第8ページ ステータス
本日一本目です。
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入須慧人 12歳 男
HP:3200
MP:170000
魔法属性:―
<スキル>
従魔法、MP回復速度上昇
<ユニークスキル>
親愛なる友人たち
<称号>
「冥王の寵児」、「友愛の使徒」、「異世界からの来訪者」
<加護>
「冥王の加護」
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「あの…よくわからないんですけど、見てもらっていいですか?」
そう言うと、見たかったのかロアさんが身を乗り出して、司教も興味深そうに覗き込んできた。
「これは…」
「すごいな…」
そして、見た瞬間二人とも言葉を失ってしまう。
何かまずいことでもあったのだろうか、と不安になったとき、そんな僕の感情を悟ったのか、ロアさんがぎこちない笑顔を見せてくれた。
「いや、大丈夫だ。特に問題があるわけではない。ないが…」
「問題と言えば問題ではないですかねーこれは…」
ロアさんが伺うように司教を見ると、司教も難しそうな顔をして苦笑している。
「順を追って説明しましょう。まずHPですがこれは体力というか生命力を表します。これがケイト君は3200。この数値は一般的な大人よりも遥かに上になります。獣族は元来HPを多く持って生まれるのですが、それでもこの数値はあまり見ませんね。ちなみに私は900です」
「この数値になるとかなり経験を積んだ戦士が到達する域だな。俺よりは少ないが、お前がまだ12歳だということを考えるといやはや…」
それは死ににくいってことなのかな?
だとしたら喜ぶべきことなのかもしれないけど、なんか複雑だ。
「次にMPですが、これは保有魔力量を表します。それでこの数値なんですが…」
「はっきり言って異常だ。エルフは魔力を多く持って生まれる。そのエルフでもこんなMPはないし、エルフより更に保有魔力量が多い魔族でもいないだろう。いるとすれば、魔王くらいではないか?」
「そうですね。少なくとも一般的な魔族より上なのは間違いないです」
魔王とか聞こえた気がする…
いやーそんな存在と一緒にされても嬉しくないよ…
「それなのに魔法属性はなしですか…」
「俺は聞いたことないんだが有り得るのか?」
「なくはないです。ただこれほど魔力量があってというのは前例がないですね」
魔法属性とは自分が適正のある魔法のこと。
基本となる七つの属性や、稀少属性、固有属性と色々種類があるらしいのだけど、僕の場合はこれがなし。
「基本的に、適正がない場合でも無属性と記載されます。無属性は純粋に魔力だけを操る魔法で使い方次第では立派な武器となります。しかし、それさえ記載されないということは、魔力の操作が壊滅的にできないということですね」
「え!?」
司教が壊滅的とか言っちゃったよ!?
そんなぁ…僕は魔法が使えないということなのか…
「しかし、スキルに従魔法がありますね。これは俗に契約魔法と呼ばれます。魔物と契約し自分に従わせることができます。見たところそちらのスライムとは既に契約しているようですが」
その言葉に、僕の肩に乗っていたスライムが身じろぎする。
こいつはこのポジションがお気に入りになったようで重さもほとんどない為好きにさせている。
そして、僕はこのスライムにビギンと名前を着けた。
僕の初めての友達。
名前を付けるのが遅くなってごめんね、と言いながら名付けると、頭の中に文字が浮かんできたんだ。
今思えばあれはビギンのステータスだったんだね。
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[スライム]名前〔ビギン〕ランクG
一般的なスライム。
子どもでも倒すことが可能な魔物。
核を壊されない限り死ぬことはない。
状態:従魔
性格:温厚
スキル:分裂、合体、縮小化
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「ケイト自身は、従魔法の存在も知らなかったようなんだが、いつの間にか契約できていたんだと」
「それは…可能性があるとすればこのユニークスキルですか」
ユニークスキルとは誰もが持っているわけではないスキル。
スキルよりも高性能かつ独特な能力持っているスキルであるらしい。
「カードの名前部分に触れれば詳細な情報を知ることができますよ」
僕は言われるままに、ユニークスキル欄に書かれている文字に触れる。
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親愛なる友人たち
本心から望むならばどんなモノとも友達になることができるスキル。
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「「「……」」」
変な沈黙が降りてしまった。
よくわからないなぁ。
でも要は誰とでも友達になれるってことかな?
そうだとすると嬉しいなぁ。
「あ、そう言えばあの時コイツに友達になってくれるか聞いたんです。もしかしたらあれが…」
「従魔法の契約とみなされたかもしれないと?可能性はありますね」
「知り合いに従魔法の使える奴がいる。そいつに聞いてみるか」
「それがいいですね。我々では知識的なことくらいしか教えれませんから」
というわけで後日ロアさんの知り合いの従魔師を紹介してくれることになった。
お世話になってばかりだ。
「しかし、このスキルは…」
「どうかしたのか、司教?」
「いえ…ケイト君、教会はステータスに関して秘匿する義務がある。でも、そのスキルがどういったものかなるべく案内できるように情報も集めているんだ。私も一通り目を通しているんだが、このユニークスキルは聞いたこともなかった。このスキルが発現した理由に心当たりはないかな?」
「理由…」
僕はポツポツと向こうの世界でのことを話す。
家族がいなかったこと、友達がいなかったこと。
ロアさんと司教は、僕の話を真剣に聞いてくれている。
その視線には、同情や哀れみはない。
それが僕には心地よかった。
僕が話し終えると、司教が僕をゆっくりと抱きしめてくれた。
「辛いお話をさせてしまいましたね」
「い、いいえ!大丈夫です。今は、友達がいますから。それに…」
ビギンに目をやり、ロアさんを見るとロアさんは困ったように、でも優しく笑ってくれた。
今まで見た中で一番暖かい笑顔だった。
「ああ、そうだな。私たちはもう家族だ」
ロアさんがぎこちなく僕の頭を撫でてくれる。
その温もりが、僕にはとても気持ちよかった。
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「司教、ケイトは精霊が見えるようなんだが、もしかしたらそれも」
「このスキルのおかげですか。見えなければ友達になることもできませんからね。そうなのでしょう…」
司教は何やら難しそうに考えている。
僕はそれが気になって伺うように見ていたら、その視線に気がついたのか司教は、はっとしてわざとらしく咳払いをした。
「話をステータスに戻しましょう」
「はい…」
「えっと、次は称号のお話ですね」
どことなく強引な感じがして、ロアさんも首をひねっているが、僕は司教の話しを静かに聞く。
称号とは、本人の行動や、周囲からの評価によって付けられる物だそうだ。
ただ僕の場合「異世界からの来訪者」以外の意味がわからない。
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「冥王の寵児」
冥王に愛されし者に与えられる称号。
「友愛の使徒」
友愛を世界に広める者に与えられる称号。
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「この冥王っていうのは何ですか?」
「いや私も知らないんだ…」
ロアさんが司教に聞いて、司教はそれに首を振る。
僕は、図書館で読んだ本に書かれていた知識を疲労する。
冥府という死者の国。
そこを治める長の存在。
二人は納得し、また首をひねった。
こちらには死者の国という概念はないそうだ。
そして死を司る神は別に存在する。
冥王という呼称は今初めて聞いたのだという。
僕は少しだけ不思議に思ったけど、深くは考えなかった。
この世界にいない冥王の加護を受けているその意味を、僕は何もわかっていなかったんだ。




