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とある従魔師の交遊記録  作者: 安芸紅葉
二人目「美しき氷の渡り鳥」
13/42

第11ページ 卒業試験

本日4本目です。

「では明日より卒業試験を行う」

「はい!?」


勉強会を終えた夜。

どこかへ行っていたロアさんと合流し、僕らはご飯を食べに来ていた。

その時に、突然トーマス師匠が言い始めたんだ。


「卒業試験だと?」

「ああ。獣都から北へ少し行ったところに湖がある。そこに今ちょうど、アイスヘロンが来ているそうだ。そいつを従魔にしてこい。期限は一週間だ」


アイスヘロンは、大人しい性格ではあるが、群れで行動し、近づく者には冷気を浴びせかけるという。

強い者になると、その冷気は零度を下回り、人を凍死させることなど簡単にできるそうだ。


しかし、その姿は美しい純白であり、アイスヘロンの群れが朝日を受け集団で飛び立つ姿はそれはもう絶景であることから、手出しする者もいなくなった。

何もしなければ何もされないことから今では極少数の者がその美しい翼目当てに近づいて後悔するくらいだそうだ。


それなのに…


「なんだその程度か」


ロアさんはそう言って笑う。

その言葉に、僕もトーマスさんも目を丸くした。


「うちのケイトなら、アイスヘロンだろうと、友達になれるに決まっているだろう?」


ロアさんは僕の頭に手を置き、力強くうなずく。

だから僕もトーマスさんの目をまっすぐに見て、


「やります」


と答えた。


この世界で生きていくのに必要なことであるならば、それでまた友だちができるなら、ロアさんが僕ならできると思ってくれているのなら、やってみようと思った。


---


翌日の早朝。

僕は、ロアさんと一緒にその湖まで来ていた。


と言っても、ロアさんはただの付添で、基本的に何もしないと言われている。

僕もその方がいいと言った。


僕の卒業試験なんだから、僕が一人でやらないと意味がない。


朝日に照らされるアイスヘロンの群れは、とても美しかった。

その幻想的な光景に、僕は目を奪われてしまう。

それはロアさんも同じようで、隣で同じように見ている。


アイスヘロンの姿は鷺のようだ。

ただ、翼の先端がまるで氷でできているかのように透き通って見え、光が反射しオスは青色に、メスは水色に輝いている。

三本の純白の尾を揺らし、水の上に立つその姿は美しいという言葉が陳腐に思えてしまうほどだ。


これは自分でも是非獣魔にしたいと思ってしまう。


「行ってきます」

「ああ」


ロアさんが動く気配はない。

でも、弓には矢がつがえられ何かあればいつでも放てるようにはしている。


ただ、アイスヘロンは仲間がやられると途端に攻撃的になるようなので、できれば何もしたくないと言っていた。

僕もそう思う。


僕はゆっくりとアイスヘロンに近づいていく。

何羽かが僕に気づき、威嚇の声をあげ、翼をばたつかせる。


僕はさらに近づく。

ただただ美しくて、怖いとは思わなかった。


僕はもっと近づく。

そこで妙なことに気づいた。


アイスヘロンの威嚇がやんでいる。

気をつけろと言われていた冷気攻撃は、一切来ていない。


一羽の、メスのアイスヘロンがゆっくりと、気品のある動きで近づいてきた。

僕もその子にゆっくりと近づく。


そのアイスヘロンは、オスには及ばないが、他のアイスヘロンよりは一回り大きく、群れの中でも力を持っている存在だとわかる。


純白の姿の中、吸い込まれそうな程に黒い瞳が、僕を見据える。

僕はその目を見返して、そっと手を伸ばす。


アイスヘロンに触れる。

抵抗はなかった。


従魔契約を結ぶときの呪文は、従魔師によって違うらしい。

自分の想いが一番伝わる呪文を、それぞれが考えるべきなんだそうだ。

だから僕は、前と同じようにこう言うことにした。


「僕と友達になってくれる?」


アイスヘロンが、足を折り、翼を畳んで、まるで平服するようにその場に座った。


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