第31ページ 案件
「ここか…」
司教が教えてくれたのはと物件というよりも案件。
「モンスターハウス被害について」だ。
モンスターハウスというのは、そういう名前の魔物だそうだ。
家に擬態しているわけではなく、家そのものの魔物。
自分の中に入って来た人を捕食するそうだ。
本来ならば冒険者ギルドへ依頼を出すのだが、間違って教会に依頼が来てしまった。
これは教会が行う浄化に関係する話。
呪われた家や、レイスなどの悪霊が取り憑いた家を浄化するのは神聖魔法を使える教会の役目。
今回の依頼主はその区分けを知らず、誤って教会に依頼した。
教会が調査した結果、モンスターハウスだということが判明。
今日にでも冒険者ギルドに回す予定だったそうだ。
危なかった。
そう僕はここに、このモンスターハウスに住もうと考えている。
というのも話を聞けばこのモンスターハウス、被害らしい被害が出ていないのだ。
さっきも言ったように、モンスターハウスは中に入ってきた人を捕食する魔物だ。
にもかかわらず、今までこのモンスターハウスに捕食された人はいない。
人が入っても驚かされて出てくるだとか、夜な夜な君の悪い声がするとか、子供が誤って入ったら大変だとか、その程度の話だ。
つまりまだ誰も危険な目には合っていない。
これは本来ありえないことなのだと司教は言っていた。
モンスターハウスが中に入った者を無傷で帰すなど聞いたこともないと。
それ故に対応も後回しになっていたそうだ。
まずは調査してからという感じ。
けれどもし、このモンスターハウスが人をわざと無傷で帰しているのだとしたら。
考えられるのはいくつかある。
まず一つ目。
これが最も大きい可能性と言われたけど。
ある程度の知能があり、自分の討伐依頼が出されるのを防ぐためだ。
まぁ実際討伐依頼は出されてしまうからそれほど賢くはないということ。
もう一つ。
人を捕食することをしたくない場合。
理由はわからないけど、このモンスターハウスが人の捕食を嫌っている場合だ。
そして僕は後者の可能性だと信じることにした。
前者であっても、ある程度の知能があるならば問題はない。
知能があるなら、僕のスキルが効果を発揮してくれるはずだ。
僕なら友達になれる筈だ。
そう思って、僕はこのモンスターハウスまで来た。
王都から少し行ったところにある小さい村の外れに、そのモンスターハウスはいた。
外見は普通の西洋館。
しかも結構立派な部類。
獣大陸にある建物は、一部を除き木造が多いので、その存在感はすごい。
そこだけ違う世界であるかのようだ。
そして確かに、うめき声のような声が聞こえてくる。
これがモンスターハウス本人の声なのかどうかはわからない。
「どう思う、ケビン?」
「モンスターハウスは人が生息する場所付近に現れる。森に現れたりしないから僕も見るのは初めてだ。けど、モンスターハウスは生まれた近くの建物に似るというのを読んだことがある。獣大陸にある建物がほとんど木造の建物だということを考えると、このモンスターハウスは別の大陸から来たのかも」
人族の大陸か、魔族の大陸か、ってことか。
それは随分と長旅だったんじゃないかな?
「とりあえず入ってみようか?」
「警戒心が全く無い案で本来なら反対すべきなのかもしれないけど、行ってみよう。そうしないとわからないっぽいしね」
「了解」
でも、僕の安全を考えてかフェロンとケビンが先に入り、守ってくれているのかクロが僕の後ろをキョロキョロと見回しながらついてくる。
ビギンは変わらず僕の肩の上だ。
さて、鬼が出るか蛇が出るか。
僕らは口のように開いている扉を通り、モンスターハウスの中へと足を踏み入れた。




