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第02ページ プロローグ2

ここは誰もが知っている場所。

しかし、誰も知らない場所。


そんな場所で、一人の大男が仕事に励んでいた。


「ふー、これでとりあえず終わりじゃ。ん?」


積み重なった書類が無くなり、そろそろ切り上げようと思ったところで、新しい資料が男の元に届く。

ハァとため息を吐きながらも、最後だと今届いた資料に目を通す。


「うん?これは…なんじゃ?」


いつも通りの書類であるはずが、そこに書かれていたのは奇妙なものだった。

誰かに改竄されたとしか思えぬような内容。


しかし、そんなことは有り得ない。

ならばこの内容は事実だということだ。


「じゃがのぉ…これはあまりにも…何故じゃ?」


男は気になり、少し調べてみることにした。

普段の男ならば、目を通しただけで決をしていたかもしれない。

だが、今日は珍しく他の仕事が片付けており後は帰るだけであった。


それ故に、男は普段は使わない道具を持ってくる。

玻璃鏡(はりきょう)」というこの道具は、水面のように波打ちながら、そこに景色を映し出す。

使い手の見たいものを見せる道具。

その力を引き出せる者は限られるが、男にとっては造作もないことだった。


「ふむ…どこぞの神がちょっかいをかけておったようじゃのぉ。運命を悪戯にいじられ、このような人生を送るとは…気付けなかった儂らにも責任はあるのぉ…」


資料と共に来た魂へと目を向ける。

そこに意思はなく、今はただ判決を待つだけの存在。

だが男は少し力を加え、その魂の意思が自分へと伝わるようにした。


「我が名はヤマラージャ。冥主の権限と債務において、汝に償いを行う。汝、何を望む?」

『…友達』


ヤマラージャはその言葉に虚をつかれた。

確かに、資料での交遊記録はひどいものだった。

しかし、この場では心の奥底の言葉が選び出される。

それは人がひた隠しにしていたものを暴き出すということだ。

ヤマラージャはかつて、人間の醜い欲望というものを多く見てしまった。

それが嫌で、ここでの作業が、事務的なものとなってしまったのはどれくらい前だろうか?


「ほっほっ、今時そんなことを言う魂があるなんてのぉ。誠、気づけんかったことが申し訳ないのぉ」


そう言うと男は新たな道具を取り出す。

その見た目はまんまスマートフォン。

そして使用用途も、スマートフォンだった。

最も、このスマートフォンは特別製であり、絶対に届かない距離の相手に声を届ける。

神々の道具だった。


「えーもしもし、こちら界No.20911252121[地球]の冥主ヤマラージャ」

『…界No.118611821121[アルファルリア]…死と眠りの神…レーシア…何の用?』

「大した用じゃないんじゃがの、一人そっちで受け入れて欲しい子がおってのぉ」

『…十分大した用…貴方がそんなことを言うなんて珍しい…どうしたの?』

「それがのぉ、どうやらこっちの世界でどこぞの神に運命を弄ばれておったようでのぉ。誰かはわからんのじゃが、目を付けられておってのぉ、ここで転生させても同じような結末になりそうなんじゃよ」

『…理由はわかった…こちら側のメリットは…?』

「そうじゃのぉ…そっちの摩耗した魂をこちらで貰うというのでどうじゃ?」

『…いい…交渉成立…』

「ほっほっ、そりゃよかったわい。では頼むぞい」

『わかった…ついでだからもう一つ…最近そちらの世界からこちらの世界にくる人が多い…注意しておいて…』

「む?そうなのか?わかったのじゃ。他の奴らにも伝えておくでのぉ」

『お願い…それじゃ』


プツンという音と共に通話が切れる。

遥か遠い世界の神。

しかしながら、この世界とあの世界は何故か密接な繋がりがあり、神同士の交流は少なからず持たれていた。


男、ヤマラージャは、その世界に資料の主を送ることにした。

そちらの方が、彼は幸せになれるだろうと判断してのことだ。


普段の彼ならこんな第三の選択肢は存在しない。

上か、下か。それだけだ。

少年は死んだ後、初めて運がよかったのだ。

もっともこんな運の良さなんていらなかったかもしれないが。


「さて、あちらの世界に馴染むように魂を調整して、身体を整えておくかの。おお、そうじゃ。確かあちらには魔法やらスキルやらの概念があったの。どれ、そちらも少しやっておくか。じゃがあまり強くし過ぎると問題じゃしのぉ…」


ヤマラージャは書類と共に来ていた魂魄を調整し、地球とは違う環境にも対応できるようにする。


「ふむ、いいじゃろう。何かあったら声をかけるがよいぞい。あちらで儂が振るえる力などしれておろうがの。お主が願えば力を貸そう。何、これも償いじゃて」


聞こえていないとわかっていながらヤマラージャはそう言って、普段使う門とは別の、部屋の最奥に位置する窓を開く。


「いや、違うのぉ。儂はお主が気に入ったのじゃ。その希少な魂。手放すのは惜しいが、全ては儂らの招いた責任じゃ。あちらでは楽しくやるんじゃぞい」


ヤマラージャの手から離れ、窓から出た魂は、あっという間に見えなくなった。

その魂のこれからに思いを馳せ、窓を閉じる。


「帰るかの」


久しぶりに清々しい気持ちで、ヤマラージャは仕事場を後にした。

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