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第006話 悪魔de用心棒

 お待たせした分、容量増し増しッス。ゆるゆるストーリーをご堪能あれ。

「このヴァラ姫ちゃんの魅惑の果実でそろそろお前も堕ちちゃいなっ。喰らえっ『悪魔の誘惑デモニック・テンプテーション』!」

「くっ……なんて恐ろしい技なの―――でもアナエル負けないっ!みんなっ、アナエルに愛のチカラを送って頂戴っ!」

「「「うぉおおおおおおっ!アナエルたーん!!」」」

「でも俺も姫様のあのたわわに実った二つの果実で堕ちてみてぇ……」

「おいアナエルたんの前で不謹慎だろ!……何を隠そう実は俺もだ」

「あたしも同じく」


 ハロー♪いい加減出だしの挨拶のストックが切れてきて次どうしようかなんて悩み中のヴァラちゃんデッス。

 前回前々回から引き続き天使達の支配する封鎖都市世界にてアイドルの真似事なんてやってる訳ッスが、何だか最近段々と三文芝居的なヒロイックミュージカル風になってきたような……?

 賢明な読者諸君は既にお解かりだと思いまスが、『悪魔の誘惑デモニック・テンプテーション』なんて胡散臭い技なんかある訳ねッスから。いや、世界は広いしもしかしたらそんなネタ技の開発に生涯を捧げてる趣味悪魔(じん)が居たりするのかもしれないけど。


「ふぃー、流石に二時間を十連続の舞台は疲れるッスねー」

「もぅダメェ~!体力の限界!暫く休むゥ……」

「二人共お疲れさんです」


 そんな自分達のマネージャーと化した下僕君が気を利かせて冷たい飲み物を用意してくれたッス。それでも俯せになったまま顔を上げようとしないアナエルの分のイチゴジュースもついでに受け取りストローを挿し込んで押し込むと、そのままの姿勢ではしたなくストローを咥え込んでごきゅごきゅと飲み始めていたッス。


「アナエルたん、本当にお疲れの様子ですね。それでは本日はお開きと致しますか?」

「んー……いい、このまま報告してー」

「自分にカップ持たせたまま報告させる気ッスか。つくづくいい身分でいやがるッスね」

「仕方無いじゃないー。アンタとのコラボユニットの他にソロライブもこなさないといけないから最近のスケジュールは殺人的なのよー」


 ジト目で睨み付ける自分に同じくジト目で返しながら、疲れた様子で語るアナエル。

 あー、そういや自分が寝てる間もアナエルは忙しそうに封鎖都市世界各地のステージを渡り歩いて公演し続けてたッスね。支配者としての世界管理の仕事もあるだろうにご苦労なことッス。


「まぁ人間ならそろそろ死ぬけど天使だしまだまだいけるっしょ。んで報告ってことは何か進展でもあったんスか?」

「あぁ、お二人のお陰でそろそろ我慢の限界に達したのか随分と前支配者派の連中が騒ぎ出してるみたいでね。この分だと明日にも奴等襲撃をかけてきそうな勢いなんですよ」

「――ふぅん。そうかぁ、やぁっと動いてくれたかぁ」


 下僕君の報告を聞き、アナエルは如何にも嬉しそうな様子で口の端を吊り上げる。連日の体力的精神的双方の疲労によりテンパリかけていた修羅場の精神が漸く光明を見出したかの如きその歪んだ嗤い顔は、まるで締切に追われ連日の徹夜で超常精神を宿した製作者の様な鬼気迫るものであったッス。


「プヒッ……そこらの悪魔達よりもよっぽどいい悪魔面していやがるッスよ、今のお前」

「そりゃねー、あたしにとっては数年来の計画だった訳だし?わざわざ世界のガードを緩めて悪魔をこの世界に引き入れてまで進行させたのはミカエル派の残党共を処断するためだもの、ようやくそれの成就が見えてきたんだから嗤いも出ようってものよ……ふふっ」

「アナエルたん。いえ我等が金星層、封鎖都市系列世界の支配者アナエル様。ついに貴方様の栄光の愛の輝く時が来るのですね」


 おやおや、これは面白い事になってきたかもしれないッスね?ライブ参戦も悪くはないけど、やっぱり悪魔は悪魔らしく、残虐且つ凄惨に暴れる場面が欲しいってものッスから。


「ん……そこの悪魔がムカつくにやけ顔で見てるしこの辺にしておくわ。下僕君も今まで通りの呼び方で接してね」

「はっ、これは失礼致しました。では引き続きその様に」

「――さて、悪魔ヴァラ。召喚者(いらいにん)の上司として貴女にも正式に協力を要請したいのだけれども。本来敵対する立場である天使(あたし)の頼み事を聞くつもりはあるかしら?」


 やれやれ。コイツも一々律儀な天使ッスよねぇ。皆まで言うな、ってやつッスよ。


「な~に今更なこと言ってんスか。お前だって半ばこの状況を想定してたから下僕君経由でその辺りの偏見が薄い自分を喚ばせたんでしょーが。それに、折角面白そうな状況になってきたんだしここまできておいて降りるなんて選択肢なんぞ端からありえんしょ」

「……クスッ、やっぱりアンタとは馬が合いそうだわ――ね、これが終わった後も一緒にユニット組んで動かない?今なら特別にアンタだけ封鎖都市系列(この)世界への自由な出入りが出来る永続パスを発行するわよ」

「う~ん、コレ結構ハードなスケジュールだしねぇ。お気持ちだけ貰っておくとするッスよ」

「そっか、残念っ」


 まぁ封鎖都市系列世界を自由に行き来出来ればそこからの派生世界にも行き易くなるし、かなりのメリットではあるんスけどね。その辺りは終わった後にでも成功報酬として交渉するとしまスか~。


「では召喚者(いらいにん)である俺から、真心を込めたこの神聖力漲るビキニアーマーを手付けとして……」

「……うん、まぁくれるって言うなら貰っておくッス」

「下僕君、流石にその選択はちょっと……」


 送り物としてのネタのチョイス的にも悪魔に神聖防具を送るという思考的にも色んな意味でドン引きッスけど、よく見るとこれ神話級の概念武装だったし。使うかどうかは置いといて、後で狭間のオークションにでも出してみるッスかね。

 こうしてこの日はアナエル親衛隊に直衛の力天使や権天使達も交えて襲撃予想地点での対応等細かい打ち合わせをし、自分は途中で席を外して翌日に備えさっさと寝ることにしたッス。








 翌日―――


「……来たわね」

「情報通り、奴さん達は主天使が主戦力のようですね」


 その起こりを確認し、アナエルが呟きそれに下僕君が答える。


 概ねの予想通り、自分とアナエルのユニットライブ中にその襲撃は起きたッス。

 本日の観客の半分以上は下僕君直轄の本来の意味でのアナエル親衛隊に偽装した力天使と権天使で固められていたんで、既に襲撃の兆候が見えた時点で一般の観客達の保護は済ませてあるらしいッスね。力天使達は直接戦闘こそ不得手だけどその分障壁を張ったり味方への鼓舞といったサポート技能は優秀ッスからね。余程の大物が出てこなきゃ主天使相手と言えども権天使達との連携で暫くは持ち堪えることは可能な筈。そして―――


「じゃあ、自分は主天使共を畳んで来るッスよ。人間達相手は一応手加減するけど、主天使共は別にヤっちゃってもいいんスよね?」


 向かって来る天使達の軍勢を尻目に自分の得物や術法の具合を確かめながら、アナエルへと問いかける。元々アナエルと下僕君が居なきゃ別にこの世界の天使全てを敵に回しても構わない位だしね、主天使達には魂の餌食となって貰うッスよ。


「ええ、どうせ連中の大半は一大堕天劇の後に座天使達から精神を縛られているからね。逃げる様子が見えたら出来れば見逃してあげてほしいけれど、その辺りは任せるわ」


 あ~、悪魔王様達が魔界に堕りてきた切っ掛けになったと言われるあの一件の事ッスか。まだ当時は自分生まれてなかったしその辺りはよく分からんけど、天使達にとっては今でも忌々しい思い出なんスねぇ。


「了解ッス。ただ人間達は兎も角、天使がお前の正体を知らない筈が無いし、本気で攻め入ってくるにしては勢いが緩い気もするんスよね~。七大天使の一人がそうそう遅れを取る事は無いとは思うけど、その辺り重々用心しておくがいいッスよ」

「誰に向かって言ってるの?その程度は想定内よ……でも心配してくれてありがとね、ヴァラ」

「……ま、ここで依頼者サマにもしものことがあると報酬取りっぱぐれちゃいまスしね~」


 そして自分は主天使の軍勢へと向かって飛び立ったッス。

 う~ん、それにしてもここ数か月ユニットを組んでいたせいか、どうにもアナエルから向けられる親愛の情が面映いというか……まぁいいかぁ。自由気ままが本来の悪魔の有り様だしね。


 ・

 ・

 ・

 ・


「――ふぅ。取りあえずはこんなもんスかね?」


 一息を吐き辺りを見回す自分の目の前に倒れ伏すのは千を超える主天使達、それとやはり僅かに混じっていた座天使達の躯が数体程。座天使を全滅させた時点で主天使達の動きは止まったんでまぁ面倒だけどアナエルの希望通り気絶に留めておいたッス。人間達は自分が天使の軍勢を襲撃した時点で蜘蛛の子を散らす様に逃げていったのでほっとくとしまスか。

 んで戻ってみるとやっぱりアナエルの側では事態が動いていた様で。


「うぉっ!?なんスかこのデカい座天使!」

「ヴァラッ!良かった無事だったのね。向こうの状況は?」


 戻ってみたら体高50mを超える羽根の生えた目玉のネックレスが呻き声を上げながら、アナエル達と戦ってたッス。


「さっきのお言葉をそのままそっくり返させて貰うッスよ。誰に向かって言ってるんスか?自分は当時お前との殺し合いをしながらも生き残った悪魔ッスからね」

「あ~そういえばそんな事もあったわね。じゃあ後はこいつだけか」


 コイツ、あの死闘を忘れてやがったんスか……当時はそりゃ確かに死ななかったってだけでボロ負けに近かったけど!これでもあれから狭間に入ったり色んな世界を巡って自分も成長したんスからね!


「ま、まぁいいじゃないそんな事。別に強さが全てって訳でもないだろうし」

「へ~へ~お強い方からの有難いお言葉ありがとーごぜーまス!」

「もぅ、案外根に持つのねアンタ。それよりもコイツ、あたしの力への対策に特化した奴みたいでさ。あたしの攻撃が効き辛いのよね」


 言われよく見て見ると確かに、他の天使達やアナエル親衛隊達の攻撃は問題無く通っているのに肝心のアナエルの攻撃だけには自動で障壁が張られたり因果律を歪めて無効化されたりと割とやりたい放題の状況だったッス。


「ウンムォオオオオオオオオ……悪徳、卑俗、許すマジィッ!」

「これは恐らく、アナエルたんへと支配体制が変わった事により民に娯楽の概念が復活し、それを悪徳と認識して……」

「……成程。その大本のあたしを『悪の元凶』とし、超越システムを発動させたということか――いかにもミカエル派の連中が考えそうな正義の押し付けだわね」


 下僕君の分析に悔しそうに歯噛みをするアナエル。そいや座天使の連中は『悪徳』に対しては滅法強かったッスね。その分純粋な闘争を用いる相手には弱いんスけど。だからまぁ……。


「さぁ、悪魔ヴァラよ。今こそ召喚者として汝との契約を果たして貰う時が来た。我が主アナエルに代わり前支配者の傲慢の遺物であるあの車輪の化物を打ち破り、旧き支配体制からこの封鎖都市世界を開放するのだっ!」

「……へいへ~い。頑張りまーッス」


 下僕君の召喚者権限による号令に従い眼玉ネックレスの前へ立つ自分。

 でもね、下僕君。ここぞという場面でどう見ても脇役だった君がいきなり(オーラ)を滾らせて主役っぽい発言をするのはどうなんよ!まぁ、その(オーラ)を出しながら言われるとどの道自分は断り辛いんスけどね。


「さぁて。ヴァラちゃんファンの皆も遠巻きに見守ってくれていることだし、トリを務める者としてここはさくっと勧善懲悪モノっぽく退治させて貰うとするッスよ~とりゃあっ!」

「NOOOOOOOO!?物理は反則ゥゥゥゥゥ……」

「ふ……貴様の敗因は能力に頼りきり、レベルを上げて物理に耐えるのを怠ったことよ、ッス」


 自分の大鎌による大切斬(だいせつざん)を受け、案外馬鹿っぽい断末魔の叫びを上げながら悪は滅びたッス。悪魔は自分の方だけど見た目はどう見てもあの目玉ネックレスの方が悪役然とした化物だったし、悪は滅びたことにしとくッス。


「やったぁ!ヴァラお疲れさまっ!」

「流石我が召喚に応じてくれた強き者だ、金星層の親衛隊長として改めて礼を言う。有難う、悪魔ヴァラよ」

「へ~へ~。最後はアナエル役立たずだったんだし、その分報酬は弾ませて貰うッスよ?」

「何よーその言い方。いざとなればあたしだって鉄拳制裁位は出来たんだからねっ」


 巨大座天使を倒したことにより周りの天使達までもが沸き立ちヴァラちゃんコールが鳴り響く中、アナエルをからかいながら皆でハイタッチをする自分達。まぁこれでこの世界の騒乱も少しは落ち着くだろうし世界の揺らぎも安定するッスかね~。








「――ですが貴女は物理戦闘はあまり得意ではありませんでしたよね?そんな貴女が慣れない物理攻撃などをしたら果たして世界にどれ程の影響が出ていたのでしょうか」


 不意に聞こえた声に自分とアナエルが硬直する。下僕君や人間達はキョトンとした表情だけど力天使と権天使達は一斉に跪き一様に震え上がっていたッス。


「こ、こ、この声はまさか……」

「――なんでアンタがあたしの領域に来てるのよ……ガブリエルッ!!」


 アナエルが今迄に見た事の無い様な形相で音も無くその場に現れた輝ける六翼を持つ天使へと怒鳴りつける。それも当然ッスよね。今は金星層、即ちアナエルの時代。同じ天球の七大天使でしかも天使達の頂点と言われるミカエルと並ぶか、或いはそれ以上の力を持つとすら言われる神の言葉を伝える天使(ガブリエル)が司るのは月。つまり後700年以上は支配者として顕現することが認められていない筈ッスから。


「まぁまぁ、別に貴女にちょっかいをかけに来た訳では無いから安心なさい……ええ、大天使ガブリエルとしてはね」

「え……そうなの?まぁ非公式になんだったら、別にあたしも断る理由は無いから良いけれど」

「うんうん、アナエルは昔からそういうところが柔軟だし良い子だから私は好きよ。むしろミカエルの馬鹿野郎の影響をこんな手段で解決するなんて、やっぱり貴女は支配者たる資質を持つ者ね」

「そ、そうかな?えへへ、ちょっと照れちゃうなぁ」


 ……さて、アナエルとガブリエルは仲睦まじく話に興じているみたいだし、場違いな悪魔はさっさと退散することとしまスかね~。


「そんじゃ、封鎖都市系列(この)世界の揉め事も終わったみたいだし自分はこれにて失礼~」

「あっ……待ってよヴァラ!まだ報酬も渡してないし、そんな急がなくても良いじゃないっ」


 そしてアナエル達にそそくさと挨拶して亜空間へ潜り込もうとしたんスが―――


「そうね。私も別に悪魔の貴女が天使の支配する世界に居るからといって目くじら立てるつもりは無いわよ?此処の現支配者であるアナエルが認めているのだし」

「ほらほら大丈夫だってヴァラ、ガブリエルもこう言ってるんだし」

「それとも、何か私から逃げたい理由(・・・・・・・・・)でもあるのかしらね?」


 ううっ。もうコイツが此処に来た理由はほぼ確定な気もするっていうか、相変わらずターゲットをじわじわと追い込むのが好きな性悪女め。

 そんな自分の狼狽え振りを愉しそうに眺めた後、能天気なアナエルの脇で怪しく目を光らせる大天使は自分を見てこう言ったんス……。


「――ねぇ。私の名前を言ってみなさいな、悪魔ヴァラ……いえ、シズカと並ぶ問題児の一人である、狭間の監視者ヴァラちゃん?」

「だ、大天使……ジヴリール、天球方面観測所長。お久しぶりッス……」

「はい、お久しぶり。よく言えました♪」


 そう言ってニッコリ。天使達がその表向き慈愛に満ちた笑顔に天使達も人間達も感涙に咽ぶものの、自分にとっては悪魔以上に悪魔の笑顔。こりゃもぉ終わったッスね……。


「えっ?……え!?ヴァラ、アンタってばガブリエルと知り合いだったの!?」

「正確には熾天使ガブリエルと、ではなくて狭間の組織のジヴリール所長と、ッスけどね……」

「狭間……そういえばステージの合間によく世界の安定がどうとか言ってたわねぇ。悪魔にしては随分と秩序だったこと言ってるなーって思ってたけれど、あれ本当の話だったんだ?」

「主の御使いの中の主だった者で狭間に所属しているのは私だけですからね。アナエルが知らなかったのも無理は無いわ」


 と言う訳で。このひとは主に天使達の領域を担当する狭間の監視者をやっててでスね。狭間の組織に入った当初先輩と共に色々とやらかしてはこの所長からよくお仕置きをされたもんス。先輩もデタラメな強さだけど相手は多神教で言う主神クラスの存在だし、抵抗をする度に散々な目に遭ってきたんスよね……お陰でそこらの智天使程度なら問題無く相手取る事が出来る程度には鍛えられたんだけれども~。


「さて、私がジヴリールとして来たという事の意味を、聡明な貴女ならばもう理解していますね?」

「ちょ、ちょっと待って!自分の直属の上司はシズカ先輩ッスよね?確かに封鎖都市系列(この)世界に強引に入って多少の揺らぎは増やしちゃったけど、元はと言えばこれはアナエルの意向だったんだし。まずはシズカ先輩に話を通すのが筋ってもんじゃないッスか!?」

「あぁ、シズカなら―――」


 そんな自分の主張に対しジヴリール所長は言いながら亜空間から一本の剣を取り出したんス。


「何スかそれ……あれ、それって元先輩の」

「あら?これってば聖ジョージの剣じゃない。懐かしいわね」

「ええ、いつぞやのオークション以降行方不明となっていた、彼の世界の竜殺しの剣(アスカロン)が先日発見されまして。たまたま私がその所有者となったのでシズカに連絡してみたらあら不思議、貴女の件に関しては一時的に全権を委任すると言うではありませんか。あの子も本当に物分かりが良くなって……私、感激だわっ」


 アナエルの指摘した通り、ジヴリール所長の持ち出した剣は竜殺しの剣(アスカロン)だったッス。んで所長の説明を聞いてあぁ成程、と納得し。つまりは……。


「……あンのクソ狐ッ!物欲に目が眩んで自分を売りやがったッスねぇええっ!!」


 その日、封鎖都市世界のとある舞台の脇で、絶世の美少女が発する断末魔の悲鳴が何度も鳴り響いたらしいッス。怖い話ッスね……。






 それから自分はアナエル達とまともに別れの挨拶を交わす暇もなく狭間へとしょっぴかれてジヴリール所長から丸一日お説教を喰らい、その後罰として封鎖都市世界周辺の揺らぎの修理に一月程駆り出されることとなったッス。

 そしてようやく解放され―――


「まだまともに報酬も貰ってなかったのに強制的に契約を打ち切られるし割に合わねーッス!あの性悪の若作り年増女めっ!」

「あはははっ。あのガブリエルにそんな事言えるのって天使達の中でもそうは居ないわよ。アンタ本当面白い奴ねぇ」


 何故かまだガードがゆるゆるだった封鎖都市世界へと入り込んで、ただ今アナエル達とお茶の真っ最中な感じッス。


「まぁ俺の渡したビキニアーマーは没収されなかったみたいだし良かったじゃないか。大事に使ってくれよ」

「あぁ、あれならもう狭間のオークションで売り払ったッスよ。結構いい額になったんでそこは感謝しといてやるッス」


 うん、あれは本当おいしかったッスね。お陰で絶版になってた神装遊戯のデラックス神属エキスパンションを一式買い揃えられたし、下僕君ナイスという事にしといてやるッスよ。


「ちょっ……あれ造るのにどれだけの労力と法力つぎ込んだと思ってるんだよ!?これでも俺、一応教皇クラスの法力持ちなんだぞっ」

「あれ造ったのお前だったんスか……何気に人間とは思えない程の高スペックなんスね~下僕君て」

「でもあのセンスは正直無いと思うわー」

「ッスよね~」

「くっ、アナエルたんまで……所詮この芸術は限られた者にしか理解をされない道なんだっ……俺はっ、それでもっ、諦めんぞぉーッ!!」


 そんな感じで悔しげに叫ぶ下僕君に、楽しそうに笑うアナエルと自分。何だかんだでこの世界の数か月も終わってみれば最後以外は楽しかったッスね。


「そんじゃあ今度こそ自分はお暇するとしまスよ。下僕君は寿命的に今生の別れになるかもしらんけど、達者でやるッスよ~」

「――あぁ。悪魔ヴァラ、いや悪魔アイドルのヴァラ姫ちゃん。君には良い夢を見させて貰ったよ。もう逢う事は無いかもしれないが、今後の君の健闘を祈り続けるとしよう」

「お宅の主に祈られても逆効果だと思うッスけどね~」

「ハハハ、違いないな」


 まずは下僕君へと話しかけ、そして最後にアナエルへと向き直る。


「えっと……」

「ん、何スか?」

「ほら、ガブリエルの乱入の件でヴァラには正式な報酬を渡せなかったじゃない?それのお詫びという訳じゃないんだけれども」

「あ~別に良いッスよ。悪魔としては契約が全て、それが予期せぬ事態とはいえ解約されちゃったんだから、自分はそれに従うまでッス」

「ううん!それでもっ……いや違うか。短い間だったけどヴァラとのユニットは組んでて楽しかったし、あたしはヴァラのことを友達だと思ってるから。その、良ければなんだけれどね……」

「?」


 何故か顔を赤らめてモジモジとし始めるアナエル。これはこれで可愛いんだけど自分、別に百合な趣味は持って無いしね~。


「これ、封鎖都市系列世界全般に無条件で出入り出来るパスなんだ。良かったら受け取って。それで、気が向いた時にでも良いからまた遊びに来てくれたらなー、なんて」

「……良いんスか?暇な時とか愚痴言いたい時に遠慮無しに使って来ちゃうよ?」

「――うんっ!何時でも来てっ!」


 こうして、結果的には思わぬ収穫と友を得て封鎖都市系列世界を後にする事となったッス。

 信頼と親愛の証として貰った物だし、その好意を裏切る様な真似だけはするまいと思いながらそれを仕舞い込み、魔界に戻っていつも通りの生活へと戻った訳ッスが―――






「お前、何だってまた大天使がこんな魔界の片田舎にしょっちゅう来てんのよ……」

「え~、だって下僕君が教皇になっちゃって最近付き合い悪いんだもん。他の人間や天使達もあたし相手だと畏まっちゃうしさぁ。後はもうヴァラの所に遊びに来るしかないじゃん?」


 どうやらこれはアナエルの持つそれとお揃いの二つで一つな相互パスだったらしく、自分があの世界にフリーで入り込める代わりにアナエルも魔界へと自由に出入り出来るようになっていたらしいッスね。


「いやしかし自分で言うのもなんだが、こんな魔界の片田舎なバーに彼の大天使が足を運んでくれるなんざ光栄だな。どんどんやってくれよ大天使のお嬢さん」

「そんな大天使だなんて~アナエルって呼び捨てで良いですよっ。今は一個人として遊びに来てるだけですし」

「よーアナエルちゃん。そんじゃ俺達とこのボードゲームで遊ぼうぜ!ヴァラのクソアマ野郎が悪魔の癖に平然と神属使いまくるもんだから、最近じゃ縛り無くして皆白熱の思考バトルしてるんだぜ」

「おー!これが前ヴァラが聖女として呼ばれたっていう原因となったゲームなのね。面白そうっ、やるやる!」

「……まぁ楽しめてるなら良いんスけどね」


 どうやら、このバーにまた一人常連が増えたようで。

 こうして魔界の片田舎では相変わらずのんびりと暇人達が管を巻きながら、あるいは暇潰しをしたりして平和な時が流れるのであったッス。




P.S. 大公様にまた呼び出されて怒られた。天使達の領域の問題を解決した挙句、世界の安定まで担うとは何事だって事らしーッス。前半は兎も角、後半は大体先輩と所長のせいだと思う。

 途中からどんどんとアナエルたんからウザさが消えてしまった件。もっとウザカワを出したかった気もするけれど、きっとこれもアナエルたんの愛に支配されてしまったのだな!

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