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とある従魔師の交遊記録  作者: 安芸紅葉
四人目「幼き風の白狼」
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第19ページ オークキング

「オークキング…」


後ろから聞こえる呟く声。

僕はそれに反応することもできなかった。


オークキング。

ランクBの魔物。


僕はその魔物が目の前にいることに、本能的な恐怖を抱いていることを知った。

スーの種族であるアイスヘロンもランクはBだ。


けれど、スー達は敵というわけではなかった。

威嚇もされなかったし、敵意を向けられることもなかった。


でも違う。

今、オークキングが僕らに向けている感情は、明確な敵意であり、殺意。

初めて向けられるその感情に、僕は身体が言うことを聞かない。


「グモォ」

「ひっ!?」


オークキングが、一歩足を踏み入れる。

後ろから上がる悲鳴。


それにさえ、僕の身体は反応しなかった。


怒りに満ちた顔のオークキングが、手に持っていた剣を振り上げる。

僕の倍はありそうな体躯が、更に伸びたような気がした。


甘かった。

自分一人でオークキングでも倒せると思っていた。

けど、それが甘い幻想だったと認めざるを得ない。


これは無理だ。

僕には倒せない。


僕がそう諦めた時、僕の側で動くモノがいた。


ビュッと吐き出された液体が、オークキングへと向かっていく。

咄嗟のことで反応できなかったのか、オークキングはそれを顔面に受けてしまう。


「グモォォ!」


ジュウと音を上げ、皮膚を溶かす酸性の液体。

もちろん、オークキングに対しそれは少ないダメージでしかないが、オークキングは頭を振りをそれを振り払おうとする。


そこで、僕の金縛りが解けた。

あれだけ怖いと思っていた感情が嘘のように霧散した。


「ありがとう、ビギン!」


多分そういうスキルだったんだ。

オークキングの視線が外れた瞬間に、動けるようになった。


僕は、新しく得た「分泌」スキルで何らかの液体を射出してくれたビギンに礼を言い、すばやく動く。


狩人さんたちも動けるようになったみたいだ。

どういうわけか、逆に女性たちはオークキングの出現で暴れなくなっており、僕らは三人で分担して、一人が一人の女性を連れ出す。


と、オークキングを迂回して、全員が外に出た段階で、オークキングはビギンがかけた液体を振り払い終えたようだ。


ビギンが「分泌」で作れる液体は、今のところ三種類だけ。

「粘液」「酸液」「回復液」だ。

何かと便利な三つなんだけれど、今回振りかけたのはおそらく粘液。


ただネバネバとして、ついたらなかなか取れない液体なんだけど、罠なんかには有用できる。

オークキングが振り払うのに時間がかかったことからも、これだろう。


酸液は、ビギンが唯一持つ攻撃手段。

でも、酸の威力はそれほど高くないから、オークキングには通じないと思われる。


回復液は、その名の通り。

回復手段として使えるんだけど、切り傷くらいしか治せない。

これも、今は使っても意味ないかな。


ビギンは、もう一度粘液を吹きだす。

けど、オークキングはもうそれを顔面に受けるようなことはしなかった。

手に持つ大きな斧で振り払う。


「グモォ」


どうやら随分お怒りのようだ。


「スー!」

「クァー!」


大声で呼ぶと、美しい声を上げながら、上空で待機していたスーが降りて来てくれた。


「ちょっとお願いね!」


僕はとりあえず、背負っている女性を安全なところまで連れて行かなければならない。

スーのランクはオークキングと同じBランク。

足止めするくらいわけないはずだ。


なんだったら仕留めてくれてもいいけれど、そこまで任すのはどうかと思う。

やるなら、一緒にだ。


「グモォ!」

「クァー!!」


二匹の高ランク魔物が後ろでやり合っている。

普段冷静で、気品あるスーが翼を大きく広げて威嚇していることからも、同格以上の存在であることは間違いない。

早くしないと。


「グモォ!!」


と思っていたのに。

小屋の影から、新手のオークがでてきた。


「くっ!?」


咄嗟のことで、僕は反応が間に合わなかった。

いや、女性を背負っていなかったら回避もできたかもしれないけど、この状況ではできなかった。


オークが、丸太のような棍棒を振り上げる。

僕は、女性だけでもどうにかしようと腕を解くけど、うまくいかず、結局その場に落とすことしかできなかった。


迫る棍棒の前に、目を閉じる。


「グモッ!?」


衝撃はこなかった。


恐る恐る目を開けると、オークが仰向けに転がっている。

その上で「ガルルッ!」とオークに噛みつき攻撃しているのは、あの仔狼だった。

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