第002話 悪魔deメイド
大体この作品の流れが決まってきた気がします。
続きは後書きにて―――
「ふふん~ふ~ん♪」
やほう、今のところ知る人ぞ知る魔界のアイドル、ヴァラちゃんでっス!何れは三千世界にこの名を広めてヴァラちゃんグッズのリベートとかで、食っちゃ寝しまくりの自堕落な生活を送ってやるッスよ!こう見えてもこの身は悪魔なんで、幾ら自堕落な生活をしてもスタイル抜群のまま、いつまでも若々しく居られる辺り悪魔に生まれて良かったなーなんて思う次第ッス。
今は前回呼ばれたヘイム系列の小世界にて、冴えないオッサンの妄想に付き合いながらメイドの真似事とかやってる最中なんスよ。
お前の力不足のせいでスペックが出しきれぬ、とか命を救ってやった恩を忘れたかー、とか適当な事言って誤魔化しつつ、表向きの隠れ蓑という建前で素の口調で話す事と現地の貨幣によるお給金の支払いを認めさせてやったッス。これで稀少鉱石集めが少しは現実味を帯びてきたッスね!プヒヒッ。
「おっと、そろそろご飯が炊けたかな~?ふふふ~ん♪」
巷の文献とかじゃ媚び媚びなミニスカメイドが今の主流!なんて書いてたけれど、やっぱり王道は慎ましさの中にも完成された女体の淫靡を感じさせる様な落ち着いたメイド衣装だと思うんス。なのでその旨を力説してオッサンにメイド服を要求したんスけど、何故だか顔が引き攣ってたッスね。胸が強調される程度にギリギリのサイズを選んで主人の性的欲望を刺激させるのはメイドの義務だと思うんスけど……プロ根性というものを理解出来ないとは全く以て嘆かわしい事ッス。
まぁ人間だしその辺りは羞恥心とかもあるのかもしれないッスね。おまけにこのオッサン召喚時はあんなに鬼気迫った様子で低級悪魔共を追い払いまくってたのに、平時はヘタレ過ぎて自分へ手を出すどころか食事の配膳中にちょっと手が触れただけでも顔真っ赤にして慌てふためくんスよ……30過ぎのオッサンがそれで良いのかと思わなくも無いんスが、ここまで初心な様子を見せられると何か揶揄うのも可哀想な気がしちゃってねー。
こうして召喚に応じたのも何かの縁、少しは雌に対する耐性でも付けさせてあげようと、両手を握って黙ったまま無言でじっ……と顔を見上げたり、お風呂上りにタオルだけを肩にかけたまま裸族プレイで挨拶してみたりとか色々やってみたけれど、今のところ効果はあまり感じられないんスよね。おまけにオッサンの弟子らしき少年からえらい目の敵にされちゃってねー。人間っちゅーのはやっぱりよく解らんッス。
「師匠っ。おはようございま……何だ、痴女メイドかよ」
「誰が痴女ッスか失礼な。自分は概ねノーマルなオールマイティメイドッスよ。少年の師匠があまりにも女に耐性が無いからこうして一服脱いでやってんじゃねッスか」
「それを言うなら一肌だ!それにお前は服一枚どころか全部脱ぐだろうがっ。この露出狂が!」
噂をすれば影が差してきやがったッスよ。この見た目愛くるしい十代半ばの金髪碧眼な少年があのむさいオッサンの弟子ってやつで、声代わりを迎えても頑張ればソプラノを出せそうな聞き心地の良い声でいっつも自分に罵声を浴びせてきやがるんス。何がそんな気に食わないんスかねー?
「あらら~?もしかして少年、自分の裸に欲情して勃つモノ勃っちゃったッスか~?床に両手を付いてお願いするならお姉さんが優しくリードしてやっても良いッスよ~?」
「誰が女の裸などで欲情するか!あぁ師匠可哀想に―――本当は女体が好きで好きで堪らないというのに、昔から女共にいじめられていたせいですっかり女性恐怖症になってしまったのですね……。他の誰が見捨てても僕だけはずっとお傍におりますからっ」
「何でそこまであの性癖を理解してるのに少年がオッサンを未だに敬愛し続けられるのかが自分には理解出来ねッスよ……そんなにオッサンが大好きなら少年が性転換でもして女になって、愛しの師匠と目眩く愛の世界に旅立てば良いじゃないッスか」
「出来るものなら僕だってそうしたいさっ」
「……え?」
「―――えっ?」
今のやり取りで人間の業の深さというモノを垣間見た気がするッス……少年性成り易く侮り難し。
「まぁついでだから少年も朝ご飯食うッスか?今から配膳するから食うなら少年の分も用意するけど」
「む……悔しいがお前の作る飯は文句無しの美味さだからな。お願いします」
「あいよ~」
この少年、普段は怒ってばかりだけどこういう所はきちんと弁えてるんスよね。少年を始めこの世界の魔術師に弟子入りする年齢層は一部の貴族を除いて日々の食事にも困窮してる事が多いらしく、少年も会った当初は随分と痩せぎすで心配したモノッスよ。
あ、今はここ一月の餌付けの成果で肌もつやっつやのぷるんぷるんと至って健康体になったッス。オッサンも随分と気にかけてたみたいだし、栄養失調で死なれても寝覚めが悪いからね。
「旦那様ー。朝ご飯出来たッスよー」
食事の配膳が終わり、オッサンの私室へ行きドアをノックする。
「……あぁもう朝か。今の編纂がもう少しで一段落つくから、それまで待ってくれ」
「ダメダメ。旦那様この前もそんな事言って夕方まで部屋から出てこなかったじゃないッスか。今日は少年もご飯待ってるんだし一緒に食べますよー」
こういう時のオッサンは思考が九割方作業にいっちゃってて生返事な事が多いので、ドアを開けて椅子から引きはがし強引に連れ出すのが一番ッス。
「んなっ!?ままま待て待て待てっ!当たってる!せめてこの羽交い絞めの恰好のまま持ち歩くのは勘弁してくれっ」
「じゃあお姫様抱っこでいいッスか?」
「何故そう密着したがるんだお前はっ!大体それはどちらかと言えば私の方がする立場だろうがっ!」
「はいはい文句は朝ご飯食べながら聞くッスよ~」
オッサンの女体過敏症の方は相変わらず進展無しッスね……これは先が思いやられるッス。
「んで少年はこの現状どう思うよ?自分的にはあのままじゃ更に拗らせてその内幼女とか拉致監禁しかねない勢いだと思うんスけど」
「師匠がそんな事する訳ないだろっ!?」
そッスかねー。あの手のタイプは溜め込むから爆発した時が怖いと思うんスけどねー。
食後また部屋に引っ込んでしまったオッサンを尻目に現在少年と最近の日課となった対策会議にあたっている最中ッス。
「取りあえず少年に協力する気があるなら、自分ちょっと名案を閃いたんスが、どうする?」
「……師匠の為ならば」
「―――その言葉、確と聞いたぞ」
「今更悪魔然とした物言いされてもな……」
失礼な。周りからどう思われようと自分は紛うこと無き悪魔ッス。悪魔が悪魔然とした言葉使って何が悪いんスか!
「だってお前普段のが素だろ」
「な……何で分かるんスか!?」
驚愕の色に染まる自分を何故か呆れる様に見て、少年は指摘してきたんスよ。
「まずおやつを食べる時のあの幸せそうな顔、それにご飯支度で味見をしている時のあの妥協を許さない職人気質的姿勢。街に買い出しに出かけた時の値切り交渉や冷やかしもそうだし、師匠が居ない所でも態度が変わらない辺り芝居を打ってるにしては満喫しすぎなんだよお前……」
「がーん!」
くっ……こんなまだ毛も生え揃っているか分からないような少年に的確に指摘されるとは、不覚を取ったッス……!
つか、街中にまで付いて来てるとか少年って案外ストーカー気質?
「師匠はそういう感情の機微に疎いから気付いてないみたいだけどな、うっかりポカやらかして純粋な師匠の妄想を台無しにしたりすんなよっ」
「それはもう。にしても少年も随分とボロクソに言うッスね~」
「僕の師匠への愛はこの程度で変わる様な軟弱なものとは違うんだ!幾ら師匠がダメ人間だろうと、いやだからこそ!僕がずっと付いていて馬鹿な女共から護ってあげないとっ」
おい少年。今愛って言い切りやがったッスよ……。薔薇ッスか、薔薇なんスね。あぁヴァラは自分だったッスね、薔薇とヴァラってなんか似てるぜHAHAHA。
(審議中)
そんな自分の死んだ目をしながらの脳内会議に気付いたか少年は慌てて否定し始めるが時は既に遅しってやつッス。
「か、勘違いすんなよ!?僕の愛はプラトニックな方で、その……うぅっ、何でこの身は男なんだっ」
最早ツンデレなんだか真性なんだかよく解らない台詞を吐きつつ、少年崩れ落ちてしまったッス。
「あー、もうそこまで好きならあれだ。いっそ女装して迫ったらどうッスかね?つか元々そういう案だったんスけど。あのオッサンは女体過敏症ではあるけど、感触に対しては相当好きモノみたいッスからね。色々当てまくった自分が言うんだから間違いねッス」
「う……女装か」
こうして作戦は決行されたッス。
ちなみに女装した少年は、女の自分から見ても色々と滾るモノが噴き出してその場に押し倒してしまいそうな位の破壊力だったッス。この子生まれる性別を間違えたんじゃなかろうかね?
最悪オッサンが途中で激怒して少年を追い出しちゃうかもな~と思いながら『覗き穴』を作って見てたんスけど、女装だってことがバレた瞬間少年が大泣きしちゃって、オッサンもその様子に強く出れなかったみたいでねー。
「ちっちがっ……違うんです!僕、僕は、本当にそんなんじゃなくてっ」
「アイン―――」
「あは―――ごめんなさい。こんなの、気持ち悪いですよね……僕を破門して下さい、師匠」
「済まない……お前がそんなに想い悩んでいたのに気付いてやれなくて。だが俺は、やはり女が好きだ」
……相変わらず、オッサンがピュアかつ身も蓋もねーッスね。ある意味王道なのかもしれないけど。
それにしても、これもうこの二人がくっ付けば一件落着になっちゃうんじゃないッスかね?自分達悪魔にとってはそれこそ一瞬程度にしか感じない一月という短い期間ではあったけれども、それなりに少年とは交流を深めて愛着もあるし、オッサンの歪んだ純粋さもまぁ、生きる活力としては悪くない。
「ふむ―――最悪稀少鉱石は自力で探すとするッスか~」
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気まずい沈黙が部屋に降りる。
我が弟子アインが、実は私に想いを馳せていたとは……。確かに他の弟子達が私に愛想を尽かし次々に出て行く中、アインだけが私の下に残り甲斐甲斐しく付き添い続けてくれた。時には下働きの真似までして―――
ヴァラが私の召喚に応じてくれてからは随分と余裕が出来、アインの健康状態も相当に改善した。あの悪魔には感謝してもし足りぬ位だが、この衣装はどうみてもヴァラの物だよな……悪魔に人間の恋愛感情の類を理解せよと言うのは無理があったのだろうか。
何れにせよ、私はアインの気持ちに対し内容はどうあれ答えを返さねばならない。
だが、私は女の方が好きだ。昔から女難の相とでも言おうか、女からは随分と弄ばれすっかり委縮してしまったが、やはりあの柔肌や香りが恋しくて仕方が無い。こんな下劣な感情の捌け口として悪魔召喚などに走ってはしまったが、それを分かった上で仕えてくれたヴァラの献身に、漸く少しだけ前を向く事が出来るかもしれないと思っていたのに……。
なぁアインよ。お前の気持ちに応えてやれないこの不甲斐ない私をどうか恨んでおくれ。何故、お前が女でなかったのか……。
「―――本当は、こんな事をする気は無かったんスが」
不意にここ一月ですっかり聞き覚えてしまった、独特な口調の、鈴の音色の様な澄んだ声が部屋の中へ木霊する。
「下賤にして矮小なる人間よ。その歪んだ欲望、この悪魔ヴァラの名に於いて叶えてやろう。ただし代償は大きいぞ?果たして貴様に弟子の為そして自らの欲望の為に、それを払いきる迄の苦難の道を歩む覚悟はあるかな?」
「……あぁ、ヴァラよ。身の程知らずな願いを込めた、この私の召喚に応じてくれた大悪魔よ。我は求め訴える。如何なる代償でも払うと此処に誓おう。だからどうか……どうかこのアインの願いを……」
その言葉を待っていたとばかりにニタリと嗤う悪魔ヴァラ。しかし、私にはそれが何故か言う程醜悪には見えずー――
「師匠ぉ~、ここ空いてますよっ」
「ハハ、アインはいつも元気だなぁ」
―――何この脳ミソお花畑の真っ只中な三文芝居。
ちょっとばかりこいつ等の願いを叶えた当時の自分を責めたい気持ちに駆られつつ、それでもメイドとしての自負を奮い立たせ二人の邪魔にならぬ様背後へと控える自分。この鋼鉄の精神を発揮した自分を褒めてやりたいッス。
あの後、大方の予想通りにアインの身体を弄って本当の意味での性転換をさせ、一応事態は大円団の形に収まった訳ッスが……。
それからの二人のイチャつきっぷりが半端無く、当初は面白半分に覗いてたけれど三日間ぶっ続けでいたしていた辺りでいい加減げんなりして窓を閉じたッス。まぁ今迄の溜まりに溜まったモノをお互いぶつけ合ったみたいで何よりっちゃ何よりなんスけどねー。リア充共は爆発すればいいと思うッス。
結局代償として大量の稀少鉱石を要求してみたんスけど、オッサンの実家がその稀少鉱石の採掘権を持っていたらしくしかもこの世界じゃそこまで価値があるモノとして扱われてないみたいでねー。これは儲けものってことで定期的に回収できるよう正式な契約を結んだんスよ。
これでこの世界での用事はもう済んじゃった訳だけれども、二人が是非自分に代償とは別にお礼をしたいって言うものだから、メイドとしての契約期間の最終日にこうして地元の名観光スポットって言われてる山の上までえっちらおっちらと歩いて来たんスが―――
「師匠、あーん」
「ん……美味しいね。流石ヴァラ直伝の味だ」
「へーそッスかー。こっちこそご馳走さんッスよ」
こいつ等完全に二人の世界に入り込んでるよね?呪いとかかけちゃってもいいッスかね?
「ふふ、本当に有難うヴァラ。貴女のお陰で私はこうして師匠と一緒になれました」
「少年、二重の意味で女になってから中身まで変わっちゃったッスよね」
「あら酷いわ。こんな身体にしたのは貴女じゃない」
「周りの方々の誤解を招く様な物言いはご遠慮願いたいんスが!?」
この様に少年もとい元少年はすっかりと女の顔になっちゃたんスよね、いやはや……。
「これもヴァラのお陰だよ。ヴァラは私達の女神だね」
「全くだわ」
女神じゃなくて悪魔だし。そこんとこ勘違いしないで欲しいッス。
オッサンはオッサンで無精髭も毎日剃る様になって、こうして見ると中々―――おっと、自分で成就させた他人の恋路に首を突っ込んじゃいかんッスな。自重自重。
まぁ、こんな感じでこの小世界の一件は幕を閉じた訳となるッス。終わってみれば召喚形式からして久々なもので、中々楽しめたッスかね?
追記として。
あの小世界でゲットした大量の稀少鉱石を先輩にドヤ顔の写真を添付して送りつけてやったッス。数日後帰ってきた返事が、
「あぁ、そう言えばそんな物の注文もしておったのぉ。これ、別の世界で人工的に合成出来る技術が見つかった故、次からはもう要らぬでな」
だったッス……しかも端金の添付返しで。あのクソ狐、いつか絶対泣かス!
最後にいつものオチ。
こんな感じに一部数話毎のオムニバス形式な作品となりそうです。