第32ページ モンスターハウス探検
「ごめんくださーい…」
僕の声が家に響く。
当然のように誰からも返事はない。
「うー…」
「怖いの?」
「怖いよ!」
お化け屋敷とか苦手だったんだから。
そういうものではないとわかっているけど、どことなく雰囲気が似ているんだ。
「でも、これどうすればいいのかな?モンスターハウスについて調べてくるべきだった?」
「間違いなくそうだろうね。僕も詳しく知っているわけではないし…」
それでも簡単なことは知っているというのがすごいと思う。
僕らは恐る恐る家の中を進む。
そう、ここは間違いなく家だった。
魔物の中だとは思えない。
とても住みやすそうな洋館である。
豪邸と呼べる程ではないけれど、この世界では一般人が住む家よりも遥かに良い家なのは間違いない。
食堂や、客間、書斎まである。
「うわぁ!」
ケビンが書斎にある本に目を輝かせているし、フェオンとクロは食卓の上に乗っている料理立ちに興味津津だ。
これは優良物件だ。
是非とも友達になりたい!
けれど今のところモンスターハウス側からのアプローチは何もない。
と、思っていると屋敷のどこからかグモォォォという重低音な音が聞こえてくる。
鳴き声なのかなんなのかわからないけど、怪しく不気味なことは間違いない。
「フェオン、音の出どころわかる?」
「クゥン…」
フェオンが悔しそうに首を振る。
そうか、フェオンでもわからないか。
となるとやっぱり屋敷全体が音を出しているってことなのか。
「ケビン、モンスターハウスと意思疎通するにはどうすればいいかな?」
「わからないけど、僕らが中にいるのはわかっている筈だからこのまま話してみてもいいんじゃない?」
「そうか」
その言葉にうなずき、しかしどうしていいかわからずとりあえず声を張る。
「おーい!僕の名前はケイト!ここには君に会いに来たんだ!」
もう一度グモォという音が聞こえ、相手に言葉が届いていることがわかった。
「君はどうして人を食べないの?!」
聞いた後で思った。
答えを言われても僕にはその言葉がわからない。
ケビンにもわからないのだからわかるわけがない。
ただ、それでもモンスターハウスはグモォと答えようとしてくれているのがわかる。
けれどやっぱり僕には何も伝わってこない。
「弱ったね…どうしようか?」
「モンスターハウスとコミュニケーションを取る方法なんて本に書いてなかったなぁ…」
僕とケビンが揃って頭を悩ませている時、ぽんぽんと音を立てて不自然にボールが現れた。
まるで誰かがついているかのようにボールは一定のリズムで弾み続ける。
「…なにあれ?」
「さ、さぁ?」
誰もいないのに跳ね続けるボール。
これはなかなかホラーだよ?
「これはもしやモンスターハウスが操っているのかな?」
「え、そうなの?」
グモォ
「そうみたい…」
僕らがそう結論付けると、ボールは跳ねたまま動き始め、僕らがいる方ではない方向に向かって廊下を進む。
ケビンと顔を見合わせ頷きあってから僕らはボールの後に着いて行く。
フェオンはなんだかうずうずしていたようですぐにボール近くへ駆けて行った。
ボールはまっすぐ廊下を進み、突き当りの階段を上がっていく。
…え、階段?
「ねぇケビン…さっきまで階段なんて…」
「なかったね。外から見る限り二階どころか三階までありそうだったからおかしいな、とは思ってたんだ。でもそう言えば、モンスターハウスは自分の造りを好きに弄れるって読んだことがある」
それはつまり部屋を好きな場所に配置したり階段を隠したりすることも可能だということか。
ますます友達に、仲間になって貰いたい。
階段を上ると、同じような造りの廊下が。
ただ、一階は廊下部分には窓がなく両側に部屋が並んでいたのに対して、二階は片側を窓が並び向かって左に部屋が並んでいる。
ボールはその内の一つの扉の前で一度止まり、中へと入っていった。
僕らもそれに続く。
「ここは…」
そこはどうやら子ども部屋のようだった。
色々な玩具が散乱しており、まるで今の今まで誰かが遊んでいたかのようだ。
「ウゥゥ」「キュッ!」
「フェオン?クロ?」
部屋を見回していると、突然フェオンが警戒の唸り声を上げる。
クロも何かに気付いたようで僕に注意を促してくる。
「ケイト、この部屋誰かいる」
「え!?」
ケビンが警戒しながら教えてくれる。
ただ、その言葉が相手にも聞こえたようでガタッと音がした。
壁際に置かれているベッドの奥。
ちょうど僕らからは死角になっている位置だ。
「ワウッ!」
「キュツ!」
フェオンが一歩でベッド裏が見える位置へ移動する。
同時にクロも空中から視界を確保していた。
さりげなくケビンが僕の前に出る。
完全に臨戦態勢となってしまった。
その時、ベッドがまるでそこにいる誰かを守るかのように浮かび上がり、グモォと音がする。
モンスターハウスは誰かを守ろうとしている。
そう気付いた時、僕はベッドを警戒して一歩引いた友達たちに声をかける。
「皆待って。話をさせて」
ケビンはそれに、やれやれと首を振り僕に道を開けてくれる。
クロは何故か嬉しそうに僕の近くへ戻ってきて、フェオンは警戒を続けながらも待つ体勢に入ってくれた。
「大丈夫。怖くないよ?でておいで。僕らは何もしないから」
僕は優しく声をかける。
ここは子ども部屋で、ベッドの奥に大人が隠れられるようなスペースはなかった。
そうなると考えられる答えは一つ。
「お兄ちゃん誰?」
ベッドの奥から、少年の声が聞こえてきた。




