第25ページ 異種間交流
「ここはケンタウロス種の隠れ里だ。昔の魔導師が張ってくれた人は入れない結界があるはずなんだが、そのウインドーウルフによって連れて来られた君には効かなかったようだな」
警戒を解いてくれた後、村長のところへ連れて行くと言われた。
そこでどうするか決められるようだ。
僕を案内してくれているケンタウロスは、ホーキンスさんと言って、想像通り村の防衛隊長であるらしい。
この村で一番強いそうだ。
だけど、このホーキンスさん以外の人は、僕に近寄ってこない。
子どもが物珍しそうにこちらに来ようとしたけど、親ケンタウロスが止めていた。
どうも人を恐れているように見える。
「人によれば我々は魔物なのだそうだ」
拳を握りしめ、悔しそうにホーキンスさんが言う。
ケンタウロス種は、人を襲って食べたりしない。
しかし、半獣半人であり体内には魔石を持つ。
人ではなく獣でもない。
魔物であるとして狩られていた歴史もあるんだそうだ。
そんな時、一人の人族の魔導師が事情を知り、保護する為にこの村に人避けの魔法をかけたのだそうだ。
ケンタウロス種はその後この森でのみ生活し、森の外へ出ることを禁じた。
故に、今でも人は恐怖の対象であるそうな。
「不思議だが、どうにも君を警戒する気にはなれないんだ」
多分だけど、スキルの効果だろうね。
誰とでも友達になれるってのは、そういうことなんでしょう。
「ついたぞ。ここが長の家だ」
ほんの少しだけ他の家よりも立派だった。
ほんの少しだけ。
「よう来ましたの。小さい客人」
村長は、お爺ちゃんケンタウロス。
もう足が弱まっているようで、横になっている。
もっとも、人の部分の上半身は起き上がっているけど。
「ここに人が来たのはかれこれ何十年ぶりかのぉ?迷ったということじゃったが、もう遅い。今日は泊っていきなされ」
「え!?いいんですか!?」
確かにもう陽が沈んできている。
けれど、村の事情からして人は歓迎されないと思っていた。
だから野営を覚悟していたのだけど。
「いいのじゃよ。お客人は、どこかあの魔導師さまに似ておるしの」
この村に結界を張ってくれた魔導師は、黒髪をしていたそうだ。
ひょっとしたら僕と同じ異世界人だったのかもしれない。
それから少し村長と他愛もない話をして、僕はホーキンスさんの家へ。
今日は彼の家に泊めてくれるそうだ。
よそ者を見張るという意味もあるのかもしれないけど、少し親睦を深めている人で僕的にはよかった。
「いっらしゃい」
「いりゃっしゃい!」
ホーキンスさんの家には、彼の奥さんと娘さんがいた。
ケンタウロス種の女性は、胸に布を巻いているだけの危ない格好をしている。
正直ドキドキしてしまう。
男性はもちろん裸だ。
いや、そういう意味だと皆下半身は裸ということになってしまうけど。
それでも、ホーキンスさんの奥さんは美人だった。
なんでも村長の娘さんらしい。
ホーキンスさんもまだ30歳という若さだった。
貫禄があるからもっと歳に見えていたんだけどね。
ケンタウロス種に床という概念はなく、地面だったけど、この世界ではこれも特に珍しいものではない。
ほとんどの家は地面で生活だ。
嬉しかったのはベッドがあったこと。
人が使うようなものでなくて、干し草のベッドだったけどこれがどういうわけか気持ちいい。
ふわっふわだ。
夕飯は、森で採れたキノコを使った汁に、ホーキンスさんが狩った鳥肉だった。
これも何かの魔物らしいけどとても美味しかった。
従魔たちの分まで出してもらってありがたい。
食事をしながら楽しく話していると、外から走り寄ってくる蹄の音が聞こえてきた。
「村の中でこんな全力疾走する奴は一人だけだ…」
と、ホーキンスさんは苦い顔をしてやれやれと首を振っている。
奥さんはそれを面白そうに見てて、娘さんも楽しそうだ。
僕は首を傾げる。
やがて、家の前で蹄の音は止ま…らず、勢いよくドアが開けられた。
「兄さん!人が来たっていうのはホントかい!?」
入って来たのはホーキンスさんより少し若い男のケンタウロスだった。
ホーキンスさんに向かって兄さんと言ったことから、おそらく弟さんなんだろう。
「本当だ。少し落ち着けケビン」
「これが落ち着いてられますか!」
ケビンは、僕の方を向いて何やら興奮している様子だ。
目をキラキラと輝かせている。
「お願い!僕に外のことを教えてくれない!?」
…はい?




