7.
殴られました。いや~思春期だね。いや、青春だねと言うべきか?前世と今世合わせてそろっと五十過ぎの身にはこんな風に照れるっていうのは眩しすぎるぜ。……ただもうちょっと力加減とか考えて欲しかったかな。
そんな訳で俺は今、食堂の椅子に頭を抱えて座り込んでいる。その目の前でエドは若干目をそらしながらビーフシチューみたいな物を、ブラムはなぜか満足そうな顔でパンと野菜スープを食べている訳だが、もう少し壁にめり込みそうだった俺を気遣ってもいいんじゃないだろうか。
食堂は意外に実用的な雰囲気で前世の社員食堂とか学食を思い出す。
で、俺達が座っているのは四人席な訳だが、普通に考えて一人分席が余る。さっきからパクパク食べているお二人は慣れているのか完全に無視っているが、庶民の俺には公爵家との繋ぎを作りたい貴族な皆様の視線が痛い。このままではせっかくたのんだ特製オムレツが味わえない。
「ちょっと席はずしてもい」
「駄目だ大人しく座ってろ。」
言い切る前に却下かよ。
「アランが座っていれば互いに牽制しあっているので、いちばん面倒な方々は座って来ないのですよ。さらに、その方々が牽制しあって座らないのに遠慮して他のも座ろうとしません。一石二鳥ですね。」
ブラムがささやいてきた内容には納得できるし改めて食堂の様子を眺めると確かにそうなんだろうと思う。でもそれってさ、
「あなたは多少疎まれるかと思いますが。」
ほらやっぱりぃいいい!もうすでに敵意をひしひしと感じるよ?今世で最もよろしくないのは誰かの敵意ですぐに海または川に浮かぶ可能性が非常に高いことだ。……平和と秩序が恋しいよ。
うわあああ、と俺が心の中で叫んでいるとーー本当に叫ぶと俺はエドに目をかけられているのにそれを嫌がっているという噂が流れ、さらに厄介なことになる(経験済)、
「やあやあ久しぶりだね、エドガー。」
俺の後ろに金髪碧眼のキラキラしい青年が立っていた。優男な王子様って感じで、現に女性の皆様(少数の男性含む)が悲鳴を上げている。彼の家格が逆らえないものなのか、さっきまで俺があれほど感じていた敵意はまったく感じなくなっていた。
「てめえかよ。とっくに女に捕まってると思ってた。」
不機嫌そうなエドの声に
「そうなると思って模擬戦の最中に逃げたんだ。」
飄々と彼は返す。知り合い、だな?席をはずした方がいいだろうか。
「アラン、席ははずさなくていい。こいつは嫌なやつだが信用はできる。」
へえ、エドがしょっぱなから悪口言うなんて珍しいな。俺がどうやら彼が座るようなので椅子を端に寄せて、自分の皿をその前にずらす様をなにが可笑しいのか笑いながら見やった後、
「ふうん、君がエドガーのお気に入り、か。エドガー冷たいね、紹介もしてくれないなんて。僕の名前はイブン・ツァディールだ。初めまして、アランくん?」
と名乗った。