第2ページ 遭遇
「うう…どうしよう陽が暮れちゃうよ…」
先を行き案内してくれるスライムの歩みは、依然として遅く、気がつけば太陽は落ち始めており、夜が訪れようとしていた。
「夜になったら…まずいよね…」
同時に気温も下がっており、この右も左もわからぬ森の中で夜など到底越せないが、暗くなったのちに光源もなく進むのは危険だということはわかる。
既に2時間程は歩いているのではないだろうか。
水さえ摂れていない現状、体力も精神力も限界に近い。
人がいる場所に近づいていると思いたいが、そういった兆候は発見できていなかった。
スライムを抱えて行こうかとも思ったのだが、その場合スライムが指す方向がわかりづらく、結局は後を付いていくのが一番わかりやすかった。
おそらくはスライムの進む方向に真っ直ぐ進めばいいのだろうが、その真っ直ぐ進むというのが森では難しいというのを聞いたことがある。
真っ直ぐ進もうと思っていても、緩やかな傾斜や、直線上に乱立する木々により、知らず知らずのうちに進路を変えられているそうだ。
でもそろそろ、これからどうするかを考えなくてはいけないかもしれない。
このままだと野宿になってしまう。
今まで野宿なんてしたこともなければ、食べ物もテントなんかもない。
幸い他の生き物に会ってはいないが、この森にどんな猛獣がいるかもわからない。
僕は朝まで生きられないかもしれない。
かといって、歩き続けた所でどうなるかわからない。
体力が尽きてしまえば、逃げることもできなくなってしまう。
さっきも言ったように星明りだけでこの森を進むのも危険だ。
どちらにしろ希望がない。
僕はこんな何もわからないところで死ぬのだろうか?
せっかく友達ができたのにな。
前を行くスライムを見ながらそんなことを考えていると、ガサガサと揺れる音がした。
一瞬ビクッとしたものの、人だったらとそちらに近づく。
「だ、誰かいるんですか?」
人がいて欲しいと不用意にも近づいてしいまった。
「ギ?」
「ひっ!?」
そこにいたのは人ではなく、人のような何か。
緑色の肌をし、腰布を巻いただけの姿。
手には木の棒を持ち、身長は150㎝程で僕と同じくらい。
「あ…あ…」
「ギヒ」
下卑た嗤いを浮かべながら、僕に向かって歩いてくる。
僕は腰が抜けてしまい、尻餅を付いたまま、必死に後ずさることしかできない。
と、今まで見たことのないような動きで、スライムが僕とその異形の間に入った。
まるで僕を守ろうとするかのように。
いや、まるでではない。
スライムは僕を守ろうとしてくれている。
異形はスライムのことなど気に留めず、足で払いのけるだけだ。
だが何度払われてもスライムは、僕と異形の間に割って入る。
「も、もういいよっ!」
払われる度に、スライムの体積は小さくなっている気がする。
少しずつ、身体の接着が間に合っていないのだ。
それでも、スライムはその行為をやめようとしない。
自分の命に代えてもというように。
「ギヒィ」
いい加減うっとうしくなったのか、異形はスライムに向き直り、手に持った木の棒を振り上げる。
「や、やめてっ!」
僕の制止の声は届かない。
スライムに向かって、木の棒が振り下ろされる。
僕は思わず目閉じた。
トンッ
「ギッ!?」
だが、スライムが叩かれたような音はしない。
代わりに聞こえたのは、何か刺さるような音と、ドサッという何かが倒れる音。
恐る恐る目を開けると、異形の頭に矢が刺さり、仰向けに倒れているのが見えた。
「大丈夫か!?」
声が聞こえそちらを見ると、金色の髪をなびかせ、壮年の男性が弓を片手にこちらに向け走ってきていた。
僕はその姿を見て、フラッと意識が遠のいた。