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第001話 悪魔と召喚師

 別作品『狐耳と行く異世界ツアーズ』の当時のボーナス投稿として投稿した作品です。こちらもオリジナルとして執筆する予定なので特にあちらを読む必要はありませんが。

 ですがもし興味がある方が居りましたら、

http://ncode.syosetu.com/n9833cr/よりお願いしますm(_ _)m

「ハァ……ハァ……」


 外からの光が一切届かぬ暗闇の中、男は息も荒く恐怖に耐えていた。

 床には今にも消え入りそうな弱々しき逆五芒星の光、辺りには獣臭とも腐臭ともつかぬ饐えた臭いが立ち込める。


「……何故だっ!?何故成功しないんだッッ!」


 今迄幾度となく手を変え品を替え挑戦してきた。ある時は知性の欠片すら見られぬ低級悪魔が出現し、またある時はひたすら震えるだけの生物なのかすら判らぬような粘体物質が現れた。時にはそれなりの知性を持つ悪魔が呼び寄せられたこともあるが、それらは揃って吐き捨て去っていく。話にならぬ――と。


 地方貴族の三男坊として生まれ、それなりの教育を受け、それなりの作法を嗜んだ男はしかし、魔術という終わる事の無い神秘の学問に魅せられ半ば家を追い出される形で魔術学院のとある導師へと弟子入りを果たした。老齢であった師の死後若くしてその後継に収まるも特に魔術の世界では才能に秀でていたという訳では無く、それでも変わらぬ魔術への情熱と……幾ばくかの『趣味』もとい研究により日々を慎ましく過ごせば多少の余裕が出来る程度には成果を残してもいたし、男自身もそれで満足していた部分はあった。


 それでも……生涯の目標、ある日見た幻、その為にならば文字通り悪魔に魂を売り渡してでも叶えたい夢が男にはあったのだ。

 その実現へ向け試行錯誤を繰り返し、一度は激怒した悪魔によって命の危機に瀕した事すらあった。召喚にかかる手間と次の召喚への合間の細々とした雑務とのアンバランスさに、元々数少かった弟子達も一人を残し皆去っていった。


「私は、絶対にやり遂げて……みせ……」

「――いや、その風体と代償であのような願いは無理があると思うのだが?」


 薄れゆく意識の中、悪魔召喚時には常に感じ続けていた死の恐怖の兆しすらなく、何時の間にか『それ』は目の前に佇んでいた。


「お…おお……」


 遂にやった――こんな時なのにやってしまった……そんな二つの矛盾した思いを抱えながら、男は床へと崩れ落ちる。数日間にも亘る儀式により極度に疲労していた身体と精神は、いざ召喚に応じた悪魔との交渉を迎える前に隙を見せてしまった。

 契約を果たせなかった我が身に舞い降りるのは死への誘い、あるいは死ぬよりも悍ましい地獄だろうか。だが自らの半生をかけたその目的は半ば果たしたとも言えるので、仕方がないか……などと疲労により働きの鈍った思考の中、道半ばで斃れる近い未来を待ちながらぼんやりとその悪魔を見上げていた。

 不思議と恐怖は無かったが、不思議と言うのであれば男は逆五芒星を維持する事が出来なかったというのにこの悪魔は男へ襲い掛かる様子も無く、唯々その冷たい視線で見下ろすのみ。


「――?」

「フゥ……それで、一応聞くだけは聞こうか。我を召喚したのはお前で間違いは無いな?」

「あ、あぁ……私を殺さないのか?」

「何だ?自ら呼んだ悪魔に自分を殺させようとは、また随分と歪んだ自虐嗜好を持っているようだな」


 一体何なのだろう、この悪魔は。話に伝え聞く悪魔達は常に人を害する事しか考えていないモノで、実際に幾度か男が召喚に成功した数体の悪魔も例外無く隙を狙っては襲い掛かってきた。だのにこの悪魔は―――


「まぁお前の都合などどうでも良いな。まずはその今にも衰弱死してしまいそうなお前の身体をどうにかすることから始めるか……喜べ。お前の望んだ形とは少々意を異にするだろうが、お前はその歪んだ欲に満ち満ちた望みの為の手段として、確かに我を召喚する事に成功した。今は精々お前に恩を売り此方に有利な条件で交渉を結ばせて貰うとしようか」


 その言葉を聞くと同時に、最後の気力すらも使い果たし、悪魔の話を理解出来ぬままに男は意識を失った―――











 ここはとある魔界の上層部。自分はいつも通りの情報収集を兼ねくたびれたバーの一角で掲示板を漁っていた。


「んー、相変わらず碌なのが無いッスねー。マスター、もうこういう古臭い契約って時代遅れだと思うんスけど、その辺りどうなん?」

「しょうがねぇだろ。最下層(した)のお偉方が悪魔としての矜持の為にはこれは欠かせん!って意固地なんだからよ。一昔前はそういうのが流行った時期もあったがもう今じゃあラリった最下級悪魔(ハンパモン)が悪戯半分に手を付けるだけで成り立ちゃしねーのにな」

「そッスよねー。これなんか既に召喚者(いらいにん)が老衰で逝っちゃってるし、それで三十年の寿命を代償にとかネタにすらならねー」

「おっと悪ぃな、処分するからこっちに回してくれよ」

「へいへい」


 契約管理の不手際にも悪びれず、見つけた自分に見返りとしてワインの一杯を寄越しながら言う髑髏頭の死神マスター。明確に死をイメージさせるその姿から魔界じゃ一、二を争う大勢力の種族ッスけど、有名に過ぎるし世界によって呼び名も変わるんで別に詳しく説明するまでも無いッスね。

 奢りのワインをぐびぐびと喉に流し込みながらまた日課の掲示板漁りへと戻る……これ、今年のボジョレー・ヌーヴォじゃないッスか。相変わらずこういう面は最新のモノを更新し続けるのに本業は疎かな辺り、魔界も堕落しまくってるッスねー。悪魔だしそれが本分なのかもしれないけれど。


「それにしても、召喚の意味すら分かってないような妙ちくりんな召喚(いらい)が多過ぎんね。これなんか召喚じゃなくて自身を魔界に送喚する式になってんじゃないの、ある意味天才だけど。これじゃあ自分から喰ってくれって言ってるようなモンじゃないッスか」

「近頃は喰っても味気無いしょーもない魂ばっかりだからなぁ。アース系列の世界の連中なんか特にな。いっそあのギスギスした連中こそ魔界で悪魔やりゃ良いのによ」

「全くで」


 いつも通りの呆れた愚痴を零し合いさぁ頃合いかと席を立とうとしたその時に、掲示板から新着音が鳴り響く。


「――お?」

「こりゃ珍しい……ヘイム系列の小世界からの召喚(いらい)かよ。昔さながらの逆五芒形式だぜ」

「何それ面白そう、マスターちょっとそれ見せて」

「あいよ」


 最近じゃあ悪魔召喚プログラムやら、何をどう履き違えたのか自身が魔法陣の外に出て悪魔を召喚しようとして自滅するなんてパターンが多くて召喚の成功率自体が落ち込んじゃっているんスよね。もう悪魔達は召喚なんぞに頼らずに、龍脈や都市伝説なんかを利用して好き勝手に人間界に遊びに行ってるってのに。

 まぁそれもある程度熟しきった世界に限るんスけどね。今回の召喚先みたいな未だ成長途上な小世界には確りとした手順に則った召喚以外では悪魔が入り込む事は出来ないんス。天使の連中は降臨なんて裏技でホイホイ入り込んで信仰を集めちゃ神の名の下にがんがん反理想郷(ディストピア)を作ってるっちゅーのにね。

 おっと、愚痴が過ぎてデータを貰ったまま全然見てなかったッス。さてさて、どんな召喚(いらい)内容かな?


「……うわ」

「ん?また何か不手際でもあったか?術式自体はまともに思えたが」

「いやぁ――終生を仕えてくれる美しき家政婦(メイド)求ム、報酬:居場所、って。何コレ」

「……今流行りの転生か何かでこの小世界に入り込んだアース系列の連中かね?」

「ぶるるっ」


 汗や糞尿を垂れ流しながら魔法陣の中でハァハァと股間と妄想を膨らましてるオッサンを想像して一瞬首筋の後ろ側がぞわっとしたッス。最近巷には転生モノの都市伝説が流れていたりなんかして、それに応じて実際に魂がふらふらと界渡りする事例も増えてきちゃってるんスよね~。


 うーんそれにしても、ねぇ……。見た目ぱっとしない三十がらみのオッサンだし、人気無さそうだなァ。


「早速淫魔共が(たか)り始めてるっぽいな。この召喚者(いらいしゃ)も明日の今頃にゃ出涸らしか」

「んん……いやでもコイツ、以前にも何度か悪魔召喚を試みちゃ襲い掛かった悪魔達を撃退してるみたいッスよ。履歴だと一度堕天使の脅威からも死にかけちゃいるけど逃げ切ってるし……」

「っほ~。まだ発展途上の小世界だけはあって随分と気合いの入った魔術師だなそりゃ。行ってみるかい?」


 ……そういえば先輩のクソ狐から機会があればヘイム系列の稀少鉱石(レアメタル)を拾ってこいって言われてたッスね。あの人こういった閉じた世界には門でも開かない限り入れないしなぁ。これは貸し一つのチャンスかな?


「そッスね。この世界にはちょっと用事があったところだしついでに見てこようかな」

「毎度ありぃ、仲介料一万ゴルドになります。100ソウルでも良いが」

「1万ゴルドに対して100ソウルとかぼり過ぎっしょ……」

「最近俺の本業の方もあまり芳しくなくてなぁ。まぁあっちと掛け持ちしてるお前にソウルでの請求はきついか」

「ッスね~。狭間じゃ大量の魂の刈り取りは自重の流れだし。ゴルドで払うッス」


 自分、数百年程前に狭間の世界というのに迷いこんじゃたんスよ。その時は現地で出会った妖狐の一人にボロクソに畳まれて命からがら魔界へ逃げ帰ったんスけど、以来何処へ行ってもよくそのクソ狐と遭遇しちゃってねぇ……ある時共闘したのをきっかけに一応和解が成り立って、それを機会に狭間の監視組織というのに悪魔との掛け持ちの形で入ったんスが、前に狭間で暴れた自分への罰則(ペナルティ)って事でそのクソ狐の下に配属されちゃってね。今はなし崩し的に魔界側と、そこに接触する世界担当の監視者なんてものをやってるッス。これも縁ってやつなんスかね?


 実際にやってみると魔界だけじゃ不足気味だった刺激も色々と味わえるし、狭間経由で割と自由に色んな世界を見れるんで特に不満も無いんスが。最近でこそ魔界もゴルド払いが主流になってはきたけれど、昔はソウル以外認められなかったから組織に入った当初は結構不便してたんスよね~。

 兎も角そんな縁があって今回も稀少鉱石(レアメタル)掘りに行く理由が出来たので、召喚に応じてみようかなと思った次第ッス。ただのエロオヤジだったら取る物取ってから玉蹴り潰してとんずらこくだけだしね。


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 現地の様子を見に薄皮一つ手前の星幽界(アストラル・プレイン)に来てみたら、居るわ居るわ。インプにリリムにサキュバスと。そらあんな文面じゃあソッチ方面目当てと思われてもしょうがないッスよね~。

 皆自分が着た途端ビクッとした気がするけど、別に割り込んだりなんかしないッスよ?どうぞどうぞ順番に。


 そんなこんなで適当に狭間の計器を弄りながら時間を潰していると、気づけば後続が居なくなっちゃったッス。まぁ良っか、前の悪魔(ひと)達も皆あの魔術師に門前払いされたみたいだし、そろそろ行くとしまスかね~。


「って、何気絶しかけちゃってんスか!?」


 その男はふらつきながらも自分を奮い立たせるかの如く弱々しく呟いていたッス。

 数多の淫魔共を追い払って疲労困憊になったのか、その男は今にも倒れそう状態ッス。こりゃイカン急がねば!

 物質界(マテリアル・プレイン)へと降り立つ前に自身の姿と衣装を軽く点検し、深呼吸を一つ。では行くッスよ!


「私は、絶対にやり遂げて……みせ……」

「――いや、その風体と代償であのような願いは無理があると思うのだが?」


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 ―――目が覚めると、男は自室のあまり上等とは言えないベッドの上で横になっていた。


「私は……確か、悪魔召喚の儀式の最中に……」

「―――お、ようやく目覚めたか。正式な契約前の召喚者に無闇に触る訳にもいかんからな。湯と布を持ってきた、身体は自分で拭いてくれ」

「お前……は……?」


 その悪魔然とした露出度の高い、しかし妙に品の良さを感じる衣装を身に纏った美しき女悪魔は男が自問をすると同時にドアを開け入ってきた。姿形は間違いなく昨夜呼び出した悪魔の筈なのだが、一夜明け陽の光の下で見るその顔からは妙に人間臭い表情が見て取れる。


「ん、もしや昨夜の記憶が飛んでいるのか?……いやそういった様子では無いようだな――あぁ呼び出したのだから名前を知りたいという事か」


 そう勝手に結論付けて納得の行った表情を浮かべた後、嫣然とした笑みを浮かべながら、その女悪魔は男へと名を名乗る。


「我が名はヴァラ。特に名のある系統の出ではないが、昨夜お前に群がってきた有象無象共よりは話は分かる方だと思うぞ?」

「なっ!?悪魔が自分から名を名乗るとは……」

「あぁ、これでもじぶ……我は大悪魔の末席に名を連ねる者だからな。名を知られた程度でそう簡単に縛られなどはせぬよ。そんな我を呼べたのだ、光栄に思えよ召喚者?」


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 プヒヒッ、あっけに取られてるッスね。最初の掴みは成功ッス!悪魔だろうと人間だろうと、やはり第一印象ってのは大事だと思うんスよ。クリーニングに出してた一張羅が間に合って本当に良かったッス。後はそれっぽく怪し気な雰囲気を作って居座れる理由ついでにお給金でも貰えれば目的も果たせるし、万事順風ってやつッスね。

 そうそう、昔ながらの悪魔なら兎も角、最近じゃあ別に名前程度知られたところで困りはしないんスよね。人間社会が発達してきているのと同じく、魔界も進歩してきてるんス。


 それでは、お楽しみの交渉タイムと参るッスよ~。

 基本不定期。メインの方が暫く続く予定なので。

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