第004話 悪魔deパパラッチ
12/9:一部改稿。
「第六星系」→「第五星系」に変更しました。
「む~……いつもの事だけどほんっと碌な召喚が無いッスね。マスターちゃんと召喚情報仕入れてんのコレ?」
「またボヤいてんのか。もう魔界じゃ召喚なんざ時代遅れにも程があるんだよ、俺もいい加減酒場のマスターの方が板についてきちまったしな。そろそろここも建て直してリニューアルオープンすっかなぁ」
「マスター五十年以上も前からンな事言ってるけど未だにその辺りほったらかしじゃないッスか。大体ここのくたびれた雰囲気が良いって客も多いだろうに、建て直したりしたら常連達が居なくなっちゃうんじゃないの?」
「そうなんだよなぁ……」
毎度毎度の似た様なやり取りをしながら管を巻き続ける自分とマスター。何だかんだでこんな体たらくでもここのバーを回して行ける程度には稼いでいるらしく、成程それではリニューアルオープンも遠のく訳だと幾度目かになる納得をしながらも掲示板をぽちぽちと検索し続ける暇人な自分がここに居るッス。
「それにしてもそろそろ何か起きちゃくれないもんスかね?近頃の魔界近郊は平穏過ぎて下手な人間界よりも揺らぎが少ない位で狭間の仕事も閑古鳥が並んで大合唱、な状態なんスよね」
「そらー平和で良い事だなー、悪魔の拠点がそれで良いのかって思わなくもないが。天使共の支配領域の方が余程悪魔然としてるよなぁ」
まぁあいつらは属性が光とか聖に寄ってるってだけで本質的には自分等と同類ッスからね。実際魔界にも属性が反転した天使連中が堕天使として降りてきて馴染んじゃってるしなぁ。
「いっそディストピアの何処かに殴り込んで世界を股にかける大冒険!みたいな召喚が都合良く舞い込んじゃったりしないッスかねー。下層部のお偉方にももっと他の連中の見本になる様な悪魔らしい事をしろってこの前お説教喰らったばかりだし。大公様達揃踏みの場で一人面接状態とかどんな嫌がらせだよって話ッス」
「お前が今や爵位持ちの大悪魔っつぅのも違和感有り過ぎるよな。ほんの五百年程前までは何処にでも居そうな木っ端悪魔の一柱だったってのになぁ」
「内情は引退した爺共の引き継ぎに体良く選ばれたってだけだと思うけどね~。このご時世に爵位なんか持ったところで下手な義務が増えるだけでめんどくさ……」
「それを羨む輩も多いんだからそう言ってやるな。ま、このバーはそんな日々の愚痴を吐かせて明日を気持ちよく迎えて貰う為の場所だからな、俺で良ければ話し相手位にはいつでもなってやるさ」
―――マスターって、こういうさりげない部分がデキてるひとなんスよね。このバーがくたびれた小汚い外見なのにも関わらずそこそこ流行っている理由が改めて理解出来た気がするッス。
「これで家事全般もやってくれるんだったら家政夫さまにしてやってもいい位の優良物件なんスけどね~」
「……お前は一生独り身な気がするな」
「いきなりご挨拶なこと言ってくれやがるッスね!?」
「どっちがだ……」
別にどうせ自分等滅ぼされるまで死ねない悪魔だし、ケッコンなんて気分の問題だからどうでもいいッスけどー。
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「ん―――これは……」
「うん?マスターどしたん。ツマミに腐り物でも混じってた?」
「お前等酔っ払い共は腐ってようが神気がたっぷり詰まってようが平然と食い漁っていくだろうが。最近のこの店の売り上げは酒代よりも食事代の比率の方が高くなってる位だぞ」
自分のベタなネタ振りに情けない表情で現実を語るマスター。因みに召喚関連の仲介手数料の総計はその酒代の更に五分の一以下らしいッス、世知辛い話ッスね。
「もういっそ軽食店の店長とかにジョブチェンジしたらいいんじゃないッスかね?自分どうせ掲示板と常連連中との暇潰し目当てで来てるだけだしそれでも全く問題無いッスよ」
「はぁ~一度その辺りきっちりと客共の認識を改めさせる必要があるかもしれんな……」
ンなどうでもいい事を言いながらマスターは何かをプリントアウトしていた。見た感じ召喚書みたいだけど……情報見せるなら端末に表示した方が早いし紙代もかからないと思うんスが。
「ほら、【夢喰い】のお前にぴったりな召喚が着たぞ。召喚座標は封鎖都市系列世界の第五星系、召喚者からのメッセージはこうだ。『超越者達の傲慢な支配にはもううんざりだ。この支配体制に終止符を打つべくやる気溢れる芯の強き悪魔を求む!共にあの超越者達を打ち倒そう!成功報酬:支配体制打倒時の一部支配権の移譲、詳細は要交渉』―――ご要望通り天使共の領域への殴り込み召喚だ。当然受けるよな?」
「……ほほーぅ」
これは良い。封鎖都市系列世界と言えば天使達が支配する典型的な反理想郷、しかも第五星系ってことはその中でも天使達同士ですら争いを続ける一番の激戦区じゃないッスか。召喚者のメッセージからも明日への渇望と決死の覚悟が入り混じった質の良い夢を感じるネ。
これは久々にやり甲斐のある仕事になりそうな予感がするッスよ。漲ってきたー!
「―――くくっ、やはりお前は根っからの悪魔だな。ここ最近は腑抜けた顔しか見ることは無かったが、こうして殺る気に満ち満ちた表情を見るとあの跳ねっ返りがよくぞここまで成長してくれたものだと感動も一入と言うものだ」
「そんな褒められても何も出ないッスよ?このヴァラちゃんの美しくも凄惨なる鮮血の宴、【覗き穴】でも使って特等席で見ておくがいいッス!」
そういえばマスターと出会った当初はいきなり殺し合いになったんスよね~、懐かしい。
当時の魔界はまだ戦いに不足する事は無かったし、自分も若かったから誰彼構わず突っ込んでいったりもしたもんス。本当、魔界も平和になっちゃって時間の流れっちゅーのを感じるな~。あ、でもどこぞの先輩と違って自分は見た目だけじゃなくて中身も瑞々しい若さを維持してるんで、そこ勘違いしないで欲しいッス。
「あぁ、仕事の合間にでも楽しませて貰うとするさ―――と言う訳で仲介料50000ゴルドになります」
「高くない!?」
「天使共の支配領域に無理矢理穴開けて強引に割り込みをかけるのにどれだけの手間と労力を食うと思ってるんだ?常連のお前だからゴルドで都合付けてやってるが本来なら1000ソウルは貰ってもいい位の案件なんだからな」
「ソウルの比率まで上がってんじゃん!?詐欺だー!」
「今の平和な魔界近郊じゃあこんな血沸き肉躍る美味しい召喚は売り手市場だからな。お前が受けないんだったら他にもっと高値で回しても良いんだぜ?」
「ぐっ……このあくま!」
「これ以上無い褒め言葉だな、毎度ありぃ♪」
おのれマスター、足元を見おって。いつか絶対ぎゃふんと言わせてやるッス!
おかしい。こんな筈では無かったのに―――
「ハーレールーヤーハーレールーヤー!!」
「いと高きところには栄光、神にあれ~」
「……何コレ?」
「正式名称は忘れたけど、通称はフライデーナイト讃美歌ライブだな。主天使以上の大物が見れる嗜好のライブなんだぜ」
いやそんな具体的な呼び名を聞いてるんじゃなくって。後、字間違ってるッス……誤記だよね?それに天使の支配する領域っていったらホラ、もっとこう胡散臭い荘厳さとか法による絶対統制で人間皆ラリった目付きとかそういう……。
「みんなー!今日はアナエルの讃美歌ライブに来てくれて有難うっ♪アナエル感激っ、超愛してるっ!」
「「「うおおおおおおおおおおおおお!!アナエルたーん!」」」
ドォオオオオオオオッ!!
前座達の讃美歌が終わり、スポットライトを浴びながら翼をはためかせてステージへと降り立ち潤んだ瞳で投げキッス、といった演出を魅せる天使の姿に現場のボルテージは最高潮ッス。そいつの着地の際に抜け落ちた数枚の羽毛の取り合いで殺し合い寸前の乱闘まで起きちゃってるし。
「ちゅーかハニエルの女装野郎まで来てんじゃん!何やってんのあいつ!?」
「へ~アナエルたんってハニエル様と同一存在だったんだ?メモメモ」
「お前も『たん』とか言ってないでもうちょっと動揺しなさいよ!何の為に態々自分を喚んでまでここに連れて来たんスか!?」
「え―――取りあえずは、敵をより深く知る為の取材?」
「……もぉいいッス」
ども、天使達の支配する反理想郷に潜入を果たした……筈のヴァラちゃんでッス。
近年稀に見る好条件だったのと召喚者の覚悟のオーラに中てられてノリと勢いで契約を交わしたものの、いざ蓋を開けてみれば天使達の素行調査っていうパパラッチ顔負けなお仕事の真っ最中ッス。
天使共は天使共で完璧なタイミングでの見せパンに拘ったりあざと可愛いさ極まるドン臭い挙動を演出したりと、前情報無しにこの情景を見たらとても天使達の支配領域とは思えないカオスっぷり。
極め付けがこの召喚者の職業ッスね。
「【真実の愛】セクンダディ金星支部第五方面隊長―――ってお前モロ神の下僕じゃねッスか!悪魔召喚なんてやったのがばれたらスパイ容疑で逮捕されて拷問されちゃうッスよ?」
「はっはっは。真実はいつも一つとは限らないのさっ。それを暴く為なら俺はたとえ悪魔に魂を売り渡す事になろうとも後悔はしないのだっ!」
そして今も自分の横で壇上の女装野郎のローアングルショットを猛烈な勢いで撮りまくってるカメコ君が今回の召喚者でもある悪魔召喚師ッス。正直呼ばれた時点の第一印象で、あ…これちょっと外れかも、なんて思わなくも無かったんスが。交渉中にも発し続けていた彼の熱い夢に【夢喰い】としての本能が惹かれちゃってね……。正直やらかしたッス。
その後もパパラッチとしてのえげつないやり口や主義思想を叩き込まれ、最後の仕上げとしてこのフライデーナイト讃美歌ライブとやらに助手として連れて来られたんスが……。
「結局お宅何がやりたい訳?ただのパパラッチの真似事なら自分そろそろ帰ってもいいッスかね」
「いやいや!ローアングルショットとアナエルたんのライブ参拝は俺の趣味というだけで勿論大事な目的がある!」
趣味って言い切りやがったし。
「大体あいつは女装してる野郎ッスよ?何、お前そういう趣味なん?」
「え……でもアナエルたんのぱんつはいつも撮ってるしガン見もし続けてるけど、そんなの付いてるようには見えないぞ?」
「そりゃあ、天使にとっちゃ肉の身なんて付け替え可能な服みたいなモンだし。あの容は女性体みたいだから無いのも当然ッスけど」
「じゃあアナエルたんの時は付いてないってことだろ?何か問題でもあるのか?」
「む――いや、本人が納得してるんだったら良い、のかな?」
あれ……言われてみれば特に問題は無かった?―――いやいやいや!
どうやら今回もとんだ召喚に応じちゃったみたいッスね……。
「まぁ兎も角だ。ヴァラ、君にやって貰いたい事とは。この世界における、天使達による一極集中の支配的という憂き状況を打破する事だ。幸い君は俺の提示した条件にこれ以上無い程の適合性を見せてくれている。詳細はライブが終わった後に追って話すが君ならばあるいは、この天使達に支配された生き苦しい封鎖都市世界の現状に亀裂を入れる楔となってくれるに違いない!」
「お、おぅ……ッス」
最早あの壇上の天使ユニットよりも目の前のコイツの方が余程天使に見えるような胡散臭い台詞と熱意に塗れてるけど……あぁ、やっぱり自身の危険も顧みずに犠牲をも覚悟した魂の夢はたまんないッス。もぉ自分、このオーラの美味しさに堕ちちゃいそう。
まぁ、自分は元から悪魔なんで堕ちたところで特に何かが変わる訳でもないんスけどね。
そんな訳で。今回はこの封鎖都市系列の世界にて、天使達を相手取るお仕事となるみたいッス。
ハニエルの野郎まで居るのがちょっと厄介だけど、まぁ何とかなるなる~。
「ところで見せパンは純白と縞パンのどっちが良いと思う?俺的には奇をてらった紫色の紐パンとか幼児体系のくまパンでもご飯三杯はイケるんだが」
「知らねッスよそんなの。大事なのは上に履いてる物とのギャップでしょー。インパクトを狙うんだったらスリット入りのシスタードレスから覗く褌とか、袴だけど履いてないとかでも良いんじゃね?」
「そ、そうきたかっ……!悪魔の中にも我等と同好の士が居ると知れて、俺は今猛烈に感動しているっ」
―――やっぱこいつ、ダメかも。
またしても結構スレスレ。宗教問題は色々と怖いぜ……。