6.
奇声こそ上げなかったものの、言動とか行動がしばらくおかしかった俺は、ブラムの軽蔑の目が憐れみに変わったところで正気に帰った。
……しょうがないと思うんだ。だって源 頼光だよ?たぶん日本人で知らない人なんてなかなか居ない英雄と同姓同名、しかも見た目がまたきりっとした侍で…
「あああああ!マジでかっこよかった!」
いや別に恋とかそういうのじゃないデスヨ?真面目に。つーか俺全然正気に帰れてないな。
いやいやだってな、実は死ぬまではまってたある小説に古の英雄として登場してたんだよ。シリーズの何作目かが出る時の初回限定冊子が本編では断片的な記録としてしか描かれない彼等に関する物で、俺は何故こんな魅力的なキャラが本編に出てこないんだ!と、見悶えた思い出がある。
ゴッ
「てッ」
「いい加減にしろ廊下で叫ぶなこの馬鹿がっ!」
え、今の俺エドに怒られるレベルでやばかった?エドは親しい人間の前では口調は乱暴だけど本当に怒ることは少ない。そしてそういう時は大抵酷い肉体的苦痛を伴う。やっべえ、と首をすくめた俺に降って来たのは、
「もう少しで食堂着くからやめろ。」
「ほえ?」
予想より柔らかく、苦みばしった声。びっくりした。過去の出来事を参照するなら、ここは問答無用で遥か彼方に吹っ飛ばされるかと。あ、比喩じゃあない。魔法と言うのは本っ当に便利かつ危険だ。基本貴族はマナをためておける量が多いし、その中でもエドはかなりのものだからもう本当にすごい。さすが公爵家という感じだ。
この国は大昔に魔族の奴隷だった人間が一人のカリスマのもとに集い、そこから逃げて作った。そのときに手柄を立てた人々がだいたい貴族になっていて、魔法の才能は遺伝するから貴族は平民よりマナの保有量が多い。マナっていうのは魔法を使うもとになるモノで空気中に漂っているらしく、それを取り込んで人間は魔法を使っているらしい。……すまん、“らしい”ばっかで。俺はあまり勉強が好きじゃないから色々うろ覚えなんだ。
そしてその成り立ちから貴族はそのまま軍人階級でもある。だから騎士団は貴族の子弟ばっかなんだよな。ブラムいわく、“私達は義務を果たしています”というポーズらしい。
本当に国の役に立って、前線に行きたいと思うような奴らは辺境巡視隊や国境駐屯兵になる。騎士団は魔物の討伐や治安維持をしているとはいっても飾りである部分が少なくない、らしい。これは俺に騎士団を諦めさせようとしてエドとブラムがあげていたことのうち、うっすら覚えている部分で、実際どうだかはよく知らないんだがな。我ながら聞きながしてることが多すぎる。
と、思考が逸れたな。
「何で食堂に着くからなんだ?」
「食堂で働いているのは一般市民が多いからだ。いいか?騎士って言うのは誇り、というかイメージを大切にする。ただでさえ平民階級だからって睨まれているんだ。これで騎士の威信を下げたなんて言ったら潰されるぞ。」
ふーんなるほど。要するに、
「エドは俺のこと心配してくれてるんだな。」