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とある従魔師の交遊記録  作者: 安芸紅葉
五人目「聡明なる半馬の狩人」
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第28ページ 解決と提案

「ケビン!」

「どうした!?」


突然叫んだ僕に、ホーキンスさんが話しかけてくる。

僕にはフェオンの視界が見えているけどホーキンスさん達には見えないから当然といえば当然だ。


「フェオンがヤンを見つけました!でも、グレートベアに襲われる寸前で!ケビンがギリギリで助けて、戦う気みたいです!」

「なにっ!?」

「ケ、ケビンって強いんですか!?」

「いいや…」

「え!?」

「すぐに案内しろ!私が行く!」

「うわっと!あ、あっち!」


ホーキンスさんは僕を軽々と持ち上げ背中に乗せ、僕が指し示す方向へと走り出す。

フェオンのスピードより少し遅いくらいだけど、フェオンはまだ小さいから森で動きやすいというのもある。

まぁ、成長すれば更にスピードはあがるようだけど。


「ケビンは、頭はいいんだが武術はからっきしだ。弓よりは槍の方がマシだが、それでもグレートベアと一対一で戦える程ではない」

「大丈夫です。フェオンも一緒ですから」


そう。

一対一ではないのだ。

フェオンに攻撃能力はまだそんなにないけれど、今だって熊の周りを走り回って撹乱している。


けれどあまりに速すぎてケビンが目で追えず攻撃のタイミングを見失ってしまっている。

どうして逃げないのかと思ったけど、どうやらヤンが足を怪我しているようだ。


「ヤンが足を怪我しているみたいです」

「何っ!?急がねばならんな。しっかり捕まっておけよ!」

「わわっ!?」


ホーキンスさんのスピードが更に上がる。

さっきまで一応僕を気遣っていたみたいだ。

遠慮がなくなったというべきか。


この世界に来てから教えてもらい、僕は乗馬もできるようになっている。

馬術ってスキルが取れるほど上達はしなかったけど、ユニークスキルのおかげもあって馬が暴れるようなことにはならない。


けれど、ケンタウロスの上というのは何かと違う。

まず鞍がついていない。

おかげでお尻は痛いし、振動はすごいし足を置くところもないから力入れて踏ん張らないとだし、色々もう大変だ。


次に今ホーキンスさんは僕に構っている余裕がない。

全力だ。

当然僕は自分の力だけでしがみついていなければならず、手綱もないから腰に手をまわしているんだけどあんまり力を込めると邪魔になりそうだ。


結論、僕限界に近いです。

お願い速く着いて…


---


「ケビン!」

「兄さん!」


僕の思いが届いたのか、ただ単純にホーキンスさんが速かったのか。

おそらく後者だと思うけど予想よりも速く僕らはケビン達の所へ到着した。


「まったくお前は!だから訓練をきちんとしろと言っているだろう!」

「これが僕の限界なんだよっ!」


ホーキンスさんは、駆けつけた勢いそのままに槍を振るう。

きちんとフェオンの動きを見切り、次にどう動くかまで予測し逆の動きでグレートベアの脇腹に傷を入れた。


「ガッ!」


新たに登場したホーキンスさんに対し、グレートベアは敵意を向け警戒の目を向けるが、その時にはもうホーキンスさんは槍を構えなおしていた。


「お前のことだ!チャーも見つけてるんだろ!どこにいる!?」

「ここから少し行ったところの灌木に!」


後で聞いた話しだけど、ケビンは持ち前の知識によって獲物の捜索・発見は里でも一番の実力者だそうだ。

けど、武力的には里でも弱い部類に入るから単独での狩り成功率は高くない。


話をしながらもホーキンスさんの槍はまるで吸い寄せられるようにグレートベアを撃ち抜く。

腕が上がれば肩を貫き、前に踏み出そうとするところで膝を貫く。

グレートベアの動きを完封した上で、急所に狙いを定め、一瞬の隙をついて首と心臓の二点を一瞬で貫いた。


「ガァ…」


苦痛の声もあげず、グレートベアはドンと音を立て倒れ伏す。

槍についた血を、ヒュッと振ることで落とし、「帰るぞ」とケビンに声をかける。


かっこいい。

すごくかっこいいけど、僕を背中に乗せた状態ではやらないでほしかったよ。

腕がもう限界。


僕はホーキンスさんの背から降りて、歩く。

うーひどい目にあった…

けど子どもたち二人とも無事でよかった。


チャーを回収してから、里へと戻る。

里へ戻ると同時に、安心したのか二人は泣き始めてしまった。

叱ろうと待機していた親たちも、ごめんなさいと泣き続ける二人にとりあえずは宥めることにしたようだ。

まぁ後から叱られてまた泣いてたけど。


やはり二人は僕が来たことによって外の世界に興味を抱いたらしい。

森を内緒で抜け出して、驚かせようと思っていたのに、誤って森の奥へと進んでしまっていたようだ。


僕は騒動が終わった後、里長と話しをすることになった。


「其方のせいではない」

「でも…」

「いや、我々が間違っておったのかもしれぬ。人とより迫害があった頃、儂はまだ子どもじゃった。故に、人は恐怖の対象でしかなくんての、魔法師様に結界を作ってもらったあと、森に引っ込んで生活するのを良しとしたのじゃ」


そこで里長は、何かを思い出すように天上を見上げる。

里長の性格の歳はわからないけど、ケンタウロス種の寿命は人と大差ないそうだ。

つまりそんな昔の話しではない。


「この里ができた頃より生きておるのはもう儂しかおらん。儂が守らねばと思っておったのじゃが、それが逆に危ういのかもしれんのぉ」


人は禁じられたらやってみたくなる生き物だ。

それはケンタウロスも変わらず、特に子どもは顕著である。

何故ダメなのか聞かされていても、実態を知らない今の子どもたちには納得できないのかもしれない。


「どう思う、ホーキンス?」

「…私はこの里での生活に不満はありません。しかし、今のままではダメなのかもしれませんね」

「うむ…じゃが、すぐに人との関わりを持つことなどできぬ。頭の固い年寄りですまぬとは思うが、どうしてもな…」


里長にとっては今でも人は恐怖の対象なんだろう。

僕を受け入れてくれたように、人全てがそうであるとは思っていないけど、里長という責任ある立場になったことで里のみんなを守るという責任感が更にそれを助長している。

そしてそれは多分正しい。


「人が全て善人であるなんて僕には言えません。人族の大陸では獣族も差別の対象となっている所もあると聞きました。里長は決して間違っていないと思います」


僕がそう言うと、里長は驚いたように瞠目し、次いで笑った。


「不思議な子じゃ。其方は儂らと対等に接しておるし、敬意を払ってくれておる。其方にならいいじゃろう」

「?」


里長の言っていることがわからず首を傾げると、里長は面白そうに笑ってケビンを連れてくるように言った。

少しして、ケビンが家に入ってくる。


「お呼びですか?」

「うむ。ケビン、お主はずっと外の世界にあこがれておったな」

「え?はい…」

「うむ。お主に今の外を見てくる任務を与える」

「「「え!?」」」


僕とケビン、ホーキンスさんが同時に声を上げる。

それに村長は一人笑って更に告げる。


「ケイトと一緒に外の世界を回っておいで。そして、我等にとって今の世界が大丈夫だと思った時、里の掟を変えよう」


それはこの里のこれからを決める重大な決定だった。


「ケイトと一緒ならお主も安全じゃろう。ケイトには仲間がたくさんおるようじゃしの」


そこで里長は、外を見やる。

そこには子どものケンタウロス達と遊ぶ僕の友達の姿があった。


「儂らケンタウロスと人は従魔契約を結べる。小さき従魔師よ、ケビンを連れて行ってはくれぬか」

「え、あの、その…いいんですか?」

「こちらから頼んでおるのじゃよ」


ケビンは物知りだし、性格もいい。

けど、こんな昨日来たばかりの僕を信頼してくれてもいいのだろうか。


僕はケビンに目を向ける。

ケビンは顔に「行きたい!」と書いてあって、目をキラキラさせている。

ホーキンスさんはもう諦めているようだ。


「わかりました。ケビン、僕と友達になってくれる?」

「もちろん!」


僕の友達がもう一人増えた。

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