第五話「銀色の女」
ついに明かされた弥彦の先祖のルーツとはいかに・・・・
これはとあるアイヌ人女性・イネと南相馬市出身の豆塚純平がいわき市の炭鉱で出逢い、恋に落ちたという話である
時は昭和元年、とある暑い夏の出来事。
イネの独白はまるで純平を試しているかの如く突然のものだった
イネは純平の顔をじっと見つめたまま表情を変えることはなく、淡々とその独白を続けた
だが純平はこの時イネが話したことをまるで覚えていないらしい
純平の意識は定かであったがその独白の内容の「アイヌ」という単語だけが脳裏をかけめぐっていたからだ
「アイヌだからって、そんなこと関係ない。君は君だ。」
それは本当に純平の本心だったのだろうか
そうでなければこんなに動揺したりはしなかっただろう
体裁上、純平は平気な素振りをしてごまかしたが100%何も思わなかったかといえば嘘になる
そんなある日、イネは炭鉱労働の昼休憩の時間になると人気のない木陰に純平を誘い出した
炭鉱での力仕事で汗と泥にまみれた純平だったがそんなことはおかまいなしにイネは純平の手をぎゅっと握った
純平「・・・・イネさん、他の人に見られたらまずいですよ。」
イネ「どうして気まずいの?純平さん、私のこと認めてくれたじゃない?」
強引に迫り来るイネに純平は少しづつ後ろに下がっていく
イネ「私のこと受け容れてくれないのなら、どうなったって知らないわ。」
この話を明神敬吾から聞かされた時、弥彦は想起した、イネは「まるで炎のような女」であると。
凍てつく大地に住まう一族、凍えるような寒さの内に炎のような情念を抱えている
それが青森・松前藩からいわきにやってきた女・イネの正体
まるで雪女のように繊細で美しい白き肌の出で立ちで、凍てつく風になびくその長い髪は綺麗な黒のもとにかすかに銀色の装いを見せていた
その魂は銀色、されど心は燃えゆく情念の赤色、イネは色で例えるのなら「銀色の女」であると弥彦はそう聞かされて育ったのだ
一方の「赤い女」としての側面は、この3年後に開花することになるなどとは当の本人は想定もしていなかったであろう
弥彦は続けて明神敬吾からの先祖のルーツのエピソードに耳を傾けるのであった
この物語の序盤は弥彦が敬吾及びウメから先祖のルーツを聞いている設定です