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第021話 悪魔deドラゴンスレイヤー:中編

 ―――ボクの名は、うろぼろす。


 今、自分の目の前に立ち上がったこの子は確かにそう言ったッス。

 ウロボロスったらあれでしょー、永遠の象徴とか不老不死の無限性とか。そんで種族として確立しているルイ君タイプの西洋竜とは違い、神性を内包した唯一無二の存在たる始源の龍(オリエンタルドラゴン)

 通常『復活』なんちゅーデタラメ技は余程の高次の存在でもあまり現実的じゃあない話だけれど、永続存在たるコイツなら幾度滅ぼそうとあっさりと復活してくるのも頷けるってもんス。それに一般的なドラゴンタイプとはちょっと違うけど、魔界界隈での認識じゃあコイツも立派な真竜に分類される訳で~。


「ちゅー事はお前がルイ君の言ってたヤバい奴って事ッスか」

「ボク、ヤバい奴なの?」

「……あん?」


 戦闘態勢に入りながらの自分の確認の言葉に、しかし当のウロボロスは何の警戒も見せず、あどけない仕草で首を傾げながら聞き返してきたッス。何じゃそりゃ?


「だってお前ってルイ君の言ってた竜王でしょー。しかもウロボロスちゅーたら、永劫回帰。この世界ごと停止させて銀河の中心部に自身諸共帰ろうって腹じゃないのん?」

「お姉さんの言ってることは、よく、分かんないの。ボクの名前はうろぼろすだけど、それ以外は本当に何も覚えていないから……」


 そう言って途方に暮れたような顔でしょぼくれる少女。その顔からは見え透いた嘘で誤魔化そうといった欺瞞などは感じられず、見た目相応の子供にしか見えなかったッス。


「……あ~、そういやさっきもそんな事言ってたッスね。本当に何も覚えてないんスか?」

「うん。お姉さんが来るまでは、何もやる事が無かったからそこでぼーっとしてただけなの」


 あれ、倒れてたんじゃなくてぼーっとしてただけだったんスか。


「ちゅーと現在この世界に起きてる異常も全く分からんと?」


 こくこく。改めての自分の質問にウロボロスは首を縦に振っていたッス。そしてウロボロスは自分をじー、っと見つめ始めたッス。


「……何スか?」

「あのね。ボク、一人で寂しかったの」

「う……」


 寂寥感から誰かに縋ろうとするその眼差し、これには最近大いに心当たりがあるというか、うちに来た頃のレナと同じ目をしていたッス。ぐおお~この表情は卑怯だ!

 その良心にザクザク刺さる眼差しに自分が煩悶していると、何を思ったのかウロボロスはトコトコと無警戒に歩み寄って来て、自分の服の裾をきゅっと―――


「ふぁあもうダメッスー!何この子可愛いぃ!」

「うぎゅ」


 つい、衝動に任せて力いっぱい抱きしめてしまったッス……。






「――じゃあお前は生まれたばかりのようなモノで、この世界の停止にもさっぱり心当たりが無いっちゅー事ッスか」

「だと思う。ボクはうろぼろす、それだけは何となく分かるんだけど……ボクが気付いてすぐに、世界が止まっちゃたから」


 ふぅむ。これがルイ君の言ってた「未覚醒」の状態ってやつなんスかね?でも本来なら能力の発動が先に来る事は無いとも言っていた気がするけれど……順序も含め、話に聞いてたのとはちょっと違うなー。

 世界の停止についてはまだ無自覚の能力発動が為された線もありまスけど、この様子だともしそうだったとして、自覚のないそれを解除させるのは難しそうだしなー。この子をブッ殺して停止が解除されるなら面倒が無くて良いんスが。

 自分が内心そんな不穏な事を考えていると、ウロボロスはまたまたじっ…と自分を見上げ、心底不思議そうな表情をして言ったッス。


「ところでお姉さん。どうしてこの世界で動けているの?お姉さんのお話だと、この世界ではみんな止まっちゃうんでしょ?」

「ん。そういえば自分の素性をお話してなかったッスね」


 時間というものは、不可逆ではあれど流れというものがある以上、自分達の認識じゃ準物質的な扱いなんス。実際特異点付近は時空の流れそのものが圧倒的な重力に押しつぶされて歪んじゃってるって話もあるくらいだしね~。

 そしてこう見えても自分はれっきとした悪魔。物理法則に縛られがちな最下級の木っ端悪魔や天使共ならばともかく、この程度の停止の縛りなんざー存在値を霊の側にちょっとばかり寄らせてやれば効く道理は無い訳でー。

 余談でスが、あの元三流悪魔のゴスマや封鎖都市世界の下僕君ですら頑張ればある程度は時間の縛りから逃れる事は可能らしいッスよ。ゴスマはあれでも一応悪魔だから分かるけど、下僕君……君もう人間じゃないよね?


「ってな理由で、自分はルイ君に代理を頼まれて残っていた召喚経路を使ってこの世界にやってきたんスけど~」

「それじゃあお姉さんの目的はボクを滅ぼすこと……で、みんなが止まっちゃってるのはボクがやったことなの?」

「……む」


 自分の話を聞き終わり、ウロボロスはじっくりとそれを吟味したらしき後に哀しげな表情で聞いてきたッス。

 ……まぁ、何も分からない現状じゃあ全くの無関係って可能性も捨てきれないし~。それは他の手段を全て試してみた後にでもいっかな。


「どうも当初の情報と現地の状況が随分と食い違ってきてるし、お前もこの状況に心当たりは無いんでしょー?そんな顔してないでまずはこれでも食べて落ち着くッス」


 どうせまだ特異点到達までは一月程はあるんだし、慌てず騒がず情報収集に励むとしまスか。自身に言い聞かせるように言いながら携帯食代わりに持っていた魔糖菓子をあげてみたッス。

 始めこそ緊張した様子で、その芸術品とも言える見た目の魔糖菓子を触ったり匂いを嗅いだりしていたウロボロスだったけど、やがてはくりっと一口。


「――!」


 どうやらお気に召したようで幸いッス。これまたレナを彷彿とさせるキラキラとした純真な瞳でもっともっとと無言の要求をしてくるウロボロス。残念ながら非常食を兼ねてるんでそれっきりなんスよ~。こんな危機的状況じゃなければもっと甘やかしてふやけた笑顔を堪能出来たんスが……ぐぬぬ。


「にしても毎回ウロボロスっちゅー呼び方するのもなんか仰々しくってめんどいッスね。今は子供姿だしウロ子とかそんなんでも良いッスか?」

「うろこ……!」


 提案した自分ですら理解に苦しむネーミングセンスだったけど、何が良いのかこれまた有り得ん事にお気に召されたらしいッス。まぁ本人が気に入ったんなら別にいっか。ただウロ子は幾ら何でもあんまりに思えたのでちょっと変えてウロコとしといたッス。

 こうしてウロボロスことウロコと合流し、自分達は本格的にこの永劫回帰世界の調査へと乗り出すのでありましたッス。






 そして世界を巡り始めて一週間程が経った頃―――


「――妙ッスね」

「……人間さんたちの命が枯れてきちゃってる?」


 誰へともなしに呟いた自分の独り言にウロコが的確な答えを返してくる。やはり過去の記憶が無いとはいえそこは真竜に列された者、こういった本能的な感覚部分は鋭いものッス。ウロコの言う通り、自分がこの世界に現界した直後はまだまだ生命力に満ち溢れていた人間達が今や半数以上萎びてきちゃってたんスよ。


「そッスねー。時間が止まってる癖に生命力だけがどんどんと抜けていっちゃってるっちゅーのは何とも奇妙なもんスけど」


 本来人間に限らず、物質界の生物ちゅーのは完全に肉に縛られた存在ッス。世界そのものが止まっている以上、人間達のみならずこの世界の全ての存在が停止の影響を受けていないといけない筈なんスが……。


「竜さんたちも枯れる程じゃないみたいだけど、吸われちゃってるね」

「う~ん……」


 ウロコの言う通り、竜種達も人間達とは違ってまだまだ余裕があるとはいえ、割とがっつり吸われちゃってるな~。それもここ数日で急速に。


「これは、もしかしたら停止しているんじゃあなくって……」

「?」


 この状況から導き出された自分の推論に、いやいやまさかと首を振りながらウロコを見る。対するウロコはと言えばやはり不思議そうに首を傾げながら自分を見返すのみ。


「ちゅー事は老竜……程度じゃ抗える訳も無いか。最低でも寿命の概念が無くなってる古竜クラスの巣を探さんといかんッスね」

「こりゅうさん?」

古代竜(エンシェントドラゴン)――世界が生まれて間も無いあやふやな頃から存在し、物質に縛られた生物の中で唯一『自然死』から解き放たれた偉大なる竜の系譜ッス。自分の予想が正しければ、古竜に会えれば黒幕の正体とついでに事の真相も判明するかもしれないッスよ」

「お~。お姉さん凄い」


 ふふん。もっと褒めてくれちゃっても構わねッスよ?今回ばかりは詰んだかと思ったけど、やはり孤独ではなかった分、冷静に考えることが出来た成果ってやつッスか。

 未だウロコの世界停止疑惑も残ってはいるけれど、ここはこの子に出逢えた事に感謝ッスね。予想通りなら今の自分達でもどうにか出来そうな気がしてきたッス。


「それじゃあこりゅうさんのところに案内するね」

「居場所知ってたんスか!?」

「うん。世界が止まってやる事が無くなる前には、暇だったから色々見て回ってたの」


 そういえば『ウロコが目を覚ましてすぐに世界が止まった』『自分がこの世界に入り込むまでやる事が無くなってぼーっとしてた』の二点だけは聞いてたけど、世界が止まってからやる事が無くなるまでの期間は聞いちゃいなかったッスね……。自分としたことが当時はやはり気が動転しちゃってたんだな~。


「まーそれなら話が早い。そんじゃウロコ、早速道案内を宜しくお願いするッスよ!」

「あいあいさー」





 そして自分達は恐らくルイ君を喚ぼうとしていた竜種の長の住処へと赴き、やはり停止していた古竜との対面を果たしたんス。


『……この波動は、悪魔か。この終わりが近付いた世界へ何用だ?火事場泥棒をしようにも、既に人間共の魂も、同胞(はらから)達の御霊ですら、奴の手中にあり動かせはせんぞ?』


 やはり古竜の(なかみ)はまだ生きてたッスか。その事実にほっと一息を吐き、自分はこう返したッス。


「どーもどーも、自分はルイ君のために用意された召喚経路を正式に借り受けてこの世界に迷い込んじゃったいち悪魔ッス。自分の言ってる意味、分かりまスか?」

『――まさか』

「びんご、だね」


 自分の言葉に隠されたメッセージに対する古竜の反応を見て、ウロコと共にハイタッチを交わす。背の高さの関係で自分にとっちゃロータッチになっちゃってたけど。


『お見苦しいところを見せてすまぬ。あの御方はやはり我々を見守っておられたのだと思うと、思わず、な……』

「いやいや~これで自分も本格的に召喚(いらい)を果たせるんでお気にせず~」


 その後テレパシーの大音量でむさくるしい漢泣きを聞かされて、若干辟易した後のこと。ようやく落ち着いた古竜との情報交換を始めたところッス。


「耳が痛い……」


 あーぁ、ウロコったら至近距離で無警戒にそのむせび泣きを聞いちゃったものだからふらふらと千鳥足で迷走しちゃって。


 ―――ぼてっ。


 あ、転んだ。


「ほら、ウロコ大丈夫ッスか?」

「あたまくらくらする」


 ホレホレ良し良し。まだまともに立てない様子のウロコを抱いてあやしながら古竜へと向き直る自分。


『……親子連れの悪魔の召喚など聞いた事も無いな。あの御方のなさる事であれば、間違いは無いのだろうが』


 いやぁ~ルイ君は結構間違いだらけなダメ男ッスよ?暇さえあれば自分達と一緒にマスターのバーで入り浸って飲んだくれてるし。ガイア世界での元弟子の一件じゃ完全に邪竜扱いだったものね。

 まぁそれはともかく。


「んで、やっぱりこの世界の現状は『停止している』んじゃなくって『動きを殺されている』で間違いないッスか?」

『……その通りだ。今のこの世界は奴――邪竜ニーズヘッグの魔の手に絡め取られ、世界そのものが「死者の乗り物」として強制的に奴に運ばれている状態だ』


 本題に入った自分の問いかけに、古竜の長は深い溜息を吐きながらそう答えたッス―――

 後編はまた来週予定ッス。

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