第30ページ 宿の問題
本日二話目です。
「驚いたよ、ケンタウロスがいても何にも思われないんだね」
「そうだね。従魔というのが大きいかもしれないけどこの街は色んな種族がいるからねー」
前に来た時同様、獣都には色んな種族が集まっている。
ケンタウロス種は珍しいと思うけど、注目を集める程ではないみたいだ。
「それで、これからどうする?」
「まずは宿だね」
この間宿泊した宿、ツェッペルさんの「緑の宿り木」に本当は泊まりたいんだけどあの店は平均よりグレードが高い。
父さんから旅費はいくらか貰ったし、僕が自分で貯めていたお金もあるけれど、あそこを拠点にとなると難しいだろう。
「うーん…ケビンを厩とか嫌だしなぁ…家でも借りれたらいいんだけど…」
今のお金じゃ厳しいよなぁ。
そんなことを考えながら、僕は宿を探して回る。
でもケビン達を部屋に入れていいという宿は見つからなかった。
「うーんどうしよう…」
「僕らのことは気にしなくていいよ?」
「ガウ」
「そうは言っても…」
「おや?あんた確か…」
街の中心近くにある広場の椅子に腰かけ頭を抱えていると、女の人の声がかかった。
顔を上げると、前に父さんと来た時冒険者ギルドで受け付けをしていた人がいた。
名前は確か…
「アギーラさんでしたっけ?」
「おや、覚えてくれてたのかい。どうしたんだい、こんなところで?ロアベーアも一緒かい?」
「実は…」
僕はこれまでの経緯を説明する。
獣都で知り合いに会えたのは好都合だったかもしれない。
「なるほどねぇ。そういうことなら冒険者登録するといいよ」
「冒険者登録?」
「そうさ。ギルドが冒険者に期限付きだけど無料で貸し出している部屋なんかもあるからね」
「そんなのあるんですか!」
「そうさ。まぁ小さい部屋だからね。寝泊まりくらいしかできないけど」
「いえ、十分だと思います!」
「そうかい?じゃ行こうかね」
「え?」
アギーラさんは僕の手を引いて冒険者ギルドの方へと向かう。
強引だけどありがたい。
ありがたいけど、いいのだろうか?
「今日は非番だからね。やることもなくてうろついていただけさ」
豪快に笑うアギーラさん。
男前である。
その後、アギーラさんに付き添ってもらい問題なく登録を済ませる。
貸し出している部屋というのは、寮のような感じだった。
木造建築で、古い感じがするけど中は悪くない。
従魔たちと一緒に住むことを考えれば手狭だけれど、無料で借りておいて文句なんかは言えない。
それにキツキツというわけでもないから十分だ。
期間は一月だった。
登録したてでGランクだというのも大きい。
ランクが上がり、ギルドからの信頼が増えるにつれて泊まれる期間も長くなるようだ。
まぁ本来は低ランク向けのサービスなので、高ランクで利用する人はあまりいないらしいけど。
とりあえずの寝床はどうにかなったけど、この一ヶ月の間でどうやっていくか考えないといけない。
時間はあんまりないぞ。
「冒険者として仕事するのもいいんじゃないかね?ある程度安定した収入が見込めれば宿のランクをアップしてもいいんだろ?そしたら、従魔達を部屋に入れてもいいって宿もあると思うぞ」
「でもGランクの収入ってそんなに良くないんじゃ…」
「ああ、まぁそうだな」
アギーラさんは気まずそうに目をそらす。
「でも、色々ありがとうございました!自分で考えてみます」
「おう!何かあったらいつでもいいな!」
カカッと笑って背を向けて手を振りながら帰っていった。
男前である。
「うーん、どうしようかなぁ…そうだ、明日は教会に行ってみよう」
モンテ司教なら、何かいいアイデアが浮かぶかもしれない。
完全に人頼みなのが申し訳ない気もするけど…
---
「おはようございます」
「はい、おはようございます。おや、ケイト君?どうしたんだい?」
翌日朝一で教会へと行った僕は、教会の前で掃き掃除をしていたシスターさんにモンテ司教の居場所を聞き、中へと入れてもらった。
モンテ司教は、朝食の後であったのか、食器洗いが終わったところであった。
シスターから聞いた話によると、本来ならそんなことは司教がやる仕事ではないんだけど、モンテ司教は譲らないらしい。
「実はですね…」
僕は昨日アギーラさんに説明したように事情を説明する。
今日はケビン達はお留守番だ。
ビギンだけはいつものように肩の上。
クロが一緒に来たがっていたけど、教会に連れてきていいのかわからなかったから留守番してもらっている。
ケビンが宥めていたから大丈夫だとは思う。
「なるほど…説得されているじゃないですか、ロア…」
「え?」
「いえ、こちらの話です」
「は、はぁ」
モンテ司教が何か小声で言った気がしたが、あいにく聞き取れなかった。
司教は、何か考えた後ニヤリと笑う。
「え?」
「いい話がありますよ?」
「え?え?!」
なんだか少しテンションがおかしくなったモンテ司教から説明を受ける。
その話は、確かにいい話だった。
というか、今の僕にとってはもってこいのお話だった。
早速向かうことにして一度宿に帰ることにする。
成功したら教会が報酬を出してくれるそうだし、がんばろう!
---
「ロアが近くにいないとなると…私の方でも手を打っておかねばなりませんね」
彼の資質は既に開花している。
気付く者も出てくるはずだ。
そうなった時に守れるように。




