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第007話 悪魔deクリスマス

 クリスマスという事でちょっと大人し目に。


 教会暦では一日は日没から始まり日没に終わるので、12月24日の日没からクリスマスが始まり、12月25日の日没にて終わるのだそうです。

 という訳で投稿時間もそれに合わせてみました。


 長文の会話部分はネタなんで読み辛かったら飛ばしちゃっていいッスよ!

 Jingle, bells!Jingle, bells! Jingle all the way!


「うぇーい!」

「――ヴァラ。無駄口を叩いてる暇があったら梱包作業にもっと集中なさい。既に任務(ミッション)開始まで二十四時間を切っています。この後には検品作業も残っていますしやる事はまだまだありますよ」

「……あ、はいッス」


 メリー、クリスマース♪

 全世界のぼっち野郎にぼっち女子の皆、性なる夜は間近ダゾ☆こちら、ただ今ライン工も真っ青な量を手作業で延々とこなし続けている、ものづくり系悪魔のヴァラちゃんでッス。

 ああ、こんなナレーションしてる間にも納期が…納期が……。


「そちらの進捗度は如何程ですか?問題が無ければ私はそろそろソリの車庫入れ準備をしてこようかと考えておりますが」

「概ねじゅんちょーでありまス、ロボマスター。多分恐らくきっと何とかなるなるー」

「具体的な母数に対する割合で示しなさい。この手の品は真心を込めて間違いのないよう確実に届けるのが肝要なのですから」

「うぇぇ……ロボに真心とか言われてもピンとこねッスよ。どうせどれも似たような品なんだし別に適当でも良いじゃないッスか?」


 賢明な読者の皆さんなら既にこの会話からお判り頂けたと思いまスが、今回の召喚者(いらいにん)は目の前の人型形態を取っているロボットさん。依頼内容は納品作業補助みたいなお仕事ッス。

 ただこの世界は随分と文明レベルが高いらしくロボって言っても半ば市民権を獲得している節があるみたいだし、目の前の召喚者(いらいにん)は見た目だけならサンタのコスプレをした美人のおねーちゃんなのでこうして話してる分にはあんまり違和感も無いんスけどね~。


 そんな自分の不満に対しいつも通りの大真面目な顔でこちらへと向き直り、ロボマスターが淡々と事実の説明を述べ始めるッス。


「元来クリスマスとはラテン語でいう『クリストゥス・ミサ』の略でChristキリスト)mas(礼拝)を意味し、宗教的な祝祭の意味合いが強いものです。しかし歴史を紐解いてみると古くは紀元前より続く太陽崇拝に端を発し、クリスマスも当時の欧州へ唯一神教が入り込んだことにより太陽崇拝の祝事が歪められたとの説が根強く残っており、またそこから派生した宗教的思惑による創作話の類が蔓延し現在ではその起源についての確証を得ることは最早不可能であります。そも世界中へ『クリスマス』という固有名詞が広まり祭りとして定着しきった今敢えてデリケートな話題である宗教論議を重ねるなどというのはナンセンスであり、それは我が祖を作り賜うた『サンタクロース』、つまり聖ニコラウスの遺志にも反するところです。何より、この世界にあまねく聖夜の夢を待ち侘びる子供達へ幸せを送り届けるのが我等サンタクロースとしての私に課せられた使命であり、その重労働に耐えるアンドロイドとしての設計、また自身の存在定義(ほこり)というものなのです。私はその『夢』に応えるべく増援として貴女を召喚し、そして貴女はそれに応じた。なればこそ貴女はこの任務に対して常に真摯たるべきであり、依頼人(クライアント)としての私の要望を最大限に果たす義務があるのです」

「う、そりゃお説ご尤もってなもんッスけどね……」


 そこまで一気に話し終え、強い意志の光が宿る造り物の瞳で自分を見据えるロボマスター。正直途中の部分は読む必要もないんじゃね?と思ったり思わなかったり。でも言いたい事はよく分かったんでちょっとばかり引きながらもロボマスターの話に頷くしかない自分が居たッス……。











 今回のお仕事の発端となる召喚は、いつも通りに死神マスターのバーで飲んだくれてた時に自分宛ての端末にのみ直接通信の形で入って来たっていう、珍しい形式だったんス。それだけじゃなくてその内容を確認した時はちょっと目を疑っちゃったッスね。

 だって魔力の欠片も無いロボが悪魔召喚式を実践レベルで扱い、それも不足していた力部分はこの土地に流れる龍脈から少しばかり拝借して完璧なまでの召喚術を起動させてたんだもん。最初は何の冗談かとその場に居合わせたマスターとオフ休暇中で遊びに来ていたアナエルとの三人で揃って二度見どころか五、六度位見直しちゃったッスよ。


 そもそもこの世界は前に行った封鎖都市系列の端っこに隣接する傍系の小世界ってやつでさー。前回貰った世界間の自由渡航パスがあるからこそ魔界、というか自分の端末にまで召喚が届いた訳で。


「ふぅん?人造人間(レプリカント)にしては随分と強い意志(ユメ)を感じるわね~。召喚(いらい)内容も子供達の夢を叶えるためって書いてるし実にアンタ向けじゃないの。どうせクリスマスの間は暇なんだろうし、行ってみたらいいんじゃない?」

「人事だと思って軽く言ってくれやがるッスね……でも見たところ渡航費までは出す余裕無さそうだし、旨味もあんまり無いかもしれないからな~」


 なんて無責任なことを言うアナエルに形ばかりの反論はしたものの、実際ロボが悪魔召喚を試みるなんてこんな面白物件を放っておける訳が無かったんスよね。

 んでまぁいつも通りに召喚に応じて契約を結んで、それから延々と素材から完成品への組み立て作業やら梱包作業やらを不眠不休で続けてきた訳ッスが……。


「ご理解頂き有難う。ではタイムリミットが近づいた今現在、進捗状況の正確な把握がどれだけ重要な事かも分かりますよね?」

「だこーる、もんめーとる……」


 一般的にロボットっていうと感情が無いとか冷血だとかそんなイメージだけど、このひとの場合仕草が一々人っぽくてねぇ……いっそ感情的に怒ってくれた方が気が楽っちゅーか、でも懇切丁寧に相手が理解するまで説明をしようと言う意志は感じるから悪びれもし辛いんスよねぇ、このひと相手だと。

 という訳でロボマスターの要求に応じ、正直なところを報告することに……。


「――それで、割合は?」

「……い、いいとこ七割弱かな?」

「ふぅ……やはり私ももう少し梱包作業を続けるとしましょうか」

「面目ねッス……」


 ロボットに呆れの溜息を吐かれる悪魔の図。人間達に舐められるより精神的にクるッスね、これ……。











「困ったわ――まさかトナカイが来られなくなるなんてね」

「えー、二週間もかけてようやく全部梱包したってのに今回のプレゼント配布パァなんスか……」


 自分と揃って空の車庫を茫然と眺めながら見た目あまり困っていないように呟くロボマスター。

 どうも配送センターの手配側によるミスで既に全てのサンタ代行用トナカイは予定が埋まってしまったそうなんスよね。このロボマスターも数ある代行サンタの一人で自分が召喚されたこの国全域の担当なんスけど、このままじゃあ今晩中の配布は難しいらしいッス。

 一応配送センター側から代理として一角獣(ユニコーン)を回してくれるそうだけど、あいつら気難しくてソリを引くのにはあまり向かないし持久力も無いからなー。こりゃ参った困ったって感じッスね。

 まぁこういうのは時流の流れっちゅーモンがあるし、無理な時は何やっても無理ってもんス。大人しく近場にだけ配って後はお詫びの手紙でも送るしか無いんかなー?


 そんなことを考えながらぼーっとしてたんスけど、気付けばロボマスターが何やら頷きながら自分の頭のてっぺんから足の爪先までジロジロと見てきてるッスね……何だか不穏な気配を感じるような。


「ねぇ、ヴァラ?貴女、疾走(はし)るのは得意かしら?」

「……そこはかとなく嫌な予感がするんスが」

「流石は力ある悪魔ね。予知能力(プレコグネイション)まで持っているだなんて」

「………」


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


「だっしゃあーっ!どけどけどけーい、トナカイ様のお通りッスよー!!」

「毎度~お馴染み~クリスマスのサンタのプレゼントで~ございま~す」

「古新聞、古雑誌、ダンボール、ぼろ切れなどがーございましたら、ってかー!どこのちり紙交換ッスかアンタ!」


 悪い予感っちゅーのは得てして当たるもので、ええ。


 ただ今深夜の0時前、大体この国の三分の一程を回った辺りとなりまスが。

 このサンタの恰好をしたロボマスター、ミニスカのコスプレっぽい感じの着こなし方に普段は聞いたことも無いような間延びをしたほんわか声でご近所さん達へとプレゼントを配布し続けていったんス。


「駄目よヴァラ、トナカイがそんなに叫んじゃ。私の部署は地域密着型の気安いサンタで通してるから、この位の取っ付き易さで丁度良いのよ」

「アンタ実はロボの振りしたナマモノでしょ!?」

「失礼ね。私は第126代目聖ニコラウスであり、初代の遺志を最も強く引き継いだ仕様として創られた、特別仕様のアンドロイドよ」


 本当、発想がお客様を楽しませるプロの企画者ばりで敬意を表して脱帽しちゃうッスね。自分がトナカイ担当として当事者やってなきゃだけど。


「さんたー!龍蛇合体アジ・ダハーカのミニチュア模型くれっ!」

「サンタさまー。あたしずっと良い子にしてたから撫でてー」

「ふぉふぉふぉ。儂も後七十年若ければこの餓鬼共のようにサンタさんの豊満な御饅頭にむしゃぶりつけたんじゃがのぅ」

「はいはい、ちゃんとみんなの分も用意してるから順番に慌てないで受け取ってね。それとおじいちゃん、あなたは子供の頃から助平な目付きをしながら私に抱き着いて来てたでしょう?最近高血圧で心臓が随分弱まっちゃったんだからそろそろ落ち着いて長生きして下さいね」


 そこのジジイ、そんな昔からロボマスターに抱き着き続けてたんスか……いや、それはおいといて。

 見ればロボマスターの周りには笑顔の子供達が群がって、幸せな(オーラ)で一杯で―――


「――成程、だからロボマスターはそんな良い顔が出来るんスね」

「……?ヴァラ、何か言ったかしら?」

「いーえなーんにも!末永くお幸せにやるが良いッスよ~」




 ロボマスターの表情はやっぱりあまり動いてはいなかったけれど。


 その優しい眼差しと気遣うココロは周りに安心感と幸福感を与え。


 それがきっと本人にとっての存在定義(いきがい)でもあるのだろう。




「ロボマスターは電気羊の夢を見るか、ってか~?……ンなモン決まってんじゃないッスか、ねぇ?」

「いきなり何を言い始めるのかしら?変な子ね」

「……自分、一応アンタの十倍以上は生きてるんスけど」


 ついに自分まで見守る子供(たいしょう)扱いをされちゃったみたいッス。何処までひとを幸せにするつもりなんだかね、このロボマスターは。

 まぁそんな現在に生きる機械仕掛けの聖母さまに神……は自分の立場的にちょっとアレなんで、アナエルか所長辺りの祝福を―――







「――ただ今戻ったッス~」

「よぅ、ご苦労さん」

「お帰りー。どうだった?」


 その後どうにか国全域へクリスマスプレゼントを届けきってからヘロヘロになりながらロボマスターの工房へと戻り、そこでようやく契約完了と相成ったッス。人型の形状でトナカイの真似事をするのは流石にきつかったッスね。


「なんか気に入られちゃったらしくて来年も宜しくだそうッスよ。ありゃ身体がロボなだけで、中身はもぉ自分等と変わらんスね~」

「へぇー面白い人造人間(レプリカント)も居たものねぇ。で、どんな事やってたの?」

「それそれ、聞いてよ二十四日の夜に配送用のトナカイが手配ミスでさー……」

「なんだそりゃ。お前もいい年して馬車馬の真似なんぞよくやるわな」

「うっせーッス!あれだけ苦労して梱包作業頑張ったのにそれが無駄になったら何か悔しいじゃん?」


 興味津々に聞いてくるアナエルとマスターに対し、奢ってもらった労いの杯を傾けながら土産話をし始める自分。その内いつもの腐れ縁な飲んだくれ仲間の悪魔連中も集まり始め……。


「よーヴァラにアナエルちゃん、メリークリスマース。封鎖都市世界の方の管轄は良いのかい?」

「来週にゃハッピーニューイヤーか。毎年の事だけど時間が過ぎるのは早ぇなぁ」

「来たッスね暇人共め」

「はーい♪二人共メリークリスマース!どうせあっちじゃ礼拝(ミサ)の段取りは権天使の皆に任せちゃってるからねぇ。前回ヴァラが手加減してくれたお陰で正気に戻った主天使達とも和解出来たし、今年からは世界の護りを心配する必要も無くなったから外身だけの分身創って抜け出してきちゃったわ」


 悪魔連中の質問に対しそう答え、後は下僕君の手腕にお任せ~、と続けるアナエル。下僕君、相変わらず苦労させられちゃってるッスねぇ。今度褒美代わりに魔界(こっち)で過ごしてる時のアナエルの隠し撮り写真でも送りつけてやるッスかね。


「ハハハ、荘厳な儀式なんて肩凝るだけだしなァ」

「うんうん、もう暫くは讃美歌ライブだけで十分だわ~疲れた~」

「んでヴァラの方はロボに召喚されてサンタの手伝いやってたんだって?また面白そうな事してやがんな」

「プヒヒッ、フリーパス特権ってやつッスよ。でも実情は内職とボランティアだったんスけどね……」


 こうして今年の自分達のクリスマスは、魔界のバーの片隅にて今迄のクリスマス体験やサンタクロースの裏話なんかで和やかに過ぎていくのであったッス。

 クリスマスを満喫する悪魔達とプラスワン。どうせ現代のクリスマスなんて一部の地域を除いて形骸化されたお祭りなんだし気にしない!

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