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とある従魔師の交遊記録  作者: 安芸紅葉
一人目「無垢なる軟体魔物」
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第3ページ ロアベーア

「ん…ここは…」


目が覚めると知らない天上だった。

僕はベッドに寝かせられていたようで、起き上がり見回すと簡素な木造作りの部屋だった。


見慣れない部屋を見ていると、ぽとっと足の上に何か乗った。

視線をやるとあのスライムだった。


「あ!お前!大丈夫だったのか!」


僕は嬉しくなって抱き寄せる。

スライムも震えて嬉しさを表現している。

どうやら心配させたようだ。


「よかったぁ。あの時はありがとな」


気にするな、と言うように体を擦り付けてくるスライムを僕はぎゅーっと抱きしめる。

また割っちゃいけないから力加減に気をつけて。


僕とスライムがそんな感じで触れ合っていると、ドアが開いて意識を失う瞬間に見た人が入ってきた。


「お、気がついたか」

「おじさんが助けてくれたんですか?」

「おじ…まぁそうだ。お前、こんな時間に森で何してたんだ?」


おじさんの目がきつくなる。

おじさんは優しそうな顔立ちをしているけど、目を細めると迫力があり、僕はビクッとしてしまった。

そんな僕にしまったという顔をして、口を開く。

でも、何か言う前にその行動は後ろから飛来したお盆によって妨げられた。


「ぐっ!?」


頭を押さえて蹲るおじさんの後ろから、一人のきれいな女性が歩いてくる。


「こら、あなた!まだ小さい子をそんな目で睨むんじゃありません!」

「ってて。お前なぁ、もうちょっと加減してくれ。俺の頭がそろそろ凹むぞ」

「あなたの頭がそんな簡単に凹むわけないでしょう」


痛みに顔をしかめながら立ち上がったおじさんに、鼻で笑って女性は答える。

一変して優しい顔をこちらに向けてきた。


「坊や、名前は?」

「入須慧人…」

「イリス君?それともケイト君かしら?」

「あ、えっと…ケイトが名前です」


外国では苗字が後にくることは知っていた。

友だちもおらず、時間があるときは図書室に篭ることが多かったからだ。


女性の顔立ちは、とても日本人とは思えず、だからどちらがファーストネームなのかと聞かれていることがわかった。


「ケイト君ね。よろしく、私はミレイよ。こっちの人はロアベーア。私の旦那で、怖い人じゃないから、安心してね」

「ロアベーアだ、ロアと呼んでくれ。さっきはすまなかった」


ロアさんは、困った顔をしながら僕に頭を下げてくる。


「い、いえ!助けていただいてありがとうございます」


実際、あの時ロアさんが駆けつけてくれなかったら僕がどうなっていたかわからない。


「それで?詳しく事情を聴かせてもらってもいいか?」


僕はこれまであったことを話した。

僕のいた世界のこと。

気づいたらあの森にいたこと。

スライムと出会って友だちになったこと。

スライムに付いて行ってたら夜になったこと。

あの異形の怪物に襲われたこと。


話を聞いて、ロアさんとミレイさんは難しい顔をしている。

数分考え込むようにして、ロアさんが口を開いた。


「おそらくお前が異世界人だというのは間違いないだろう。俺も会ったことはないが聞いたことはある」

「やっぱり…」


ここが異世界であることは、自分でもほぼ間違いないと思っていた。

スライムや、あんな異形は地球にはいない。

それに、ロアさんとミレイさんのような人も。


「ん?ああ、君の世界には人族しかいなかったのだな。私はエルフ族だよ。俗に森の民などと呼ばれたりもする」


僕がロアさんの尖った長い耳を見ていることに気が付いたのか、自分から言ってくれた。


「私は獣族で、狸人よ」


ミレイさんの耳は、頭の上についていて、その形は前に図鑑で見た狸と同じだった。


「それから、君とスライムはどうやら仮契約状態にあるようだ。名前は付けないのか?」

「仮契約?名前?」


突然ロアさんが言ったことに僕は?がいっぱい浮かんだ。

ロアさんは不思議そうな顔をして、すぐに納得したような表情になった。


「仮契約というのは従魔法によって魔物を従えることだ。名前を付けてあげることで契約は成立する」


ロアさんが丁寧に教えてくれる。

なるほど、スライムが必死に僕を守ろうとしてくれたのはそういう訳なのか。

でも…


「しかし、そうか。異世界から来たばかりなら従魔法のことなんて知りようもない。にも拘らず、仮契約はなされている。君は不思議な子だな」


そうだ。

僕は今の今まで従魔法なんてものは知らなかった。

魔法がこの世界にあることも今知ったんだ。

僕はどうやって従魔法なんて使ったんだろう?


「ん?へーそうなのか」


と思っていたら、ロアさんが空中に向かって独り言を言い始めた。

どうしたのか、と不安に思っていたけど、ミレイさんは気にしていない。

いつものことなのか、とロアさんが見ている方をじっと見ていると、ボヤァと視界が揺らいぎ、空中に浮かぶ黄緑色の薄いドレスを着た女性が見えた。


『どうやら私の姿も見えているようですね』

「ん?そうなのか、ケイト」


僕は驚いて言葉が出ず、コクリと頷いた。


『初めまして、私はセーラ。風の精霊です』

「精霊さん…」

『本当に不思議な人の子…あなたはどうしてか、人を惹きつける。ほら、あなたの周りは精霊でたくさん』


気づけば、僕の周りをあらゆる色の光が飛んでいた。

黄緑、緑、青、黄色、白、紫。

色とりどりの光が僕の視界に映る。


「俺がお前を見つけれたのは、精霊が一か所に集まっていることをセーラが教えてくれたからだ」

『私は、森の精霊たちが私を呼んでいることがわかったのです。あなたを助けようと必死だったのは、スライムだけではなかったのですよ』

「そう…だったんですか…ありがとう」


僕が光に向かってそういうと、嬉しいのか光が一瞬強く瞬いた。

僕はその優しい光を受け、なんだかとても気持ちが落ち着くのを感じた。


「…こりゃ、教会に行く必要があるな」

「そうね。早い方がいいわ」

「教会?」

「ああ。そこで教会に行けばステータスカードを作ってもらえるんだ。この村に教会はないから、少し出る必要があるが」


ここはヤム村。

この世界に3つある大陸、獣族が住むバリファルファ大陸にある小さな村だそうだ。

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