊攻撃なんかが来たとしても一旦世界の裏側に逃げ込めば済む話なんスけど……斃される事が無いのと勝利出来るのはまた別モンってね。
相手は比較的鈍重な戦闘艦隊だから長距離移動の準備も無しに亜光速にまで達するような無茶な速度じゃないんスけど、それでも生身で追い付くにゃ常識外れな相対速度、おまけにこっちの攻撃もそれこそ大魔術クラスの大砲を直撃させるか大鎌の直接攻撃を当てないと撃沈出来ないっていうね。
試しで最初の頃に三機程沈めてみたんスけど、無理無理。ありゃ効率悪いなんてモンじゃなかったッス。あんなペースじゃ下手したらそれこそ全て沈めるのに何百年かかるんだよって話ッスね。ンなちんたらやってる間に自分に脅威を覚えた人類が妙な発明をするかもしらんし、万が一自分等に有効な攻撃手段なんか開発されたらたまったモンじゃねッスよね。
まぁ人間達を殺るだけだったら連中の生存領域である惑星上に降り立って種無しの呪いでもばら撒いていけば百年後位には簡単に滅びてくれるとは思うけど、所長からの依頼は「人類を種の規模として害する事無く時空破壊の手段を取りあげよ」ッスからねー……ちゅー事でしょうがないのでアイン君特注の恒星間宇宙船に乗り込んでSFバトルものの真似事なんぞをやってたりする訳ッス。
最初の方はそもそもの技術レベルがこの宙域の人類とは桁一つ違うんでさくさく進めたんスけどね~。やはり突撃タイプの超スペック艦とは言えどこう圧倒的な物量差で攻め立てられると自分はともかく艦の方がもちゃしないんで、逃げて隠れて撃墜しての繰り返しで中々攻めあぐねてるってのが現状ッスかね。
そんなこんなで今も護衛艦二百程と重巡洋艦百、それと戦艦を数機程道連れにして自機を爆散させてから亜空間経由で拠点の一つの小惑星まで戻ってきたところッス。
「ただいま~やっぱり一機でアレ等を相手取るのはきついッスねぇ。はー応援ほしー」
「ご苦労さまです!でもここ二月程でこの宙域の人類達の直接戦力は三割も減少していますし、お陰であちらさんも警戒してるらしく最近では人類同士の小競り合いも減ってきているみたいですね!」
「その分日に日に自分への風当たりが強まってる気もするッスけどねぇ」
最近ではもう自力で空間を跳び続けるのも面倒になってきたんで、ここ二月で星幽界側に仕込んでおいた非常用ルートを使ってるんスよね。いつも通りにアジト内部へと直接姿を現し、その度にアイン少年配下の乗組員達がどよめきを上げるのがここ最近の日課となりつつあるッス。
そりゃこんなSFバリバリな世界で悪魔とか言われても信じる奴は殆ど居ないとは思うけど~。実際に何度も目の前で自分のような存在が実在するという現実を見せてるんだし、そろそろそういった存在に慣れても良いんじゃないかなと思う次第ッス。
そういえば、自分達ってこの宙域の人類に全てに対する敵対行為のように思われても仕方が無い事をしている筈なんスが、皆さん色んな事情があるようで案外自分達の活動は全面的に支援されているみたいッス。この人達に関してはアイン少年が所長に許可を取った上で雇ってるんでまぁウラは取れてると思っていいんスかね?
まぁそれはともかくとして。アイン少年が言うにはしっかりと敵さんに打撃を与えてはいるらしいッス。毎回毎回どこから湧いてくるんだと思える程に馬鹿げた数を相手し続けてるモンだから正直その辺の手応えとか全然感じられないんスけどね。
「ほへぇ~。近代戦闘じゃ兵力の三割が損耗したら軍隊としては全滅状態、なんて話もよく聞くッスけど、そろそろ全滅と考えちゃっていいって事なんスかね?」
「いえ、それは後方支援も全て含めた数値の話ですね。近代戦は直接戦闘以外の要素を占める割合が随分と増えていますから。ほら、こちら側も実際に戦闘しているのはヴァラさん一人となりますけど、僕を含めたサポートの面々がそれでも三十人程居るでしょう?」
成程、自分の場合ほぼ片道切符のつもりで使い潰してるから事後の整備が無いだけで本来兵器っちゅー精密機械にゃ性能維持のための点検・整備は欠かせないッスからね。そういった後方支援も含めた総計を母数とするってことは……。
「……あー、そう言う事ッスか。そんじゃただでさえ無人化が進んでるこの宙域の艦隊じゃ直接戦闘に参加する生身の人類は減ってきてる訳だし、実際に全滅判定となると――」
「艦艇が今現在も人口惑星で製造され続けている以上、今回の事例で言えば少なくとも護衛艦と巡洋艦を九割以上、それに戦艦、空母の類も半数は沈めないとあちらさんもまだまだ諦めることは無いでしょうねぇ」
そッスよね~。はーこりゃ当初の想像以上にしんどいわー。
「ちなみに、現時点での損耗率は如何ほどなんスか?」
「そうですね――生産体制や後方支援諸々も含めたあちらさんの総損害の割合で言えば、まだ3%もいってるか怪しいところです」
「すくなっ!?……もぉそれやっぱり連中の拠点に衛星でも質量弾として投下しまくった方が手っ取り早いって。所長にゃ不幸な事故でしたーとか言っとけば」
「僕、未来永劫地獄を味わいたくないでしゅ……」
「……そッスね」
最近ようやく自分にも慣れてきて屈託のないご褒美のような笑顔を向けてくれるようになったってのにお仕置きの様子を想像しちゃったのか、アイン少年ったらまたまたぷるぷると震えて萎縮しちゃったッスね。
あの所長のことだからそんな事したとばれた日にゃアイン少年みたいな人間は精神どころか存在をすり潰されるまで色んな天罰しちゃいそうだしねぇ。迂闊な事言ってまた怯えさせちゃったッス、反省反省。
そもそもあの所長のことだから何処で何を監視してるかも分かったモンじゃ無かったッスね……。
「うーん、それにしてもこちらも毎回こんな出費じゃあ採算が取れてないんじゃないッスか?」
「一応この世界にも有志の協力者は居るんですけど……そうですね、そろそろ資金的に節約はしたいところです」
「ッスよね~」
古今東西戦争をやる上で一番大事なのは何かと問われれば、有識者のほぼ全てが真っ先に挙げるであろう事項が資金源ッスからねぇ。万の敵を屠る英雄、唯一至高の神器、まぁそういった強力な壊滅要素も当然あるに越した事はないけれど、古来より英雄を屠るは人間の謀略、と相場は決まってるッス。つまり相手側の単騎がいかに強力であろうと、圧倒的な物量やそれを前提とした作戦で孤立さえさせてしまえばこっちのものってね。
現に自分もアイン少年の携わった狭間のチート技術満載の戦闘艦を自分でも笑っちゃう程に乗り捨て続けて尚、技術的には数段劣る筈の相手方は圧倒的な生産力に支えられた物量と形振り構わぬ作戦により拮抗してきてまスからね。こちらも中々、敵中枢に潜り込めずに攻めあぐねている状況ッス。せめて潰しても潰してもすぐまた湧いてくる護衛艦の群れだけでもどうにかなればねぇ……。
という訳で今回のように目的を果たすまでの比較的長期に及ぶ作戦ではやはり、生産力がモノを言うッスね。それさえなきゃ自分達みたいに激戦の最後に自爆宜しく突っ込めば上手くいけば戦艦の二、三隻は道連れに出来るし、幾らでもやり様はあるんスけどね。
とは言え、自分達の相手はこの宙域の人類全てッスから。まさか人類皆殺しにする訳にもいかんし、しかしこのままじゃあジリ貧になるのは目に見えてるッス。ちゅー事はやっぱりあの手しか思い付かないんスよ。
見ればやはりアイン少年も同じ事を考えていたらしくちらちらとこちらを見ている様子。幾ら自分が真っ当なやり方じゃ死なない悪魔だからとは言っても心情的にやっぱりアイン少年側からは言い辛いんスかね……優しい事で。
「自分の見解としてはでスね。長期的に見れば兎も角、ここ最近の戦闘で駆逐艦に始まる小回りの利く艦艇にゃ結構な損害を与えた。つまり一時的に敵さん方も拠点の防衛網は薄くなってると思うんスよ」
「ふぇっ?は、はいっ。そうでしゅねっ……いひゃっ!?にゃっにゃにするんでしゅかヴァラしゃんっ!」
少年や、そう焦るんじゃない。そんな顔を見せられたら嗜虐心が疼いちゃうじゃないッスか。
ちょっとばかり少年のもっちもちとしたぷるんぷるんのほっぺをむにむにと握って堪能した後、自分はこう言ったッス。
「――ときに少年、『スターFOX』って映画、ご存知ッスか?」
「……へ?」
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天球下部世界某星系、第四惑星衛星環内―――
その巨大ガス惑星に連なる衛星の合間に創られた、全長150kmにもわたる巨大な球形の構造物。全体的にメタリックな感じにテカってはいるけど、あの映画みたいに機械機械した感じではないみたいッスね。
所長より送られてきた最新のデータによると、宇宙艦隊の製造工場の一つでもあるこの人工衛星の内部に以前から各宙域に存在するものと同質の揺らぎが確認されているそうで。どうせならその揺らぎの元である時空破壊兵器を無力化させるついでに中枢を乗っ取って資材とかも頂戴しちゃって、今後の宇宙艦隊戦への戦力の糧にさせて貰おうということで十代目かになる機体に乗って宇宙の艦隊軍を振りきり、ここまで辿り着いた訳ッスが。
「ヒャアアアアア!もう我慢出来ねえっ、いくッスよー!!」
「ヴァラしゃぁぁあああん!?僕まだ死にたくないでしゅっ!?」
あの後丸一日かけてアイン少年を説得し、一週間後に作戦決行の時はやって来たッス。
いざという時のためにいつでもアイン少年を亜空間内へ引っ張り込んで避難出来るよう自分の身体に縛り付けて出撃した訳ッス。ここ最近の自分の猛攻により一時的に減少したとはいえ、それでも気が遠くなる程の護衛艦の群れを気合いで突っ切った辺りで少年がいつも通りのそそる泣き顔で何か言ってたのに気付いたんだけど気にしない気にしない~。
出撃前の予測通りこの製造工場にはどうやら大事なモノが隠されてるみたいッスね。いくら製造工場とはいえ今回はこちらも既に三百機以上落としてるっちゅーのにどれもこれも逃げる気配すら見せやしない。もしかしたらたんに生産の拠点を潰して回られると厄介だ、と思われただけかもしれないッスけどね。
いずれにせよこれを成功させないことにゃ資金的にジリ貧になるのが目に見えてるんだし、命の一個や二個位かける価値はあるッス!実際に賭けてるのは少年だけだけど。
「安心するがいいッス!こんだけ低空に張り付いて飛んどけば対空砲の餌食にもなりにくいし、それに艦隊連中なんかホラ、宙空で何も出来ずにいるじゃないッスか」
「どっちかというとヴァラしゃんがうっかりで地上に機体を引っかけて犬死にするのに巻き込まれそうなのがあっ……ヴァラしゃん前ぇぇ!?」
「ちょっ少年それフラグ……ぬもぉッッ!?」
いきなり視界に入った「それ」をどうにかやり過ごし……たつもりがどこか逝っちゃったらしく、途端にアラームが鳴り響きそれと共にお馴染みのレッド・ランプが船内の至る所で光り始めてしまう。
少年、こういう時に要らん事言うと的中してしまうっていう因果律を知らないんスか!?案の定多少のライトアップこそされてるものの夜側の地表付近は見え辛い事この上なく、たまたま突き出していたほっそいアンテナか何かに機体の下部がかすめてしまい―――
「――っとと、命拾いしたッスね少年!それにしても映画みたいに華麗にゃいかんスなー」
「ここは映画館じゃないんでしゅっ、もっと現実を見据えてに生きて下しゃい!うぁぁ……今のでレッド・ランプが一気に十個以上点灯したぁ!」
やっちまったゼ★
どうやら今直ぐ大破即帰還っちゅー最悪な自体に陥る事こそ無かったものの、あまり長いことこの船に乗り続けるのも難しそうな様子ッス。という事は早めに中枢への入り口を探し出さにゃーならん訳ッスが……。
「あ、ありました!このまま真っ直ぐ50km程進んだ先の竪穴から、比較的中枢部に近い位置までショートカットで降りる事が出来ます!」
都合の良い事に衛星上のデータを読み取っていたアイン少年がそんな知らせを寄越してくれる。こりゃ行くしかないッスね~。
「そーりゃナイスな情報グッジョブッス!後はその竪穴が砲塔の類じゃ無い事を祈るのみッスね!」
「それ考えないようにしてたのにぃっ!?」
「どう頑張っても人間死ぬ時は死ぬだけッス。人間五十年、下天の内をくらぶれば~ってやつッスよ」
「なんか違う気もしますけどぉぉ……」
さぁ、そろそろこの機体内部も赤い光とけたたましいアラームで過ごし辛い状況になってきちゃったし――思い切って竪穴に突っ込むとしまスか!
「傲慢な天の使徒共めが……」
「私達のやろうとしている事は、それ程までに罪深い……という事なのでしょうか」
「生憎我等にはその是非を知る由も無いが、最早後戻りをする事は出来ん――出来んのだよ」
「……仰せのままに」
宇宙より舞い降りる純白の死神を見上げ、壮年の男の姿が忌々しげに吐き捨てる。
それに傅く女の姿は、自身の主を仰ぎ見るが――窺い知れるのは壮絶なる覚悟の表れのみ。そのモノはそんな主へ何かを言おうとして、だがしかし今更自分に言える事は何も無いのだと察し……希望の光を捨てた瞳で歩き出す。
「行ってまいります。我が主、此処で今生の別れとなるでありましょう我が不忠、どうかご容赦を……」
「……頼む。後、少しなのだ。どうか、それまでの間――」
「はい、この身命を賭してでも」
去っていくそのモノ――自身の娘の似姿をしたアンドロイドへと……男は僅かな間の謝罪と、そして愚かな自分へ仕え続けてくれたことへの感謝を捧げ、再び『舞台』へと向き直る。
男の視線の先に在るそれの画面には「○○年への跳躍まで、後一時間」との文字が映り込んでいた―――
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「ついに此処までやってきてしまったか……この我が『時空跳躍機関』の基幹部にまでッ!!」
「はいはい、ご高説はこのアイン少年が全部聞いてやりまスんで誰だか知らないけどオッサンはとっくりと話し続けるがいいッスよ。自分は別に邪魔しないんで~」
「我が『娘』が生命を賭して稼いでくれたこの時間で創りあげたこの障壁―――あっ、こら!まだ私の話は済んで……馬鹿なっ!?何故我以外の何人たりとも通さぬ絶対障壁を超えることが出来るのだ貴様っ!」
「何故と言われましてもねぇ。流石この人工衛星全ての炉をフル稼働させた最終防衛システムなだけはあって対物理障壁としちゃ確かに最高位に近い出力を発揮してるとは思いまスよ?でも星幽界側への対策がこうガバガバじゃぁね~」
「ぐっ……ここまでなのか」
量質共に所長クラス……相手だとそんでも軽く力押しで塵にされそうな程度じゃあるけど、少なくとも自分にゃこれ程の対物理障壁をどうにか出来る物理火力は持ち合わせちゃいないッスからね。恒星間移動手段を持つに至ってないこの世界の人類の割にはとんでもない成果ではあるんスが……やはり生身だと星幽界に干渉できない辺り、まだまだ人間達が自分等の域に達するのは難しいみたいッス。
「それに、その『娘』っちゅーのは……この絡繰り仕掛けのお人形さんの事ッスか?」
言って自分は今や生首と化したロボの首を道中持ち歩いていたズタ袋から引きずり出して見せ付ける。
途端、愕然とした表情になって自分へと駆けてきたオッサンは、自分のデコピンで盛大に吹き飛んで……。
「おのれぇ、おのれぇっ!!我が『娘』までもそうまでして自らの定めた法の支配を強制するつもりかっ!?天の下僕共めが!」
「フッ、所詮お前等人類なんぞは我々の餌に過ぎねーんスよ。幸いにも自力で真実に辿り着く事が出来たんだからついでにそのまま絶望の果てに潰えるがいいッス」
自分の言葉に顔をどす黒く変色させて怒りを顕わにするオッサン。そこに―――
「……主様」
「っ!?『娘』よ、まだコアは無事だったかっ!」
「申し訳…ありません。力及ばず主様にまで危険に晒し、我が身の不甲斐無さを……」
「そんな事はないっ!お前は今迄良く尽くしてくれたっ!!私の開発した技術の恩恵にあやかり下らぬ縄張り争いをするだけの魑魅魍魎共の中、お前だけはずっと私を見続けていてくれたではないか!!」
「主様、勿体のうございます……」
ここで少しばかり話が脱線しまスが……実物とのデータ照合をしたアイン君曰くこの『時空跳躍機関』がここの宙域の揺らぎを増やしていた根源で間違いないらしいッス。こちらとしちゃ『時空跳躍機関』を押さえた時点で今回の依頼は達成したも同然なんで、後はこの三文芝居を特等席で見ておくのものも悪くは無いんスけどー。
「この子のデータを吸い上げて軽く見させて貰ったけど、どうもお前、過去に跳んで歴史の改変を目論んでいたらしーッスね。何でも本当の娘の死を無かった事にしたいんだとか?」
まぁどこにでもあるような悲劇の一つッスね。色々あったんだろうケド自分等にゃ特に関係も無いし説明は割愛しときまスね。
「やはり、貴様達は自身の決めた法に沿った歴史を歩ませねば気が済まぬという事か……」
「何とでも取ればいいッスけどー。それで、過去の『娘』を取り戻すために今の『娘』を目の前で見殺しにするっちゅーのはどんな気持ちッスかね?」
「……まさか」
そんな自分の発言に破滅的な予感を覚えたオッサンが慄きながら自分を見上げてきたッス。それに対し自分は久々に悪魔然とした歪んだ笑みを顔に張り付け、力無く目を瞑るロボ子の生首をオッサンの眼の前に持っていき……。
「やめろっ、我の、俺の娘を……やめロォオオオオオオオッッッ!!」
「ホゥム、ラン♪」
その言葉と同時にロボ子だったモノを大鎌の柄で勢い良く振り抜き……直後軽い炸裂音と共に辺りに機械だったモノの破片が飛び散ったッス。
「おぉ、おぉぉぉおぉ……」
「アンタは、折角出会えた自らの新たな娘を、自身の行いでまた死なせてしまったんスよ」
「おぉお……」
最早自分の姿も目に入らぬ様子で言葉にならぬ声を上げながら、自身の『娘』だった残骸をひたすらにその手でかき集める壮年の男。そこに先程までの仮初の信念などは既に無く……やがて跪いたその身体より、全ての気力が失われてしまうのが見て取れたッス。
「……チッ。後味悪ぃッスね」
ホント、芝居にしても胸糞悪ぃッス。あの若作り年増女め、こんな三文芝居の脚本書きやがって……。
「ヴァラしゃぁああん!『時空跳躍機関』全機能フリーズしました!――えっと、こちらさんは?」
「所長の策略にハマっちゃった哀れなオッサンってやつッスよ」
「あ~」
出撃前に狭間との通信を一緒に聞いていたアイン少年はオッサンに憐みの視線を向けてしまう。かく言う自分もなんちゅーか今回は流石にこのオッサンの様子に罪悪感で胸が一杯になっちゃったんで、そろそろいいかとまたズタ袋からあるモノを取り出したッス。
「あの…申し訳ありません主様」
「ぉおおぉぉ……なっ!?」
「その、実は――」
聡明な読者の皆さんにはまたまたお判りになられているとは思われまスが。
裏事情としては大体こんな感じッス―――
「―――どうやらこの人工衛星を拠点としている科学者が時間跳躍手段を創り上げたようですね。はぁ、人間というものは何時の世も本当に驚かせてくれるものだわ……」
「いや~そら流石にびっくりッスね。狭間でもそんなん作れるひとってそう居ないんじゃないっけ?」
「装置や概念自体はそこそこ居ますけど、皆似通った『過去』の世界に飛んだ報告しか無いですねぇ。今回の揺らぎ付近の計測結果からすると本当に過去に戻れる可能性もありそうだからワクワクしますね!」
監視者になってまだ日が浅い少年は一人ワクワクしてたけど、それってモロ因果律に関わる事態だからちょっとどころじゃ無くやばいんスよね。最悪関わった連中全員の口封じをする羽目になるかなーと思ったけど、そこに所長がいつもの怪しい目の光を湛えてにっこりと。あー…これあかんやつや。
まぁそんなんでこの中心部へ来る途中に遭遇したロボ子を撃破したついでにこうして協力して貰って、こんな歯の浮くような台詞を言わなきゃならなくなったんスよね……後でお年玉例年より多く貰わにゃ割が合わんッス!
「お宅の事情はそこそこ知ったつもりッス。んで、さっき自分がアレを振り抜いた時の気持ちはどうだったッスか?その想いを潰してでもまだあるかも分からぬ過去を探求したいと思うッスか?」
「……いや、もうやめだ。実の娘を見捨てるような薄情な親と言われてしまうかもしれないが、こうして現在を生きている我が娘を見捨ててまで旅発つつもりは、もう無くなってしまったよ」
「主様……」
「『娘』、いや我が新たな娘よ。苦労をかけたな……本当に済まなかった」
「―――はい、ぬし……父上」
やれやれ。どうも所長が絡むと毎回こんな感じの終わり方に誘導される気がしてならねッスね。身近の愛を認識させーとか、平和に目覚めさせーとか、そういうのは自分みたいな悪魔じゃなくて配下の天使連中にやらせろっちゅーの!
「んじゃそろそろ帰るとするッスか~。自分もアイン少年のもちもち成分を吸収しないといい加減擦り減った心が悲鳴を上げてダウンしちゃいそうなんで~」
「あ、ごめんなさいヴァラしゃん。ジヴリール所長からここの後始末とこのお二人の保護も追加で頼まれたのでそこまでお願いしましゅ」
「まじッスか……ところで少年、もうその語尾定着し始めちゃってるみたいッスね」
「がーん!?せっ折角一度直したのにぃぃぃ……」
こうしてこの後、外の戦艦の群れの大掃除をしてから人工衛星を自爆させ、その影響でもはやこの世界に留まる事が出来なくなった天才科学者とその従者ロボは狭間へ保護という名の招致をされたりと色々あった訳ッス。一応依頼目的も達成したし、自分も所長から予想以上の額のお年玉を貰ってホクホク気分で魔界へと戻ったんス……が。
「済まん。あの後『スターFOX』談義で馬鹿二名がヒートアップしちまって上映会がぶち壊しになってな……お前から預かってた『V』シリーズの初回版が灰燼と化しちまった」
「………」
それを聞いた直後バーを飛び出し、魔界の最深部まで逃げ込んでいたいつもの腐れ縁二人を探し出してとっちめてやったのは当然として。
プレミアが付きまくった『V』シリーズの初回版を買い戻すだけで折角のお年玉を使い切ったことをここに記しておくッス……ぐすん。
普段書かないSFモドキと言う事で設定やらなんやらで四苦八苦。
あくまでモドキですけどね。